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解放。

エレンは己の内にある力に集中する。


エレンは無意識に制御しまって身体が育っていなかった分、己の力と釣り合いが取れていなかった。

それが原因とは知らず、無理に力を使って何度か倒れた事がある。でも今回は違う。家族が側にいるのだ。


アークが周辺の魔素を操り、エレンの中に流し込んで足りない分の力として補ってくれているのが分かった。


(大丈夫、やれる……!)


エレンは元素を操る力を使っていた時に、気付かなかった事がある。それは、あまりにも当たり前の感覚であったがために、見えていなかったともいえた。


(私は鉱物の情報を何気なしに得る事ができたわ。それは無意識に力を使って情報を読み取っていたということ……)


エレンは特定の波長域を持つ電磁波すら無意識に扱っていたのだ。

恐らく司る属性に関しては精霊にとっては当たり前すぎて、すり抜けてしまうのだろう。


電磁波すら操れるならば、その場の情報すらも得ることが出来るのではないかとエレンは考えた。

人は微弱な電気を生じている。身体を動かすのも、脳が電気的な信号を与えているからだ。

それらは身体の外側にもにじみ出て、見えない電気のベールで全身を包み込んでいる。


(人にも物にも準静電界があるわ。それらの情報を読み取るように、アミエルにまとわりつく呪いを情報として読み取ることが出来るはず)


記録された同胞達の呪いを読み取り、データとして扱い消去するのだ。


(だから母様から私は存在を司ると言われたのね……)


人の記憶さえも弄って消してしまえば、その存在は消えてしまうのと同義だ。

だから人は忘れないようにと、本や石碑といったものに記録を残そうとする。


それは無意識に、消えるという恐怖から逃れようとする行動だった。





アミエルは呪いとほぼ同化してしまっている。つまり、呪いを消せばアミエル自身も無事では済まないだろう。


(浄化なんて、なんて都合のいい言葉……)


それは女神側から見た都合のいい言葉だった。アミエルからしてみれば、エレンは死を司る女神である。


一人の女の子の記憶、そして同胞達の恨みの声を消してしまうという恐怖。

それが解放なのだと言われても、エレンの内心では複雑な思いが消えることはない。


だがこのままではいけない。

呪いは周囲を飲み込み、モンスターテンペストと化してしまう。

デュランの言うとおりこの災厄を退けることになってしまうのが業腹ではあるが、そうも言っていられないほどに事態は深刻化してしまった。


捕らわれたままの彼女達を解放することも、エレンの女神としての役目なのだ。



エレンは決意を込めた目で、キッとアミエルを見据えた。

エレンは力を解放する。それはアミエルを包み込むように、光の粒となって現れた。電磁波が可視化光線となって、光として見えているようだ。



『な、なにを……い、やだ、いや……だ……!』


光の中心からアミエルの声がした。


『ぎえ、る!? いやだ……! ぎえる! わだ、ぐじが、ぎえ……る!!』


「くっ……」


エレンの力を払おうと、アミエルが抵抗している。


エレンはさらに力を解放し、アミエルを包む呪いごと、光の粒子で包み込んだ。




***




記憶を消すには、一度情報を読み取る必要がある。それは同胞達の嘆きの声に始まり、そしてその中心にいたアミエルの記憶へと繋がっていった。



気付けば、エレンは真っ黒に塗りつぶされた闇の中にいた。


(……これは、昔見たことがあるわ)


テンバールの王城で、ガディエルが近づいてきたために呪いが活性化してしまった事件。

あの時に見た、同胞達が泣き叫びながらエレンに向かって助けてと手を伸ばしていた記憶。

映画のワンシーンを見ているような錯覚を起こした。


テンバールの王族を呪い続け、変質してしまった同胞達の魂。

解放されたいと泣き叫んでいた声は、どういうわけか今は聞こえてこない。


『お……おお……めが、み…の、ひが、り……』


微かに聞こえてきた同胞達の声は、エレンの力に引き寄せられるように光に向かって手を伸ばしていた。

闇が形作り、真っ黒な骸骨のような形を作っていた魂達の手が、エレンが発する光を掴もうと必死に伸ばされている。


『……がえり、だ……い…………』


泣いている声に惹かれるかのように、光が闇へと近づいていって包んでいった。

すると、闇は光と一体になったかのように薄れて粒となり、さらさらと消えていく。


『お……おお…………』


光は優しく、淡く、闇を包んで消えていくのが分かった。

渦巻いていた呪いが、どんどんと解かれていくのが分かる。


アミエルを中心に渦巻いていた闇の塊は次々に解かれ、そして最後に残ったものをエレンは見た。




***




ずっとずっと、探していたものがある。


いつも隣にあったはずの母のぬくもりは、いつの間にか冷たいものへと変わっていたのに目を背け、あたたかいのだと自分を偽り続けていた。


そうしたのは、あの憎らしい男で、母もその被害者であって仕方ないのだ。

その周囲にいた者達のせいなのだ。しかたないのだ。自分は悪くない。


あいつらがいたから、憎めば、私は悪くない、ここから抜け出せて、幸せな家族に戻れるのだ……。




手探りで探す遙か幼い頃の記憶。


温かく、包まれていたあの時の記憶。



『おがあ……ざま、ど……こ……?』



『おどうざ、ま、ど…ご……?』



アミエルの魂は、呪いの影響を受けてぼろぼろになっていた。

所々が欠け、小さな塊となってなお、家族を探していて必死に手を伸ばしている。


「どうして……っ」


こんな状況にまでアミエルが追い込まれなければならなかったのか。


アミエルの記憶がエレン流れ込んでくる。

小さかったからこそ家族という世界で、母が全てだったあの時のラフィリアと同じだった。


アギエルの自分勝手な行動を厭い、サウヴェルが糾弾すればするほどアミエルにとって敵として認識されていった。


アギエルからは、これは当たり前で普通だとアギエルから教わっていたせいで、幼いアミエルは判断できなかった。

すり込まれてしまった間違った常識ゆえに、ここまで歪んでしまった。



身勝手な大人の都合で、ここまで来てしまったのだ。




アミエルがロヴェルを「お父様」と呼んでいたのは、小さな頃からそうアギエルにすり込まれていたせいだったと知ったエレンは、涙が止まらなかった。


ロヴェルとオリジンから受け取るエレンへの愛情を、アミエルはただ純粋に家族から欲していたのだと気付いてしまった。


「この子は家族からの愛が欲しかっただけなのに……!!」


それが分かったデュランにつけ込まれ、ここまできてしまった。



エレンは涙が止まらない。

ロヴェル達から受ける愛情を一身に受けたからこそ、アミエルが受けていた仕打ちがつらいと感じてしまう。



同情して哀れむなんて資格はエレンにはないと分かっている。

エレンは乱暴に涙を拭い、アミエルに向かって両手を向ける。


アミエルのつらい記憶と共に、全てを解放しようとした時だった。




『お、が、あ、……ざ、ま……?』




アミエルはそう言って、エレンに手を伸ばした。





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