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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
最後の召喚
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『煙刃』

 許せない! こいつだけは、何があろうと許せない。俺の大切な人を、世界を己が娯楽に使ったこいつだけは、絶対に許せない!


目は限界まで開き、目尻が吊り上げる。頬が震え、唇が切れるほど噛み締める。冷静を取り尽くそうと深呼吸するが、余計に過呼吸気味になる。到底、この男を前に感情を制御することはできない。


 最高点の怒りのまま、『フリースモークモア』を振り回す。先端の球から、黒煙が漏れ、煙の弾丸となって、神と名乗る男へと向かう。これまでのどの一撃よりも殺意を込めて。


「うぅ~ん、同じ日本人、しがないリーマンならわかってくれると思ったんだけどな。はぁ~、仕方ないね。殺そうか」


 さぁ、飲もうか!と変わらないそんな軽い言葉だった。


 神と名乗る男の目が細く、鋭く尖り。化け狐のような不気味さを醸し出した。


「『光闇煙空殺』」


 神の男が呟くと。周辺に黒い煙玉が幾多も出現し、健一から放たれた黒煙の弾丸の前に立ち塞がる。ジュッっと何か焼けるような音、弾丸は煙玉に直撃したが無音が続く。弾丸は何もなかったかのように消滅したようだ。


「その黒煙の本当の名は『光闇煙空殺』、スキルレベル7までは爆炎、8以上は空間をも破壊する爆破となる。俺が所有するスキルの中でも、まぁまぁ、強い方だ。いけ!」


 弾丸を受け止めた黒玉。今度は弾丸を遥かに超える速度で進撃する。瞬時に『フリースモークモア』を横に振り払い、こちらも黒煙を展開させ迎え撃つ。


 黒煙と黒煙がぶつかり合い、互いにブラックホールが飲み込み合う。摩擦音が心臓を刺激し、大地が震え続ける。やがて、互いのブラックホールは消滅し合った。


 パチパチパチ。小さな拍手。怒りの目まま、神と名乗る男を睨むと。薄っぺらい笑みを浮かべ喝采を送っていた。


「いや、いや、俺と互角とは。びっくりしたよ。結構、本気で撃ったぞ。なぁ、考え直さないか。友達がほしいんだよ、神にも」


「お前! いいかげんに――――」


「しろよ!」


 神と名乗る男。真後ろに虹色の光が輝く。漆黒の刃が男の首元に迫る。


「舐めているのか。下界の住人ごときが」


「なっ!」


 刃は首に届いた。しかし、血しぶきは吹かない。黒剣は神と名乗る男の首筋で止まり、そこからびくとも動かない。


「お前は『厄気』。もう、人ではない。『厄気』は正確には『錬術』と呼吸するように召喚された召喚獣。元々、俺が異世界で束縛した魔物。お前は俺にとって奴隷同然だ。ご主人様に暴力を振るえるはずがないだろう」


 肉を打つ、鈍い音が響いた。神と名乗る男の右ストレートがイノアの顎にヒットし、宙に跳ぶ。


「失せろ! ペットが、『白銀矢』」


 宙の飛ぶイノアに左手で狙いを定める。白銀に光る矢が出現し、空間を飛び越え。イノアの胸を突き刺した。


「イノアぁぁぁぁあああああ!!!!!」


 神と名乗る男が話した衝撃の事実。放心状態だったスフラは頬を流れる涙は枯れてしまった。飛び出した、健一も追撃を加えたイノアも指をくわえて眺めていた。その隙、目の前に横たわるイノア。白銀の矢はイノアの腹を突き破り、矢の根本からは黒い塵が空に飛ぶ。


「何を今さら、お前に泣く資格などないだろ。そいつを殺したのはお前なのだから――――」


 イノア、私は、私のしたことは。全部、何もかも意味がない。うんうん、意味がないどころか、私の勝手な願いのせいで。イノアが……、ガルバが……、ルバ兵達が……、レンさんが……、イリリが……。大勢の人が死んだ。


 息が乱れ、頭の中は混沌の渦。美しいルビー色の瞳は淀み、混濁の赤に。スフラはプツンと心の何かが切れる音を聞いた。刹那、視界は灰色に体は抜け殻のように。残る僅かな気力でイノアの手を握った。


