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開けた視界。

リュールに宛がわれた部屋へと向かうと、その扉の前では入り口を監視している近衛が一人と、先触れに行かせたトルークが待っていた。

ガディエルの姿に気付き、二人が同時に敬礼をする。その横を通り過ぎ、ガディエルが扉の前へと立つと、近衛が扉の前で連絡を取って外鍵を開けた。そして扉が開かれる。


「ガディエル殿下、どうぞ」


「ああ」


部屋の中に入ると、待機していた他の近衛二名が敬礼をしていた。

リュールがガディエルに気付いて頭を下げた。


「急にすまない」


「いえ……」


少しばかり困惑しながらも、リュールはちらりと部屋の端を見た。そこには毛を逆立てたローレと顔色の悪いテツがいる。


「リュールに何用じゃ!」


「すまない、長居はするつもりはないんだが……少し、リュール殿と話がしたくて」


「……なんでしょう?」


「あーー……いや、その……」


今後はガディエルが部屋で待機している近衛や護衛達をちらりと見て、言いづらそうにしている。

これに首を傾げたリュールは、ガディエルを見た。


「あ、あのな……」


そう言いながら、背後にいた近衛達をシッシと追い払う仕草をした。

護衛の一人はにやにやしており、追い払われる仕草にショックを受けた近衛達の姿にリュールは目を瞬いた。


「あー……エレンと話をしたそうだが……」


エレンの名前の辺りで非常に小声になったガディエルに、リュールはようやく察した。


「あちらで話しましょう」


「リュール!?」


「大丈夫だよ。心配しないで」


慌てるローレを笑顔で宥めてガディエルを部屋の端へと促した。

これに近衛が警戒するが、ガディエルの護衛達が宥めてガディエル達と距離を取ってくれた。これにホッとしたガディエルに、小声でリュールが何が聞きたいんですか? と苦笑しながら言った。


「あ、いや……報告は受けたんだが……」


「俺とエレン様が話した内容は……」


「そ、そうではなくて」


「?」


「……すまぬ。私は心が狭いようだ」


はーーっと深い溜息を吐くガディエルに、リュールは直ぐに何を言いたいのか分かった。これは先程までの自分だ。

ローレが己の姿と魂を通じて、初代王を見ているのだと思い込んで嫉妬していた。ガディエルもそれと同じだった。


テンバールの王族は呪われており、精霊は近づく事が出来ない。

ガディエルはエレンの事を想っているのが伝わってくる。己と同じ顔をした男が、好きな子と近付いて話せるというだけで、自分だったら絶対に嫉妬しているだろう。


「……分かりますよ。さっきの俺もそうだったので」


「何?」


「俺もヘルグナーの初代王と姿形、そして魂が同じだと言われてました。俺を通して別の男を見ているんじゃないかって、疑って嫉妬してたんです」


苦笑しながらリュールがそう言うと、まさしく今の状況と似ていると気付いたガディエルが目を見開いて驚いていた。


「エレン様から違うと教わりました。魂が同じでも俺は俺だと。ちゃんと俺を見てくれているのだと」


そしてこれだけは伝えなければとリュールは笑いながら教えてくれた。


「俺がこの城に迷い込んで殿下と間違えられたとき、一目見て殿下では無いと発言してくれたのがエレン様でした」


この言葉にガディエルは驚いた。なぜ城の中枢にリュールがいるのかと後々聞けば、ガディエルと間違えられていたのが原因だったのだ。

確かに互いの姿を認識した時もお互いが驚いた。双子だと言われても納得できる程に似ていた。思わず陛下の隠し子かと疑ったが、それを一目で見破ったのがエレンだった。

それを聞いてガディエルは嬉しさがじわじわと込み上げてきたのか、だんだんと頬から耳まで嬉しさで染めていく。


「そ、そうか……」


口元に手を当て顔を隠そうと視線を逸らすが、隠し切れていない。

落ち着かないのか、目はきょろきょろと泳いでいた。


「その後はこちらのお姫様の居場所のお話になったので、他の騎士の方々を交えてお話をしておりました」


「う、うむ。報告通りだな。アミエルを見つけてくれたこと感謝する」


「いえ。……う~ん」


「……なんだ、どうした?」


リュールはガディエルをじーーっと見て、何やら意味有り気に言った。


「俺としては殿下を応援したいですね」


「なっ、ど、どどういう意味だ!?」


「あーー……エレン様の周辺は大変そうだなって思いまして……」


「大変!?」


「えーと、お父上と……」


「ロヴェル殿を、ち、義父上とか言うな!!」


即座に激怒して返してくるガディエルにリュールは慌ててすみませんと謝罪する。リュールにそんなつもりなど微塵も無いのだが、ガディエルからしてみればたまったものでは無かった。


