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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
過去への召喚
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過去⑮

カーレン国境・ギャック国境戦から1年後。ルバ国はカーレン、ギャックの弱体化に漬け込み。一気に両国の侵略を開始した。これに伴い、バルも対抗、砦からカーレンとギャックの侵略を開始。もはや、かつての大国の輝きはなく、ただ飲み込まれるだけの存在に成り下がってしまった。となるとどちらに取り込まれるという話。カーレン王族と、ギャック軍上層部はバル国の制度、併合国中核制度に惹かれた。併合した国の王族や、軍幹部はバル国でも高待遇で受け入れられる制度である。ズブラが大陸統一をするために必要と判断した。衰弱する国に併合を後押しするために。


 バル暦888年、カーレン国とギャック国はバルに併合され領土は超大国ルバと肩を並べられるほどに。そこからの両国は動きは俊敏であった。のちの大戦にむけて、互いに小国や中国を落としていく。


 バル暦889年、ついに大陸は2つに割れた。真ん中をほぼ横線で割り、北部にルバ国、南部にバル国。どちらかが、大陸統一を果たす。


 王城の謁見の間にはバル軍幹部が一同に返していた。大戦の前や重要案件がある場合にこうして招集されるが、今回は些か顔ぶれが違っていた。スフラ、レンを始め、元々バル軍に所属している兵士もいるが、それだけではない、併合した国の兵士も数多くいた。王座に座るズブラに跪き頭を垂れる。中には、ぎらついた目を伏せるものもいた。


 そんな緊張感漂う空気の中、ゴホッっと咳払いののち威厳ある声が響き渡った。


「皆の活躍により、カーレン、ギャック併合及び周辺国の併合に成功した。祖国を奪われたにもかかわらず足を運んでくれた兵もいる。その方々にまずは感謝の意を込めよう」


 ズブラはおもむろに、王座から立ち上がり、深く頭を下げた。


「国を奪ってしまい済まなかった。許されることではないが、私には願いがある。世界中の人々を笑顔にすることだ。それまでは心を殺して戦いに望む。兵士達も同じく心を殺してもらう。そうすれば、祖国のことなど忘れられるだろ。歯がゆいことだが、もし、大陸統一したのならあなたたちの心の赴くままにすればいい。それが、私を殺すことでも私は止めない。共にネザマスラを掴もうではにないか」


 王が頭を下げ謝罪と願望を話すズブラに、元カーレン、元ギャック兵などは目を丸くする。王が、軍のトップがこのような姿を見せることはあり得なかった。戸惑いの中、困惑する兵が周りを見渡すと、バル兵の古参達がすこしニヤリと笑う。「どうだ、うちの王様はついて行きたくなるだろう」っと語るように。元敵国の兵達が僅か10年で超大国になった本当の理由を察すると。続いてズブラが口を開いた。


「ではこれより最後の戦い。ルバとの決戦に向けて、軍編制を行う」


 今回、招集された主な理由はこれだ。熾烈な戦いになるのはズブラでなくても一歩兵でもわかる。今までの軍制では不十分という判断だろう。


「まずは今回の軍編制の肝。新たに2カ所に駐在させる軍の隊長2名。まずはレミアン・ナッザを森の砦、ユタバ・デザラを湖の砦。各隊長に任命する」


「「はい、位に恥じぬよう。尽力いたします」」


 名を呼ばれたレミアンとユタバは顔を上げた。レミアンは迷いの森で鍛えた俊敏性と武力。足りない対人戦闘経験はレンの元で学んだ。結果、瞬く間に戦果をあげ、最近では副隊長を任されることもしばしばだ。森の砦は旧カーレン国との国境線付近。ルバ国との戦闘では迷いの森も戦場になりうるだろう。森を知り尽くしているレミアンの任命に不満を覗かせるものはいない。


ユタバも同様、兵士が嫉妬するようすもない。湖の砦は、ギャックの領地であったが、巨大な5つの湖。流れが早く船も出せずにいた。よく知るのは密漁をしていたミレェイ。身体は細く、武力も突出したものはないが、レンの門下生。なにより、海を読む、海王の遺伝子を受け継いだこと、天性の戦略性は高く評価されていた。


「うむ、続いて。王都の軍だが、攻守2つに分けることにする。侵攻軍隊長をガルバ・ジェムスに。守護軍隊長をイリリ・シューミとする。2軍の総指揮、王都軍総隊長をスフラ、頼むぞ」


