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テンバールへと。

次から次へと執務室へと転移してきた面々を見て、ラヴィスエルは書類にサインをしていた手が止まった。

ふんぞり返ったロヴェル、ふて腐れているエレン、そして久しぶりに見るガディエルがそこにいた。


無事だった姿にホッとしたのは一瞬で、ラヴィスエルはすぐに眉間に皺を寄せた。


「……来る前に一言くらい何か言えぬのか」


「それはすみませんね、急いでいたもので!」


「兄上……?」


「サウヴェルもここにいたのか! 丁度良い、証人になってくれ!」


「証人? そ、それよりもガディエル殿下! ご無事でしたか!」


ラヴィスエルの横にはサウヴェルがいた。

実は、サウヴェルはガディエルが半精霊化して目覚めたとの知らせをヴァンからカイへと連絡が行き、そこからラヴィスエルに報告している真っ最中だった。


丁度良いとばかりにロヴェルはその場にいたサウヴェルに証人を押しつける。


「今、帰りました」


「ああ。思っていたよりも早かったな」


ガディエルが姿勢を正し、ラヴィスエルに頭を下げた。

顔を上げたガディエルを見て、ラヴィスエルの目が細くなる。サウヴェルも気付き、「あっ」と声を上げた。


「殿下、お目が……」


「ああ……その、似合うだろうか?」


驚いたサウヴェルが、照れるガディエルの横にいたエレンをバッと見る。

エレンとガディエルを交互に見て、どんどんと驚きに目を見開いていった。

ガディエルの目は元の青みが強いものの、エレンと同じ目をしていたのだ。


「ほう? で、勢揃いでどうした。お前の帰りでも見送ってもらったのか?」


たったそれだけでラヴィスエルも何かに気付いたのだろう。そして軽口も忘れない。

その間にも他の双女神や大精霊やらが次々と部屋に転移してきて、広いはずの室内は狭く感じた。


サウヴェルと遅れてやってきた護衛達が、宙に浮いている女神や大精霊達を見てぎょっとしている。


「陛下に確認を取って頂きたく参りました」


「何をだ」


ガディエルの真剣な顔に、ラヴィスエルは首を傾げた。ガディエルの続きを、ロヴェルが叫ぶ。


「殿下に婚約者がいるでしょう!?」


「……?」


急に何を言っているんだ? という顔をしているサウヴェルの横で、ラヴィスエルは、エレンのふて腐れた態度で何となく察したらしい。


「しばし待て」


制したラヴィスエルの態度を見て、ロヴェルがガディエルに詰め寄った。


「ほーら! やっぱりいるじゃないか!」


「お、おりません! 陛下は待てと仰っただけではありませんか!」


「いるという証拠を持ってくるということだろう!?」


「…………」


むっすーとふて腐れているエレンは、もうガディエルの顔を見ようともしない。

それに気付いたガディエルが、「エレン、俺の話を聞いて!」と詰め寄ろうとして、ロヴェルに「娘に近付くな!」と阻止されていた。


ラヴィスエルは近衛に「書記を呼べ」と一言命令し、急いで誰かを連れてきた。その人物に向かって、今からの事を記録しろと伝えている。


「は、はい!」


「そちらはサウヴェルが証人となるのか?」


「もちろんです」


「ちょっと待ってください、一体何の証人ですか!?」


「ふむ。ロヴェルよりもサウヴェルの方が都合が良いか……そうだな、女王もこの場にいるのだから、女王も証人になって頂きたい」


「あら」


「わたくし達も証人になってあげるわ」


「そうね、いいわよ」


オリジンと似た顔立ちの二人の女性に、ラヴィスエルはすぐに双女神だと気付いたらしい。


「これはこれは、なんと心強い」


にやりと笑うラヴィスエルと、笑いをこらえているヴォール。

一体何が始まるのかとサウヴェルと護衛達は首を傾げた。



書記が急いで魔法書を広げてペンを握り、「記録します」と宣言した。

その言葉と共に、魔法書が光った。


「では、ロヴェル。質問の答えだが……」


「どうせ候補を含めたらいっぱいいるのでしょう? 本当、どうしようもありませんね!」


「ガディエルの婚約者はおらん」


「婚約者がいるのに娘に言いよるような真似を…………は?」


「おらんぞ」


「…………はぁ!?」


「候補がいたことはあったが、ある時に全て断った」


