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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
過去への召喚
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過去㉒

 けだましい音が王城全体に響いていた。音源は螺旋階段から、ステフとイリリが階段を爆走している。音が王城全体に響いているのは行く先々の扉という扉を開けたままにしているため。扉を閉める、今はそんな時間さえ惜しい。


「この先に兄さんが……」


 スフラの背を追いかけるイリリは呟くような声を出した。


「おそらく、他の部屋からは禍々しいオーラは感じられません。イノアがこのオーラに気づかないわけはないですから、急ぎましょう」


「『厄気』ですよね。このオーラ、黒龍とかですか?」


 これまでも幾度か『厄気』との戦闘経験があるイリリだが、これほどオーラは桁違い、階段の一歩一歩が重く、内臓を握られている感覚。少し気が緩めば体は地べたにへばりつき嘔吐で床が汚れるだろう。


これまでの報告で1番危険視されているのが、ホワイトマウンテンに突如として現れた最初の『厄気』黒龍。イリリの見解では黒龍がもう1匹現れたということだったが。


「いえ、違います。まず、黒龍では王城に収まりきりません」


「そうかもしれませんが、サイズが小さい黒龍の可能性はありませんか?」


「いえ、ないでしょう。『厄気』のサイズはほぼ同じです」


「なら、新種ですか…………。これほどのオーラを持った『厄気』、兄さんでも―――――」


「早く昇りましょう。でなければ、イノアが悪魔に…………」


 イリリの声を遮り、駆け上がるスピードを上げる。2段飛ばしだったのが、3段飛ばしにギアを上げてこなす。超人的な脚力とバランス感覚がなせる技だ。イリリもスフラと同じように3段飛ばしで駆けあがる。邪悪なオーラの源、謁見の間まで9段、あと3歩と迫っていた。


 扉には少しの隙間が空いていた。漏れる光と中なら漂う闇のオーラが脳を混乱させる。


スフラが躊躇することなく、ドアノブに手をかけ扉は完全に開かれる。


「兄さん!!」


 イリリが絶叫と同時に駆けだした。


 謁見の間のど真ん中、まるで眠っているかのようにピクリとも動かずに俯けで倒れているイノア。


「兄さんっ! 兄さんっ!」


 叫びから必死に体を揺するイリリ、しかし、イノアが反応する気配はない。イリリの泣き声が増すばかりであった。


「あなたが、イノアを倒したのですか…………」


 スフラの声は驚くほど冷たい。冷酷無比な声は王座で胡坐をかく黒き人物に凍てつく視線を送った。


「こうして会うのは初めてだな、語り人よ」


 自称神の声は2人の頭に響く。イリリがぱっと顔を上げた。どうやら、イノアが倒れていた衝撃で黒き人物の存在に気づいていなかった。


 イリリの目が大きく広がり、途端に吊り上がる。怒りの形相を浮かべ立ち上がった。


「お前が兄さんを殺したのかっ!!」


 目に涙を浮かべて、駆けだす。腰に掛けた短剣を素早く抜き、胸ポケットにしまったフェバルをかざす。


「『無限刃』


 短剣から次々と生える刃、短剣から離れると鋭利な先端を自称神に向け放出される。空を斬る、無数の刃はまるで横殴りの雨のように鋭く、勢いよく、逃げ場なく襲う。


「イリリ、ダメっ――――!」


 なおもイリリは表情を変わらず、刃を発射させ続ける。スフラの声はまるで届いていない。さらに、腰からもう1本、今度は剣を取り出し『錬術』を発動されようとしていた。


 目の前の敵、あの兄を倒した『厄気』、刃の猛攻だけでは到底倒せないと推測したのだろう。ならば、すぐさま追撃を加える考えだ。


 剣の刀身は長さも幅も数倍の大きさ、大木の幹よりも太く大きくなり。イリリの小さな身体と比較すると不自然さを感じさせる。自分の丈の何倍もある剣を握っているのだ。


「『ギガンテス』」


 野生の獣のような声とともに、『ギガンテス』を持ち上げる。その間に無数の刃が自称神に届いたのだが……。


「チッ! これならどうだ!」


 イリリの顔がより険しくなる。自称神を襲った無数の刃はそこに何もなかったかのように通過した。そのまま、奥の壁に突き刺さるナイフからも、血のあとも汚れすらない。


 今度は巨大な刃が降り注いだ。イリリが振り上げた『ギガンテス』を勢いよく振り落とされ、轟音と揺れが起きる。


「イリリやめなさい!」


 まだ止まない振動のなか、イリリの傍までスフラが駆け寄った。


「大丈夫です王女さま、これで奴も無事では――――」


「話の邪魔だ。ただの人はすこし黙っておこうか」


 頭の中で語りかけてくる声。イリリはピクリと顔を上げたあと、目つきを鋭くし、声の主を探そうと首を左右に振る。


「やめてください。この子は関係のないはずです」


「いいのか、語り人であることは今まで必死に隠していたのではないか? 親にも最愛の人にも」


「構いません……」


 そこでようやくイリリはスフラが誰と話しているのか確認できた。イリリのかなり後ろ。スフラはイリリに背を向けていた。そいつは入り口の大扉にもたれながら赤い眼を輝かせていた。


