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ガディエルの呪い。

エレン達が会話をしてから更に数時間が経過した頃、ロヴェルは交互に陛下と殿下の様子を見ていた。

ロヴェルは空間を司る精霊としての力があるので、自分自身に結界を施し、触れられる程に王族に近付く事が出来た。

そこで交互に見ていたからこそ分かったことがある。これにロヴェルは首を傾げた。


(どういうことだ……?)


陛下とは違って、ガディエル殿下の呪いが落ち着くのが早すぎる。

殿下は未だに周辺が黒く渦巻いているというのに、ガディエルは既に薄まっていた。更に王族の中でも呪いの力がとても弱い気がする。

数年前に見かけた時は、これほどでは無かった筈だとロヴェルは眉根を寄せていた。


「うっ……」


ガディエルの苦しそうなうめき声がしたと思ったら、薄らと目を開けていた。

上半身を起こすものの、頭痛がするようで頭を抱えている。


「最悪だとは思いますが、ご気分はどうですか?」


「……ロヴェル殿? ここは……」


自室だと気付いて力が抜けたのか、また身体を横たえた。


「あー……確かに最悪だな……」


「うちの者が申し訳ありません。エレンが狙われていると知って苛立っていたようでして」


棒読みに近い謝罪を受けながらも、ガディエルは当然だと言った。


「精霊は尊い存在なのだから……」


「……」


ガディエルの呟きにロヴェルはじっと見ていた。


「殿下、最近何かありましたか?」


「……何の話だ?」


「精霊に関して、何かありましたか?」


「…………?」


全く心当たりが無いのだろう。眉根を寄せて考え込んでいるが、結局は何も思い当たる事が無いらしい。私が精霊と関われる筈がないだろうと、少し悲しそうに言った。


(では何故殿下だけ……?)


ガディエルが精霊と関われるとしたら、エレンか護衛として付いているヴァンだけだろうと思った瞬間、もしやエレンが何かをしたのかと疑惑が浮かんだ。

だがそんな瞬間など無かったと直ぐに否定する。王族に会うときは、いつも自分が付いていたはずだ。


(そういえば、以前二人で会っていたと……)


自分の目を盗んで、二人がこっそりと会っていたことがあったと思い出し、ロヴェルはふつふつと怒りが沸き起こってきた。


「……ロヴェル殿?」


不穏な空気を感じ取ったのか、恐る恐ると声をかけてくるガディエルがいた。

それに応えるように、ロヴェルはにっこりと笑った。


「殿下、以前娘とこっそりお会いしていたそうで」


「うっ……」


「……その時、娘から何かされましたか?」


「は……?」


何やら思い出したのか、急にボッと顔を赤らめたガディエルに、ロヴェルは殺意が沸き起こった。


「ち、ちがうぞ! そんなことされていないし、していない!!」


慌てて弁解するガディエルに、ロヴェルは黒い殺気を吹き出しながら言った。


「していたらブッ殺ス」


「待て待て待て!! 目が本気だ!! 遠くで少し話をしただけだ!!」


「……本当ですね?」


こくこくと何度も頷くガディエルに、ロヴェルは沸き起こった殺気を何とか押し殺した。

ロヴェルからの殺気が消えたことで、ガディエルは脱力した。


「エレンの家族に手を出して、無理矢理関わろうとするのは止めてくれと言われた。遠くでなら話を聞くからと」


「……」


「我が先祖が精霊に対してあのような行いをしてしまう前に、こうやって話しが出来ていたならば……何か変わっていたのだろうかと問われた」


「話していても、決裂していましたよ」


「……」


ガディエルは驚愕した顔をしてロヴェルを見た。


「人間と精霊は相容れる事が無い。……私はオーリに、女神に慈悲を頂いたのです」


「……そうか」


悲しそうにするものの、エレンとのやり取りを思い出したのか、ガディエルは直ぐに表情を戻した。


「エレンは私達の話を聞いてくれるだけでも、他の精霊と違うのだな」


「…………」


ガディエルの言葉にロヴェルは面白くなさそうな顔をした。

それに気を良くしたのか、ガディエルは嬉しそうに笑った。


「有り難い。エレンに感謝しなければ」


するとどうだろうか。ガディエルを取り巻いていた呪いが揺らめき、ふっと消えたように見えなくなった。

これに驚いたロヴェルは目を見開く。


「……どうしたのだ?」


きょとんとしているガディエルに、直ぐに表情を戻したロヴェルは、いいえ何でもありませんと言いながらも内心で焦っていた。

よくよく見れば呪いが消えたわけでは無いのが分かる。だが、明らかに他の王族と違っていた。


(どういうことだ!?)


