1.プロローグ~
俺、神木裕は今年、二十歳になった大学二年生。そんな俺は、毎日同じような日常を送っていた。
朝起きたらすぐに準備をして大学に向かう。そして講義を何も考えず聞き流し、終わればすぐに帰り、あとは適当に時間をつぶしご飯を食べ、横になる。
友達と遊ぶなんてことはまずない。
たぶん…いや確実に(ボッチ)という部類に入るのだろう。そこにはあまり触れないでほしい。
そんな俺は毎日を無駄に消化していた。
どんなこともあまり続かない。投げ出してしまう。そんな自分の悪い癖。
そんなことはわかっていたし、治そうとも努力したが、その努力すらも投げ出してしまう。
自分でもわかっている。全くもってダメな奴だ。
そんな俺にも一日に一度だけ楽しみにしていることがある。
それは寝る前に少しだけする『妄想』だ。
しかし、誤解はしないでほしい。確かに変な趣味ではあるが、いかがわしい妄想をするわけではない。
空想の世界を想像し、ダメな自分とは相対する自分をその世界の中で戦わせ、活躍させる。
簡単に言うと厨二病のような楽しみ。
そんな普通の人からしたら「くだらない」っと思うような妄想だが、俺にとっては大切なものなのだ。
そんな俺は今日も妄想に耽る。
きれいな森の中。刀を腰に携えて、妄想の俺は歩く。
この時点でなんとも厨二くさいがそこには触れないでいこう。
生い茂る木々の中をしばらく歩き続けると俺の前に一体の魔物が現れた。
全長二メートルはあろうその魔物は全身が毛で覆われていて、二足歩行。顔は狼のような顔をしている。
簡単に言うならオオカミ男のようなものだ。
魔物はこちらを見ながら「グルゥゥゥ」っとうなり声を上げている。口からは唾液が垂れて、その口の中には、どんなものでも簡単にかみ砕けそうな太く尖った牙が見え隠れしている。
実際に出会ったら何もできないであろうが妄想の中の俺はそんなことでは臆さない。
冷静に魔物と向き合い、ゆっくりと鞘から刀を抜く。
そして魔物に突き出すようにして刀を構えた。
しばらくの間沈黙が続いたがしびれを切らしたように魔物が襲い掛かってきた。
太く大きな腕を振りかざし鋭い爪のついた手を振り回す。
俺はその攻撃を軽々かわす。すると次に魔物は大きく口を開け、太く鋭い牙を俺に突き立てようと向かってくる。
しかし妄想の俺にそんな攻撃が当たるはずもなく、俺はその攻撃も軽々かわす。そして一瞬のスキを突き、俺は魔物に向かい刀を振るった。
お互いに背を向けたまま沈黙が続いた。
ピチャっと俺の刀から魔物のものであろう血がしたたり落ちる。
次の瞬間、ドサッという音と共に魔物はその場に倒れこんだ。
なんとも理不尽な強さだがそこは俺の妄想だ。大目に見てほしい。
そしてそんな妄想に浸りながら俺はいつものように眠りに落ちた。
生い茂る木々が風で揺れる音。鳥たちのさえずり。なんとも心地よい音だ。
俺はそんな音を聞きながら目を覚ました。
(いつもなら車の走る音しか聞こえない。なのに今日は何でこんな音が聞こえるんだ?)
そんな疑問を思いながら俺は眠たい目をこすりながら目を開く。
するとそこにはいつもの風景とは全く違う風景が広がっていた。
周りには木々が生い茂り、その木々の隙間からなんともきれいな太陽の光が漏れている。
何が何だかわからず俺は辺りを見渡す。するとなぜだか見覚えがあるような気がしてきた。
(なんか見覚えが…どこだっけな?)
そんなことを思いながら俺は不意に何かが腰に付いていることに気付く。
俺は何気なく腰に目をやる。その瞬間見覚えのないものが目に入ってきた。
(…刀?え?なんで?…)
混乱する中、俺は一つの答えが頭の中をよぎった。
(…これって俺の妄想が現実に…?)