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家族の援護。

エレンが自ら言った「覚悟」という言葉は、自分に言い聞かせたようなものだった。

覚悟が無ければ大事なものは守れない。女神に言われた言葉を何度も反芻する。

エレンは女神として初めて、アミエルを「浄化」するのだ。


このままだとヘルグナー王国は死の国と化す。

それを防ぐためにも、この場で何としてでもアミエルを浄化しなければならなかった。



しかし、エレンが力を解放しようとした瞬間、突如目の前に見知った人物が現れてエレン達は驚いた。


『このくそ猫が! 我の顔に傷をつけたな!!』


避難したはずのホーゼが怒りに満ちた顔で、何かをぽーんと投げた。

それは空中でくるりと回転して、スタッと地面に降り立った。


「うわあ!」


同じように投げ出されて転がったのは、ガディエルと同じ顔のリュールだった。続いてティオーツ。

ローレ達がホーゼと共に転移してきたのが分かった。


「どうしてここに!」


驚くエレンに気付いたローレが、ハッとした顔をしてエレンに叫んだ。


『姫様! どうか、どうかお止め下され!!』


「え……?」


『我が国を……わらわの国を闇に染めないでたもれ!』


「まさか、ローレ……様?」


呆然としたデュランの声が聞こえる。一向に現れることがなかったローレの姿に驚いているようだった。

ローレもデュランがいるのに気付いたようだが、無視してエレンに懇願した。


『デュランが呪われた者を引き入れてしまったと聞いた。じゃが、じゃがそれはわらわのせいなのじゃ!』


クラハが泣きながら叫んだ言葉で、ローレは自分がどういう立ち位置になっていたのか知った。

自分にはあずかり知れない事だったのかもしれない。しかしローレは目の前がリュールに出会えてしまったことで喜び一色に染まってしまい、守ると約束したのにも関わらずデュラン達を蔑ろにしてしまったのだと気付かされた。

それが回り回って歪んでしまい、こんなことになってしまった。

これは全て、ローレが悪いのだと懇願する。


「もう遅いわ。あの子はもう……帰って来れなくなってしまったもの」


聞こえてきたエレンの声は、とても冷たく感じた。

しかし、エレンの顔を見てその場にいたものは気付く。エレンは涙を堪えながら、とても悲しそうな顔をしていたのだ。

救いたかったと静かに訴えかけてくるその様子に、ローレ達は今になってようやく、エレンが怒っていた本当の意味が違うものだと気付く。

ローレ達が憎しみを向けていたはずの呪われた者の存在こそを、エレンは気にかけていたのだ。


その事に気付いたローレは困惑した。


『姫、さま……? まさか、呪われた者を……?』


「呪われた経緯はあれども、それはあの子のせいじゃないわ。それを利用してあそこまで追い込んだのは貴方達よ! 自分勝手な都合を押しつけて……呪われた王様と貴方達の何が違うというの!!」


モンスターテンペストから国を守ろうとして方法を間違ってしまったテンバールの始祖。

だが、デュランは悪意を持ってアミエルを利用した。こうなってしまったアミエルを、エレンを守って倒れたガディエルを死んで当然だと笑うデュランに嫌悪しかわかない。


怒りの余りに力が逸れたのか、アミエルを拘束していたエレンの魔法が大きな音を立てて弾かれた。


「しまった……!」


慌ててエレンが魔法を発動させるが、精霊の存在に気付いた闇が一直線にローレに手を伸ばす。


『ぎゃあああ!』


ローレが毛を逆立てて叫んだ。ローレの名を叫ぶデュランとリュールの声が聞こえた。


「ぐっ……!!」


「陛下!」


側仕えのオルガスが叫ぶ。ローレを左手で庇い、デュランの右腕に巻き付いた闇の触手をオルガスが急いで剣を振りかぶって切り離すが、デュランの腕に巻き付いて残っていた闇は、そのままデュランを浸食しようと小さな手をぞわりと伸ばしていく。

