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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
過去への召喚
64/89

過去⑰

 バル暦890年 


 大陸の覇権を賭けた戦いは両国とも譲らず均衡を保っていた。初日に七将軍のうち一人を失ったルバは危機を感じたのか、残りの6人の戦場に送った。主な戦場である、王都、フローラ、ミレェイに2人ずつ七将を配置し猛攻を仕掛けた。だが、バルもそれは想定内。王都はイノアとスフラ。フローラはレミアンや森の民、ミレェイはユタバや漁師達。3カ所でそれぞれ奮闘し七将軍と渡り合っていた。そして、ズブラとレンの2人は戦場には参加せずにルバ国内を暗躍していた。ある時は、砦を襲撃し、ある時は畑を燃やし、またある時は兵士に紛れ嘘の情報を流す。元々は諜報部隊の経験のない2人。時折、正体を見破られたときもあったが、力ずくで突破していた。裏から、戦争を助力する2人は実益よりも、あの2人が工作員となり、戦争に参加していない事実がルバにとって心理的な負担にもなっていた。もしも、あの2人が戦場に立てはあっというまに情勢が着くのではないかとルバの民の間で噂が流れていた。


 大戦開始から1年。突然なのか、必然なのか、ルバからの脱国者が目立ってきた。どれも、若い青年。戦争に出ていてもおかしくない。いや、直前だったのだろう。バルは常に軍隊希望者を募って兵力を維持していた。何もいわずとも、国のためなら盾になろう。我らの王は敵国に侵入し、孤独に戦っておられるのだと。これまでのズブラの人徳がなせる成果だ。そういった若者や果ては、老兵、女、子供までいた。その中で腕を甘味し、必要な数だけ戦争に加えた。同じ王政だが、ルバは大きく違う。古代から続くルバ王家、民の信仰な神のごとく、絶対的だが強制的でもあった。兵は強制徴兵を行う。これまでは、戦争に赴けば、勝てば戦利品がたんまり支給された。戦死はババを引く感覚、余程運が悪くなければ生きて帰れる。超大国ルバはそうであった。バルとの大戦が始まる前までは。


 バルとの戦争は拮抗、当然戦死者も大勢出る。それも終わりが見えず、強制徴兵される兵の数は月が過ぎるごとに増加していく。更には、バルはまだ本気を出していないじゃないか、剣王と鬼神はまだ戦場にすら立っていない。もし、自分が戦場に向かわされたときに、剣王や鬼神がいたら――――生きて帰れるはずがない!


 脱国者の心理はそのようなものだった。同志を募り警備が手薄な門を襲撃し、バルに移る。今度はバル側の警備兵に見つかることになるが、武器を捨て、両手を挙げ抵抗の意がないことを示す。バルが侵略した民にもバル国民として迎えられることも彼らを後押した。


「まったく、まさか超大国ルバを落とすのに内部崩壊させる戦略を取るとは、さすがは死神。恐れ入った」


バル王城、謁見の間。軍幹部が集まりこうして話し合うのは大戦が始まって以来。ズブラを始め各隊長などが顔を並べる。


 王座に座るズブラの横、地べたに胡坐を掻き、だらしない声で話すのは1人しかいない。レンはにこやかに、目の前のイノアを褒めたたえた。


「まったくだ。私もこの戦略を思いつかなかった。これで大戦全体の死亡者は大幅に減る。今日も200人の脱国者の報告が上がっている。それで、脱国者の待遇がどうしている、スフラ?」


「事前に用意しておりました大規模な武器工場で働かせています。直接武器を持たないように、部品ごとに分けてです。これにより、武器は供給が滞る心配はないかと。バル国に馴れるにつれて農家の手伝い、ゆくゆくは自立してもらうつもりです」


