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エレンの成長。

精霊城に戻ってきたロヴェルは、急いでオリジンの元へと向かった。

以前ならば直ぐにオリジンの傍へと転移するのだが、オリジンは今は安定前の大事な時である。驚かせてはならないと、最近では城の大広間から歩いて私室へと向かっていた。

丁度大広間にいたヴィントはロヴェルが帰ってきたのに気付き、慌てながらも呼び止めようとした。


「後にしろ」


「そうではございません! 今オリジン様の元には……」


「オーリ、いるか」


バタンと扉を開けると、そこにはオリジンを挟んで双女神に挟まれてお茶を楽しんでいた。

和やかな風景の筈なのに、ロヴェルは眉間に皺が寄らずにはいられなかった。


「あーら? 義弟が帰ってきたわ。内緒話もここまでかしら」


「とっても嫌そうな顔をしているわ。うふふ、お邪魔しているわね」


にこにこしている双女神に、なぜヴィントが慌てていた理由を知る。


「これはこれは……義姉上達、お久しぶりです」


にっこりと笑ったロヴェルに双女神はくすくすと笑った。


「見て、仮面を被ったわ。相変わらずね」


「本当、変わらないわ」


笑い続けている双女神にロヴェルは溜息がこぼれた。どうしてこんな絶妙な間に彼女達が現れているのか。それに気付き、ロヴェルは一瞬、思考が停止した。


「何故ここに義姉上達が……?」


「あらあら、気付いたわ。やっぱりエレンちゃんの父親だけはあるわね」


「本当に。無駄に鋭いわ」


「どういう意味です? ……オーリ?」


「あなた……困った事になったのよ」


「……それは王家の呪いの話か?」


「あら」


「あらあら」


「なんだ? 違うのか?」


くすくす笑っている双女神にロヴェルは目を細めた。オリジンは今知ったとばかりの顔をして驚いていたので、困った事というのはもしかしたら王家の呪いとは別物かもしれないと気付く。

双女神が訪れていたので、王家との話し合いの場も水鏡で見ていなかったのだろう。


「やっぱり変える事ができるのはエレンちゃんだけだわ」


「そうね。まさか呪いにまで影響するなんて思わなかったけれど」


「……どういう意味です?」


二人の言葉からきな臭い匂いが立ちこめてきたとロヴェルの顔つきが変わる。エレンが関わっているなど聞き捨てならなかった。


「ロヴェル、あなたが聞きたい事は王家の呪いね?」


「それだけでは無くなったようですが」


「そうね」


くすくす笑い続ける双女神に、ロヴェルは嫌な予感しかしなかった。

エレンが何かに巻き込まれるのではないかと気ばかりが焦り出す。


「王家のおぼっちゃんなら自力で呪いを浄化しているのよ。エレンちゃんに関わったお陰でね」


「呪いを自力で浄化だと!?」


「元々、呪いは恨みだったわ。でも今は悲しみの方が強いのよ。恨んでいるのも一方的だと空しくなるの」


「あの王は自分のした事を隠したわ。子孫にもそれらは伝えなかった。呪いの影響は精霊と契約できないというのだけだったから、あの時の王は犯した罪を、精霊の呪いの存在すらも消そうとしたの。自分だけが罪を背負うつもりだったのね。……忘れられた同胞達はそれが赦せなかったから、消えられずに残ってその血に沿って子孫を呪った。そうすることが、自分達を殺した王への罰だと同胞達は気付いていたから」


テンバール王家の呪いの経緯だ。どうしてそれらが今までずっと残ってきたのか。

それがどうして、エレンと関わった事で浄化されそうになっているのか。


「エレンちゃんと関わった事で、王族は呪いの原因を知ったわ」


「だが、どうしてガディエル殿下だけ……」


「玉座に座っている男は呪いを有効活用しようとしたでしょう? あのおぼっちゃんは違ったのよ。エレンちゃんとお話がしたかったの」


ヴァールの言葉にロヴェルの眉間に皺が寄る。ついでに血管も浮き出た様子に、二人は呆れて「心の狭い男ね」と評価を下した。


「どうしてエレンちゃんとお話しできないのか。その原因を真摯に受け止めたのよ。……悲しみくれていた呪いに影響を及ぼすほどにね」


「まさか……それで?」


「同胞達が子孫まで呪った理由は忘れられてしまったからだわ。以前、エレンちゃんが呪いに触れてしまった時に女神の力に触れて覚醒したのかもしれないわね。悲しくて、空しくて……もう解放されたいってずっと救いを求めていたの。だから、エレンちゃんはその気持ちを真っ直ぐ受け止めて同胞達を解放したかった。でも、エレンちゃんはとっても聡い子。精霊としての立場があったから、その気持ちは心に閉じ込めたの」