エレンに感謝しなければ、と言った瞬間に呪いが消えたように見えた。


(……エレン?)


エレンの存在は、陛下の行動も変えてしまった程に影響力があったのは分かっている。自分の娘ながらに恐ろしいものだと笑っていたが……。


もしかすると、これもそうではないかと思ってしまった。


「どうやら体調はもう宜しいようですね。私は陛下の所へ戻ります」


「あ、ああ。よろしく頼む」


急に話を変えられて、ガディエルは目を瞬くが直ぐに頷いた。

瞬時に転移して消えたロヴェルに、ガディエルは身体の底から緊張からくる溜息を吐いた。

喉が渇いたとベルを鳴らして召し使いを呼び、水をくれとお願いした。

それを待っている間に、護衛の三人と近衛が報告にやってきた。


「殿下、体調は如何でしょうか」


「ああ、少し頭痛は残っているがもう大丈夫だ。心配をかけた」


「いいえ。……ですが、いつ見ても精霊の呪いというものは恐ろしゅうございますな……ご無事で何よりです」


「ああ……。しかし我が先祖の業だ。血を受け継ぐ以上、覚悟せねば」


「ご立派です」


「そうでもない。いつも何故と心の中では叫んでいる。……彼女と話がしたいのに、近付くこともままならない……」


「…………」


ガディエルがエレンと話したがっている事は、誰もが理解していた。

エレンは拒絶して当然なのに、恐る恐るとではあるが、ガディエルと話をしてくれている。

これに非常にガディエルが嬉しそうにするので、傍仕えの者達は微笑ましそうに見守っていたのだ。


「……殿下、あの……ご報告が……」


何やら言い辛そうにする近衛に、どうしたのだとガディエルが問うと、意を決した表情で近衛が口を開いた。


「殿下が倒れられた後、エレン様とリュール様がお話を……」


「なんだと!?」


がばりと起き上がり、慌てて部屋から出て行こうとするガディエルを護衛や近衛達が羽交い締めにしてベッドに押しつけた。


「おい! 離せ!!」


「殿下、最後までお聞き下さい~!」


「倒れて本調子では無いんですよ。そんな青ざめた顔でエレン様に会うつもりですか?」


「ぐっ……」


「ちなみにもう日が暮れてエレン様はお帰りになられました。話し合いは陛下と殿下の体調を見て再開するとの事です」


「…………」


報告する近衛の顔を恨めしそうに見ているガディエルに、気を許している仲である護衛のラーベがにやにやしながら言った。


「安心して下さい。リュール様が気を利かせて、大勢が居る中での話し合いでしたよ」


「当然だ、むしろ他国の王族を絶対に一人にするな!」


「ふふっ、何を話していたかすっごく気になるって顔してますよ?」


「お、お前等……!!」


からかわれていると気付いたガディエルは顔を赤くしながら怒る。


「お話になれらていた内容は、どうもあちら様と精霊の関係みたいです」


「……どういう意味だ?」


「リュール様の魂がヘルグナーの初代王との事でしたが、ご本人様は疑っておられたようでして……。それをエレン様がくみ取って、ご説明為さってました。あの方は本当に聡明でいらっしゃいますね」


「ああ……エレンはな……。陛下が勝てないと仰っていた」


その言葉に傍仕え達は目を見開いて驚いていた。しかし護衛達は実際に目にした事があるせいか、どことなく納得していた。


「それから、アミエル様の居場所を聞き出されておりました。これはサウヴェル殿や近衛長も交えての話し合いです。陛下と殿下が目覚められて、直ぐに動けるようにと」


「……世話をかけた」


「もったいないお言葉です」


お互いに礼をする。しかし報告を聞いても、ガディエルは落ち着かなかった。

その頃に水がやってくる。それを一飲みし、ガディエルはベッドから降りた。


「殿下!?」


「リュール殿と話がしたい」


「あーー……言うと思いましたよ」


頭を掻きながらラーベが苦笑する。お供しますと護衛の三人が付いてきた。


「あ、トルーク。リュール殿に先触れを出してくれ。あの方の傍には精霊がいるだろう?」


「承りました」


まるで転移したように、フッと消えたトルークにラーベはいつも感心する。


「どうやったらあんな移動が出来るようになるんだ……」


「あれの家系は特殊だからな。血だろう」


気を取り直してガディエルは足を踏み出す。

ざわついた心の内は、暫く落ち着きそうになかった。




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