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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
最後の召喚
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『異次元空間』

 イリリの叫び声が空の彼方に飛んでいく。


「待ってくれよ。イリリ、お前は本当にそれでいいのか?」


 鬼の形相で、大地を駆け抜ける。レミアンやユタバが驚き、手を取りとめようとするが、イリリの背は遠くに、小さな体がさらに縮まる。


「何を! 王女さまを裏切って、邪魔をして。何で! ケンイチさんまで、兄さんと一緒に敵に回るの。所詮、この世界の人間じゃないからですか! 異世界このことなどどうでもいいと思っているのですか!」


「違う!」


 切実な顔を浮かべ、きっぱり否定する。


「俺は、ただスフラを救いたい。そのためのもう一度、異世界にきた」


 悲壮に、細々い声。目には涙を浮かべ、体が小刻みに震えている。


「なに、戯言を。わかりました。今のケンイチさんは救世主ではなく、世界を滅ぼす悪魔の手先ですね」


「イリリ! 考えてくれ、このままでいいのか、スフラは!」


「問答無用です。『無限刃』」


 白刃が舞う。無数の刃は速度、軌道とも同じものはなく、隙がなく惑わす。


 やっぱり、こうなるのかよ…………。


 下唇を噛み千切るほど、強く噛む。イリリ側に回る。それは今まで仲間だった人と戦うことになる。


覚悟はしたつもりだった。スフラを救うため、これまでの味方と刃を交えることも致し方ない。だが、実際に標的になり、怒りの形相を浮かべられ、攻撃を向けられる。


 胸が裂けそうだ。覚悟なんてできてやしない。そもそも、気持ちしだいで、『厄気』と戦うようにイリリと戦うことなんてできるはずがない…………。


 鋭い刃4本、健一を刺す直前。頭、胸、脇腹、左足、それぞれ寸分狂わず狙い通りに刺さろうとしていることに、イリリの顔がはっとする。健一ならこの程度の攻撃は余裕を持って避けられるはずだ。


 刃が、健一の胸に肉を斬る爽快な音を立てながら突き刺さる。


刃は…………弾かれ飛び散った。


「なっ!」


「でも、やっぱり止めたい。イリリ、覚悟なんてしないけど、俺は俺の願いを叶えるよ」


 右手に持っていた『フリースモーク』を掲げる。健一の目が見開き、鋭い眼光に変わる。


 気配を変えた健一にイリリは唾を飲み込む。身構えて、大きな目を開き、挙動を捕らえる。


 掲げた『フリースモーク』を勢いよく地面に叩きつけた。吹き出した白煙は、3つの球となり発射される。飛び出した煙の1つが空を舞う刃にぶち当たった。


 空が震える。熱風と大音量が届き、視界の多くが火炎に染まる。『フリースモーク』の爆破によって、無数にあった『無限刃』を粉々に粉砕された。


 さらに、2つの煙の球体はイリリに迫る。


『二輪棘鞭』


 緑の蔓。細いが、新緑の色は強さを示す。蔓から伸びる棘々は鋭利に尖り、見るだけで背筋が凍る。2本の鞭が空を蛇行しながら、煙と衝突した。空を張る、撓る音。空を震わす爆発音。


 2追の白煙爆弾はイリリを巻き込むことなく、寸前で爆破した。


「リリちゃん、落ち着いて。3人で戦おう」


 目をギラつかせ、肩を震わせる。今にも獣に食らいつきそうなイリリをそっと肩に手を置きなだめるレミアン。


「そうですよ。相手は救世主、3人でも本来お釣りがでるぐらいです」


 そういったユタバの手にはサファイヤのような弓を構えて矢を引く。弧が限界まで曲がり、軋む音が鳴る。ゆっくりと手を放すと、矢が青空に放たれた。矢の先端、水色の宝石が光を受け止め眩しいほど輝くと蒼く発光した。


 空の彼方まで届いた蒼い光、輝きが収束すると幾多の氷の矢が、氷柱よりも鋭い先端を地面に向け、地の底まで突き刺さろうとするかのように勢いよく落下する。


 標的はもちろん、矢と地面の間にただ済む健一だ。


 視線を上昇させ、氷の矢を見切きろうとするが、舌打ちをした。


 多すぎる、『フリースモーク』で防げるが、後続に対応できるかどうか。あと、9.4秒。後ろを考える余裕はない。


 決断してからは速攻。『フリースモーク』を横に持ち頭上に、右手と左手を器用に入れ替え、くるりと一回転させる。輪っか状に煙は模り、空に浮き上がる。上昇しつつも、輪は強大化し、すぐに健一に降り掛かろうとしている全ての氷の矢が輪っかの内側を通過することになった。


