表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
最後の召喚
76/89

怒りの再会

 強大な山、ホワイトマウンテンをほぼ全てを覆った煙幕は発生数分後。ようやく、快晴の景色が広がる。ようやく、イリリが『無限刃』の高速回転を止めた。


 煙幕を晴らす間、最大限の注意を払いながら探索し、合流した兵士は8人。遭遇した『厄気』は黒騎士が4体。共に、黒い霧の中に隠れていた。爆破のスイッチを押す役目でしょう。数の不利を戦術で補う。兄さんらしい。


「無理はしなくていいですよ。っていっても無駄ですか」


「「ええ」」


 8人の兵士達はそれぞれ頷く。


 イリリが見つけた8人の兵士。いずれも軍服は焼け焦げてボロボロ、肌も火傷のあとが残り、顔も炭で汚れている。体は満身創痍、これが普通の戦ならすぐにでも撤退し、手当を受けるだろう。だが、兵士達の目は戦士の煌めきを失っていない。全てを聞き、受け入れ、この戦が世界の命運を握っていることを十分に理解している。命ある限り、盾にでもなる所存だ。そんな覚悟のある兵士達を無理やり帰すなどイリリにはできなかった。


 それにしても、この爆破の威力はやはり――――。


「イリリ隊長! あれを!」


 兵士の1人が焦りながら、右手を指さした。


「まだ、いましたか――――」


 イリリの眼光が増す。消えかけの煙幕から、巨大な影が伸びる。白い甲冑に、白銀の大剣、不気味な赤い光は頭部から明かりを灯す。


「白騎士!」


 ヤバい! どうしますこの状況。『刀化』ならばおそらく倒せるでしょう。でも、その後私は動けなくなる。この場の指揮などできない。それに、私の推測通り、あの人が敵にいるなら――――。



 いえ、どうしてあの人が王女さまに敵対するのですか! 好きだといっていたはずなのに。


 イリリの胸に鉛玉を撃たれたような衝撃が走った。


 好きなら、兄さんも同じでしたか――――。 何故ですか。どうして彼らは――――。


「イリリ隊長!」


 後方からの声に、意識が前に集中する。白騎士が大剣を振り上げ、大きなスライドで接近していた。巨大な大剣のリーチ内には十分。振り下ろさせた大剣はイリリの小さな体を切り刻む寸前。


 地響きが起こった。イリリはよろけながらも、寸前に半身で躱し、後ろに距離を取る。


「助かりました。もう少しで危ないところでしたよ」


 礼の言葉を述べながらも視線は白騎士に、今は兵士の目を見てお礼をする時間はない。


「『ギガンテス』」


 巨大化した白刃が白騎士の脇腹目がけ振るわれた。巨大な鐘の音のような音が響く。『ギガンテス』と引き戻した大剣が重なり合い大音量の金属音が鳴り響く。


 これでいい。今は多勢、無理に私1人で戦う必要はない。助けを待てばいい。


「やぁっあああ!」


 叫びながら、『ギガンテス』を振り払った。大地を刺激する甲高い音。激突する2本の巨刀は、鍔迫り合いを回避し互いに退く。再度の激突、揺れる大地、空を響く金属音、弾ける火花。


 Level8、門番クラスの『厄気』白騎士に対しイリリは一歩も引くこともなく、互角に渡り合っていた。


 力が同じ?


 打ち合いの刹那、イリリが背に悪寒が走る。自分の力はよく理解している。自分がいかに、スフラの役に立たないのかを。命を投げ捨てなければ、level8を倒すことは困難だということを。


 何故――――? 白騎士に時間を煩わせる意味なんて、一体何を考えているの? 


 眉間に皺を寄せながらも、『ギガンテス』を振う。大剣と大剣が重なりはじけ合う。その一瞬の間を利用し、イリリの思考は更に加速する。


 兄さんの策はわからない。ですが、この策は王女様を裏切った、兄さんが読めるはずがない。だったら、優勢なのはこちらです。


 幾多も鳴り続ける甲高い音は、ホワイトマウンテン全体を包んだだろう。イリリは内心ンほくそ笑んでいた。


 残りの兵士はとびきり優秀な兵ばかりですから。


「『天空衝弓矢』」


 イリリと白騎士から北の方角、ホワイトマウンテンの5合目付近。空を巻き込み、震わせ、蒼く光る矢が一線に飛んできた。矢は周囲の空間を巻き込み続け、骨に響く振動は重さを増す。


 突如として、射られた矢に白騎士は反応できず。厚いガラスが何枚も割れたような音がイリリの耳朶をつく。


 蒼い矢は大剣に刺さり、蒼い光が暴発すると白い破片が飛び散った。


 赤い光が左右する。狼狽しているようすだった。突然の死角からの攻撃、しかも、武器である大剣を壊された。無理もないだろう。


 だが、隙を与えていい相手ではない。


「『無限刃』」


 一瞬の隙を見逃さず、無数の刃が花開く。咲いた刃は空に舞い、白騎士に向かい飛び散った。


 幼いころから、天賦の武術の才を持っていたイノアと共に訓練を積んでいた。自分が特別な人間ではないことは誰よりも自分がよくわかっていた。


 悪く言えば、自己肯定が低い。よく言えば、自分を客観視ができる。自分の能力では何ができるか正確に把握していた。そして、天才ではないからこそ。独りよがりにならず、仲間を信頼して戦況を預けることもできた。


