プロローグ
テンバール王国には有名な逸話があった。
モンスターテンペストと呼ばれる魔物の異常発生が200年ぶりに王国の側で起きてしまった。それが10年前の出来事。
王国を守るため、国中で男達が立ち上がる。その中でもテンバール王国騎士団を束ねている侯爵家。団長は侯爵閣下。その息子である長男は17歳と若輩ながらに副隊長補佐をしており、一部隊を束ねていた。
この男は王国の始祖以来と謳われる程に精霊達に愛されていた。
精霊の加護を受けると、その恩恵として魔法を使う事ができる。この精霊達に愛された男は、様々な魔法を使って魔物を駆逐していった。
モンスターテンペストの原因は魔法の基である魔素と呼ばれる物質の異常発生が原因だった。これが一カ所に集結してしまい動物達が狂暴化、高濃度の魔素を体内に取り込み、異常繁殖し魔物が生まれてしまうのだ。
これを吹き飛ばす為、男は精霊王に頼む。
数十万という魔物を魔素と共に一掃した男は、力を使い果たして地に倒れた。
「ロヴェル様ァー!!」
従者の叫び声がする。男の意識は殆ど無かったが、地面に倒れた割に不思議と痛みは無い。
うっすらとした視界の先には、ずっと側にいてくれた精霊王がいた。彼女は倒れたロヴェルをとっさに支えてくれたのだ。
お疲れさまと労るように、愛しそうにロヴェルの髪を撫でる。
男に加護を与えた精霊王である彼女は、四大元素の大精霊のみならず、この世界に存在する全ての精霊を束ねる元始の女王・オリジンであった。
『ロヴェルはこのままだと死んでしまう。わたくしの国へ連れていくわ』
「な、なんですと……」
『回復するまで数年は眠ってしまうでしょう。絶対に死なせない』
女王はそう言葉を残し、ロヴェルに祝福のキスを与え、共に消えていった。
この王国はロヴェルの活躍によってモンスターテンペストから守られた。
英雄となったロヴェルは10年経った今も精霊界から帰ってこない。
ロヴェルの実家は功績を称えられ、陞爵し侯爵から公爵となった。
この王国に住む者達は英雄の無事を祈り、精霊界からの帰還をずっと待っている。