「スフラ…………。聞いてくれ。返事は要らない」


 イノアのたどたどしい言葉にゆっくりと頷いた。


「まずは、謝るな。みんな望んでスフラについていったんだ。ケンイチの言う通り、何でもかんでも背負うんじゃない」


「…………はい」


「あと、この悪魔は…………。俺達が倒す」



 イノアが白銀矢で射貫かれたあと、神と名乗る男は追撃を加えようとしたが、黒煙の砲弾がそれを防ぐ。


「ゆるせねぇ! イノアまで!」


 怒りの遠吠えを発し、『フリースモークモア』を振い続ける。黒煙の光線が幾多も輝き、神を殺そうとした。


 神を名乗る男は目を細め、首を傾げる。


「どうして、わからないかな。『白銀結界』」


 薄くきらびやかな光。神々しい光が神と名乗る男を包み。黒煙の光線を受け止めると、一時停止。逆再生のように、黒煙の光線は反射され健一を襲う。


「『ブラックホール』」


 攻撃を跳ね返された瞬間に動きだしていた。黒煙を周囲に展開させ、『ブラックホール』を形成する。黒煙の光線は寸前のところで塵となった。


「力の差はわかっているはずだろ。お前はこの世界と関係ないはずだ。どうして、神の俺に歯向かう?」


 子供が大人に質問するかのような、純粋な声色。心の底から、健一の行動が理解できないのだろう。不機嫌さは歪んだ顔が物語る。


「俺はお前の神経がわけわかんねぇよ。元は日本人だろ。どうして、そんな簡単に人を苦しめ、世界を壊せる!」


「俺は神になったからだ。そうだな、説明を加えるとだな。俺が召喚させた世界はスキルを奪えたんだ。スキルの所有者を殺すことによって」


「なっ!」


「だから、俺は全てのスキルを所有しているといっても過言ではない。神にも等しい力だ。今、この世界現状を見ろ。だれが、世界の運命を決めている?」


 答えの決まりきった問い。神と名乗る男が馬鹿にしたような顔で返事を待つ。


 健一の答えは即決だった。


「スフラだ!!」


 迷いのない、強い眼差しで言い切った。


「はぁ? スフラ? ずっと、俺の傀儡だったバカな女だぞ。世界の運命を俺の思うが儘にした張本人だろ。みなを笑顔にしたい。力と不釣り合いのバカな夢をみたばかりにな」


「それは違う。スフラはお前の傀儡なんかじゃない」


「何言っている。あの女は全部俺のいう通りに動いてくれたぞ。お前を召喚するのも、愛する者を殺してまでな。この世界で一番、馬鹿で哀れな女だ」


「スフラはな。ずっと、ずっと、この世界の人たちのことを考えていた。みんなのことを考えすぎて、自分が見えていなかった。ただ、それだけ。みんなを笑顔にしたい、その願いを叶えるためならどんなことをもする覚悟だったんだ。利用させられたのはお前だよ。自称神さま」


「何わけのわからないことを」


 急激に声が低くなる。


「もう、話はいい。俺がお前を倒して、スフラもこの世界をも救済する」


「やってみろよ。神に成り損ねた、異世界人」


 自称神の目が鋭く尖り彼を包むオーラは増幅する


「『白銀矢』」


 イノアを貫いた白銀の矢。空間を飛び超え、健一の胸を直接射る。


 グッサ、銀色に色めく矢は健一に直撃した。


「お前は驕り過ぎ、攻撃が直接的過ぎる。簡単に防げるぞ」


 口元から血を流しながら、無理やり笑みを作る。


 心臓に狙いを定めた矢、空間を超え絶対命中の一撃だが、予測により心臓を射られることは免れた。左手を咄嗟に胸の前に置き、『白銀矢』を突き刺させたことによって。


「なに、強がりを。次は右手を犠牲にするのか? 『白銀矢』」


 銀色に色めく矢が宙に浮く。


「させねぇよ! 見ろよ。お前が見下していた世界の底力を!」


 健一が手に握っていたのはフェバル。一見、これまでのフェバルと変わらない赤色に染色された一輪の花。自称神は凝視すると眉をひそめた。


「なにをするつもりだ。そのフェバルの血はイノアの者だ。お前が使っても『錬術』は発動しないぞ」


 フェバルは元々、自称神がこの世界にもたらしたもの。一瞥するだけで着色させた血は誰の者なのか判明する。


「だから言っているだろ。お前は神なんかじゃない」


 そう言ってフェバルを『フリースモークモア』にかざす。フェバルは赤き塵となり、『フリースモークモア』を包む。紅色が発光し、天に昇る。残ったのは、白煙と黒い刃だった。


 黒い剣を右手で握る。漆黒の刃から薄くモクモクと白煙が昇る。


「『煙刃』これが俺とイノアの神を倒す力だ!」


 イノアが抱いた疑問が確信に変わったのは、自分が射される少し前。仮説を健一に伝え、自称神に抗える可能性が残るフェバルを託していた。


 健一が『錬術』発動後。傍に空間が捻じれ小さな穴が空いた。眩い白色の光が漏れると、発光は輝きを増し、白銀の矢が心臓目指す。


「ケンイチっ!」


 スフラの絶叫が響く。左手を射られ、右手には剣を握っている。右手で受けても剣もう握れない。それ以前に健一が『白銀矢』に反応できていない。このままでは心臓を撃ち抜かれておしまいだ。


