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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
最後の召喚
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悲しき戦い

 刃の波が大地を覆った。天変地異が起こり、紅蓮の花火が上がった数分前。


 ルビー色の瞳と、漆黒の瞳は互いに静止していた。互いに武器を構え、小指一つ動かさないスフラとイノア。淡い桜色の焔が揺らめき、短く吐息を漏らす。『聖火剣』を構え、頭には桃色のベール、『聖衣』を被り美しい顔を覗かせる。攻守とも隙のない『錬術』を装備しているが、いまだに突破口が見当たらない。


 私が、イノアに勝てるの…………。


 先日の一戦、頭に手を差し出されただけで倒れた。それだけではない、過去の幾千で一度もイノアに勝ったことはない。


「わかっているだろ。スフラは俺には勝てないよ」


 スフラの心を読んだかのようにイノアが煽る。低い落ち着いた声、決して相手を挑発する意味はなく単に事実を述べた言いぐさ。救世主であるイノア、これまでに勝敗の読みを外したことはない。


「それでも、私はあなたに勝たなければならないのです!」


 ひび割れた床の裂け目が増す。スフラが意を決して駆け出した。淡い桜色の焔が激しく、揺れる。


 イノアは小さく溜息を着いた。だが、直ぐに瞳に精気が戻り、目の前の相手を倒すべき人物だと心に刻む。傷つけることでしか、愛する人を止められない自分の不甲斐なさを呪いながら。


 構えていた黒刀を前に突き出しながら走る。2人の間合いは既に消えた。


 それは皮肉なことにおめでたい鐘の音に似ていた。かつて、2人が聞いたかのような幸せのベル。甲高く、連続して響く音は神速の剣技の打ち合いの軌跡。だが、桃色の焔が火花のよう、散っていく。それはスフラが押し負けている証でもあった。


 しかし、スフラの顔に焦りの色は見られなかった。


 これでいい。剣技では負けても『聖火剣』は全てを燃やす剣。例え、イノアの刀でも変わらない。


 漆黒の刃の端、鮮やかなピンクの色が混ざる。次第に色は鮮明に、同時に熱を帯び、刃を溶かす。


 やった!


 実質的に近接戦ではこちらが有利、実感を目にして、思わずスフラの顔が緩む。イノアも察知したのか、大きく後ろに下がりながら、『黒刀』を塵へと変えた。


「わかっていないな、スフラ。俺のは『厄気』の技の1つだ」


 そういうと再び『黒刀』を出現させ垂直に払う。『黒刀』の斬撃から黒い球が湧き出る。拳代の大きさに増幅しひた走るスフラを襲う。1つではない、計7つだ。


 くっ――。相変わらず判断が早い。近接戦が不利と見ると、すかさず遠距離戦に変更。それもこっちの接近を許さない攻撃。なら――――!


「『聖火点灯』」


 『聖火剣』を地べたに突き。大きく振り上げる。桜色の火柱が上がり徐々に横にも広がっていく。黒い球の数々を燃やし灰と化した。


 イノアは再び『黒刀』は払った。再び黒い球が今度はピンクの壁へと突き進む。この攻撃であの壁を破れるとはイノアも思っていない。しかし、『聖火剣』の力を削ることができる。少しずつ『聖火剣』の力を奪うつもりだ。


 黒き剣筋が光るたび、『聖火剣』の光は薄れつつあった。


「『虹瞬』」


 虹色の光が輝くこと一瞬、焔ごとイノアの視界から消え失せた。


 姿を見失ったスフラ。イノアは焦らず、首を前後左右に振り、スフラの不意の一撃に警戒するが、脳裏には別の考えが過ぎる。


ここで『虹瞬』を使うのか? 不利な体勢ではなかったはずだが。


 瞬間、虹色の光が視界を遮る。だが、イノアは怯むことなく、『黒刀』を振るう。


 これが『厄気』になった恩恵ともいうべきか、身体能力が一回りほど増加された他に目が良くなった。視力は100m先の蝶の模様が判別できるように、月が隠れた夜でも視界は変わらず快晴、逆に人間では脳天を刺激するかのような強力な光でも蛍の光と変わらない。


 『虹瞬』は瞬間移動という、唯一無二の効果を発揮するが、戦闘において不意の一撃時に発光する虹色の光、強制的に目を閉ざさせる目くらましが肝になっていた。


 だが、化け物の片割れとなったイノアには無効。


 黒き刃の先はスフラの額。瞬間移動したスフラをピタリと読み切り、『厄気』の目を持って、急所に狙いを定めた。


 これで終わりだ。スフラ!


 歯を食いしばり、息を飲む。『黒刀』がスフラを斬るまでコンマ数秒。蘇るのはスフラとのこれまでの記憶。


 なぁ、スフラ。今までのスフラ、全部、神って奴の言いなりだったのか?


