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誓いとともに。

赤子達の力を抑える結界が施されて、双女神の祝福を受けた後にエレン達はようやくオリジンと面会ができた。


今、赤子達は乳母達に産湯を受けているらしい。

双女神はどこかへ報告があるとかで、エレン達におめでとうと一言お祝いを述べてからすぐに発った。


「母様!」


「オーリ!」


オリジンが横になっているベッドに駆け寄った。疲れた表情であるものの、オリジンはにっこりと笑って二人を迎えた。


「二人もお腹にいたなんて。驚いたわぁ~」


「ああ、オーリ……ありがとう」


ロヴェルがオリジンにキスをすると、オリジンは嬉しそうに笑った。


「かあ、さま……ううっ……」


感動のあまりにぐずぐずと泣いているエレンを見て、オリジンはあらあらとエレンの頭を横になったまま撫でた。


「エレンちゃんったら、もうお姉様になるのだから泣いてちゃダメよ?」


「うう~~今日だけにします~~」


「それじゃあ仕方ないわね」


エレンは涙を袖で拭いながらオリジンの頬にキスをする。

ロヴェルはくすぐったそうにしているオリジンや泣き笑いしているエレンを、愛おしそう見ていた。


「衝撃波が二回もあって、オーリに何かあったのかと思ったよ……」


ロヴェルの心配に、エレンも首を縦にこくこくと頷いた。


「わたくしも驚いたわぁ~。一人目を取り上げた大精霊達が油断して吹っ飛ばされていたわね」


「あわわ……皆様ご無事でしたか?」


「うふふ、大丈夫よ。お部屋も無事だったからこれだけで済んだと喜んでいたわ」


精霊のお産はこんなにも激しいのかと、エレンは少し遠い目をしていた。


「あら、わたくしのお産はまだ良い方よ。エレンちゃんの時は城が壊れたもの」


「わああ! もう本当にすみません!」


最近、エレンの時はこうだったとよく聞くようになった。

この手の話を聞くと、エレンはもう謝罪しか言えなくなってしまう。


「あと、あーちゃんの時も大変だったんじゃないかしら? ヴィントはしばらく生まれたばかりのヴァンには会えなかったと聞いたわ」


オリジンの言うあーちゃんとは霊牙の総長で、ヴァンの母親でもあるアウストルの事だ。


「そうなんですか?」


「獣の姿でお産をするから、興奮した母親が夫を殺しかねないのよ」


「ひえっ……なんてバイオレンス……」


その後に詳しく聞くと、白虎の一族は赤子の目が開くまでの約一ヶ月ほど、母親と赤子は部屋にこもりきりになって夫は会うこともできないらしい。


赤子と会えるまで、ヴィントもずっと落ち着かなかったのだとオリジンが説明してくれた。




そんな話で盛り上がっていると、「失礼します」という声と共に、おくるみに包まれた双子の赤子が大精霊達に連れて来られた。


「わああ!」


一番はオリジンとロヴェル。次にエレンがおくるみの中をぞき込んだ。


「髪は……母様と一緒だ!」


「本当ね。でもやっぱりこめかみの所はロヴェルにそっくりよ!」


オリジンのプラチナブロンドにロヴェルの血が濃く出ているこめかみの跳ね具合。

生まれたばかりの柔らかい髪のはずなのに、ここだけコシがあってピンピンと跳ねていた。


「エレンみたいに、オーリに似るかな?」


「父様に似るかもしれませんよ!」


わくわくした気持ちで赤子の近い将来を思って盛り上がる。


「そういえば、名前はどうするんですか?」


「それはこの子達の目が開いて、力が安定してからかしら。司るものが分からないと名前を決めようがないのよね」


エレンの名もエレメントから来ている。精霊は司る属性から名前を吟味するらしい。

司るものから関連した名付けをすることで、精霊としての力も増すらしい。


もちろん関係の無い名前を名付けられることもあるそうだが、そういったものが枷になって力が出なくなってしまったり、祝福を受け取れなかった精霊となるそうで縁起も悪いとの事。


