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全ての始まりと確執。

エーレの言葉を聞いて、ローレは狼狽えずにはいられなかった。


『姉様が……リュールの魂を……?』


『……女王様にお願いしたのじゃ。ローレにリュールを会わせて欲しいと……』


そこまで聞いてエレンは疑問が浮かんだ。

天に昇った魂でも、個の判別が可能なのか、と。


思わずその事を聞くと、なんと双女神が教えてくれた。


「分かるわよ~。精霊と契約していればね」


「精霊と繋がれば、少なからずの恩恵を受けるでしょう? 人間の魂もそうなのよ。天に還るのに時間がかかっちゃうの」


「時間がかかる……ですか?」


「ん~~なんと言ったらいいのかしら。この世界のものは全て魔素からできているでしょう? 人間や動物達とは違って、精霊は魔素の濃度が違うのよね」


魔素はいわゆる力だ。大精霊ほどその力は強い。濃度が濃いということは、それだけ力が強いという意味なのだろう。


「少し整理させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「いいわよ」


困惑気味のエレンの質問に、ヴァールは快く承諾した。


「人の魂は、死ぬと天に還るのですか?」


「しぬ、まそ、うえ、のぼっていく」


アークの辿々しい説明を補足するかのように、ヴォールが教えてくれた。


「もう少し詳しく説明するわね。人に限らず動植物や精霊の何もかも、この世界にいるならオリジンちゃんが魔素から造ったものよ。だから死んだりすると、魔素に戻って天に昇るのよ」


「そう。それが制約なの」


「では、次に天に戻った魔素はどうなるのですか?」


「この世界を支える魔素の循環に合流して新しい地に降り注ぐの。それが新しい命の源となるのよ」


そこまで聞いて、エレンはなるほどと納得がいった。


「先ほど濃度が違うと仰いましたが、精霊の魔素は濃度が濃いために分散するのに時間がかかる……ということでよろしいでしょうか?」


「その通りよ、エレンちゃん!」


よく出来ましたとヴァールとヴォールが両手を叩いてエレンを褒めた。


「濃度が濃いと言うことは、まとっている力も強いという事……その力の残留をたどって、リュールさんの魂を特定したと?」


『そ、そうですじゃ。女王様は、わらわの力から対の力に染まったリュールの魂を探して下さったのですじゃ』



リュールと別れたローレは、リュールの遺言をずっと守り続けていた。

リュールの子孫を独りで見守り、この国を守ると誓った。


でもその姿は、どこか寂しそうだったという。



『その時すでにわらわは神殿に囲われていた。わらわがローレを庇うと、人間は勝手な思い込みでローレを追い詰めようとする。だからわらわは、ローレが傷つくくらいならと引き離されたままを選んだのじゃ……』


『姉様……』


ローレもエーレの側に行きたがったが、力が出ない状態でエーレの側に行くのはためらわずにはいられなかった。

人間に酷いことをされ続けていたローレは、リュールとその子孫以外の人間は警戒せずにはいられなかったのだ。


リヒトに言えば良かったのではないかと思わなくもなかったが、当時は精霊と言ってもかなり力は弱く、さらに対と引き離されていたためにただの長生きな猫と変わらなかったらしい。

ここ数百年の間に、ようやくローレとエーレは力をつけてきたのだと言った。



だからこそ頼むなら今しかないと、エーレはオリジンのいる精霊城へと願いに行ったのだ。




***




エーレから事の発端を聞いたエレンは、「少し待ってください」と言って考え込んだ。



エレンはエーレの言った内容を、頭の中でぐるぐると何度も思い返していた。


(何かが引っかかってる……)


エレン自身も行った「選定」と呼ばれる行為から、女神は人の魂に接触できるのだろう。


(どうして母様はリュールさんの魂を見つけて転生できるように手助けしたの……?)


そこまで考えて、エレンはハッと気付いた。

思った答えではなかったが、別の部分が繋がった気がした。



リュールの魂がローレと契約していたからこそ濃いということは、それはそのまま、母体、もしくは胎児に影響するのではないか、と。


「だからリュールさんは先祖返りをしてしまったのね?」


「えっ!?」


急にエレンに見つめられたリュールは、驚きのあまりに肩を跳ねさせた。


「どういう事だ」


その事に関してはデュランも気になってしまったのだろう。思わず疑問が口に付いて出てしまったようだった。


「ローレの力をまとったままの魂というなら、その力も強いわ。その強さは魔素の強さ。人の身体は魔素の影響を受ける。リュールさんが金髪で生まれてきたのは、ローレの影響だわ」


「俺の髪が……」


『そうなのかえ!?』


ローレも驚きが隠せないようだった。

単にリュールの魂だから先祖返りしてしまったのだろうと安易に考えていたが、きちんと理由があったのだ。


リュールの髪色は、精霊と人との間に芽生えた、絆の強さを物語っていた。


「その忌々しい髪裏切り者の色が、ローレ様の影響だと……!?」


デュランの表情は悲しみに満ちていた。

ローレを慕って「黒」を信仰してきたからこそ、ローレとの絆の証が「裏切り者の金」だと知って嘆かずにはいられないのだろう。


だが、予想外にもローレが反論した。


『デュラン! 金の髪は裏切り者ではないぞえ!』


「な……」


『先に裏切ったのは、おぬしの数代前の奴じゃ!』


これにはデュラン意外にも、その護衛やリュール達も驚いた。



ヘルグナーの数代前は、王位継承をめぐる紛争がとても酷かったそうだ。


『それこそ、髪の色で世継ぎを決めていた時代がある。わらわは止めろと何度も叫んだ!』


リュールの子孫がそんなことでもめて欲しくない。しかし、事態はあまりにも深刻化し、金の髪をした一族はこぞってどこかに連れて行かれてしまったのだ。


『わらわと同じ色ではないと追放したのはお前達じゃ! テンバールの奴らは何も悪くなかった!』


「な……なんですと……」


『どうして人間は色にこだわるんじゃ! わらわはわらわなのに!』


だがそれは、自分の色を慕ってくれたからこその事だということも理解しているのもあって、とても悲しかったとローレは泣き叫んでいる。


「テンバールの王族は……裏切り者ではない?」


混乱を極めるデュランに、全てを見通すヴォールがぼそりと呟いた。


「貴方達のご先祖は、ローレと同じ色ではないのなら同じ色をした精霊を探せばいいと放り出したのよ」


「ああ、そういえばそうだったわね。それで、本当に探そうとして精霊の目撃情報の多かった丘に行ってみたのよ、あの子達」


思い出したと双女神がそんなことを呟いた。





ヘルグナーとテンバールの確執から誤解があったのだと事実を知らされて、デュランは頭が痛むのか、眉間に皺を寄せて片手でこめかみを押さえていた。





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