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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
過去への召喚
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過去⑳

 ホワイトマウンテン、かつてはルバ王城までの道を塞ぐ天然の要塞であったが、ルバ王城陥落後の瞬時に山道の整備に取り掛かった。七将軍の生き残りにホワイトマウンテンや王城を占領されないように軍事的な魅力を破壊させたのだ。


 よって、レン一同の道のりは呆れるほど簡易なものだった。阻むのは急な勾配のみ、黒い球体は近づくにつれ、その巨大さを主張する。球体の全長は10mを超えているだろうか。1歩、1歩、山を登るが迫っているという確信がない。


「どこまで続くのですか?」


 痺れを切らしたカルンが口を開いた。副隊長であるカルンの表情はまだ軽いものだ。他の兵士は青ざめ、時より足を止めるものもいる。


「もうすぐだ。心配するな。というよりいつでも戦闘状態に入れるようにしろ。いつ襲ってきても不思議じゃないぞ!」


「はい」


 カルンは返事をするが、顔をしかめる。これまで様々な隊長に着いていたカルン。共通するのは、戦場のときの覇気込める指示だ。しかし、先ほどにはそれがない。


 違和感が積りつつも胸に潜ませひたすら山を駆け上がる。


「「バケモノだっ――――!」」


 山の頂上から男達が慌てて降りてくる。白いボロボロの軍服に背や腰に掛けた剣。紛れもない、盗賊になりさがったルバ軍残党兵だ。


「あいつらぁ! 逃げるつもりかっ!」


 カルンは背の大弓を素早く構える。大弓の大きさに合わせた特注の大矢。矢の先には白い鉱石。副将になって大金を投げ売って手に入れたお気に入りだ。弓を引き片目を閉じて心を無に。盗賊の心臓に狙いを定め、視界には彼の死にざまの未来視が映る。


「やめておけ――。あいつらは敵ではない」


 カルンはムスッと顔をレンに向ける。喚きながら、こちらにも目もくらずに無防備に駆ける盗賊達が敵ではないことはカルンも察知している。


「でも、あいつらは盗賊です。ここで殺すべきです。捕らえないとまた、やつらは暴れますよ」


「いや、ホワイトマウンテン以外ではほぼ盗賊行為は不可能だ。都市のほうが警備は厳しい。それより、あいつらが何に怯えているかだ。聞き出すぞ!」


 瞬間、レまるで、水面を跳ねる小石のように早く軽い足取りで盗賊達に近づくと。さらに、アクセルを踏んだ。盗賊達には見えなかっただろう。極限の速度、一瞬にして回り込み。真ん中にいた盗賊の首元に小刀を当てた。


「3秒で答えろ。それ以上は殺す。わけのわからない戯言も同じだ。何を見て逃げ出した」


 威圧的な言動と、首元の刃。なにより、先ほどの動き。盗賊は腰が抜けその場に倒れ込む。泡を吹き気絶する寸前だが、わずかに口は動いた。


「黒い……化け物が、―――――黒い球体から、沸いてくる」


「黒い化け物?」


「本当だっ! 信じてくれ! いや、化け物は降りてきている。じきにわかるさ。あれこそが本当の鬼だ」


「鬼か、ありがとう参考になった。あとは牢屋で暮らせ」


 首元の小刀がひらりと落ち、盗賊の動揺の間もなく。後頭部に頭蓋骨が割れるような衝撃が走る。ぐらりっと体が脱力し前のめりに倒れた。ただの鬼の手刀だ。


「急ぐぞ!」


 再び軽いステップで山を駆け進む。もう、後ろを気にするそぶりもない。


 時間にして約1時間。整備されたこともあるがあっという間の登山であった。レンのハイペースについて行けず、リタイヤするものもいた。しかし、近づくにつれ、巨大さと禍々しいオーラに胸騒ぎは兵士全員が感じていた。レンの横暴に近い強行日程も理解できる。


「なんですかっ! あれは――――」


「なるほどな、あれが本当の鬼か」


 頂上、巨大な黒い球体の真下。成人男性の半分ほどの大きさ、人2つ分ほどの大きな頭、釣り合っていない首と胴体、手足はさらに短い。全身が黒に染まり、片手に剣を携え、赤い両目が醜悪な雰囲気を誇張する。