「うむ、満点だ。スフラ。もう、私がいつ逝ってもバル国は心配ないな」


 ほぉほぉっと口を緩めて笑うズブラに。


「何をいっているのですか。まだまだ、働いてくださいよ」


 笑いながらいい、謁見の間は和やかな空気が漂う。イノアが1年前、ルバとの大戦が始まる前に建てた作戦に一切の乱れがない。全てがイノアの思い通りにことが運んでいる。それは、バルの勝利、大陸統一を意味していた。


「少し、気が緩め過ぎではありませんか。まだ、ルバとの決着は全く着いていませんよ」


 緩んだ空気を引き締めたのはイノアだ。目を細め、鋭い眼光がレンとズブラに送る。まだ、戦争真っ只中。優勢だからといって、トップの2人が何故気を緩めているのかと言いたげだ。


「すまない。そんなつもりはなかったが自然と余裕が生まれたのかもしれない。私はただ嬉しかった。大陸統一を目前に迫ったからではない。後世が育ってきているのがうれしかったのだ」


 王に対して、不敬な発言だが、ズブラはそんな器の小さい王ではないし、兵士のみなも、軍総司令官でバルでは救世主と呼ばれているイノアなら進言する権利があると思っている。


「いえ、そこちらこそ、無礼な発言をお許し下さい」


 頭を垂れる、イノア。普段ならば、礼儀を示すためにゆっくりと頭を戻すのだが。


「何を言っても、イノアなら許すぞ。スフラをくださいといってもな」


「なっ! なにを。おっしゃって――」


「そうですよ! お父さま。突然なによ」


 急激にゆでたこのように真っ赤な顔になった2人。他の兵士達も勘づいたのか、もともと知っていたのか、からかうような笑みを浮かべる。


「いや、レンからそのような報告を受けていてな」


「まぁ、一国の王女様が夜な夜な演習場で修行と偽り、男と逢引きしていたら。王の右腕として報告を怠るわけにはいかないだろう?」


「あっ、逢引きなんて。誤解です。僕とスフラは一緒に修行を――」


「そう、稽古です。レンさん、私の修行相手としてイノアは適切でしょ」


 必死に弁解をする2人だが。


「ふぅ~ん。修行もしていたのか。だから、剣が脇に落ちていた。そういうわけか」


 薄笑いで交互に2人を見つめるレンに、観念したのか。


「すみません。王女に、ただの旅人出身の私が――」


 後頭部を床に擦りしけ許しを乞うイノア。


「だから、よいといっているだろう。大陸中でただ1人、イノアだけならよい。娘を預けられる」


 言葉を聞き、顔を上げるとそこには温和なズブラの笑顔が広がっていた。イノアとズブラの交際が国王承認のものとなった。


「お父さま、ありがとうございます」


 スフラも礼をし、急ぎ立ち上がったイノアもそれに続く。


「堅苦しくのはよそ。さぁ、それよりも軍議を再会しよう。イノア、次の作戦はなんだ」


「はい、次の標的は―――――」


 バル暦892年


 大戦は相変わらず、拮抗。しかし、ルバは相次ぐ脱国者の影響で兵に限りが見えていた。そこを見逃すイノアではない。王都近辺の平原の戦いにズブラとレンを参入された。不意打ちとしては重い一手、七将軍を2人討たれた。長年拮抗状態だった大戦でこれほど大きな変化はない。平原の戦いを征し、フローラ、ミレェイからも侵攻を深く抉る。情勢は確実にバルの優勢であった。


「10日後、ルバの中核を攻めましょう」


 王都の謁見の間にイノア、スフラ、ズブラ、レン、イリリといった面々。ガルバ、レミアン、ユタバに前線を預けている。この5人が抜けても、戦場を維持できる。両国の兵力はここまで開きつつあった。


「そうか、いよいよ。ホワイトマウンテンに登るのか」


 王座に腰掛けるズブラは神妙な面持ちでいった。ルバの中核とは、言葉のとおりルバの王都を示している。王族と貴族、そして、100万もの精鋭兵士がいると噂されている。それだけの兵力があれば、この情勢を覆すことができる。そのため最近はただのホラ。ルバの情報操作といわれている。


