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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
過去への召喚
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過去⑭

 カーレン軍と戦の火花を散らしたころ。大陸の東南に位置するギャックとバルの国境線、両軍睨みを利かせ殺伐とした空気が辺りを包む。バル軍の軍数は5万。国王にして軍総司令官、剣王ズブラが率いる。軍を上下5軍、前軍を2つ、後軍を3つ分けた陣営。対する、ギャック軍は10万、大将ハッサム。こちらも軍を上下に分け、前軍、後軍を5つずつに分けた。


 ギャック軍の後軍、中央の軍の中央に陣取る人物。身長はゆうに2メートルを超え、白髪の長髪、野獣のような眼光、頬の古傷。年季を感じる蒼い甲冑の割にそれほど傷がない。背にはその巨体よりも大きな大剣。大陸の中でも現役最高齢の兵士、ギャック軍の父。ハッサム・マーレイは鋭い眼を潜ませバル軍のようすを伺っていた。


「さぁ、名通りの者かのぉ、剣王よ。この劣勢をどう覆す。橋を渡った瞬間に大軍が襲うぞ」


 これまでギャックとバルが戦争をしたことはない。自然の防壁、大陸を横に割って流れるマーレイ川が大きな障害となっていたためだ。バルからギャックに侵攻には2本の大橋のどちらかを渡らなければならなく、狭い橋を大群の軍が侵攻すると恰好の狙いの的だ。矢の雨を降らし、橋の出口に大量の兵士を置けばいい。故にルバを倒すよりも、ギャックを落とすほうが難しいといわれていた。


 そのときハッサムの目が開き背の大剣を抜いた。耳を打つ地鳴りは遠くからでも十分に体を震わせる。バル軍が動いた。前軍の2陣が左右それぞれの大橋を渡り始めた。大橋といっても、総勢1万人を一斉に渡る幅はない。隊列を崩して、少しずつ渡る。その全長は約100m、全速疾走で石橋を駆けるが、もちろんギャック軍が黙って待ってくれるがはずもない。


「矢兵よ! 残数のことは考えるな! 筒が空になるまで打ち続けろ! 近接兵は大橋に移動じゃ」


 矢の嵐がバル軍を襲う。盾で必死に矢を防ぐがバタバタと地に伏せる兵が時間と共に増える。大橋を渡ってきたバル軍にギャック軍は前置にする5軍のうち2軍、左右1軍ずつ向かわせる。弓兵に矢を射らせ、剣と槍を持った兵士は大橋の出口左右に移動させた。


「ほう、王自ら先陣を切ったか」


 ハッサムの視線は右手の大橋、西側に架かっている大橋を矢の雨にも負けずに進む王の雄姿。


「西の橋にもう一軍向かわせろ、後方の軍も西の軍を警戒じゃ」


 命に従い、軍の大行進が始まる。砂煙をまき散らしながら、軍は移動する。


 剣王がどんな策を敷こうとも、軍勢はこちらのほうが上。ならば、血気にならず地形を利用し数で押せばいい。しかし、それがわからない剣王ではないだろうよ。魅せてみろ、若造。


 目の前で激高しながら、剣を振う2人の男。軽いバックステップで躱し、すかさず剣を振う。電光石火の剣戟。ズブラの一振りに2人の男はゆっくりと倒れた。


「ここかな……」


 軍の先陣を切るズブラ。大橋を駆け抜けギャック領地に踏み込んだが、目の前に広がるのは敵兵の山。左右に剣や槍を持った兵、万を超える兵が列を成し並ぶ。正面には大楯の兵が城壁のごとく行く手を拒み。その奥には弓兵が、休みことなく矢を放つ。


 ズブラが大橋を抜けた瞬間、左右の兵が鬼の形相で走り出した。今や、大陸で知らない人はいないズブラ。現国王でありながら剣王の称号を持つズブラの首は孫の世代まで遊んで暮らせる報酬金が与えられる。我先にと、規律はなく兵士は牙を向く。それが知らず知らずのうちに単調な剣筋となっていた。


 一方、東の大橋は殺戮の橋と化していた。矢で射られた兵、橋を突破しても、両側からのギャック兵に襲われ血を流す。1万の軍の3分の1は戦闘不能に陥っていた。流石に、突破は不可だと判断したのか、指揮官の男が指示を出し一斉に踵を返した。


「追う必要はない、陣形を崩さず橋を越えようとする兵だけを狙え。ただ、やはり剣王は侮れない。後陣に待機している2軍をぶつけろ!」


 既に、1万対2万で戦闘を繰り広げる西大橋の戦い、数では圧倒的に有利だが、剣王も周りの兵も一筋縄ではいなかい。ハッサムは精兵を西の大橋突破に当てそこから侵攻する策だと推測した。


 迅速に動くギャック兵、数を力で無理やりこじ開けようとするバル軍を封じようと一目散で駆け寄る。


「やはり、若いの~。確かにお前さんの武力は人外じゃ、策も悪くはない。じゃが、青い、青すぎるぞ。剣王よ」


 ハッサムの読みは当たっている。そして、その対処も間違っていない。精兵で固められたズブラ率いる1万の兵を葬れば、残りは4万弱。精兵もなしに大橋を突破はできない。バル軍は敗走する。実に正しい、大陸最古の兵士の計算は1ミリの誤差もなかった。


