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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
過去への召喚
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過去⑲

 ルバとの一大決戦により。王都ルバ城の陥落、不死王の死。ほぼ天下を治めたバル国は残りの小国の侵攻に向けて軍議を開いていた。


 しかし、それにしては不可思議な面々が出席している。文官や貴族、有力な商人などなど。とにかく、軍の幹部だけでなくバル中の有力者が一堂に会していた。その数100人弱。広い謁見の間だというのに、軍列のように整列し、今か今かと王の言葉を待つ。


 1人、1人の顔をじっくりと見渡したあと。ズブラは、重々しく口を開いた。


「まだ、バルの天下統一を阻む国はある。だが、どれも七将軍の生き残り、ルバ兵の残党だ。正直、神の力。『錬術』を手に入れた我々に抗える可能性は1%もない」


 威風堂々たる勝利宣言。自信の根拠は十分にある。王の宣言に、文官や貴族、商人はにんまりと笑って喜び。兵士は顔を震わせ、涙するものも大勢いた。兵士にとって、軍にとって、多くの仲間を失った屍の上の天下が目の前にあるのだ。


「これは、兵士達の活躍によるもの。それを支えてくれた内政者のおかげでもある。みな、今までこんな王について来てくれた感謝しきれない」


 軽くだが、コクリと頭を下げた。口を開き、目玉を飛び出されるものは数人だ。ここにいる人の殆どは王が、ズブラがこういう人格者だと知っている。


「そして、最後の王の務めを果たそう。残りの小国は私とレンのみで出撃する」


 今度は全員の表情が一変する。余りの言葉に口を開く者がいない。


「王様、最後の務めとは――――――」


 沈黙に耐えかねたのか。イノアが問いかけた。最後の務め、言葉通りならば、王を退くことになる。天下統一の悲願達成を目の前にして。


「なに、初めから決めていた。私は大陸中を血に染めた、愚王だ。これからの平和な時代には別の王が即位しなければならない」


「これより、バル国の復興の準備、及び天下統一後の法令等の準備にかかれ、そして、イノア、これからのスフラとバルを頼むぞ。スフラと婚約後この王座はイノアが座りなさい。しっかりと国を支えてくれ。私は最後の出撃を完了させる」


高らかに宣言された次期王。イノアはゆっくりと跪き、頭を垂れ。


「謹んでお請け致します。しかし、王座に腰を掛けるのは平和になってからです。もちろん、王もレンさんも共に帰ってきてもらいます。結婚式にも出席してもらわないと」


「ああ、約束する。我が息子よ」


 王の責務をほぼ終え、とてつもない重みから解放されたズブラの表情はどこか穏やかで、達成感に満ちていた。これからの世界の羨望を心待ちにして願っているそんな顔だった。


 これが、英雄王ズブラ・バルが人目に確認された最後の姿であった。


 もはや、残党となった七将軍や残りのルバ兵に抗う力はない。いや、これまでの武力や兵器は『錬術』を前にすれば、赤子が木の枝を持ち戦場に降りることと等しい。1日、1日と国ともいえない国が潰れ、最後の七将軍、カエアが率いるカエア国も僅か、3時間で潰れた。


ついに果たした。天下統一、バル中が歓喜に包まれるなか。1つの吉報が入ってきた。


王都の街という街に、人の姿はなく、店も開いていない。この日は雨雲が空を覆い、止まない雨が王城を濡らしていた。白い城は雨粒の影響なのか少し黒ずむ。王城には約100万にもが集まり、喪服を着て大行列に並ぶ。国王、ズブラ・バル戦死。天下統一を果たしたのち、天命が終わったかのごとく天に召され帰らぬ人になった。


「わが父、ズブラ・バル。安らかに眠り下さい」


 棺桶の中で安らかに眠るズブラ。一緒に収まるのは宝刀とフェバル。どちらが欠けても天下統一は達成できなかっただろう。スフラの言葉を最後に棺桶は閉められた。習わしで、王族はフェバルの園の地中に土葬となっている。


 これから、バルを世界の導き手の1人として必死に我慢していたのであろう。王の葬式ともなれば様々な様式を遂行しなければならない。王女であり、唯一王族の血を受け継ぐスフラに負担は全て圧し掛かった。本当なら、唯一の肉親である父を失った感情を爆発させたいはずだ。しかし、スフラはそんなぞぶりを見せず優に3日の儀式を終えた。


