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じいじと手を組むおばあちゃま。

ロヴェルが玄関ホールへと足を踏み入れると、目の前にはサウヴェルと歳を取ったロヴェルの母がいた。

母の肩を支えているサウヴェルは、こちらを見て微笑んだ。


「母上!」


「ああ、なんて事……ロヴェル貴方なのね!」


ロヴェルは母ことイザベラと感動の抱擁をする。

使用人やメイド達は涙を流しながら拍手をしていた。


「よく無事で……ああ、でもこんなに変わってしまって……」


イザベラはロヴェルの瞳を覗き込みながら頭を撫でる。

髪は色が抜けてしまったように写るらしく、痛々しそうに目を細めた。


「長らく留守にして申し訳御座いません」


「あなたの事だもの。あの女と結婚させられると思って帰ってこないのかも、と言い合っていたのよ」


「お見通しですか。まいったな」


「だけど、あの女がサウヴェルの元へ嫁いでくるなんて思いもしなかったの……。サウヴェルに聞いたわ。貴方が追い払ってくれたそうね」


「ええ。実家に帰ってきてまであの女を視界に入れたくありませんでしたからね」


「本当だわ」


泣きながら笑うイザベラにハンカチを渡して部屋へ移動しましょうと促す。


「皆の者、よくぞ今日まで耐えてくれた!! あれは王家に返送した。兄上も帰還した喜ばしい今日はささやかながら宴を開こう!!」


サウヴェルのかけ声に使用人達からわあああと歓声が上がる。


「準備が整うまで積もる話もあるでしょう。さあ、行きましょう」


ロヴェルが腕を差し出すと、イザベラは嬉しそうに腕に掴まった。その後ろでサウヴェルは次々とローレンへ指示を出す。


「数名のメイドにあの女の荷物をまとめるように指示を頼む。明日城へ送るからな」


「畏まりました」


「所でアルベルトは知らないか?」


「表でロヴェル様を待っていたはずですが……」


首を傾げるサウヴェルは何か知らないかとロヴェルの元へと向かった。

部屋に入ると、互いに椅子に座って話していた兄と母の会話に割り込み、すみませんと声をかけた。


「兄上、アルベルトの所在を知りませんか」


「奴なら暫く謹慎させた」


「え?」


「奴は口が軽いようだ。信用に値しない。お前付きも外した」


「な、何かあったのですか!?」


アルベルトは20年近くヴァンクライフト家に仕えている。どういう事なのかとサウヴェルとイザベラとローレンは目を丸くしていた。


「どういう事なの、説明なさい」


帰ってきて早々、何が起きているのかとイザベラは険しい顔をする。


「母上にはまだお伝えしておりませんでしたが、俺は精霊界で愛しい人と結婚しました。娘も出来たのです」


「まぁ……!!」


「この髪と目は半精霊になった証なのです。お陰で寿命がすっごく延びました」


「あら、それは羨ましいわ。だから歳を取った様子が無いのね」


「……母上」


サウヴェルは軽い反応をするイザベラに頭を抱える。己は教えられたときに大変な衝撃を受けたというのに、この母は父上すら驚く剛胆ぶりを時折発揮するのだ。


「それとアルベルトに何か関係でもあるの?」


「はい。私を含め、妻と子は精霊なのですよ。それをアルベルト含め、ローレンとサウヴェルにだけ内密にと伝えたのにも関わらず、直ぐ様殿下に漏らした様で。殿下が息子と俺の娘の顔合わせをしたいと言ってきました」


