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後悔はあれど。

急なエレンの訪問に、ローレンは少し驚いたものの、エレンのお願いを快く引き受けてくれた。


手土産を持ったエレンが念話で双女神に呼びかけると、すぐに双女神の境界に転移して招かれた。



「エレンちゃ~ん」


「無事だったかしら?」


ヴォールとヴァールが手をヒラヒラと振ってエレンを出迎えた。


「……父様がごめんなさい。ガディエルを避難させて下さってありがとうございます」


しゅんと落ち込みながらお礼を言うエレンに、ヴォールがからからと笑った。


「あら、気にする事なんてないわ。ロヴェルはほとんど精霊化しているのだもの。仕方ないのよ」


「え……?」


繋がらない脈絡に、エレンは首を傾げた。

ロヴェルの精霊化とはどういう事なのだろうか。


「そうそう。ロヴェルは半精霊でも、オリジンちゃんに身も心も捧げているの。人間と精霊で天秤にかければ、迷いなく精霊を取るわ。おぼっちゃんだろうと、エレンちゃん達に害だと本気で判断したら、そこに迷いなんてないのよ」


さっきみたいにね、とヴァールが笑って言った。


「わ、笑い事ですか!?」


顔をくしゃくしゃにしたエレンに、双女神は「あ、あら……」と動揺が隠せない。


「エレンちゃんにはちょっと過激だったのかもしれないわ……」


「そ、そうね。わたくし達はロヴェルにいつもやられていたから慣れていたけれど……エレンちゃん、ヘルグナーの事でエレンちゃんにお願いした事を覚えているかしら?」


「覚えていることですか……?」


「戦争を回避するのはロヴェルでは無理だと言ったことを覚えているかしら。それで、エレンちゃんにヘルグナーへ行って欲しいとお願いしたわよね?」


「は、はい……」


それはもちろん覚えていた。そしてロヴェルがあの場にいる危険性も分かっていた。

だからエレンはロヴェルを助けに行ったのだ。


「あの場にはもう二つの未来があったわ。エレンちゃんに手を出そうとする王族に怒ったロヴェルがあの子達を殺して、二つの国が戦争を起こす未来と、呪いに取り込まれたロヴェルに怒ったオリジンちゃんが世界中で人間と精霊が戦争をしてしまう未来よ」


「……え?」


「どちらもロヴェルが関わっているの。だから無理だと言ったわ。人間も精霊も、天秤にかけることがないエレンちゃんでしか戦争を回避できなかったの」


「ロヴェルは元々、人間を殺すことにすでに躊躇はないのよ。それほどまでに幼少時から全てを憎むほどに追い込まれていたの。自分を助けてくれたオリジンちゃんに全てを捧げると半精霊化したときに誓ったほどにね。だからテンバールの王族ならなおさら容赦はないわ」


「…………」


「おぼっちゃんの一族は精霊に迷惑ばかりかけていたでしょう? だからロヴェルが守りたいエレンちゃんに手を出そうとしているおぼっちゃんを問答無用で殺したいほどに怒ったのよ」


エレンの顔がまたもやくしゃりと歪んでしまう。

じわりと涙が浮かんでくると、双女神がもっと慌てた。


「だ、だからね、あれはロヴェルからしたら無理もないというか……!」


「ああ、エレンちゃん! 泣かないで! エレンちゃんのお陰で、ロヴェルは人間に少しでも味方できるようになったのよ!」


「それでも……それでも……人を平気で殺そうとするのはいけません……」


「そうね! 確かにそうだわ!」


「そうね! 今度みんなで言ってやりましょうね!」


双女神が一生懸命エレンを慰めようとしてくれていた。

エレンはそれが嬉しかったが、同時に悲しかった。




今、思い返せばヴァンもラフィリアが誘拐された時に言っていた。


『我は精霊だ。どうして人間の子を助けなければならない?』


ホーゼだって言っていた。


『自惚れるでないぞ人間共が。貴様らは女王と姫様の温情で生きながらえておるだけに過ぎんのだ』



エレンは人間の方ばかり見ていた。そもそもの価値観が人と精霊では違うのだ。


(それでも……人間だった父様が人間を嫌って憎むのは……)


悲しい。そう思ってしまうのだった。




***




ガディエルがいる場所へと案内されたエレンは、ソファーにぐったりと横になっているガディエルを見て慌てた。


「ガ、ガディエル!」


「大丈夫よ、エレンちゃん。ただ、やっぱり起きたのが早すぎたみたいなの」


「ええ、目がまだ世界の色に慣れていないのよ」


「……世界の色ですか?」


「わたくし達が見ている世界はね、精霊しか見えていないものも含まれているの」


「精霊しか……見えていない?」


「基本的に人間は精霊が見えないでしょう? そんな風に、わたくし達が当たり前のように見えているものが、一気に見えちゃっておぼっちゃんは疲れているのよ」


「あ……」


単色の世界が急に色鮮やかになったような印象だろうか?


