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2.妄想と現実~



妄想が現実に…なんてことを考えたがユウはすぐに我に返った。


「いやいや、ありえんだろ。きっと夢だろう。俺の妄想力がすごすぎてついに夢まで見るようになったか。」


そんなことをつぶやきながらユウはおもむろに自分の頬っぺたをつねってみる。


「ほ~ら、やっぱり痛く………いや、スゲー痛いな。」


ユウの頬は真っ赤になっていた。

しかし今のユウにそんなことを気にしている余裕はない。

確かに小説などでも異世界転移なんていうのはよくあるし大好きな部類でもあるが、実際自分がその立場になると不安が次から次へとこみ上げてくる。

全く知らない場所に一人、お金も食料も水もない。そして周りには人のいる気配すらない。

そんな何もかもがない絶望的な状況。この時点でユウは絶望しかけていた。

しかし、自分の命がかかったこの状況だ。簡単に投げだす訳にもいかず、何とか絶望を押しのけた。


「と、とりあえず食料と水だな。こんな森なんだし木の実くらいあるだろう。運がよかったら川もあるかもしれないしな。よし!行くぞ!」


そう言うとユウは立ち上がり、生い茂る木々の中を進み始めた。


とても綺麗な木漏れ日がユウの行く手を照らす。木々が風に揺れザァーっという音を立てる。

(自然は癒されるっていうけどホントかもな。少しだけど落ち着いてきた…)

そんなことを思いながらもユウは森の中を進み続けた。


どのくらい歩いてきただろう。しばらく歩き続けたユウは少し開けた場所に出た。


「ここまでなんもなかったな。ほんとに木の実なんてあんのかな…」


ユウは先ほどの不安が戻ってきたように感じた。


しかし次の瞬間。そんなユウの不安は違う感情にすり替わった。

目の前の森の中から、バキバキっと枝をへし折りながらこちらにゆっくり向かってくる音が聞こえる。

太い枝すらものともせず進んできているのだろう。なんとも恐ろしい力だ。

だんだん近づいてくるその音はユウの不安を恐怖にすり替える。

恐怖で足がすくんで逃げ出せない。

なぜここまで自分は恐怖しているのだろうか。そんなことを考えながらもユウの頭の中にはある答えが出ていた。

俺はこの音の正体を知っている。

なんで気を付けなかったのだろう。これが俺の妄想の中ならこうなることも予想できたはずなのに。

そんな後悔の念を抱いたユウだったが時すでに遅く、バキバキっという大きな音と共に俺の前に現れたもの。そう、それは魔物だ。

全長は二メートル程。太く鋭い牙。そして二足歩行。グルゥゥゥっとうなり声をあげながらこちらをにらみつけている。

その姿は俺の妄想通り、まさしく『オオカミ男』というのがぴったりだ。


ユウの頭の中は怖いという感情で埋め尽くされた。

(怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。)

頭の中でそう連呼し続けるしかなかった。

しかしその恐怖を押しのけ、ユウは生にしがみついた。

どうにかしてこの状況から逃げなきゃ。考えろ。考えろ。

そこまでよくもない頭をフル回転させユウは考える。


しかし、魔物がそんな猶予を与えてくれるはずもなく次の瞬間、魔物は腕を振りかぶりながらすごい速さでユウに向かってきた。

妄想の中のユウなら軽々かわすであろうこの攻撃。

しかし、実際そんなに甘くない。軽々どころか、もはや当たるんじゃないかというレベルでユウは反応し、とっさに横に飛びギリギリ攻撃を回避した。

なんともかっこ悪いよけ方だ。飛んだ後も着地すらできずに地面に体をこすりつけた。

ユウの体のあちこちには地面にこすった時にできたであろう擦り傷があり、その傷から少し血が流れ始める。

その血を見た瞬間、魔物の口から大量の唾液がビチャビチャと垂れ落ち、体中の毛が逆立ち始めた。

その時ユウは悟った。こいつは俺をただの餌としか思っていない。自分の空腹を満たす道具としか思ってないんだ。

(こんなとこで死ぬのかな。こんな恐ろしい魔物に殺されて、食われて。それで終わるのかな。……妄想の俺だったらどうするだろう?まあ簡単にこんな魔物倒すんだろうな。……でももしかしたら俺にも…。」


その瞬間、ユウは覚悟を決めた。ただ黙って殺されるくらいなら、少しでも…。

ユウはおもむろに腰に携えている刀に手をかけゆっくりと抜く。抜き終わった瞬間、腕にズシッと重さが伝わってきた。

こんなに重いものだったんだな。そんなことを思いながらも腕に力を籠め刀を魔物に向かい突き出すように構える。妄想の中の自分と同じように。


しばらくの間、沈黙が流れる。ユウと魔物は向かい合い立っている。刀を持つユウの手は少し震えていた。そして次の瞬間、ビューっと強い風が吹き荒れた。その風に押されるように魔物はユウめがけて再び突っ込んできた。ユウは攻撃しようと刀を振りかぶろうとしたが想像以上の重さにまだ慣れずに、ユウの体はよろめいた。

(やばっ!?)

そのスキを突くようにして魔物は鋭い爪のついた腕をこれでもかと言わんばかりに思いっきり振りかざした。

ユウはよろめきながらも腕に全身全霊の力を込めて刀を魔物と自分の間に入れ身を守ろうとした。

しかし、ここで驚かされたのはこの魔物の腕力だ。

太い枝を簡単にへし折っていたことからかなりの腕力を想像していたのだが、その想像をはるかに超えていた。

簡単に例えるなら、交通事故だ。スピードを落としていない車が正面からぶつかったようなそんなイメージ。とにかくものすごい衝撃だった。

刀を間に入れ爪の攻撃は何とかしのいだものの、衝撃は吸収できずにユウはすごい勢いで吹き飛ばされた。

何度か地面にバウンドしてそのあと木にぶつかり何とか止まった。


意識が朦朧とした。気を抜いたらそのまま意識が飛んでしまいそうだ。体中に今まで味わったことのない痛みが走った。

(何もできなかったな…。まあそりゃそうか。…悔しいな。)

朦朧とする意識の中、そんなことを考えるユウ。

立ち上がろうにももはや体はいうことを聞かない。

(もう…ダメかな)


しかしその瞬間、ユウの耳元で声が聞こえた。


「…大丈夫。よく頑張ったね。」


なんとも美しいきれいな声だった。聞き覚えのないその声になぜかユウは安心を覚え、そのまま気を失った。






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