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エレンの怒り。

事の発端はヘルグナー国で生まれた王族の中で、金の髪で生まれた者達に対しての扱いだった。




精霊信仰の強いこの国では、精霊と契約した者が王となる。そんな規則があった。

リュール以降の歴代の王はローレと同じ色に染まるため、ブルネットから黒い髪の者と婚姻を繰り返し、その髪の色を金から黒に染めていった。


黒猫のローレの加護を受けた者は黒い髪で生まれるという認識を、長い年月をかけて人間達が勝手に作り上げたのだ。


しかし金の髪を持つ者はどうしても生まれてくる。

黒い髪をしていない者は、ローレの加護を受けていない、またはその資格がないと言った。




「ローレの加護を受けていないと追放された金の髪の王族達は、ローレに見捨てられたのだと勘違いして新たな精霊を求めたの。そしたら本当に契約できた者が現れたのよ」


「まさか……それを理由にしてテンバールの王族を裏切り者と呼んだのですか?」


「エレンちゃん、その通りよ。別の精霊になびいてローレを裏切ったと叫んだの。袂を別れた理由として都合がよかったのね」


ヴォールはそう言って肩をすくめた。

ヴァールは「本当に人間は都合のよいこと」と呆れている。


追放されてしまった王族を想ってローレから愛想を尽かされるのを恐れていたヘルグナーの王族は、「奴らは裏切り者になりました」とローレに報告した。


確かに慕ってくれていた者達が自分の下を去り、新たな地で新たな精霊と契約したと聞けば、ローレもそれ以上何も言うことはできなかった。



そうやってヘルグナーの王族達は自分の事を棚に上げ、都合の良い歴史を代々語り継いでいたのだ。



しかし、二百年前のモンスターテンペスト以降、テンバールの王族が精霊と契約できなくなったという噂が流れた。

その中には、テンバールの王族が精霊を怒らせたからモンスターテンペストが起きたなどというものもあった。



そんな中で、つい数年前にテンバールの王族は精霊の怒りを買い、呪われていたという事実が浮き彫りになる。


都合良く改変した歴史を、隣の国が勝手に裏付けてくれたのだ。




しかしその一方、ヘルグナー国も十八年前に国を揺るがしかねない事件があった。王族から金の髪をもつ者が生まれたのだ。

その父王と側室は黒髪だった。生まれるはずのない金の髪の子は、不吉だと言われた。



そして十二年前、ついに事件が起きる。


金の髪をした子供と共に、王と側室が事故で亡くなったという訃報が流れた。その時からローレが姿を消したのだ。


世襲制でデュランが若き王となったが、精霊の加護を失ったという噂がまことしやかに流れていた。



生まれるはずのない金の髪の子供が生まれてからというもの、ヘルグナー王国はきな臭くなっていた。

そしてローレが姿を現さなくなっているというのに、隣のテンバールでは大精霊と契約した英雄まで現れる。



精霊をこんなに愛しているのに、どうして自分たちの側に精霊がいないのか。


そんな国民の不満は、全てデュランに襲いかかっていたのだ。




その矛先をどこに向けるか。都合のよく隣には呪われたテンバールの王族がいる。

国民の不満をそちらへと向けるために、今の状況はデュランにとって都合が良かったに違いない。


「この国は昔から、都合の悪いものは全部隣に押しつけていたのよ」


全てを見通すからこそ、ヴォールの言葉は重みが違う。

これが真実だとデュランに突きつけていた。


「…………」


デュランは眉間に皺を寄せたまま黙って聞いていたが、ここでやっと口を開いた。


「しかしテンバールは大精霊を長年監禁し、精霊に対して酷い行いを続けていた。結果呪われたのは事実だ」


テンバールの内情を草を使って知っていたのだろう。もしくはアミエルに直接聞いたのかもしれない。

デュランの言葉に、エレンは無表情に「そうね」と答えた。


「我々は長き年月にわたり、ローレ様と共にあった。精霊を信仰している我らにとって、そのような行いをするテンバールを敵として何が悪い?」