「ちょ、ちょっと待て! 王太子だぞ! いるだろ!?」


敬語も忘れてロヴェルはラヴィスエルに詰め寄った。それをサウヴェルが「兄上!」と言って羽交い締めにして止める。


「お前に娘がいると聞いたからな。全て白紙に戻した」


にやりと笑ったラヴィスエルに、ロヴェルの顔は引きつった。


確かにラヴィスエルは、アリアの所行を取引の材料にしてエレンにお見合いと称した登城を強制してきた事がある。


奇しくも王家の呪いがエレンに気付き、手を伸ばすという事故に見舞われてしまったが、あれは本当にお見合いだったのだ。


「エレン、聞いてくれた? 俺に婚約者はいないよ。エレンを一目見たときから、エレンだけをずっと見ていたんだ。俺は君の事を諦めきれなくて、気持ちの整理がつくまで待って欲しいと陛下にお願いして、その後の婚約の話も全て断ってきたんだ」


ガディエルが片膝をついて、エレンの両手を取って見上げながら言った。

俯いていたエレンの表情が、恐る恐るガディエルを見る。


「ね? だから安心して俺の気持ちを受けとって欲しい。俺の気持ちは、昔からエレンでいっぱいなんだよ。他のものが入る余地なんて全くない」


「………………本当?」


「本当だよ。君がずっと好きだった。愛しているんだ。この気持ちに偽りなどない。ずっとずっと、これからも、君の隣にいさせてほしい。俺と結婚してください」


「………………」


ガディエルの真摯なお願いにエレンの迷っていた目はガディエルへと向き直り、こくりと頷いた。


「私が見届け、証人となった。記録しろ」


「は、はいいいいい!」


「待て待て待てーーーーッ!! とーさまが許さないと言っているだろうーーーーッッ!!」


「兄上! 落ち着いてください!」


「サウヴェル、は、な、せーーーー!」


サウヴェルがロヴェルを羽交い締めにして止めている間に、ガディエルは嬉しくてエレンを抱きしめた。


「ありがとう、エレン!」


エレンもじわじわと顔を赤くしていく。

皆がいる前で照れたのか、抱きしめられたガディエルの腕の中に潜ろうとでもしているように、頭をぐりぐりとこすりつけている。

ガディエルはそんなエレンが可愛くて仕方がない。


「エレンちゃんが受け入れたわ。わたくしが証人となるわね」


書き終わった魔法書が光り、文字が光り輝いて魔法書から浮き出てきた。

その文字だけがひゅんっとヴァールの手の中へと飛んでいく。


「受け取ったわ」


「ええ、婚約成立ね。おめでとう、エレンちゃん」


ヴォールとヴァールの言葉に、ロヴェルが言葉にならない叫びを発した。


「~~~~~~~ッ!?」


そんなロヴェルを見て、ラヴィスエルが笑った。


「フッ……お前からそんな申し出があるとはな」


「はぁ!?」


「私の承認、ヴァンクライフト家の当主の承認、女王の承認、双女神の承認が一度に揃うとは。なかなかの見物だった」


「!?」


ラヴィスエルの言葉に、ロヴェルの頭は真っ白になってしまったらしい。自分が何をしてしまったのか、今になってようやく理解したのだろう。


「な、な、な…………」


「ガディエル、さすがに私の目の前でやるとは思わなかったが……よくやった」


少し呆れられながらもラヴィスエルに祝福され、ガディエルも嬉しそうに返事をした。


「はい!」


「エレンの隣に立つという言葉に偽りはないのだな?」


「はい。私は半精霊となりました。王家の呪いも……この目に見えております」


「分かった。これよりラスエルを王太子とする。近衛、ラスエルを呼べ。書記、そのまま待て」


「は、はいいいい!」


ガチガチに震えている書記の手の中にある魔法書が、双女神に反応してずっと光り輝いている。

実際に魔法書に書かれた文字が双女神の方へと光りながら飛んでいく様子を見て、空に浮いた女性が双女神だと気付いたようだ。


まんまると目を見開いていた書記と目が合ったヴァールとヴォールがウインクをしている。




ロヴェルがふらりと倒れる。


それを見て悲鳴を上げたオリジンと、大笑いしている双女神とアウストル、そしてラヴィスエルがいた。







この日、テンバール国の第一王子であったガディエルは、精霊のお姫様の元へと婿入りとなったと大々的に報じられ、ラスエルが王太子となった。




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