 もう、彼女の感情を縛るものなどない。


 頬から流れ続ける涙。喘ぐ喚き声。王女の醜態とも見て取れる姿に誰1人として止めるものはいなく、むしろ、王女が感情を抑えていることに気づいていた国民が一斉に悲しみを吐き出した。


 その日は世界が泣いた日。そして、新たな戦いが始まった日。


 雨雲は緩やかに消え、それと等しく涙が枯れ、国王ズブラの葬式が終えようとしていた。曇天の影から橙の光が射す。光は増し、雨模様はどこか彼方へ。バルは黄昏時に包まれた。


「スフラ、そろそろ帰ろうか。みんなももう帰っている。お父さまの埋葬も終わってしまったよ」


 イノアに声を掛かられゆっくりと顔をあげる。スフラの顔は涙で目が腫れ、ルビーの瞳も合わさって真っ赤かだ。


「わかりました……。不敬かもしれませんが、よかったです。お父さまの埋葬される姿など見ていられない」


「そうだね。スフラは泣き虫だからな。今日はいっぱい泣いていい。でも今日までだ。明日からは一緒にこの世界を守って、お父さまの理想を叶えるぞ」


 広がる両手にスフラは飛び込み。イノアの胸でまた涙を落とす。


 そのときだった。


 遠く、バルの遥か北。ホワイトマウンテンの頂上にそびえ立つ旧ルバ王城。城と夕焼けの間から垂直に黒い塊が突如として現れた。


 ホワイトマウンテン手前の砦。かつて、ズブラとレンで焼き落とした砦。今はより頑丈に建て替えさせて兵士が駐屯している。ルバ残党兵はまだ存在はしているが、名を盗賊と変えている。主な潜伏先はホワイトマウンテン、少し前までは彼らの領土でその巨大な山道を知り尽くしている。身を隠すのには適切だ。


 もちろん、放置はできない。襲われないようにこの砦にはかなりの腕利きを配置している。たまたま、この日は「あいつの葬式? 興味ないな、戦死なんてへましたやつのことは」と目頭を潤ませながらズブラの葬式をさぼったレンが当てられていた。


「おい! 伝令をすぐに王都へ! 正体不明の黒い球体が旧ルバ王城に頭上に出現。直ちにレンが調査に向かったと伝えろ! それと、また命賭けで戦う覚悟があるものはついてこい!」


 窓辺から黒い球体を目撃してから僅か2分。レンは戦支度を整え砦の扉を開けた。まだ、誰もあの球体の意味がわからないなか、隊長であるレンの指示に従い。それぞれテキパキと支度を整える。それを一瞥したレンはどっしりとした不安が胸を突いた。


 当たり前か、盗賊が相手なのは想像できる。それ以外にはもうこの大陸には敵がいないはずだ…………。


「隊長どの。1つ質問をお許し下さい。あの正体不明の黒い球体の正体を掴んでおられるのですか?」


 一目散に支度を整え、レンに続いたのはカルン・ハーン副長。背に大弓を背負う。


「いや、わかんねぇ。わかっていたらそれも含めて伝令兵に伝えるさ」


「では、なぜそんなにも険しい顔をまるで、戦場にこれから立つみたいです」


 少し唇を萎ませ、一泊置く。少し目が泳ぎ躊躇いながら。


「これは俺の勘だ。だから、確証などないが、あれは『錬術』の匂いがする」


「『錬術』ですか!!」


 カルンだけでなくその場にいた兵士達が凍りつく。まだ、『錬術』を使えるのは故ズブラ王を含めたったの8人。隊長クラスしか扱えていない。しかし、レンの推測が正しく、場所を考慮すると、導きだされる推論は。


「盗賊が『錬術』を使ったかもしれないということですね」


 カルンの推理にレンは小さく頷く。


「あぁ、そうだ……。だから、みな腹を決めろ。あれを相手にするのには戦場同様命賭けだ!」


「「はいっ!!」


 勇ましい返事を聞き、レンは扉を開く。兵士達とは違う胸の内を秘めながら。


 いや、違う。あんなチンピラもどきのやつらじゃあ、例え『錬術』が使えてもたかが知れている。あの黒い球体から察せられる禍々しいオーラは。


 まるで――――――ズブラではないか。





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