 氷が急速に溶ける音と共に、円盤状に爆破が起こった。


 時限爆弾といい、爆破を防御に使用したり、『フリースモーク』の使い方が増えている。きっと兄さんの言伝ですね。ほんと、敵ってことを考えると元々でも厄介なのに。


 歯ぎしりを立てながら短剣の先を健一に突き出す。


「今度は同時に3方向からです」


「うん! いいよ」


「はい」


 レミアンとユタバが軽く頷く。


 爆破音が止み、煙はまだ空を漂う。救世主であった健一を倒すには、数の理を生かさなければ勝てない。


「『ギガンテス』」


「『棘鉄砲』」


「『氷弾連撃』」


 大木ほどの刃、ヤシの実ほどの実に鋭く生える棘、氷の礫は計5つ。それぞれの渾身の『錬術』が同時に飛びかう。


 すかさず、健一がバックステップと『フリースモーク』を横振りに。ひと時まで、健一が立っていたところに、モクモクと煙が出現する。


 タッ、タッと小さな足音。健一はさらに2、3歩下がると『フリースモーク』を地面に叩き付ける。目の前が業火の景色に。爆破を起こし、『錬術』の数々をやり尽くした。


 残った黒い煙幕はイリリ達と健一の間を遮り、一瞬の間が生まれた。


 煙幕で隠された現実に少し安堵し、空を見上げる。汚れひとつない青空、眩しい太陽。


 異世界も同じ空をしてやがる。こっちの気もしらないで鬱陶しい。


 瞳が焼けるほど、太陽を見つめ決断を下す。


 早く終わらそう――――。


 いつもタバコを取り出すように、ポケットからフェバルを取り出した。そのとき――。黒煙が揺れた。


 煙の揺れから銀色の巨大な刃が覗く。


「『フリースモークモア』」


 白くなった棒を素早く横に振り、黒くなった空洞のある球体から漆黒の煙を撒き散らす。巨大な刃、『ギガンテス』が漆黒の煙に突っ込むと跡形もなく。煙に接触した部分のみが消滅した。


 だが、視界は変わらす煙幕が包む。そこで、健一は『フリースモークモア』を振り上げ、ドス黒い煙を撒き散らす。煙で煙を晴らす。ドス黒い煙は、煙幕を吸うと同時に消えていた。


 黒煙が消えた視界にははっきりと3人が見える。健一は真っすぐに前を見た。


「今度はそんな目隠しか――――」


 クリア色に薄い水色がほんのり染みている巨大な三角錐の氷、まるで氷柱が地面から生えているようだ。1本ではない、いくつもの氷はタケノコ山のように生え渡り白銀の世界へと誘う。


 巨大な氷に邪魔をされイリリ達を見失う。分厚い氷なはただ健一の全身が万華鏡のように映っていた。


 こんなの、また『フリースモークモア』で消したいところだけど、まさか気づいているのか。この『精術』の代償に――――。


 相手は戦友、3対1の劣勢、それでも譲れない戦い。これまでのどの戦いよりも重い、一戦に健一は慎重になっていた。普段よりも思考は深く、ゆえに周りが見えていなかった。


 煌めく氷の影。そこから冷気が漏れていることに気づいていなかった。


 薄いヒビが氷に入り、徐々に裂け目が大きくなった。その刹那、巨大な氷の中からユタバが姿を現し氷の剣を振り上げた。


 間に合わない!


 一直線に振り下ろさせた『氷剣』を半身になって避ける。『氷剣』は空を斬ったが、冷気が空を伝って健一の右肩を凍らせた。


「まだだっ!」


 右肩から痛みが襲い体温を奪う。だが、怯むことなく『フリースモークモア』を薙ぎ払う。先端の白球からドス黒い煙が三日月を形成するとユタバの目の前に。


 とっさにしゃがみ込こんで避けるが、白い球が顔面に迫った。鈍い音、『フリースモークモア』の先端、白い球がユタバの顔にめり込む。ずっしりとした重い衝撃に耐えられるはずもなく、体が後ろに吹っ飛とんだ。


「甘いよ。ケンちゃん」


 後ろから聞こえてきた声に首を曲げる。レミアンが甘い笑顔で、だが、目は狂気に滾る。周囲に風が吹き、妖艶なピンクの髪が揺れる。持っているのは葉っぱ。それも、レミアンの身体ほどの大きさの巨大な葉っぱだ。新緑の季節のような、濃い緑色の葉。包むのは黄緑色のオーラ。薙ぎ払うと強風が吹き、風は旋回を始めると竜巻と化した。


 右肩から伝わる冷気に顔を歪めながら『フリースモークモア』を振るう。先端から漏れる黒い煙は重量感が増し空に漂う。竜巻が黒煙にぶつかるが、風さえも漆黒の煙は飲み込む。