「王女さま! 何を話しているのですか! そんな状況ではありません、そいつは兄さまを―――。早く2人掛かりで倒すべきです!」


 スフラはゆっくりとイリリに視線を移すと、儚げな表情を浮かべて首を振った。


「私達では、いえ、人間にはそいつは倒せません」


「どういう……」


「我はこの世界の創造主、貴方達の概念に当てはめるのならば神だ」


「はっ――!」


 顔を歪め、困惑と軽蔑が入り混じったそんな顔でスフラに助けを求める。この頭のおかしいやつは誰だと。だが、スフラの顔は至って真面目で、全てを悟ったかのような目をしていた。


「イリリ、そいつのいっていることは本当です。まずは剣を納めてください」


 顔をしかめながら、渋々剣を鞘に収めると。神という人物を睨みつける。イリリにとってみれば、神だろうが創造主だろうが兄を傷ついた人物に変わりない。


「話とは何ですか? 手短にお願いします。殺すつもりがないのはわかっていますが、手当が遅れると今後に支障が起きる可能性がありますので」


 スフラの抑揚のない、平坦な声は以外なほど謁見の間に響き渡った。


「我のなかで解は出た。この世界は失敗作だ。無に帰さなければならない」


「何をっ――――!」


 頭の中に響く声に瞬時に反応し声を荒げる。イリリは怒りを越え、泣き出しそうだった。


「失敗作だという理由を聞かせて貰えますか? 私は語り人として最良を選択したつもりです。世界中の人々を笑顔にするために」


「それが傲慢だ。それならもう一人の語り人のように、永遠に生き世界を見続ける判断が正しかった。最後は世界の邪悪に耐え切れず自ら命を捨てたがな」


「だから、さっきから何を!」


 2人の意味不明な対話に耐え切れず、口を挟んだ。


「私は語り人として神の啓示を受けていました。これまでの出来事は事前に知っていました」


「知っていた?」


 涙目のイリリ、頬から流れる涙をスフラは優しく拭った。


「ええ、父が絶大な力を以て大陸を制圧していくことも、イノアが天賦の才があることも、私はそれについていくだけでいいと思っていました」


 スフラは初め王女として、徹底的に英才教育を施されたが武術は教わっていない。バル国の王の血を引く唯一子ということ、何より、女の子ということもあり戦場に出る必要はない。ズブラ王も含め、大人の総意であった。しかし、スフラは忙しい勉強の合間を抜け、兵士の宿舎に足を運んでいた。兵士達も気分転換にと遊びに付き合っていた。「何して遊ぶ?」1人の兵が尋ねると、スフラは倉庫から木刀を取り出した。兵士は目を丸くしたが、「チャンバラごっこ」とスフラが笑顔でいうと微笑みながら付き合った。そして、いつの間にか、チャンバラごっこでスフラに勝てる兵士はいなくなった。


「始めは3歳の頃、この頭の中で響く声は何なのか。お化け?何て考えていました。対話というより、こちらの質問に稀に答えるだけ。最低限の意思疎通は可能になりました。そこで声の主が神であること、私が神の啓示に選ばれた人間であると告げられました」


「貴方の運命はこの世界を操れる。それが我が貴方を選んだ理由だ。そして、決断すると決めていた。人間の生存価値を――」


「間違ってなんかいない!」


 スフラは泣いていた。涙がとめどなく流れ、頬は震えている。割れんばかりの叫び声はどこか虚しく響き渡った。


「私はただ、みんなを笑顔にしたかった。そのために強くなった。これまでの人を犠牲にしても、これからの人を笑顔にするため」


「それなら何故、『錬術』に手を差し出した? 語り人である貴方は知っているはずだ。あれはパンドラの箱だと」


「パンドラの箱? 何のこと? 『錬術』のおかげで大勝できて、大陸統一を果たせた」


「哀れな女だ、疑問に思わなかったのか? そんな強大な力が無償で手に入るなど虫が良すぎないか?」


「どういうこと?」


 イリリの目は険しく、自称神を睨み付け、一呼吸置くと。眉を吊り上げ、目を開き、信じられないといったようすでスフラに顔を向けた。


「『錬術』に何かのリスクがあるとすれば、『錬術』を使用してからの変化に注目すべきです。そんなの…………ひとつだけ!!」


「勘が鋭いな、流石は特異点の妹だ。そのとおり、『錬術』により、『厄気』がこの世界にやってくる。お前達の身勝手に力を求め過ぎた結果だ」


「そんな! そんなことわからない、誰も知らなかった…………。はずですよね! 王女さま!」


 嘆願に近い叫びがステフの耳を痛いほどつく。ぎゅっと唇を結んだあと吐息のような声で。


「ごめんさい」


 と呟いた。


「でも、こうしないと大勢が死んだ。まだまだ戦争は終わらなかった。また、人と人が殺し合う。みんなが笑える日はいつくるの!! イノアがいれば、私がいれば、みんながいれば、どんな敵だって倒せる。ましてや、今度の相手は化け物、もう、人を殺さずに済むんだよ!」