「問題はルバ100万兵がいるか、どうかだな」


 ズブラがその件に触れた。


「100万兵は実在しています」


 きっぱりと言い切るイノア。その顔は自信に満ち合われている。


「お前、まさか……」


 レンは息を飲みながら、言葉を待った。噂を事実と言い切るのは明確な根拠が必要だ。


「はい、私はルバに訪れたことが……。いや、正解に言いますとルバは私達の故郷です」


「なんですって!」


 スフラは驚きの表情を浮かべる。


「ごめん、今まで言い出さなかった。でも、ちゃんと話を聞いてくれ、俺達は――」


「両親の故郷だったのだろう? イノア」


 ずっと黙っていたレンが口を開いた。


「知っていたのですか?」


「あぁ、俺とズブラは薄々気が付いていた。お前とイリリは生粋の旅人だが、お前達の両親はルバ人だろ。お前達でもルバを旅することは不可能だ」


 レンの発言に顔を強張らせ、黙り込む。それは発言が正解であることを現す。


「わかりました。正直に話しましょう。確かに私の親はルバ人、いや、ルバの王族でした。しかし、ルバの王政に反感を持ちお供を連れて世界中を旅したのです。その間に私とイリリが生まれました。王都に戻ったのはルバ先王の亡くなったときです。目にしたことのない祖父の葬式など興味を持ちませんでしたが、そこでルバの圧倒的な戦力、100万兵を目の当りにしました。しかし、私が衝撃を受けたのはそこではありません。次期王、つまり、現王。アクラ・ルバの存在です。若干、10歳の王はすでに覇王でした。ひと目で直感したのです。彼がこの兵を使えは即座に大陸を手中に治め、世界が破壊の一途を辿ると。だから、私とイリリは再び外に世界を変えるための力と光を見つめる旅に出ました。これが、私達の全てです。私は王と、スフラと理想を共に叶えたい。笑って、どこへでも旅をする世界にしたいのです」


 言葉に力がこもった演説。イノアの本心でとわかる。静寂が包み。誰1人として口を開かない。ズブラとレンも出身はルバだと推測していたが、まさか、王族とは予期していなかった。そのまま太陽が陰る時刻になりそうな雰囲気。それを打ち破ったのは――――


「なんだ、そんなことでしたか。くだらないはなしですね」


 あっけらかんと、白い歯を浮かべ、蔓延の笑みをつくるスフラ。ルビーの瞳は相変わらず輝いている。


「えっ……」


「まさか、自分の王の血が流れているとか、自慢するつもり? 余裕で私も流れていますけど。それとも、ルバ王族の血で、私達が何か変わると思っていますか? そんなくだらないことで私が嫌いにでもなると思っていますか?」


 少しとんがった言い方で、涙を浮かべるスフラ。イノアは少し、鼻息を漏らし。


「スフラ、ありがとう」


「私もスフラと同じ考えだ」


「はい、ありがとうございます」


「それで、100万兵の存在が明確になったところで、戦略はどうする? さすがに厳しいぞ?」


「それは残りの七将軍を利用します。残る七将軍は4人がまだ討たれていない理由は強さの他にタイプが同じだという共通点があります」


「守備主体ということか」


 レンが口を挟んだ。


「そのとおりです。そのため、王やレンさんを投入してもなかなか首がとれません。ですので、私はこの4人の首を諦めます。フローラを元警備兵隊長、ミミアンに。ミレェイを海王に。王都をレミアンとユタバに任せ、4人の七将軍を相手にしてもらいます。こちらも守備の方針で。そうすれば、戦は均衡し負けることはないでしょう。その隙に私達はホワイトマウンテンに登り王都に辿り着く算段です」


「それでは兵が不足しませんか? ホワイトマウンテンの標高1000mはあります、その間に100万兵に襲われたら一溜まりもない」


 ズブラが苦言で呈する。


「いや、それはない。ホワイトマウンテンでは戦闘にならない」


「どうしてですか?」


「100万兵は王を守るために建国当時から設置されている軍隊です。つまり、奴らは王都から離れない。ルバ王都を攻め込むということは、王都と同化しているルバ城を落とすことです。そのとき、100万兵は守備に徹します」


