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いっぱいいっぱい。

不可抗力とは言え、ガディエルの心の声を本人の了承もなしに聞いてしまうなんてダメにきまっている。

真っ赤になって少し泣きそうになっているガディエルに、エレンは真っ赤な顔をして叫んだ。


「だ、大丈夫! 聞かなかったことにするから!」


「えっ」


それはそれでショックだったようで、ガディエルの顔がみるみる青ざめていった。


「エレンちゃん、それはダメだと思うわ」


「動揺しているのは分かるけれど、聞いてしまったのだからきちんとお返事しなきゃね」


双女神のダメ出しに、エレンはもう目がぐるぐると回ってしまう。


「だ、だって……! これはどうしたらいいの……!?」


エレンはもういっぱいいっぱいだった。

目が回っていると思ったら、ぐらりと身体が傾いだ事にも気付かず、オリジン達の慌てた気配だけが伝わってきた。


「エレンちゃん!」


慌てたオリジンが慌ててエレンに手を伸ばす。ふわりと抱き留められると、エレンが倒れた理由が分かったオリジンが「あらあら」と呟いた。


「やっぱりお熱出ちゃったわ」


そう言われてエレンは「あれ……?」と自分の状況が分かっていないようだった。

額に手を当てられると、オリジンの体温の低さが伝わってきた。


どうやら本当に熱を出してしまったらしい。


「あら、大丈夫?」


「今日は色々あったものね」


エレンは精霊城に帰ってきた所ですでに眠そうなそぶりを見せていた。

心理的にも体力的にも疲れ切っていたに違いない。


ガディエルがエレンの事を心配している声が聞こえてきて、エレンは「大丈夫」と言おうとして顔を上げようとしたが、身体もまぶたも重くて仕方なかった。


「疲れているのに無理に契約をしてしまったのか……」


しゅんと落ち込むガディエルに、双女神がエレンがなぜ倒れたのか説明した。


「エレンちゃんは元々、身体に無理があったの。力を使った後なら仕方ないわ」


「そうね。おぼっちゃんの魂と身体の力の釣り合いが取れないと説明したように、エレンちゃんも同じで力が強すぎて身体がついていけないのよ」


エレンがそんな状況だったとは知らなかったと青ざめたままのガディエルに、双女神は安心させるように笑顔で「大丈夫よ」と言った。


「エレンちゃんの体調が落ち着いたらまたお話ししましょう。声もちゃんと聞こえなくする方法はあるわ。聞こえっぱなしだと、聞いている側は会話が大変なんだもの」


「ええ、急いでいたから伝え忘れていたの。ごめんなさいね」


「いえ、こちらこそ助けて頂きました」


そういってガディエルは右手を胸に当て、頭を下げて礼をする。

オリジンや双女神の機転がなければ、ガディエルはもう生きる術はなかっただろう。

少し時間はかかるとは言われているが、また家族と会えると聞いただけでガディエルは安堵の顔をしていた。


からからと笑う双女神の隣でオリジンがエレンをふわりと抱え上げた。

細身の女性がエレンほどの体重を抱え上げられるのかと少なからず驚いているガディエルに、「精霊はとても軽いのよ」と横から説明された。


「身体ができるまで少しずつ説明してあげるわ。うるさいドリトラも連れてきてあげるからにぎやかよ?」


「は、はい……。あの、俺はずっとここに……?」


「ここは夢の中。瞬きをする位の時の流れしか感じないわ。気付いたときには目の前にエレンちゃんがいるわよ」


「ええ。だってあなたは眠っているのだもの」


双女神の説明にたじたじになりながらもガディエルは必死について行こうとするが、やはり驚きが多くてガディエル自身もいっぱいいっぱいになっていた。


「そ、そうですか」


「おぼっちゃんも疲れているはずよ。女神の力に魂がなじむまで時間もかかるわ。あなたもお休みなさいな」


「……はい」


「ああ、エレンちゃんが起きたら一番にお返事を聞くと良いわ」


「ぐっ!?」


思わぬ事を言われ、驚きすぎて息が詰まってしまったようだった。

ゲホゲホと咳をすると、夢の中のはずなのになぜか苦しいと感じてしまう。


真っ赤になって動揺するガディエルに、ヴォールは大笑いしていた。


「エレンちゃんも心の準備が必要なの。許してね」


「は、はい」


かーっと赤くなっていくガディエルを見て、ヴァールがぽつりとこぼした。


「ロヴェルと違って素直だわ、この子」


「あらやだ、ロヴェルと一緒にしたらダメよ。ロヴェルは捻くれてるもの」


「それもそうね」


ロヴェルがこの場にいたら、「お前らに言われる筋合いはない!」ときっと叫んでいただろう。


双女神の言葉に乾いた笑いをこぼしていると、女神達に「またね」と手を振られた。

ガディエルも頭を下げる。


頭を上げたときには、女神達の姿はどこにもなかった。



***



オリジンに抱えられたエレンが双女神の空間から出てきた瞬間、待っていたロヴェルが叫んだ。


「エレン!」


エレンは真っ赤な顔をしてぐったりしている。ロヴェルの呼びかけに返事をしないので、すでに眠っているのかもしれない。


「あなた、シー、よ」


「どうしたんだ? 何があった!?」


「疲れてお熱が出ちゃったのよ。わたくしの寝室に寝かせるわ」


「あ、ああ。レーベンとクリーレンを連れてくる!」


慌てた様子でロヴェルが転移して消えたのを見て、オリジンはぽつりと言った。


「エレンちゃんがおぼっちゃんと契約したなんて知ったら、ロヴェルはきっと殺しに行くわね。しばらく黙っていましょう」


幸い、エレンの契約は女神しか知らない。

寝室に転移したオリジンは、エレンをベッドに寝かせながら思わず笑ってしまう。


「子離れできるかしら?」


絶対に取り乱すと分かるだけに「ふふふ」と笑いが止まらない。


「にぎやかになるわねぇ」


楽しそうな未来に胸をはせ、オリジンはエレンの身体にシーツをゆっくりと被せた。






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