3.ソフィア~
どのくらい時間がたったのだろう。
目が覚めると辺りは暗闇に包まれていた。
(…ここどこだ?)
ユウはゆっくり体を起こし、あたりを見渡す。すると、視界に移る景色は先ほどまでの森とは違い古びた小屋のような場所だった。
なぜか妙に生活感がある小屋の中。テーブルの上にはいくつかの食べ物がおいてあり、飲みかけなのであろうか木製?のコップらしきものも見える。
(誰かの家なのか?)
そんなことを思いながらユウは立ち上がろうとする。
すると、体に痛みが走った。
「いでててて!!!」
何かわからず痛みの走った自分の体に目を向けると、体には包帯?のような布がまかれており、何かをしみこませているのか薬品のようなにおいが鼻をツンっとさした。
(これは…誰かが手当てをしてくれたのか?じゃあやっぱりここは誰かの家?…そういえば気を失う前に誰かの声が聞こえたような。)
ユウがあれこれ考えているとギィィィっとドアを開ける音が聞こえた。
ユウは驚きながらも開いたドアの方に目を向ける。
するとそこには、開いたドアから射す月明かりに照らされながら一人の女の子が入ってきた。
月明かりに照らされキラキラと光る白銀の髪。どこか幼さの残る顔だち。瞳は吸い込まれそうになるほど美しい蒼い色をしている。
ここまでかわいらしい女の子を見たことのないユウはしばらくその少女に見とれていた。
すると、ユウの存在に気づいた少女は一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐにうれしそうに笑みを浮かべ、こちらに向かってきた。
「起きたんだ! よかった~。体はもう平気なの?」
とても気さくに話しかけてくる少女。あまり女生との会話の経験がないユウは焦りながらも必死に言葉を返そうとした。
「あ、えっと、多分大丈夫かな。キミが助けてく…」
言葉の途中、ユウの目にあるものが飛び込んできた。
少女の腰の辺りに見えるもの。例えるなら肉切り包丁の様な刃物。
(なんでこんなものをこの子が…まさか俺を殺そうと…)
いろいろなことが頭をよぎり、ユウはその包丁を凝視したまましばらくの間固まってしまった。
沈黙がその場を包む。少女は俺の顔を見ながら不思議そうな顔をしていたが、俺の目線に気づき、慌てて隠そうとした。
「ご、ごめんね。怖がらせるつもりはなかったの。…でもやっぱりこんなの持ってたら怖いよね…」
そう言う少女の顔はとても悲しそうだった。
何故かユウはこの悲しそうな少女をどうにかして励ましたいっという気持ちに動かされ、言葉を振り絞り、少女に言葉をかけた。
「…えっと、まあ確かに怖かったけどそれで何かをしようって訳じゃないんだよね? それなら俺は別に…」
こんなんでいいのかと思うほど単調な言葉だった。
ユウはすぐにもっといい言葉があっただろ~と自分を責める。
(こんなんじゃ励ませないよな…)
そんなことを思いながらユウは少女の顔を見ると、うっすらと浮かんだ涙を必死に手でふき取りながら「ありがとう」と少女は言っていた。
(…あれでよかったんだ。 ってそんなことどうでもいい。泣いちゃってるぞ!? どうしたらいいんだ? な、なんか拭くものを…なんも持ってねぇ! じゃ、じゃあこの包帯を…ってこれじゃダメか…)
ユウの頭の中は少女の涙で大混乱した。そして結局、最後に至った結論は、
「こ、これで涙を…」
そう言いながら差し出すユウの手には先ほどまでまかれていた包帯が…。
(やらかした~!?!? 混乱しすぎて結局包帯を…)
自分のありえない行動に自分で幻滅するユウ。
しかし、少女の反応はユウの考える反応と違ったものだった。
「…ふっ、ふふふ。それじゃ拭きたくないなぁ。…キミっておもしろいね」
なんともかわいらしい笑顔だった。こんなバカみたいな行動でもしてよかった。
そんなことを思いながらユウは口を開き始めた。
「えっと、そういえば自己紹介まだだったね。俺は神木裕かみきゆう。ユウって呼んでくれ。魔物に襲われてた時助けてくれたのキミだよね? ほんとにありがとう。」
「どーいたしまして。私はソフィア=ユータシアス。私のことはソフィアって呼んでね」
簡単な自己紹介を終えると、お互いに顔を見合わせニコッと笑いあった。
女の子とこんなに親しげに話しているということにユウは感動していた。
しかし、そんな感動はすぐに終わった。
いきなり外からバァンっという大きな音聞こえたかと思うと、突然窓から射す光が明るくなった。
「な、なんだ?」
驚きを隠せないユウとソフィア。しかし、ソフィアは何かに気づいたように急いでドアから外に飛び出した。
何が何だかわからないまま、ユウもソフィアを追うようにして外に出た。
外は異様な光景だった。小屋の前が一面、ものすごい炎で覆われている。
「なんなんだよこれ…?」
一瞬、何が何だか分からなくなったが、すぐに我に返り、ソフィアのほうに視線を向ける。
そこには、先ほどまでの笑みは消え、再び悲しそうな表情を浮かべるソフィアがいた。
「な、なんでこんなこと…」
弱弱しい声で炎に向かい言葉を発するソフィア。
ユウはソフィアの視線の先に顔を向けた。
燃え盛る炎の向こう側に何人かの人影が見え隠れする。
手には農具?のようなものを持っている。きっとこの近くの村人なんだろう。
しかし、なんでそんな人たちがこんなことを?なんということを考えるユウ。
すると何やら声が聞こえる。
「鬼の子は出ていけ!」「この化け物が」「死んでしまえ」
とてもひどい罵倒の数々。この馬頭はソフィアに向けられたものなのだろうか。
ユウは再び、ソフィアに視線を戻す。
そこには目から涙をこぼしながら先ほどとは比べ物にならないくらい悲しそうな顔をするソフィアの姿があった。
「ソ、ソフィア?」
なんと声をかけていいかわからない。
ユウは自分の情けなさをかみしめていた。
するとソフィアはこちらを向き、「ごめんね」という言葉を残し、森の中へと走り出した。
どうしたらいいのかわからない。
だが心の中にはやるべきことがしっかり刻まれていた。
(ソフィアを…追わなきゃ)
そう思った瞬間、ユウはソフィアの向かった方向に走り出した。