「甘いのはそっちだ」


 『フリースモークモア』を握り直し、声を荒げるとレミアンに突きを加えた。


 やはり甘い、レミアンは心の中で呟いた。先ほど見せた攻撃と全く同じ。それに対処できないレミアンではない。咄嗟に巨大な葉を盾にする。紙を破く、爽快感のある音が鳴る。『フリースモークモア』が葉の盾を突き破り、黒い球がレミアンの顔面に迫っていた。


 しかし、その間に緑の蔓が走った。蔓の表面は鋭利な棘で覆われ『フリースモークモア』ががっちりと捕まえる。新緑の葉はというと夏の終わりのようにひらりと落ちていた。


 レミアンの判断は一瞬だった。『フリースモークモア』が突きのモーションに入った瞬間、葉を手から離し、『棘蔓』を発動させた。


 にんまりと健一の目を覗く。まるで男を弄ぶ痴女のように、舌で口の周りをペロッと舐め回す。


 いくら、ケンちゃんの『精術』が強力でもそれは『フリースモークモア』から発生させる煙の数々。持っている『フリースモークモア』は剣の柄と変わらない。Level3の『棘蔓』でも捕獲は可能。そして、その隙に――――。


「取ったぞ、救世主の首」


 復活したユタバが飛び込みながら、『氷剣』を上段に構えていた。だが、健一の瞳にひとかけらも死期は見えていなかった。代わりに、死んだ魚のような目線をユタバ、レミアンに注ぐ。


「わかっているよ。みんなが強いことは――――」


 小鳥のさえずりのような声で、どうしようもなくやりきれない思いを乗せて発動させた。


「『異次元空間』」


 『フリースモークモア』の先端、空洞が目立つ黒い球から虹色の光が漏れる。光は徐々に眩しくなり、レミアンは目を閉じた。


「なにこれ!」


 次にレミアンが見た光景はまさに異次元。七色の光が全周囲を包み。前も後ろの上下も判別がつかなくなる。内臓が右往左往し、三半規管が混乱する。思わず、どこかに膝を付いた。脳が蒸発しそうなほどの熱が襲い、吐き気も続く。


理性は僅かに残っている。あの虹色の光が、健一の『錬術』だということも。油断はなかった。武器を封じても油断できるような敵ではない。


 いや、武器を封じていると勘違いしていたのが、油断だったのかな。やっぱり、強いなケンちゃん。初めて会ったとき、抱かれてもいいっていったの。冗談じゃなかったよ。別に痴女って訳じゃないの。王女さまと同じ目をしていたから、誰かを救うために命を掛けて戦う目。最後には敵になっちゃたけどかっこよかったよ。


 次第に体から力が抜け、どこかに倒れ込むとゆっくりとレミアンは目を閉じた。


 虹色の光に包まれたレミアン、光はやがて球体に変化してレミアンを閉じ込めた。それを確認すると健一は体を反転させ、飛び込んできたユタバの一撃を躱した。


「何をした!」


 語尾を強くユタバが言い放った。


「『異次元空間』、異次元に相手を閉じ込める。中では感覚の全てを狂わす効果がある。例えイノアでもこの空間からは出られない」


「助ける手段はあるのか」


「そう構えなくても、死ぬことはない。全部終わらせたら解除するつもり――――」


「全部――――」


 眼鏡の奥、普段から冷たい目をしているユタバの瞳が、熱く光る。


「終わらせない。異世界からきた部外者などに終わらせてたまるか!」


「俺を殺して、イノアを殺して、それでどうする。また、『厄気』がこの世界にくる可能性は! 神がこの世界を滅ぼす可能性は!」


「可能性の話だ。今、全ての『厄気』を倒せば敵がいなくなる。窮地に立たされているのは今だ。そのためには『厄気』を倒すために『厄気』を呼び込む『錬術』を使うことは仕方がない」


「仕方がない――――か」


 仕方がない。便利でいい言葉だ。


「わかったよ。お前とはあんまり話したことなかったから、一度話してみたかった。だから、作戦にも付き合った」


 ユタバの眉がピクリと動く。不信感を隠そうともしない。


「なら、言葉に甘えて。『氷侵食』」


 ユタバの言葉と同時。健一の凍った右肩。そこから氷結が伝わる。右腕が氷に侵食され、氷は鎖骨付近に、健一の顔を凍らすのも時間の問題だ。


「『万能薬』」


 左手でポケットから器用に素材とフェバルを取り出す。黒い粒と、赤い花弁。『錬術』を発動させると、黒い光沢が増す。光を確認すると目を瞑りながら、口に運んだ。


 嗚咽と苦々しい顔を浮かべる。何をしたのか、ユタバは理解できなかったが答えはすぐ明かされた。氷と化した右腕が薄い冷気を放ちながら、みるみるうちに解凍し元の腕に戻った。


「今の俺を倒すには瞬殺しかないぞ」


 獣のように睨みつめる健一の目線に、ユタバの背筋に冷や汗が流れた。


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