「「はい、必ずや王都の平和は守ってみせます」」


 スフラ、イリリ、ガルバも返事をして顔を上げる。これまで副隊長だったイリリとガルバ。遂に隊長となった2人の表情は緊張と興奮に包まれていた。


「次は最前線、北上してルバと日夜戦ってもらう最重要拠点。ルバ侵攻軍隊長としてレン・ダイソンを任命する」


 レンがゆっくりと視線を上げ少し頬を緩める。


「まかせとけ、王様。ここまできたら願いを叶えようぜ」


「ああ、そうだな」


 白い歯を見せ、笑みを浮かべた。


「そして、イノア・ショーミ」


 ズブラの口調が変わったのはその場にいた全員が感じただろう。少し低い声、戦場で指示を出すかの声。目は見開きルビー色の瞳は輝く。


「はい」


 イノアは臆することなく、ルビーの瞳を見つめ返した。


「イノア・ショーミ。お前をバル軍総司令官に任命する」


 沈黙が空間を包む。


「はい、承りました」


 イノアの承認の返事に周りはようやく事態を飲み込めたのか。ざわざわと騒ぎ始めた。軍のトップであり、軍事全ての決定権を持つ軍総司令官はこれまでズブラが収まっていた。イノアの武功は上げればきりがないが、それでも異例の抜擢だ。


「そう騒ぐな。同盟と2国の併合の功績、これまでの戦果、人格。総合すると私より軍総司令官に相応しい。皆もそう思わぬか」


 賛同すれば国王を卑下することになる。当然首を振るものなどいないが、沈黙はある程度理解を示していた。


「それに私も軍を辞めることはない。客観的にみてルバと一線交えるには私の力はまだ必要だ。私は遊撃部隊を結成する。何かあれば各隊長が呼びように。王都を留守にすることが多いだろう。政治面は頼んだぞ。スフラ」


「はい」


 ルビーの瞳の同士が輝き合う。軍ではイノアがトップに入り、王都の政治はスフラが代理をする。若い兵が隊長となり、天下を賭けた戦いが始まる。バル国に次世代の風が吹いてきた。


 その夜、王都内にある第1演習場。月明かりが照らし、澄み切った夜を彩る。四方の金属性の柵はどんな訓練でも可能にするため。一面に広がる大地は荒野を思わす。戦場で最も戦闘になる地形を想定して作られた。演習場なので兵士であれば誰でも利用できるのだがこの闇が深い時間は2人の専用グラウンドとなっていた。


「今日で最後だな、この稽古も」


 鞘から刀を抜き、両手で感触を確かめながらイノアはつぶやくようにいった。


「明日からはイノアも軍事総司令官。こんな夜な夜な剣を振う暇はないですね」


 ニヤッと笑うスフラの頬はどこか引き攣っているようだった。


「それをいったら、スフラも国王代理だ。さっそく、国王はレンさんと一緒にルバの前線に立つ。俺達は2人の代わりにバルを守っていかないと。って、ほんの数年前からバルに来たよそ者がなにいっているのだろうな」


「いえいえ、バルがここまで大きく。お父さまの理想に近づけたのはイノアのおかげですよ。無双の武力、神のような戦術眼。時々怖くなります。もし、あなたが敵だったらと。きっと、お父さまも勝てません。もちろん、私も」


「なら、今日の修行は止めるのか?」


 いたずらな笑みを浮かべて、スフラをからかった。


「いえ、今日からは勝たせてもらいます。もう、私もバル国を背負っていく身。そう何度も負けてはいられません」


 そういうとスフラも宝刀を抜いた。


 この2人の修行、いや、決闘は何年も前から続いていた。結果はスフラの全敗。これまで、一度もイノアを負かしたことはない。


 スフラがルビーの瞳を細めると、鋭い眼光が放たれ駆け出す。イノアも弛緩した顔をキリッと緊張感を持たせ、スフラと対峙する。


 刀と刀がぶつかり合う、視線を合わせる2人は言葉を交わす必要はない。互いに違う理想を掲げようとも、進む道は同じ。その道を歩むためにはお互いの力が不可欠。だから、これからも一緒にいこうと。甲高い金属音は語っているかのように鳴る激しい打ち合いは永遠のように続き、見守るのは天の月だけだ。


 月が隠れるころ、鋭い一閃がスフラの顔に向かってきた。


 ああ。やっぱり、イノアには勝てなかったか…………。目を瞑る、スフラ。しかし、いつものように。冷たい感覚はない。


 寸止めはしていない?


 すぐに目を開くと、刀はない。代わりに柔らかな顔をしたイノアの姿がルビー色の瞳に映った。


「スフラ………………」


「なに?」


 スフラは聞き返したが、耳まで赤く染まったイノアが何を言おうとしているのか、勘づいていた。もどかしく口を開け、いつもの声ではなく震える声でつぶやくようにいった。


「好きだ。スフラ」


 バクバクと鳴る心臓音を隠すかのように伏し目に、動揺からか、目玉は左右によろめく。数秒ほどの時間だが、体感は永遠のよう。戦場よりも手汗を掻き、喉がカラカラに乾く。決意を決めて、イノアは目線を上げた。


 スフラはいつものように笑顔を見せ、いつもは見せない涙をルビーの瞳から流していた。


「私も好きです。イノア」


 2人が刀を地面に捨てたのはほぼ同時、視線を合わせ、ゆっくり微笑み合う。イノアの逞しい胸にスフラは寄り添い、イノアの両腕でスフラを包む。これからは、世界の命運をかけた戦いが始める。今だけは、お互いに愛を感じようとするために、2人は強く抱き合い、口づけを交わした。


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