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半年という月日。

ガディエルの半精霊化まであと半年。

あまり時間は無いと、ガディエルの夢の中でエレンも同席させてもらうことにした。


双女神が来るという日に、ドリトラに頼んで一緒に待たせてもらう。

ソファーに座って三人で話していると、ドリトラがパッと顔を上げた。


「うへへ! 主様が来るよ!」


ドリトラがそう言うと、周囲がぱあっと明るくなって四人用のテーブルと椅子が準備された。

ガディエルの夢の中にやってきた双女神に挨拶と共に頭を下げるガディエルの横で、エレンも「こんにちは!」と元気よく挨拶をする。


「あら、こんにちは」


「あらあら、こんにちは。お邪魔だったかしら?」


「ち、違います!」


慌てながら手を横にブンブンと振るエレンに、双女神は笑った。


「うふふ、ドリトラに聞いたから知ってるわ。おぼっちゃんの心の声が聞こえなくしたいのよね?」


「ふふふ、いたずらでもされたの?」


どうやらからかわれたらしい。そして相変わらずお見通しである。

エレンは「そうなんです……」と、ほんのり顔を赤らめながら双女神にお願いすると、隣にいたガディエルがしゅんとした顔をした。


「エレンはそのままで良いんだよ?」


「もうーー!」


エレンは真っ赤になって、ガディエルをぽかぽかと叩いた。


叩かれても嬉しそうにしているガディエルと、真っ赤な顔をしているエレンのじゃれ合いを双女神が微笑ましそうに見ていた。


「でもエレンちゃん、今覚えても一時的だと思うわ」


ヴォールにそう言われて、エレンは驚いて叩いていた手を止めた。


「え? ど、どうしてですか?」


「やだ、エレンちゃん。おぼっちゃんが半精霊化したら念話が使えるようになるじゃない」


「あっ!」


「女神様、そのお話を詳しく教えて頂けますか?」


「ガディエルはまだ知らなくていいと思います!」


一時的でもガディエルのいたずらが減るなら受けるべきだと思っていたが、念話の事を失念していた。

ガディエルは別の方法があるのかと、興味津々になってしまっている。


むううと頬を少し膨らませ、怒った顔でエレンはガディエルに「ダメ」だと言い聞かせようとした。

すると、エレンの後ろから双女神がエレンの頬をヴォールとヴァールが片方ずつ、つんつんと突いた。


「エレンちゃん、ほっぺたがリスちゃんみたいよ」


「本当、リスちゃんだわ」


左右からつんつん突かれてエレンの顔がおちょぼ口の変顔になってしまった。


それを目の当たりにしたガディエルが、「フッ」と笑ってしまったので、真っ赤になったエレンに、またぽかぽか叩かれたのだった。




***




そんなやりとりをしながら夢の中で過ごして半年後、ついにオリジンが産気づき、エレンとロヴェルは別室でずっとうろうろしていた。



ロヴェルはエレンで経験済みだが、エレンは初体験である。


ヴァンクライフト領の治療院で新たに設立された助産院の講習会には何度か参加していたものの、いざとなるとやはり落ち着かない。


「は~~~~……二度目とはいえ、全く慣れないな……」


ソファーに座り、前屈みになって両手を組んで頭を預けているロヴェルの前で、エレンはテーブルにかじりつき、ぶつぶつと呟きながら一心不乱に紙に何かを書き込んでいた。

テーブルには辞書が沢山置かれており、あーじゃないこーじゃないと何やら調べているようだ。


「エレン、何をしているの?」


さすがに気になったロヴェルが、エレンの背後から手元をのぞき込む。

紙には赤ちゃんのおむつの替え方や、食事についての注意事項、産湯の方法などが書かれてあった。


「……治療院で配っているやつかな?」


「そうです!」


「…………とっても言いづらいんだけど、エレン、それは乳母の仕事だよ?」


とたん、エレンの顔が、ガーン! とショックを受けた顔をした。


「え? え? やらないんですか!?」


「気持ちは分かるよ。俺もエレンのをやろうとしてすっごく怒られたんだ。今回もやらせてもらえないんじゃないかな……」


「ええーー!?」


精霊界でもさすがに女王の御子となると、人間界の貴族の扱いとなんら変わりがないようだ。



エレンはヴァンクライフト領の助産院で、予行練習にもなればとボランティアをしてきた。

その様子を見ていたロヴェルは、兄弟が生まれたらやりたかったのだろうと分かっていたものの、ずっと言えずにいたのだった。


「今のご時世、男性も育児に参加するべきです!」


「え? うん。それは治療院でも言っていたね」


「乳母とか関係ありません! やりたいからやる! これにつきます!」


「ハッ! そうだね、エレン! 俺もそう思うよ!」


あれだけエレンはロヴェルの子離れをお願いしていたのにも拘わらず、エレンもロヴェルのようになっていると、部屋で待機していたメイド達が青ざめた。



「ああ~~……オーリの側に行ってずっとついていたい……」


「私もです……」


二人共、ずっとオリジンの心配をしている。この状態が十時間近く続いていた。


「城が半壊しないといいな……」


「えっ!?」


ぼそりと言ったロヴェルの呟きに、エレンが驚きの声を上げる。


精霊のお産は、夫の同席は許されないのだという。

というのも生まれた瞬間、親と子の魔力のぶつかり合いが起きるらしく、とても事故が起きやすいらしい。

生まれた瞬間、赤子が親を殺しかねないと聞いて、エレンはとても驚いたのを覚えている。



さらにオリジンの力の強さから、エレンの時と同様の厳戒態勢が敷かれていた。


他の城の守護を任されている精霊達と一緒にロヴェルが城の結界を強化していたが、それを突き破るとでもいうのだろうか?


(待って父様、このタイミングで言うとかフラグでしょ!)


エレンは冷や汗が出てしまう。

エレンとロヴェルの待機場所が、オリジンのいる場所から一番遠いというのもそれが理由だと知って、青ざめずにはいられない。


「エレンの時は城がほぼ崩壊したからね……」


「すみませんーー!!」


エレンの時はそれほどまでに凄かったらしい。そんな会話をしている最中だった。



ドオオオオオオオオン……。



オリジンがいる方向から、地響きと共に城が揺れた。


「生まれたか!?」


「えええええ!?」


産声が揺れと地響きとはでかすぎる。


急いで立ち上がったロヴェルにと一緒に、エレンは少なくないカルチャーショックを受けながらも、急いでソファーから立ち上がった。



すると次の瞬間、



ドオオオオオオオオオオオン!



第二波がやってきて、エレンとロヴェルはよろめいた。


「え?」


「二回?」


顔を見合わせたロヴェルとエレンは、慌ててオリジンの元へと駆けていった。




***




何重にも魔法陣が敷かれている向こう側で、エレン達に気付いた大精霊が満面の笑顔で言った。


「ロヴェル様、エレン様、おめでとうございます! 男女の双子の御子様でございます!」


「わあああ双子ーー!?」


「でかしたオーリ!」



男の子と女の子。

新たな家族がこの世に生を受けた。



ロヴェルとエレンは、涙ぐみながら抱き合って喜んだ。




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