「あとはあの護衛の人ですね。エレン様は気付いていないみたいですけど」


「カイか……」


途端、ガディエルが落ち込んだ。

気になって調べたから知っている。カイは父親をヴァンクライフト家の前当主に助けられ、更にエレンにも助けられていた。

下手をすれば家族諸共処罰されても仕方がない。それを救ったエレンに恩を感じているのも理解ができる。

しかし、それだけでは終わらなかった。エレンに助けられた経緯を調べて真っ青になった。なんとこれには陛下が関わっていたというのだ。更に陛下はその直後にラフィリアを出汁にし、完璧に王家はエレンに嫌われていると分かった。

呪いの経緯を知って、謝罪をしようと赴いて無情にも門前払いを食らい続けた理由が今なら分かる。そんな王族など誰も会わせたくなくて当然だろう。


カイの事を調べる経緯で、エレンにどれだけ嫌われているのかを知ったあの時の衝撃は忘れられない。


「少しずつ会えるようになって……この間、ようやく二人で会える機会が作れたというのに、カイはエレンの傍にずっといるんだ」


「はい」


「なのに知っているか!? カイはいつもエレンと手を繋ぐんだぞ!? どういうことなんだ!! 護衛ならもっとわきまえろ!!」


気付けばガディエルは大声で溜まり溜まった不満をリュールにぶちまけていた。

こっそりと話していた筈なのに、今や部屋の隅にいた護衛や近衛、ローレ達にいたるまで呆気にとられている。護衛の一人が、あちゃーと苦笑していた。


「自分だって触れたいのに、なんでお前だけって思って当然ですよ。俺だっていつもなで回したかった!」


「そうだろう!? エレンの瞳を間近に覗き込むと、見たこともない宝石のようで綺麗なのだそうだ。それに自分が映っているのが分かると幸せな気分になるとロヴェル殿が自慢していた。……うらやましい」


最後はどうしても近づけない理由である呪いが枷となっていた。

王族としての咎である証に、ガディエルは文句が言えなくなる。それにリュールは気付いた。


「殿下……貴方は本当に立派だ。俺は責務から逃げ出したんですよ」


「リュール殿……?」


「一族と違う髪と目というだけで、全部諦めたんです。父上と母上は似てもいない俺を疑わずに愛してくれていたのに、俺は兄上に厭まれて当然だと受け入れた……」


「……」


「殺されそうになったのを救ってくれたのがローレとテツでした。こうなって当然なのだと諦めていた俺をずっと二人は励ましてくれて……。王族の自分は死んだことにして、全てから逃げてたんです」


自分の過去と向き合いながら、リュールは言った。


「悲観はしていても、貴方は諦めていない。精霊は必ず応えてくれる。エレン様が仰ってました。精霊は嫌な人には近付かない。大事な人だと思えるのは、魂の本質で伝わるものだと」


「ち、近付かない……?」


エレンはどうだろうか。他の精霊に比べて、エレンは王族と関わりを持ってくれている。これは先程、ロヴェルと話していて気付いた事でもあった。

ガディエルと事業の話に展開した時も、代理を立てて本人は拒絶しても良かったはずだと気付く。

更にエレンは次元の違う場所で、毎年ガディエルの祈りを聞いていたと明かしてくれた。それは何も、毎年聞く義理などないだろう。


エレンはずっとガディエルを拒絶せず、向き合ってくれていたのだ。



そのことにようやく気付き、視界が開けたかのようにガディエルは目を見開いた。


「その様子では、何かに気付いたようですね」


にっこり笑ったリュールに、ガディエルは首まで赤らむのが止められなかった。




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