「大丈夫だ。スフラ、心配するな」


 ゆっくりと振り返り、微笑みを作る。スフラに目を見開いた。健一の周りの漂う白い煙。障壁となって、『白銀矢』をガード。まるで、壁に突き刺さったかのように、『白銀矢』は白い煙に止められた。


「なぁ…………」


 スフラと同様に目を見開き、声まで漏れてしまったのは自称神だ。


「なに驚いているんだ。世界の運命はお前が握っていることだろ、自称神さん。これは予想できたか!」


 得意げに語る健一に、自称神は舌打ちをする。


「どうだ。これでお前と同じレベルに立ったってことだ」


「どうし……!」


 今度に確実に声を荒げてします。まずいと思ったのか、口を閉ざし、声を遮ったが。時既に遅く、健一は威嚇するかのように力強く語った。


「『錬術』は願いの力、スフラが『時空剣』でお前の化けの皮を剥がしたのはたしか、でも、その他の攻撃は効かない。だったら、根本的にレベルが足りないのだろう。だから、単純だけど、イノアの分の願いを使った。おそらく、願いが同じなら、どのフェバルでも、誰の血でも『錬術』に反映できる。神をも倒せる力になる。どうだ!」


「ふぅん、ハアハアハア!」


 腰を折り大笑いを浮かべる。健一が戸惑いながら、不気味な神を見据える。いつ、反撃がくるかもわからない。


「それで…………なんだ?」


 笑い終え、体全体の力が脱力した様子。攻撃を防がれたショックや戸惑いなど微塵もない。


「確かに、そのスキルは俺と同等だ。お前達の『錬術』でいうとレベル10を遥かに超えている。その剣で俺を斬れば真っ二つになるだろう」


「で…………。それで勝てるつもりか。『白銀剣』」


 空間から白銀の剣が現れ自称神が握る。眼鏡の奥、視線は健一に移る。瞬間、殺気が飛ばされた。


 なんだ! これ――――。こいつ、こんなに強い奴だったのか! ただ、強力な『錬術』を持っているだけじゃない!


 今までの自称神の戦闘から、異次元の『錬術』により、圧倒的な力の差を見せていた。見方を変えれば、戦闘技術は乏しい。特に近距離戦など、見た目も含め弱いと感じられた。


 自称神が一歩、右足を出したかと思うと、白銀の剣は健一の頭上に。白煙のオートガードにより、振り下ろされた剣は停止するが、電光石火の一撃に白煙の半数は吹き飛ぶ。


 しかし、それはほんの些細なこと。面打ちの軌道だったのだろう。空の雲が綺麗に真っ二つ割れ、大地も裂ける。


 思わず後ろを振り返る。赤い瞳が見返してくれた。スフラは地割れから免れたようだ。


 ひと安心している暇はない。自称神は垂直に剣を振った。


「ぐわっ!」


 健一は血だまりを吐いた。守ってくれていた白煙は今の一撃で吹っ飛んだ。直接的に斬られることは防いだが、斬撃の空圧は内臓を抉った。


「負けねぇ!」


 眩暈に視界がおぼろげになりながらも、剣を振う。


 黒煙で形成させた刃は、真っすぐに振り下ろされると、大爆発を放った。


くっそ! 熱い、肺が焦げそうだ。


 本来は白煙のガードをセットで放たれる技。ただの爆発だが、空間をも燃やす大爆発だ。


 爆炎から逃れるために、後ろへ回避する。しかし、後ろから殺気が放たれた。


 急ぎ振り返ると、自称神が顔に炭を被りながら剣を突き刺す。嗚咽を吐き、表情が歪む。白銀の刃は健一の胸を貫いた。


「ケンイチ!!!!」


 悲鳴は空に響く。


 ケンイチまで、もう、ダメ。もう、終わり…………。


 力が消え、俯く。


 世界が終わってしまう…………。


「俺は……この……世界の救世主に……なる」


 ふらついた思い足取りで健一は自称神に近づく。必然的に胸を貫く刃は深く刺さり、出血量は増す、ドバドバと流れる血だまりは川のように流れる。


「何を死にぞこないが、『万能薬』ならレベルが違い過ぎて回復できないぞ」


「なに……ほざいてやがる……神さん。…………これで……終わりだ」


 震える右腕で自称神の右腕を抑えた。


「何を!」


 明らかに狼狽する自称神。振り払おうとするが、健一の最後の力が阻む。


「スフラ、…………俺ごと、神をやってくれ、結局、任せて悪いな…………」


 健一は血の気が失せた顔で、目一杯の笑顔をつくった。

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