 ハッサムを責めることはできない。解を導いてから式の数字を変えると答えが合うはずもないのだから。


 始めは兵士の喚き声だった。ハッサムも兵士の悲鳴が聞こえた東側に顔を向ける。


「なっ、なんだあれは!」


 そこには悠然と川を渡る一隻の大型船。ハッサは瞳に焼き写るほど、ただ茫然と見つめていた。


 沈黙はギャック軍全体に訪れた。それが何なのかは認識しているが、何故いるのか。混乱の頭の中では認識できない。


「みな、船から離れろー!」


 ハッサムの叫ぶ声の数秒あと。鼓膜を刺激する爆破音が空まで響き、空に黒点が浮かぶ。黒点は落下するほどにその巨大を見せ、東の大橋前に陣形を組むギャック兵に巨大な鉛玉が襲った。


「なぜだ、なぜ。ミレェイの者がバルに味方する!」


 ハッサムの声は虚しく砲弾にかき消された。突然の放擲に狼狽えるギャック兵。それを待っていましたと言わんばかりに、東の大橋から慌ただしい音が聞こえていた。


 後方に構えていた2軍、2万の兵が東の大橋を渡り始める。もう、降る矢は小粒だ。陣形を完全に崩されていたギャック兵は簡単に侵入を許す。


「まずい、待機していた全軍、前進して橋を取り戻せ!」


 ハッサムは冷静さを取り戻していた。何十年と戦場に身をおいた兵士。意表を突かれたのは1回や2回ではない。ギャック軍の残り1万の兵を一気につぎ込み。自身も東の大橋に向かう。西の大橋は膠着状態。流石の剣王及び精兵も密接した地帯で6倍の兵で挑まれ橋より先に進まない。東の大橋を守り切れば、そのまま、西の大橋に周り込み、鋏撃ちできる。


 ハッサムは走りながら、首を振り戦場を見渡す。指揮官にもなれば戦場全体を見渡さなければならないがどうしても一点に集中する。


 まさか、大砲を討つだけじゃないだろうな。


 鋭い眼光が大型船を捕らえる。


 強烈な衝突音と地響き。大型船は陸とぶつかり停滞した。すると、船から人影が溢れる。青いバンダナのトレードマーク、みな屈強な男で薄ら笑いを浮かべギャック兵を見下ろす。手には銛、獲物は目の前といったところ。その中ではひと際見立つ大男が大声で叫んだ。


「よし! お前ら、好きなようにやれ! 1首の値段はマククと同等だ! 海と同じ早い者勝ちだぞ!」


「「おっおー!」」


 人影達が大型船から飛び降り派手な水しぶきが永続的に跳ぶ。魚のよう泳ぎ上陸した先にはギャック兵。東の大橋の両脇に陣を取っていた片側の兵士達だ。狼狽する兵士をよそ眼に獰猛な肉食獣のごとくミレェイの漁師達は襲い掛かった。


やはり、そうきたか。ミレェイ兵の総数は約3万。これで軍の数を見れば10万対8万。しかし、片方の大橋は上から砲弾を撃たれ、もう片方の大橋は剣王がいる。


 ハッサムはこの危機的状態にもかかわらず、口元を緩めた。


「ハァハァハァァァァ!!!!」


 ハッサムのこの場での高笑いに周りの兵達は気が動転したのかと神妙な面持ちで見つめる。しかし、その気は一瞬で晴れた。緩んだ表情筋を一瞬で引き締め、覇気のある声で戦場のギャック兵、全員に聞こえるようにいった。


「ギャック兵に聞く、この戦は負けだ!」


 ハッサムの宣言にギャック兵は目を丸くするもの、唇を噛むもの、溜息をつくもの。反応は様々であったが、皆俯き、見頭を熱くされていた。


 この大橋がバルに奪われる危険性、母国のほこり、なにより、ハッサムの土をつけてしまうことの不甲斐なさ。失意の余り、ぼとぼと武器を落とす兵士達。そこにもう一度覇気のある声が耳に入ってきた。


「だが、この戦は終わらない。わしはここに屍を置こう。剣王と一緒にな。今から剣王の首を狙う。着いてきたいものはわしに続け!」


「おっつー!」


 急ぎ踵を返して、ハッサムは西の大橋に向かう。それに着いてきた兵士は約2万。東の大橋の攻防にいた兵士の残り2万はハッサムを背から撃たれないようにギャック兵、バル兵の盾になっていた。


 猛然と西の大橋に向かうギャック兵の大群。橋の前で、無双の力を見せるズブラは横目でチラッと確認すると、頬を緩めた。


 素晴らしい。戦略性ならば、イノアにも匹敵する才を持っているのでなないか。初陣で、伝達の情報だけでこれだけ読み切るとは。海王の息子、ユタバ・デザラ恐るべし。


 ハッサム達が橋と橋の中間時点まで駆け抜けた。そのとき。


 ドォンっと、再三の爆発音。ハッサムは発信源である左側を向いた。そこには本来、激しくも綺麗に流れるマーレイ川が目に写るだけのはずだったが。そこには数隻の小型船。縦一直線に並ぶ3隻の小型船の上には大砲。その両脇には残りのバル兵が船を橋代わりにして、本来道がない川の中心から奇襲を加える。


 お見事だ。巨大な鉛玉が目の前に迫ったハッサムは笑みを浮かべ悠然と死を受け入れた。


 バル暦887年のちに語り継がれる。カーレン・ギャック国境同時侵攻戦は共にバルの勝利に終わる。カーレン国、ギャック国に勝利を納めたバルはそのまま両国に侵攻、砦を築き同盟を結んだフローラ国、ミレェイ国の領土となった。


 この戦でバルの批評はより高くなり超大国との声が高まった。今まで見てみぬ振りだったフローラとミレェイが同盟を結んだことは衝撃が走った。そして、大陸の気運は高まる。いよいよ、大陸統一を賭けた戦いが始まることを。バルとルバとの雌雄を決する長い戦が始めるとのだと。


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