「とにかく、敵なのは赤子でもわかります。正体も気になりますが、ここはまず1体倒していいですか!」


「ああ」


 カルンはレンの了解を取るまえに既に体が動いていた。何万回と繰り返す動作。無駄ひとつなく、大弓を引き、狙いを定める。無数にいる正に化け物の中の1匹。巨大な後頭部は恰好の的だ。


 カルンの指が弓から離れ、空を突く音が響く。大矢は一直線で化け物に向かい、後頭部に直撃した。


「はぁっ?」


「なるほど、確かに化け物だ」


 カルンは信じられないといった表情。レンさえも苦笑いを浮かべ、額から汗が流れる。化け物に直撃した大矢。頭、正確には赤い眼に刺さった瞬間に、大矢の先端。大陸一硬い鉱石が砕けた。その衝撃からか、大矢もパックリ2つに割れ無残な小枝に成り果てた。


「全軍退却だ。俺が殿を務める」


「何故レンさんが、殿なら私が!」


 カルンの直訴にレンは睨みながら怒鳴る。


「俺以外に殿さえ、務まるやつがこの場にいないからだ! あいての力量もわからないのか!」


 恫喝に近い声。実際にレンの目は怒りに満ちている。


「わかり――」


 カルンが渋々返事をしたが、それよりも早くレンは動きだしていた。フェバルを取り出し、短剣にかざす。するとフェバルが赤い粒となって短剣を包み込む。


 あれが戦争を終わらせた『錬術』。他の人たちは摩訶不思議な力を操ると聞きましたが、レンさんは確か。


 瞬間。本当にレンが消えた。それはカルン他の兵もきっちりと目撃していた。人間を超えた速度で化け物の背後に周り込むと電光石火の連撃を加えた。短剣で切り刻まれた化け物は蜂の巣のように穴だらけになり、黒い塵となって消滅した。


 単純な武力の強化。しかし、これがこれほど強くなる人はレンさんの他にいない。残り3匹。レンさんならどうにか――――


 レンは左右の化け物をそれぞれ一瞥すると、また、光の動きで距離を取った。


「早く逃げろ! まだ、何かくる!」


「何かとは?」


 カルンの疑問の声にレンは顎で答える。


 心臓が止まるほどの恐怖が包む。黒い球体の中から、黒い何かが飛び出している。よくよく見るとそれはトカゲのような手だ。しかし大きさは桁違い。5本指の中でも一番短い指ですら人の2倍はある。


「だから、とにかく逃げろ!」


 レンの再度の怒号に兵士達も我に返り一目散に逃げ出した。それを逃がさまいと化け物の残りが兵士達に向かってくる。そのタイミングで再びレンも『錬術』を発動された。


 カルンは殿の殿を担った。といってもただレンが退くペースに従って兵士に退却を促すだけだ。レンは相変わらず圧倒的な武力で化け物を撃退していく。


 だが―――――。


 ほう、ずいぶんとカッコいい翼じゃねぇか。


 化け物との戦闘の合間を見計らい黒い球体に視線を移す。黒い球体からは巨大な漆黒の手、腕がはみ出し。さらにドス黒い翼が姿を見せた。


 ここの生物ではないことは確かか。さて、相手になろうか!