「……なんてこと」


「一応、俺の家庭と王家が接触しないようにとの言質は取りましたが……あの殿下の事ですから無駄になるかもしれません」


そう言ってロヴェルは溜息をこぼす。


「王家は精霊と接触出来ない事情があります。それに関して殿下は俺の娘を使って問題の解決に乗り出そうとするでしょう。……忌々しい」


吐き捨てるロヴェルにローレンは眦を吊り上げた。


「アルベルトはエレン様を何かの取引材料にした、と……」


「そうだ。そうなると分かっていたからこそ、俺が精霊と一緒になった事は信用している者にしか伝えてなかったんだが……」


「なんという裏切り行為。始末しますか」


ローレンの殺気にイザベラとサウヴェルがびくりと肩を揺らした。


「……それはやめろ。父上の思いを無駄にする行為だ」


眉間に皺を寄せるロヴェルに連なって、イザベラやサウヴェルも眉を寄せる。

元々ヴァンクライフト家は武家の家柄だ。当然、家令も使用人もメイドも戦闘に長けている家なのである。だからこそ、ローレンの言葉は非常に重いものだった。


「……アルベルトは命を救ってくれた父上に恩義を持っている。アギエルに関して、王家に何か打診していたのかもしれない……」


言葉を濁しながら言うサウヴェルに他の皆も同意する。

それは分かるが、ロヴェルからしてみれば愛しい娘が王家に狙われるとなれば話は別だ。


「すまない兄上。こうなったのも俺が不甲斐ないからだ……」


「……もういい。まあ、警戒はするが開き直ってしまえば、堂々と妻と娘が紹介できるというものだ」


「まぁまぁ! わたくしに早く紹介なさい!! あの女の子供はあの女に似て最悪だし、サウヴェルが外に作った子は連れて来ないし!!」


イザベラの言葉にサウヴェルが落ち込む。だがそれを無視して興奮するイザベラに、ローレンがエレンの事を伝える。


「ロヴェル様の御子はとてもとても可愛らしいですぞ。女神に愛された素晴らしい御子で御座います」


「なんですって!?」


ローレンのデレっとした顔に驚いたイザベラは期待に胸が膨らんだようだ。


「いつ連れて来てくれるの!?」


興奮してロヴェルに詰め寄るイザベラに、ロヴェルは苦笑した。



***



水鏡で様子を見ていた私は真顔に、母はあらあらと笑っていた。

過度な期待を持たせるのは非常に止めて頂きたいと思う。

私がいつ父に呼ばれるのかとガチガチに固まっていると、母はあっけらかんとしていた。


「エレンちゃん、大丈夫よ~」


「かーさまは怖くないのですか!? お相手は姑ではありませんか!!」


「もうそんな言葉まで覚えたの? えらいわ~」


「そうじゃなくて! 怖い人だったらどうしたらいいですか!?」


「大丈夫よ。気まずくなれば二度と会わなければいいわ」


「なんて軽い! だけどすっごくかーさまらしいです!」


そんなやりとりを母としていたら、直ぐ様父に呼ばれてしまいました。



***



「あなたぁ~~~!」


気持ちの切り替えができていない私を抱えて、一瞬で転移した母を恨めしく思う。


「オーリ、エレン!」


父と母に挟まれて、ぎゅ~っと抱きしめられた。


「とーさま、お疲れさまです」


「ああ、エレン~~~」


抱きしめられてぐりぐりと頭を押しつけられる。父がいつも通り過ぎて笑ってしまう。更にくすぐったくて笑っていると、離れた場所から「まあまあまあ!!」と弾んだ声が聞こえた。


私がきょとりとそちらへ顔を向けると、私の顔を見た父の母ことイザベラの目がきらきらと輝いていた。

しまった……と私は青くなった。


「母上、紹介します。妻のオーリと娘のエレンです」


「お久しぶりね」


「……初めまして、娘のエレンです」


私が淑女の礼をしているのに母は堂々としていた。


「まさか、ロヴェルの精霊……?」


「そうです。彼女は精霊王です」


「精霊王……?」


「この世界では元始の王とか全ての母と呼ばれているわ。改めまして、オリジンよ」


「なんてこと……」


驚愕するイザベラに、母は私の肩を掴んで前へと差し出した。


「あなたの孫は次期精霊界の女王となる存在よ。わたくし共々よろしくお願いするわ」


だがイザベラは当然ながら受け入れ難いのだろう。息子の妻が人間ではないのだ。

私は居たたまれなくて、八文字眉毛になるのを自覚しながら思わずもじもじとしてしまった。


私の様子に気付いたイザベラはその表情を崩し、私と目線を合わせるように腰を折った。


「私の孫が将来精霊の女王様だなんて……なんて素敵なの」


優しそうに笑うその顔は、父とそっくりだった。

私が思わず目を丸くすると、イザベラはにっこりと笑い、「おばあちゃんと呼んで下さる?」と私にお願いしてきた。


「お……お、」


周囲は黙って見守っている。私は恥ずかしさの余り、頬を赤くしながら「おばあちゃま……」とぼそりと呼んだ。


(あああ動揺しておばあちゃんとおばあさまが混ざっちゃった!!)


だがこちらの慌てぶりを余所に、そう呼ばれたイザベラは突如叫び声を上げた。


「きゃあああああ!!」


突如叫んだおばあちゃまに私はびくりと驚く。


「聞いた? ねえ聞いたかしら!? なんて可愛いの!!」


がばりとおばあちゃまに抱きしめられて、私は目を丸くしていた。


「そうでございましょう! エレン様は素晴らしく可愛らしい御子なのですよ!!」


ローレンが便乗する。止めて欲しい。


「じいじー……」


「ホッホッ! どうかなさいましたかエレン様!」


「……ローレン、お前じいじと呼ばせているの? 粋な趣味ね」


「左様で御座いましょう。エレン様にそう呼ばれるとじいじ若返っちゃいますからな!」


さあさあこちらへどうぞとじいじに促され、おばあちゃまに手を繋がれてソファーに座ると、隣に座ったおばあちゃまにあれこれ世話を焼かれてしまった。

ローレンはいそいそとお菓子の準備をしている。


「あらあら~」


「気持ちは分かるが大人気だな……」


「……母上」


呆れている三人は先程の険悪になった空気が無くなってくれたと肩の荷を下ろしたのだが、おばあちゃまは忘れていなかったらしい。


「ローレン、あなたの気持ちはよく分かったわ。アルベルトはどうしてくれようかしら……」


父の冷たい表情と同じ顔をするおばあちゃまに、私はあわあわと慌ててしまった。






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