ソファーに横になっているガディエルの側にエレンが近付くと、ガディエルが声を上げた。


「……エレン?」


「ガディエル? 気が付いているの?」


「ああ、ごめん。まだ目が開けられなくて……女神様達に話は聞いたよ」


そう言いながらソファーから起き上がり、手探りでガディエルはソファーに座った。

双女神達は力を使い、テーブルやら椅子やらを用意していた。

エレンも手土産をテーブルに置いてお礼の品だと双女神に言うと、中に入っているお菓子に気付いた双女神が嬉しそうにはしゃいだ。


「いや~ん! 素敵なお菓子!」


「お茶を持ってくるわ!」


いそいそと準備をしている双女神を見送り、エレンもガディエルの隣に座った。


「エレン、助けてくれてありがとう」


「ううん、父様が本当にごめんなさい」


ガディエルを本気で殺そうとしたロヴェルの殺気を思い出して涙が止まらない。

気配でエレンが泣いているのが分かったのか、ガディエルが薄目を開けてエレンの涙を拭った。


「ロヴェル殿には以前、エレンに何かしたらブッ殺スと直接言われたことがある」


「えっ!?」


「だから、そうなるのだろうと覚悟はしていたが……容赦がなくていっそのこと清々しいな」


「ええっ!?」


目を白黒させているエレンに、ガディエルが苦笑した。


「俺達王族は……それほどまでにロヴェル殿を追い詰めていたのだ。本当にすまない」


「ガ、ガディエルが謝る事じゃないよ……! 陛下とアギエルさんが原因でしょう?」


「いいや、それでもだよ。エレン、俺がきっかけになってしまってすまないが、ロヴェル殿とエレンの仲を壊したくない。俺も目がちゃんと開けられるようになったら、ロヴェル殿と話がしたいと思っている」


「ガディエル……」


「それにちゃんと目が見えないと逃げられないしね。エレンに守られてばかりじゃなくて、自分で対処できないと」


ふふふ、と笑うガディエルに、エレンはぽかんとしてしまった。

途端、エレンの顔がくしゃりと歪み、ぼろぼろと涙がこぼれた。



予期せぬロヴェルの地雷を踏み抜いてしまって驚いてしまった事や、今まで大きな親子喧嘩をしたことがなかっただけに、エレンはロヴェルに会うのが怖くなってしまっていた。


誰もがうらやむほどに仲が良かっただけに、一度関係が壊れてしまったら、その修復方法が分からなくなってしまっていたのだ。


そんなエレンの不安に気付いたガディエルは、解決の糸口をエレンに伝えたのだった。




ガディエルの優しさに触れ、今まで我慢していた涙が堰を切ったようにあふれ出る。

エレンの嗚咽に気付いたガディエルは、エレンを抱き寄せてその背中を優しく擦った。


「うっ、うっ、……とー、さま、とけんかっ、しちゃ、った……」


「……うん」


「うええ……とーさま……」


ぐすぐすと泣くエレンの背中を擦っていると、戻ってきた双女神が「あらあら」と声をかける。


「エレンちゃんも親離れにはまだ早かったようね」


「あら、仕方ないわよ。でも本当にエレンちゃんはロヴェルとそっくりね」


くすくすと笑う双女神は、微笑ましそうにエレンとガディエルを見ながら言った。


「エレンはロヴェル殿と似ていますか……?」


髪色や髪型は似てはいても、顔や物事の受け答えは似ているとは思えない。

首を傾げるガディエルに、ヴォールは笑いながら言った。


「喧嘩したことにショックを受けて、ぐずぐず泣いているのがそっくりよ」


「オリジンちゃんに、エレンに嫌われた~~! って叫んでいるのよ。そっくりでしょう?」


くすくすと笑っている双女神の言葉に、ガディエルも苦笑する。


「エレン、ロヴェル殿も後悔しているようだよ。一緒に謝りに行こう」


「……………」



ガディエルの言葉を受けて顔を上げたエレンは、涙を拭きながら決意を込めた顔をしてハッキリ言った。




「父様に会いには行きますけれど……私は絶対に謝りません。ガディエルを殺そうとしたことには今も怒っています」




それを聞いた双女神は、声を上げて大笑いした。





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