「でもその気持ちも、きちんと同胞達に伝わっていたのよ。おぼっちゃんを通してね」


双女神の言葉にロヴェルは呆然としていた。予想以上にエレンは呪いに影響していたのだ。

このままではガディエルの呪いは浄化されるだろう。そう思った事が顔に出ていたのか、それとも心を読まれてしまったのか、ヴァールがにっこりと笑って言った。


「おぼっちゃんの魂に結界を施しなさいな」


「……なぜ?」


「このままではおぼっちゃんは周囲の呪いに耐えられなくなるわ」


「どういうことだ」


「呪いは周囲の精霊に影響を及ぼすのを忘れたの? 浄化された同胞達が、今度は周囲の呪いに引き込まれるのよ」


「……それが? 王子と呪いが離れるだけじゃないのか?」


「浄化されると同時におぼっちゃんの魂も無事ではいられないわ。同胞達の元は魔素の塊。人間の魂も、魔素で出来ているのだもの」


絶句してしまっているロヴェルに、全てを見通していたヴァールは言った。


「できるでしょう? 万一の事を考えて、エレンちゃんには既に結界を施して守っているじゃない」


知られているとは思っていたが、腑に落ちないロヴェルは問わずにはいられなかった。


「どうして王子を助ける必要が? この王族は精霊達を虐殺しているんだぞ」


その問いには答えず、双女神はくすくすと笑ったままだった。

胸の内にくすぶった何かが消化されずに残る。双女神の答えは得られない。それは今後の未来に関わる重要な何かで、ロヴェルが知る必要は無いという事であった。


「……王子だけ結界を施しておけば良いのですか?」


「ええ。他の者に浄化の気配はみられないもの。きちんと事実を受け止めた子にはそれなりの褒美は必要ではなくて?」


「……そうですか」


腑に落ちないが仕方が無い。女神がそうだと決めた事に逆らえば、今後何が起こるか分からない。更にエレンも関わっていると知ってしまった以上、断る理由が無かった。

溜息一つを吐いて、ガディエルの呪いの原因は知れたと終止符を打つ。

次の話題に気持ちを切り替えて、ロヴェルはオリジンに問うた。


「呪いの件は分かった。じゃあ話を変えるが……オーリ、困った事とは何だ?」


「あら、わたくし達には聞かないの?」


くすくすと笑い続けている双女神はそのままに、ソファーから立ち上がったオリジンは、ロヴェルの元へと向かった。

二人は抱き合って互いにキスを送ると、オリジンは苦笑しながら言った。


「エレンちゃんの事よ。あの子にやって貰いたい事があるのですって」


「……なんだと?」


訝しげに聞き返すロヴェルに、双女神は笑って言った。


「それはエレンちゃんに直接話すから良いわ。それより問題は別よ。あなたまだ子離れできていないのね」


「誰がエレンと話をさせるものか。……それより、ここでも子離れの事を責められるのですか? 仕方ないでしょう、娘が可愛くて仕方ないのだから」


反省する様子など一切見せずにロヴェルが言うと、先程まで笑っていた双女神達から笑顔が消えた。

これにロヴェルとオリジンが驚く。この二人の様子が一変した事で、先程より嫌な予感がしている。


「大概になさい。お前のせいでエレンちゃんは成長できないのよ」


「な……」


耳を疑った。自分のせいで、エレンが成長できないというのか?


「エレンちゃんの女神の力は、元素から形を成して生物の細胞と力が及ぼす範囲が広がったわ」


「女神の成長と同時に力は覚醒するはずだった。ところが、先に力に目覚めてしまったエレンちゃんは、大好きな父親の言う事を無意識に叶えてしまっているのよ」


「それが……エレンの成長と何が……」


「お前はいつもエレンちゃんに言い聞かせているわね。"ずっとこのままで"、"小さくていい"、"急いで大人にならないで"と」


「そんな……まさか……」


頭から血の気が引いていく。

真っ青になっていくロヴェルに気付いたオリジンは、ロヴェルの頭を優しく抱いた。

エレンの力は、今や細胞を活性化させて小さな傷くらいならば癒やすくらいまでの力があった。

もし、少しずつ、ロヴェルの願いを叶えるように、成長と同じ速度で自身の細胞に力を使って成長を止めていたとしたなら。

エレンの成長が止まってしまっている時期と、女神としての力の覚醒の時期がほぼ同じだという事を思い出して嫌な汗が流れた。


「女神の力の覚醒以前にも既に影響は出ていたの。だから力を使いすぎてエレンちゃんは危ない所までいったわ。どうしてか分かる?」


「器が小さくて力に耐えられなかったからよ。本来だったら、もっと成長しているはずなのに」


双女神の言葉が突き刺さる。更に彼女達は無表情に言い放った。


「このまま成長が止まってしまえば、エレンちゃんは女神の力に耐えられなくて消えてしまうわ」


双女神の言葉が胸に突き刺さり、痛みで目眩がした。




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