 ギラギラした目を翼に注ぐ。すでに、他の化け物は片づけていた。


 獣の声、しかし、どこか意思を持った声。とにかく、鼓膜を破こうとするような爆音の泣き声が山に、大陸に、世界に響いた。


 そして、そいつは姿を見せた。


 全長は10mほど。両翼を拡げれば横にも10m。赤く鋭い目、鋭い光沢のある爪。巨大な体を支えるどっしりとした大木ほどの両足。体は黒い鱗に守られている。


 ギャィ――――。と吠えると同時に口を開いた。刹那、レンは初めて恐怖を感じた。人を丸のみできるほどの巨大な口から炎を吹く。狙いはあたふたと逃げ惑う兵士達。


 一瞬の出来事。体感はただ息を吐かれただけ。それなのに、ホワイトマウンテンの一部は火炎に焼き抉れた。当然、兵士達の骨さえ残っていない。


「よくも、仲間達を!」


 比較的、レンの近くにいたカルンは炎の地獄から逃れていた。目を血眼に即座に大弓を引く。


「どうして止めるのですか、隊長ごと射ちますよ!」


 矢の直ぐ先、目の間に立つレン。


「やめろ、あいつには俺でさえ手も足もでない」


「なぜですか、抵抗もしないで!」


「いや、したさ」


 レンは右手を挙げた。手の皮は捲れ、血が滲む。指という指が違う方向を向いて紫色に変色していた。


「俺の『錬術』でこうだ。いくら高速で斬っても切れずに手が馬鹿になるだけだった――情けないが。今は全力で逃げよう。それからだ。この敵に立ち向かうのは」


 カルンが頷く。ギシギシと歯を食いしばる音を立てながら踵を返し、山を下った。レンのその後についていく。


 なぁ、こうなることを知っていたのか。――――ズブラ。


 天下統一を果たしたバル国は、この日からバケモノ、『厄気』との争いが始まった。




 すぐさまレンは王都に帰還し軍議が開かれた。黒い球体から出現する化け物を『厄気』と名付け対策を協議し合う。しかし、レンから聞かされる化け物の異様な強さ。人を殺すための軍では歯が立たないと結論づけられ。唯一の希望、『錬術』の急速な普及を急務となった。


 だが、『厄気』も待ってくれない。ホワイトマウンテン上空に浮かぶ黒い球体は体積を増やし、ついには大陸一の山を飲み込んでしまった。


 そして――――。さらに、黒い球体はフローラ、ミレェイ、ソーダル平原に出現した。


王都の演習場。数百の兵士達が所狭ましと並び、手のひらに乗せたフェバルと睨めっこしている。みな、額に汗やこめかみに皺を寄せ、低い唸り声を漏らす。彼らの前に立つ、スフラは声を張り上げた。


「いいですか、『錬術』は願いの力です。強く思ってください。何万、何十万の犠牲の上でついに、大陸統一がなされました。争いがなくなったのです。もう、誰も死なずに愛する人を失わずにいられる世界がもう手に届くところに――――。それを、突然現れた『厄気』というわけのわからない存在に汚されてもいいのですか!」


「「おっつおっ――!」」


 勢いのある返事だが、彼らの持つフェバルに変化はなく『錬術』が発動する気配すらない。『厄気』という未知の強敵に対し、唯一の対抗手段となっている『錬術』。大戦を終結させた奇跡の力を有するものはスフラ、イノア、レン、イリリ、ガルバ、レミアン、ユタバのみであった。もちろん、たった7人で無心臓に沸く『厄気』に対処できるはずもない。今はとにかく1人でも『錬術』を扱える兵士を増やす必要があった。


 やはり、難しいようですね。


 スフラは顔には出さないが、内心焦っていた。


 今まではホワイトマウンテンを占領しただけですが、少しずつ『厄気』が山を下っている報告が増えています。現状、『錬術』が扱える隊長達が処理をしていますが、いつまでもつか……。英雄たちも犠牲になっています。


 レミアンの姉、隊長の1人でもあったフローラ元護衛兵隊長はレミアンと『厄気』との戦闘中に殉職した。同様にミレェイでもユタバの父、海王と兄弟3人も命を失った。だが、2人とも悲しむようすはなく、いや、悲しむ余裕もなく任務に没頭している。


 気になるのはイノア……。いったい、何を考えているのでしょうか?


 次期国王となったイノア。本来ならば、ズブラが死去しイノアが王となる手筈だったが、突然の災害。『厄気』に世界が飲み込まれ、政治面は完全にストップしていた。スフラが首を傾げるのはイノアの方針だ。彼の性格なら自分が真っ先に戦場の先頭に立ち、策を張り巡らせ武力を見せ詰める。これまでの戦争はそうであった。しかし、『厄気』が出現してからも、全体の指揮は取っているが、城に留まっている。剣王が異例なだけであって、通常、王とはそういうものだ。他の兵士達は次期王となられて、身をわきまえているのだろうといっていたがスフラにもどうも気になっていた。


 もしかして、気づいている――――。いや、いくらイノアでもそれはない。


 ふぅ~、と息を吐きながら空を見上げた。肌に邪気が走った。瞳孔が開き、脈拍が早くなる。すぐさま大声をあげた。


「『厄気』がきます!!」


 見上げた先、王城の上。禍々しいオーラを放つ黒い球体が出現した。


 

 


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