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エーレの願い。

エレンがデュランを睨み付けたまま、口を開こうとした時だった。


『姫様、待ってたもれ! デュランは悪くないのじゃ!』


リュールの腕から飛び降りたローレが、エレンとデュランの間に立ちはだかった。

それを見ていたエーレもまた、デュランの腕から飛び降り、ローレの隣に立つ。


『姫様……ローレも悪くないのですじゃ。全てわらわのせいなのじゃ……』


ローレと対となる、昼を司るエーレが泣きながらそう言った。


『姉様……?』


「……どういう事ですか?」


エレンは何とか怒りを抑えようと努めて冷静に返事をしたつもりだが、据わった目をしてしまった。

その上、怒りのあまりにエレンの周囲にはバチバチと電子が摩擦を起こして火花まで散っている。

その様子を見ていたローレ達は真っ青な顔をして身体を震わせていた。


「エレン、おちつく」


「あっ」


エレンの周囲の魔素が異常を起こしていると気付いたアークが、エレンを落ち着かせようと後ろからひょいと抱き上げた。


アークの片腕に抱き上げれ、無理矢理に目線を変えられた。

エレンは突然の事にぱちくりと目を瞬かせて、目の前のアークの顔を見る。

アークはエレンににっこりと微笑みかけた。


「アーク兄様」


「エレン、おこっても、いいこと、ない」


「…………」


「あせる、わかる。でも、だいじょうぶ」


そう言いながら、アークはエレンの頭を優しく撫でた。


アークは三百年近くもの間、人間に囚われて力を奪い続けられていた。

この一連の事件で一番の被害者でもあるはずなのに、アークは一度だって人間に対して恨みを言った事がない。


「アーク兄様……」


学院に囚われていた時の光景を思い出し、エレンはまた涙がぶり返してきた。

それに気付いたアークはエレンの頭を優しく押さえて自身の肩口にエレンの顔を隠す。

エレンの肩がひくついていることでエレンが泣いているのが分かった他の面々も、黙ってエレンが落ち着くのを待っていた。


だが泣いている場合じゃないと、エレンは自分の目を乱暴にこすった。

それを見ていたリヒトが、「こすっちゃダメだよ」とエレンの手を取った。


「僕の大事な妹をこんなにも泣かせるなら、僕がこの国を闇に包んであげる」


リヒトがにっこりと笑いながら残酷な事を軽い口調で言った。

リヒトの言葉を聞いて、ローレとエーレが『ヒッ!』と引きつった悲鳴を上げた。


「僕は光を司るからね。お安い御用さ。だからもう泣かないで」


リヒトの言葉を聞いて、デュラン達も絶句しているようだった。


「ごめんね、エレン。ローレとエーレは僕の眷属なんだ。この子達がこんな大それた事を引き起こす原因を作ったというなら、僕が制裁を加えてもいいだろう?」


『主様っ! どうか、どうかそれだけは……!』


『わらわの国から光を奪わないでたもれ!』


「お前達がそれだけのことをしでかしたんだろう? エレンやロヴェル兄さんを巻き込んで、赦されると思っているのか?」


ブルブルと震えが止まらないローレとエーレは、今にも逃げ出したいと思っているのか腰が引け、耳がぺたんと寝てしまい、尻尾は股の間に挟まっている。

ひげまで後ろ向きになっているので、相当な怯えようだ。


光を司るリヒトは、人間達からオリジンや双女神の次に大事にされ、祀られている大精霊だ。

女神を信仰している教会では、双女神の他にも光や昼を信仰している。

その中でエーレは昼を司り、双女神の神殿を守る精霊として教会で祀られている精霊だった。


リヒトの言葉と、ローレ達の言葉を聞いてデュランも己が何をしでかしたのかようやく理解してきたらしい。その顔はだんだんと青くなっていった。


デュランはローレの主である光の大精霊の妹を、ローレの代わりにしようとしたのだ。



エレンはローレの代わりになるような精霊ではない。

さらにそのエレンを怒らせて泣かせ、エレンを可愛がっている大精霊達の顰蹙を買っている事に気付いたのだった。


呪われたテンバールの王族を焚き付けて自分は精霊の味方だと叫んでみれば、自分こそが精霊の敵となっていることに気付いたデュランは、己のしでかした事の大きさを自覚して呆然としている。


「リヒト兄様……」


エレンは何とか落ち着こうと、一度空に向かって大きく顔をのけぞらせた。

目をぱちぱちと何度も瞬かせながら、ぐっと何かをこらえるような仕草をして、リヒトをきちんと見た。


「私がちゃんと言います。言わないといけません」


「…………そう?」


「はい。ただ、無意識に力を使うといけないので……アーク兄様、このまま抱えてもらっててもいいですか?」


「いい、よ!」


エレンに頼られて嬉しかったのか、アークは嬉しそうにエレンをぎゅうぎゅうと抱きしめた。


「むぎゅっ」


「もう兄さんったら。その辺で」


「む、いけない。ごめん、ね」


「……はい、大丈夫です」


エレンは深呼吸するように「ふう」と、大きく息を吐く。

いつも通りのやりとりに救われたエレンは、ばくばくと激しく動いていた自分の心臓が少し落ち着いていることに気付いた。


家族が側にいる。それだけでとても救われた。



エレンは顔だけをエーレに向けると、目があったエーレは怯えきっていたのか、ビクッと毛を逆立てた。

エレンはエーレに改めて話を聞いた。


「あなたのせいとはどういう事?」


『わ、わらわは……』


エーレが唾液をごくんと飲み込んだ音が聞こえてくるほどに、周囲は静まりかえっていた。

真っ向から投げかけてくるエレンと、その周囲の目に怯えながらも、エーレは事の発端を話し出した。





『わらわは……ずっと独りでいるローレが気がかりじゃった……』


昼と夜。対の精霊であるはずなのに、人間から夜という理由だけで忌避されていた妹。


『人間は毛が黒いというだけでローレを忌避した。夜とは昼で疲弊した者を癒やす時間。ローレは癒やしを担っているというのに、人間は見た目と思い込みで、わらわの妹を嫌ったんじゃ』


その傍らで、白い毛を持つエーレを女神の使いだと祭り上げ、引き離されてしまった。


『わらわはローレと対の精霊じゃ。一緒におらねば力は出ん。なのに、それは関係ないという。ただ見た目だけで……あやつらはわらわの妹を……!』


当時の事を思い出しているのだろう。怒りのあまりに耳がイカ耳にまでなって毛が逆立っていた。


『……そんな時に、ローレを可愛がってくれた人間が現れたのじゃ……名をリュールと言った』



ヘルグナー王国の始祖の名前。

同じ名を持つリュールと、そしてデュランが息を飲んだのが分かった。



『月日が流れてローレとリュールが別れた後……一人残されたローレが気がかりで……わらわは天に還ったリュールの魂を、女王様に頼んで呼び寄せたのじゃ』




リュールの転生は、エーレの願いだったのだ。





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