 崇拝と恐怖が入り混じったスフラの神への目線。確かに、圧倒的な強さだった。でも、どうして神を倒すことをはなから諦める。


 思考の渦の飲まれたのは一瞬。瞬きをする隙間もないほどの、一滴の気のゆるみ。『黒刀』は強く握られたまま、音のない速度で空を斬る。


 刹那の時間が過ぎ、『黒刀』の一撃がスフラの全身を震わせる。


 はずだった。


「『虹瞬』」


「バカなっ!」


 再び虹色の光が発光した。いや、発光していた。スフラはイノアが『虹瞬』の移動先をピンポイントで読み切り、一太刀を浴びせていくことを読んでいた。その上で、瞬間移動を2回続けて発動させた。


 『虹瞬』は本来、攻撃よりも緊急回避用に使う『錬術』だ。それを攻撃にしかも続けて使うとは、所有している数自体も余りないはずだ。


 いや、そんなことよりも――――。


 次はどこに現れる。


 不意に近い一手。ここはまず背後を警戒するのが得策。と見せかけて、再び正面。いや、選択肢の外にある左右か――――――。


 考えろ! 考えろ! 相手は一番良く知っているスフラだ。


 虹色の光が完全に薄れた。次の瞬間にはまた、虹色の光が現れる意味を成している。


 違う、前でも後ろでも、左右でもない。完全なる意識の外。


「上だっ!」


 結論を導くと反射的に『黒剣』を上に振り上げる。それと同時に虹色の光が頭上に光った。イノアの握る手に確かに肉を刺した感触が伝わる。七色の光の中、鮮やかな血しぶきが舞った。


 取った――――。


 イノアの顔が緩む。両者拮抗する実力の立ち合いではかすり傷でさえ勝負の分かれ目になる。刃で斬ったならば、もう、勝負は明白。早々と戦いを終わらせようと折り返し『黒刀』を走らせる。


「なっ――――」


 思わすイノアは言葉に詰まった。虹色の光から、桜色の明かりが漏れたからである。


「覚悟っ――――!」


 真っすぐ、垂直に振るわれた『聖火剣』。『黒刀』を押しのけ、淡いピンクの焔はイノアを斬った。


 血しぶきが青い空を塗る。それほど勢い良く流血していた。ただ、青を汚すのは、見慣れた赤ではなく、ヘドロのような薄汚れた濃い緑。イノアが人ではないことを再確認させるのには十分であった。


 スフラは思わず、目を背ける。噴き出す化け物の血が、現実を嫌というほど思い知らされる。イノアを化け物にしたのは、スフラ自身だ。


「敵の目の前で油断など、戦場ではありえないぞ」


 声によって、意識が明確に覚醒する。『聖火剣』を振り切ったスフラは隙だらけであったが、本来は傷口から燃え盛る灼熱の焔によって、化け物であったも野垂れ死ぬはずだ。


 まるで、剣術の手ほどきを諭すかのように、どこか厳しくも優しい口調。首筋から腰にまで燃え盛るピンクの焔を気にも留めずイノアは反撃にでる。


 刹那、イノアの左手に黒い霧が纏う。小さな竜巻のように左手を旋回していた黒い霧。次第に霧が濃くなり、左手が漆黒に染まる。


 そして、例の手が完成すると、隙だらけのスフラの頭に手を乗せようとする。


 上空からの不意打ち。スフラは地面に着地した瞬間。とても、避けられる体制ではない。しかも、『聖火剣』は振り下ろされ、刀身は下向き、両手は柄を握ったまま、剣を振り上げる時間はない。


「またですか――――」


 前回の対戦時に受けた攻撃、あの黒い手を頭に乗せられると、意識が遠のき視界が消えた。


 今、まさにあの時の再現のように黒い手がスフラの頭に乗せられた。


「何故だ!」


 そっと乗せられた黒い手。それでもルビーの瞳はイノアを捉えていた。


「ごめんなさい――――」


 桜色の刀身が、イノアの身体を貫いた。口から緑の液体を吐きながら、スフラを見ると頭から被っていたベールが消えてなくなった。


「『聖衣』は自然に身の守る衣ではありません。私の意思で守れる空間を指定できます。でも、一回だけ。あなたの『黒い手』は頭に触れると意識を飛ばす技。触れる前に、見えない壁をつくりました」


 語りながらも、再び『聖火剣』を一振り、二振り。淡い桃色の焔で黒を焼き尽くす。


「もう、やめてくれないか――――」


 虫の息の呟きにブンブンと首を振る。今さら攻撃を止めることはできない。


「そうか、――――」


 イノアの身体は既に業火に包まれていた。揺らめく、桃の焔は酷く綺麗で、スフラが涙を流すのには十分だった。


 これで、終わった。いや、これからが始まり。きっとまた、『厄気』は現れる。大丈夫、また、私が倒せばそれで問題ない。この命、尽きる前に――――。


「もう、手加減できないよ。スフラ、殺したらごめんな」


 重い、重い声。本当に心の底からの謝罪。焔の中から聞こえた。スフラは目を丸くし、次の瞬間、黒い霧と共にピンクの焔を消し去った。


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