「ならば、なおさら兵が少なくなるぞ?」


 今度はレンが指摘する。見積もっても、出兵できる兵士は50万。もともと、城攻めは多勢が基本、敵は100万。こちらの倍以上、いくら4人の将が強くても無理な戦いになるのは容易に予想がつく。


「はい、ですから、私達はまず、ホワイトマウンテンを占領します」


 イノアの提案に一同、眉を上げ、口を開く。


「ほぉ、さすが軍総司令官どの。まったく、私ではそんな発想は浮かばない。ホワイトマウンテンを占領し、そこから、フローラ、ミレェイから兵を侵略しながら兵を出兵。継続的に王都を攻め込むというわけか」


 うんうん、と感心したようすのズブラ。他の者も納得したようすだ。


「確かにその案は使える。王都と軍を遮断することにもなるが、本当に100万は城を出ないのか? 明らかに、打って出る場面ならば、門を開けるだろ?」


 レンの疑問は最も。この策は100万兵が守備しかしないことを前提として考えられている。


「いや、それはイノアが正しいだろう。これで曾祖父からの伝承とも合致する。ルバとはルバの血のこと。絶対に絶やしても、錯乱してもならない。王家の血は神の涙、守るべし、たとえ他のものの血が流れ尽くしても。そうすれば、世界が混沌に陥ることもないだろう。バル国の建国者、曾祖父から続く伝承だ。いくら、劣勢でも兵を外に出せば王都のリスクを発生する。100万兵は王都を、王家を、100%守るための兵だろう」


 ズブラの推測にイノアは深く頷いた。


「はい、私がルバにいた頃もその伝承を聞きました。間違いないでしょう。ただ、この策には致命的な欠陥があります」


「犠牲者が多すぎることね」


 イノアはスフラのほうに首をやり、小さく頷いた。


「スフラのいう通り、計算ではルバ軍100万、バル軍120万。合計220万の犠牲者が出ると思います」


「220万!」


 スフラは思わず開いた口を両手で抑えたが、イノアは苦虫を奥歯で噛んだような顔を浮かべた。


大陸統一の先に理想を掲げるズブラとスフラにとって、220万もの犠牲者は見過ごせる数字ではない。常に両国の戦死者が少なくなるように戦争をしてきた。戦争で常に、領土を占領してきたのは再度の戦争によって犠牲者が出ないように。ルバとの大戦で脱国者を促したことも、兵力低下と共に犠牲者を減らすためだった。


「しかたがない。戦争を終わらせるためだ。犠牲者に口を挟めば戦争などできない、理想も掲げられない。220万は最後の痛みだ」


 ズブラの温かくも、どこか重い言葉にイノアはまた頷き。


「不甲斐ない私をお許し下さい」


 小さく呟いた。


「おいおい、不甲斐ないとかふざけているのか! お前は神になったつもりか! 犠牲者をゼロにするなど不可能だ。それこそ、神のごとく圧倒的な力がなくてはならない」


「はい、少し傲慢が過ぎたようです。私には所詮、戦を勝利に傾かせる能力があるだけ。戦を強制的に終結させる力などありません」


 目を細め、傷心な顔で俯くイノア


「なにをいっていますか。それだけで十分です。今までどれほど、バル国にとって助けになったと思いますか? 救世主さん?」


「ありがとう、スフラ」


「お礼など、誰も神のような、願いが叶う力など存在しませんから」


 スフラは笑顔を向け、俯いていたイノアも顔を上げてスフラを見つめ合った。


 そのときだった――


(ほしいか? 力が、願いが叶う力が?)


「誰だ!」


 低く鼓膜に纏わりとく醜悪な声。声を上げて反応したのはズブラと、驚きの声を隠せないスフラだけだった。




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