「王女さま――――」


「ごめんね……。イリリ、ずっと黙っていて」


 潤んでいる瞳から涙が止まった。全てを打ち明けたスフラ、後悔はない。今まで親にさえ離さなかった秘密を打ち明け、晴れ晴れとした感情が包むが、一瞬にして、曇り空に変わる。語り人として、全てを自分一人で抱え込んだ。世界の運命を自分一人で判断したのだ。でも、それは信念があってのこと。でも、それは他人からは身勝手なこと。


 確かに傲慢だね、私は――だめだな、何で私なんかが語り人なの。お父さまや、イノアならきっとうまくやっていた。


「王女さま、やっぱりあなたは凄い人です!」


 伏し目がちなっていた顔がビクンと反応した。罵倒、失望、拒絶、頭を過ぎるのはそんな想像ばかりだった。


「えっ――」


 見上げるとさらに混乱する。イリリの表情は太陽のように満面の笑みでステフを眩しいほど照らした。


「世界の運命を握りながら戦うなんて他の誰もできません。兄さんも含めてです。きっと、ルバ王みたいに逃げ出して傍観するだけでしょう。自信を持ってください。王女さまは正しい選択をしています。みんなが笑顔になる運命に導いています」


「イリリ――――」


「茶番はそこまでだ。本題に移ろう」


 すっと、鋭い視線が2つ、神を凝視する。


「王女さま、神を倒す方法はありませんか? みすみすこの世界を消される筋合いはないです!」


「そう焦るな、特異点の妹よ。まだ、話は終わっていない」


 特異点? これまで聞いたことがない。イノアのことを指しているみたいだけど――――。


 すると、自称神はスフラの疑問を察したのか、はたまた、予知していたのか。頭に声が流れる。


「特異点、この称号の意味はこの世界で我に影響を及ぼせた人物を指す。さすが、語り人が愛した人だ。こいつはなかなかおもしろい」


 そういいながら、地べたに倒れているイリリに黒い球体の手を指す。


 2人の視線が一層鋭くなることなど1ミリも気にする素振りはなく、再び頭に声が流れる。


「その特異点に免じて、もう一度チャンスをやろう」


「チャンス?」


「ああ、全ての『厄気』を滅びしたら、お前達の勝ち。正し、『錬術』と『厄気』は循環関係にあり、お前達は『厄気』を倒す頭数が少ない。そこで、『厄気』に対応できる『錬術』を教えてやる」


 スフラに疑問の波が押し寄せる。本当だろうか? いや、今までも啓示は実際に起こった。


「その『錬術』を習得すれば『厄気』を全て倒せるのですか?」


「さぁな、それはお前達次第だ。まず、『厄気』を倒すのはお前ではない」


「どういうこと?」


 『厄気』を倒す『錬術』を教えてやるといっているのに、『厄気』を倒すのはステフではないという矛盾。


「教えてやる『錬術』の効果は異世界召喚、異世界から『錬術』の才に恵まれた奴を召喚させる『錬術』だ。期限はあるがな」


「そんなことが、他の世界の人にこの世界の命運を託せというのですか?」


 ステフは言葉を強く言い返すが。


「いいのか、今すぐ世界が滅んでも」


 喉が潰れ、臓器が圧迫される。今すぐ死んだほうが楽になれる。それほどの殺気。この場にいるのがスフラとイリリだからこの程度で済んでいる。一般兵では圧に耐え切れず、自傷行為に走っているだろう。


「わかりました」


 スフラはゆっくりと頷いた。自称神の圧に負け、思考が正常ではなかったのかもしれない。この時、軽率に頷いたことを永遠に後悔することになる。


「ならば、教えよう。と言っても、『錬術』の効果自体は説明した。あとは媒体だけだが、世界を救う『錬術』だ。媒体もそれなりのものになるのは覚悟しなければならない。spれは、語り人の最も大切なものだ」


 怪しい赤い眼が光かり、それを黒い手で指す。


 ステフとイリリは初め意味が分からなく、カカシのように茫然と立ちすくんでしまう。


 自称神の黒い手の先は1つ、いや、1人。


 イノア・ショーミを指していた。


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