精霊の敵は我らの敵だと主張するデュランに、エレンはきっぱりと言った。


「アーク兄様の監禁とテンバールの呪い……そもそも、あなたに関係ないわ」


「な……っ」


「これは私たち精霊とテンバール王族の問題よ。どうして横からしゃしゃり出てこようとするの?」


あまりにきっぱりとしたエレンの物言いに、双女神は「きゃ~~!」と黄色い声を上げた。


「気持ちいいくらいきっぱり言うわ! さすがオリジンちゃんの子!」


「気持ちいいほどにはっきり言うわ! さすがロヴェルの子!」


エレンは双女神の盛り上がりなど眼中にないようで、なおも淡々とデュランに言った。


「自分は精霊の味方だと言いたいのでしょうけれど、ローレの気持ちを無視して自分の気持ちを押しつけ、ローレの大事な人を害そうとする時点でそれは果たして味方と呼べるの?」


ローレからしてみれば、デュランがローレに対して噛みついたとも取れる行動だ。


ローレはどうしてデュランがそんな行動をしたのか分からなかった。むしろ、デュランに裏切られたという気持ちが大きかった。

だからこそリュールを守るため、ローレはリュールと共に姿を消したのだ。


「まさか……そんな……」


ローレが自分を裏切ったと信じ切っていただけに、まさか自分が裏切っていた側だとは思いもしなかったのだろう。

デュランの声が上ずり、動揺しているのが分かった。


「精霊のためにと言いながら自分の都合のいい事ばかり。あなたは精霊と共にあると言いながら、利用することしか考えていない」


「そんな事などない! 私はローレ様をお慕いしてきた、なぜローレ様が選ぶべき者が私ではないのか!」


デュランのこの言葉こそが本心なのだろう。それが分かっているからこそ、ローレとエーレはデュランを庇っているのだ。


『姫様、デュランを責めるのはもう止めて下され。デュランを歪ませてしまったのはわらわじゃ。わらわを罰して下され』


そう泣きながらエーレがエレンに頭を下げた。

その様子に動揺したのはデュランだった。


「な、なぜエーレ様が……」


「ローレの関心があなたに向かうはずだった機会を自分が奪ったからだと思っているのよ」


『違う、違う! わらわが、わらわがいかんかったのじゃ。懐かしさのあまりにデュランを見んかったんじゃ……』


「…………」


ローレとエーレを見て、デュランは呆然としている。

長年慕っていた精霊が、自分のためにエレンに頭を下げて許しを乞おうとしている。


「だからローレの想い人は奪われて当然だと? 私の父様を生け贄にしていいと? 関係のなかったアミエルをここまで追い詰めて……ガディエルが死んで当たり前だと言うつもり?」


また、エレンの周囲でバチバチと火花が散る。

それを見て、アークが「あっ」と一言声を上げた。


「エレン、つよい」


アークが慌てて周囲の魔素の濃度を変えて火花が散らないようにしようとしているが、それよりもエレンの怒りが勝っているようだ。

エレンの怒りを見て、双女神は「あ、あら……?」と戸惑っている。


想像以上にエレンが怒っているので、どうしましょうと双女神はお互いの顔を見合わせていた。


「自分の都合よく周囲の価値を勝手に決めて煽って父様達を巻き込んで……それで謝れば許されるとでも思っているの?」


エレンにとって、デュランの生前の出来事や事情など関係ない。

家族が巻き込まれ、周囲の者達が不当に傷つけられた。


どう理由を言い募ろうとも、エレンにとって許せるものではなかった。


エレンにとって、家族や周囲の者達を傷つけられることだけは我慢ならないのだ。


「エ、エレンちゃん……?」


ヴァ―ルが戸惑っている。

それもそのはずで、エレンは底冷えするほどの冷たさを携えながら微笑んでいたのだ。




「大事な人を奪われる痛みを知りなさい」




エレンはそう言って、力を使った。





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