おぞましいその様子に、ローレが叫んだ。


『デュラン! デュラン!!』


ローレの悲痛の叫びが森に木霊する。


すると、急に新しい精霊の気配がして、白い猫が現れた。


『ローレ!』


『ね、姉様……?』


『急ぐのじゃ! このままではデュランが危ないぞえ!』


ローレの対であるエーレが叫ぶ。

ハッとしたローレは、エーレと共に力を解放した。

二匹の猫はデュランを囲み、ぞわりとぞわりと手を伸ばしていた闇に向かって二匹は毛を逆立てた。

『シャー!』という威嚇と共に二匹の猫が光る。二つの光りはぶわっと広がり、デュランに巻き付いていた闇を一瞬で払った。


『急げ! 逃げるのじゃ!』


闇が巻き付いていた箇所はシュウシュウと音を立てて服が溶け、皮膚までどろりと焼けただれていた。

それを気にも留めず、デュランはローレを左手で抱き込んでアミエルから急いで距離を取った。


エレンはまたアミエルを拘束しようと様々な鉱物で対応するが、どれもアミエルには通じずに弾いていく。

アミエルの声にならない叫びが振動となって大地を震わせる。まるで山鳴りのようだった。


「ぐうう……!」


次から次に魔法を繰り出すが切りが無い。このままだとエレンも力尽きてしまう。


『姫様!』


『助太刀しますぞえ!』


ローレとエーレが光り輝きアミエルの闇を少しでも晴らそうと奮闘するが、アミエルの叫びは地鳴りとなって地震を引き起こした。


『ぎゃっ』


「ローレ!」


リュールが慌ててローレを抱きかかえる。よろけたデュランに気付いたエーレが、デュランの元へと駆けていく。


「貴女は……」


『すまぬ……すまぬのじゃ……ローレがああなってしまったのはわらわのせいなのじゃ……』


エーレは泣きながらデュランを守っていた。

デュランは目の前の白い猫の精霊に困惑している。ふとローレは無事かとその姿を探して、リュールの腕にいるのに気付いた。デュランは腕の痛みと変わらぬ痛みを堪え、ぎりりと歯を噛みしめる。


アミエルの迫り来る触手の数に対応しきれていない。このままでは不毛だ。


(どうしたら……!)


焦りがエレンの顔ににじみ出てしまったその瞬間、どこからかエレンに呼びかけている声があることに気付いた。


――――――エレ……よ、……ぶ……。


(この声は……)


エレンはハッと気付く。オリジンが言っていた言葉を。


双女神が大丈夫だと言った意味を。


エレンは自分の役目だと真正面から受け止めていた。


(違う。私は一人じゃない。家族がいるんだ!)


「アーク兄様!!」


エレンの声に応えるように、ふわりと大きな光りが降り立った。

突然現れた力の存在に気付いたアミエルは、まるで怯えるようにザアアアアッと闇を引いていく。


「やっと……よん、だ。わたしの、ちいさな、女神」


嬉しそうにエレンに笑いかけるアークは、アミエルを見るとスッと目を細めた。

アークはついっとアミエルを指さすと、周囲に満ちていた闇が急にぶるぶると震え出す。


アミエルの抵抗をあざ笑うようにアークが指をくるりと回すと、アミエルの闇がアミエルを中心にしてぎゅるるるるると回り出した。


『ぎゃあああああああああ!!』


アミエルの叫びなのか、高速で回されたことで発せられた音なのか分からない。


(アーク兄様は魔素を止めることはできない……だけど、動きを制御することはできる……)


止められなければ球体状に縮小させて回せばいい。魔素を司る精霊は、その力の矛先など容易に変えられるのだ。


「すごい……」


ホッとしたエレンの呟きが聞こえると、アークがエレンを見てふっと笑った。


「よく……がんばった……」


エレンの頭を撫でてくれるアークの優しさに、エレンは安心して張り詰めていた糸が切れそうになっていた。


「アーク兄様、ありがとうございます……」


周囲の者達はアークとアミエルを呆然と見つめていた。アークの圧倒的な力を目にして動けずにいるようだった。

これ以上邪魔をされては困る。やるなら今だとエレンは気を引き締めた。


キッと目つきを変えてアミエルを見たエレンに気付いたアークは、エレンの後方に回り、エレンの両肩に手を置いた。


「補佐……する。大丈夫、エレン」


「はい!」




呪いに染まってしまった魂を救うのは、今この時。





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