 白騎士に向かって飛び散った無数の刃は、甲冑の隙間に入り込む。構造は人の者と同じであることは、これまで何度も戦った黒騎士から想定できる。


 ギシギシとした嫌な音。白騎士が必死に刃をへし折ろうとしている証拠だろう。所詮level6の『錬術』。それも広範囲に展開できるタイプ。白騎士の身動きを封じるのはほんの一瞬だろう。


 でも、それで十分だとイリリは考えていた。いや、信用していた。全てを知り、王女さまと共にかつての救世主である兄と戦う決意を決めてくれた仲間に。


「みな、一斉攻撃です!」


 白騎士とイリリの周囲、幾多の兵士は白騎士の遠方から円状に囲っていた。イリリの掛け声と共に、『錬術』がさく裂する。紅蓮の砲弾、雷撃の矢、氷礫の嵐。『錬術』のlevelは8以下、6、7辺りだろう。だが、目を覆いたくなるほどの連撃は、巨体の白騎士が隠されるほどであった。


「リリちゃん、無事だった!」


 遠方からレミアンがやってきた。後ろにいる連れはユタバ。2人一組で隊長同士が組むことは、他の組みの実力を下げることになるが。脅威となる敵は少数。なら、一か所に戦力を集中させ、その隊の生存率を優先する作戦だ。


 残りの黒騎士などに遅れを取る2人ではなかった。軍服にも特に目立った汚れは見立たず、涼しい顔をしている。


「そちらこそ、ご無事でなりよりです」


「それにしても、白騎士が生き残っていましたか。迂闊でしたね」


 ズレた眼鏡を人差し指で直しながら、澄ました顔を覗かせるユタバ。


 『錬術』の雨嵐が収まった。それと同時に黒い粒が空に舞い上がる。囲まれた白騎士は兵士達の猛攻により消滅した。


「リリちゃんがでっかい音で知らせてくれたからだよ。みんな直ぐに集まったから」


 イリリが通じない『ギガンテス』で白騎士と戦っていたのは、音で位置を知らせるためであった。幾度と響く金属音は、視界がおぼつかない広大なホワイトマウンテンで唯一の道しるべ。それも、警報音をイリリが知らせることはそれなりの敵がいることを理解していた。


「でも、総司令官ではありませんでしたね」


「こら! 眼鏡、空気を読みなさい。今は白騎士をやっつけたからそれでいいでしょ!」


「気にしないでください。今回の敵は兄さんで間違いないですから」


 レミアンとユタバがいい争いになりそうになるがイリリが止める。


「まだまだ、油断はできません。それに、先ほどの煙幕はおそらく――――」


「ケンイチさんか――――。もし、本当にまたこの世界に召喚させたのなら総司令官が召喚したことになる。しかし、理解ができない。今までは王女さまのために働いてきたというのに手のひら返しだ」


「うん、ひどいね。ケンちゃん。うん? そうだ! 王女さまは?」


「この煙幕から全体を見渡すために、頂上に移動しました」


「それは!」


 ユタバの眼光が鋭く、レミアンの口はあんぐりと開く。


「危険なのは承知です。ですが、王女さまも覚悟の上でした」


 奥歯で苦味を噛むような顔に2人はそれ以上の追及はしなかった。


「結果的に隊はほぼ合流している。俺達も急いで頂上を目指そう」


「ええ」


 イリリが返答し、レミアンが頷く。イリリは周囲を見渡し兵達の状況を確認する。煙幕は少し晴れ、日光が射す。イリリ達が中央の点、綺麗に兵士達は円形に並び、少しばかりの休憩を取る。相手はlevel8の白騎士。みな自分の限界を超えて『錬術』を発動していた。


「縦に隊列を変更します。先頭が私、最後尾にユタバ、真ん中にレミアン。呼吸を整えしだい急速に並びなさい」


 覇気のある声に次々と負けないように返事を返し、呼吸を乱しながらも列を整えようと兵士達は移動を始めた。


 そのときだった――――。


「相変わらず、うるさい声だな。イリリ」


 思わず振り返った。ホワイトマウンテンの麓。グレーの服装は初めて会ったときと同じ汚れた作業服、口元には小さな棒を加え、先端が燃えている。昇る煙は彼の象徴。


「ケンイ――――」


「『インセクトハウス・バージョンサークル』」


 イリリの叫び声を遮り、健一が『錬術』を発動させる。緑色の柵は兵士達の両脇から伸び上がり、天井で結ぶ。円形に展開された柵は兵士達を一斉に閉じ込める檻となった。


「久しぶりだな、イリリ」


 薄っすらと笑みをつくり、まるで友と久しぶりに会うかのように自然に歩いていく。


 しばらくは頭が追いつかなかったイリリだが。状況が飲み込めると荒れ狂いながら奇声を叫び、走りながら短剣を取り出した。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