「何を司るか楽しみですね~~」


「瞳の色は確認したのかい?」


「今は赤かったそうよ。でもエレンちゃんの時もそうだったから、力が安定したらエレンちゃんみたいに変化するんじゃないかしら?」


「そうなんですか?」


「エレンの瞳のように綺麗なのかな?」


「エレンちゃんの瞳の色だと良いわね。初めて見たときは本当に綺麗で感動したもの」


「そうだね。世界を表す色だと思ったよ」


エレンの時を思い出したらしく、オリジンとロヴェルがそんな昔話をして盛り上がる。

エレンには初耳だったので、どこか気恥ずかしさがあった。


「私は母様や父様の目の色も良いと思います!」


「あら」


「嬉しいことを言ってくれる」



そんな風にどちらになるか楽しみに待っていた五日後、ついに双子の目が開いた。

二人とも赤紫の瞳で、オリジンとロヴェルの色を綺麗に足したような色だった。


そしてもう一つ、エレン達は大笑いした。



「いやあああ~~~ん! ロヴェルそっくりよ! なんて可愛いの!!」


「父様が二人いるーー!」


オリジンとエレンが大興奮しながら赤子を愛でていたが、目つきの悪い双子にじっと見つめられているロヴェルは、どこか複雑そうな顔をしていたのだった。




***




オリジンが出産を無事終えて、約二週間後。

ついにガディエルの半精霊化の儀式のための準備に入った。


今回はオリジンが出産してまだ日も浅いということで、補佐として双女神とアークも立ち会うことになっている。


「俺はもう少し後でも……」


申し訳なさそうにガディエルが言うが、これ以上は逆にガディエルの魂が危なくなると双女神に言われてしまった。




そしてついに儀式の前日、エレンはドリトラに頼んでガディエルの夢の中へと移動した。



「エレン!」


エレンの顔を見て、嬉しそうに駆け寄ってくるガディエルに、エレンも手を振った。


「どうしたんだい?」


「えっと……話があって……」


「話? そうだ、ソファーへ行こうか」


夢の中のエレン達は、なぜかいつも手を繋ぐのが癖になっていた。

今日も会ってすぐに手を繋ぎ、ソファーへと座った。


「あ、あのね……アミエルの事なんだけど……」


「アミエル?」


あの出来事から触れなかった名前。ガディエルの顔に影が差した。


「……双女神に聞いて事の顛末は知っている。俺の従姉妹とはいえ……エレンまで巻き込んでしまって本当にすまなかった」


「ううん、そうじゃないの。それにガディエルが助けてくれたからいいの!」


頭を下げるガディエルに、エレンは慌てて違うと首を横に振った。


「あのね……私、あの時に呪いと同化してしまったアミエルの魂を浄化しようとして、核にあたる気持ちに触れたの」


「核の……気持ち?」


「呪いと同調してしまったアミエルの気持ち……その根本というのかな。あの時のアミエルはね……ずっと泣いていたの」


母と父を探して泣いていたこと。

寂しいと泣き叫んでいたこと。

あの時に感じた気持ちを、エレンは正直に告げた。


「アミエルはずっと寂しかったんだと思うの……。アミエルの唯一の味方はアギエルさんだった。でも、アギエルさんに嫌われたと泣いていたの。恐らく、それが引き金になって呪いと同化してしまったんじゃないかって思って……」


「叔母上が……」


痛ましそうにしているガディエルに、エレンは隠していた事を正直に言った。


「あの時のアミエルの泣き声を聞いていて、私思ったの。迷子になってしまっただけの子と何が違うの? って……お母様はどこ? ってと泣き叫んでいる小さな女の子だと思ったの」


「……うん」


「浄化ってなんだろうって思ったわ。私がやろうとしたことは、全ての記憶を消してしまうことだった。その魂が持っていたもの全て、呪いと化してしまった感情すべて消そうとしたの……だけど、ただ泣いていた子が……消えるのが怖い、寂しいと叫んだの」


「アミエルが……?」


「だから私……寂しいなら、一緒にいるわと伝えたの」


「…………え?」


ガディエルの目が驚きに見開かれた。エレンが何を言っているのかよく分からなかったようだ。


「ぼろぼろになってしまった魂に、一緒にいるわと伝えたわ。私の内に取り込んで、眠りなさいと……起きたら側にいてあげるって」


「……え? え? それは、アミエルの魂が……エレンの中にいるってこと?」


動転しながらもガディエルは何とかかみ砕こうとしている。

エレンはその通りだと頷いた。


「これを、魂の選定というそうなの。私は知らずに選定してしまった……」


魂の選定の意味。女神が時代を産み落とすための選定で、アミエルの魂を選んだこと。

それらを説明すると、ガディエルは驚愕のあまりにぽかんとした顔のまま固まってしまった。


「……ガディエル? 大丈夫?」


「す、すまない……驚きすぎて……アミエルが、エレンの中に……?」


未だに信じられないとエレンを見つめるガディエルの目線の先は、エレンのどこかにアミエルの欠片を見つけようとしているような気がした。


「その……エレンに不調とかは……大丈夫なのだろうか?」


「アミエルの魂はぼろぼろで眠っているから、女神にはならないそうなの。でも、目が覚めたら側にいてあげたいの」


これからエレンとガディエルは共にあって、側にいる。

その時にガディエルが驚かないようにと、エレンは前もって告白しておこうと思ったのだ。


「正直言うと……驚きすぎてなんて言えばいいのか分からないのだが……」


「う、うん。そうだよね、急にごめんね」


「あ、いやそれよりも……俺はエレンにお礼を言わなくてはいけない」


「え? どうして?」


「魂の選定とか……そういったものをエレンが女神として背負っているのは分かったけれど、それよりも俺が分かったのは、エレンがアミエルを救ってくれたということだ」


「救った……?」


「きっとアミエルは、エレンの手を取ったのだろう?」


あの時、エレンにすり寄ったアミエルの魂が呟いた一言を思い出した。


「……あったかいって……」


「……そうか」


あの時の感情が、アミエルを想った感情がぶり返してきて、エレンはぽろりと涙をこぼした。

ガディエルがその涙を拭ってくれる。エレンは静かに泣きながら、己の内に潜めていた言葉を吐露した。


「……私の、勝手な自己満足なのかと……」


「エレン、それは違うよ。何もかも背負わなくていい」


ガディエルはエレンを優しくぎゅっと抱きしめた。


「俺に取り巻いていた呪いも、アミエルの魂も、間違いなくエレンに救われている」


「……ほん、とう?」


「ああ。それに俺も救ってもらえた。これから君と一緒にいられると思うと、未来が楽しみで仕方がないんだ」


「……私も、ガディエルに救ってもらったよ……?」


「ふふふ、それは嬉しいな」


またぎゅっと抱きしめられ、ガディエルはエレンの髪にキスを落とす。


「エレン、独りで抱え込まなくていい。これからは俺も一緒に背負わせてくれ」


「ガディエル……」


「エレン、愛している。ずっと一緒にいさせてくれ。アミエルが目覚めたときも、俺も側にいるよ」


ガディエルはそう言って、泣いているエレンの顔中に軽くキスを贈った。

口の端に口づけられて、エレンが目を開く。




お互いが見つめ合い、そしてゆっくりと目を閉じて、優しいキスをした。





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