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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
過去への召喚
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過去⑫

 目を細めるライザにイノアはすかさず声を繋いだ。


「ええ、もちろん。同盟という対等の立場ですが。こちらは同盟をお願いしている立場。ある程度のプラスαは王も了承して下さっています」


「それでなにを貰える。もしかして、イノアをくれるのか。そしたら、二つ返事で承諾するぞ!」


 ニヤリと笑うライザ、もちろん本気でイノアを貰えるとは思っていない。


「その申し出はご勘弁を。こちらとしては大型船5隻と最新鋭の大砲を10門差し上げます」


「おいおい、船と大砲だと。俺のところは海に関するものは全て揃っている。今さら、他の国のものを貰ったって邪魔なだけだ」


「それならば、二ギグクの種はどうでしょうか。こちらでは聞きなれないでしょうが、大陸では有名な果実です。生命力が強く、一度地に植えればあとは雨だけで育ちます。腐りにくく長持ちで、栄養も申し分ない長い漁には最適な食材です。その種を数100個お譲りします。どうですか?」


「うぅ~ん、要らないな。果物なんて口にしたことがない。船の上で腹を壊したら大変だ」


「そうですか、そうしましたら――」


 一瞬、イノアの鋭い眼光がライザを見据えた。


「ギャック国、ルバ国と隣接する海域、そちらに護衛の船を常備されましょう。もちろん、費用は全額こちらが負担します」


 今まではほんの探り合い。これが真打、イノアが交渉のためにズブラと話し合った条件だ。海を主とするミレェイ国。漁の範囲は広く、ミレェイ諸島の海域を大きく超え、大陸の右側全体を狩場とする。すると当然、ほかの国の海兵と接触することがある。迎え撃つか、逃げるか、沈ませるかといった対処をしてきた。襲われた国も、ミレェイの船自体が少ないため、また、ミレェイ諸島までの航海が困難なため見て見ぬふりをしていた。これはこれで、微妙な均衡関係を保っていたが、損なのはミレェイ側だ。迎え撃つにはリスクがあり、逃げるのは狩場の放棄を意味する。それも漁のうちだという認識だったが。


 ライザは脳みそをフル回転されていた。


 まさに、破格の条件。なにか裏があると考えないといけねぇほど。だが、裏はないだろう。イノアとは一回、一緒に海に出た。何週間も船で過ごすとどんな奴かは嫌でもわかる。それと聞こえてくる剣王の噂、総合的に見れば。


「そうだな、惜しい。もう少しおまけをくれないか。なんせ、帝国ルバといずれやり合うことになるだろ」


 ライザは卑しい目をしてほほ笑んだ。イノアは苦味を噛む表情を見せ、ガルバは目を丸くする。応接間は静寂に包まれていた。それを破ったのは。


「どうこうことですか。ルバとやり合うって?」


 口を開いたのはライザの隣、イノアと反対側に座る大男。


「そうです。まだ、ギャックと戦うならわかります。散々、漁の邪魔をされましたから」


 また、隣の中肉中背の男が続き。


「うんうん、辞めるべきだよ。同盟なんていつか裏切られる」


 さらに、隣の太りぎみの男が締めくくった。ライザの息子達が自由に意見をいう中、一番端に腰掛けた眼鏡の少年は口を開くことなく淡々と料理を口に運ぶ。焼き魚を綺麗に骨と身に分けて食していた。


「おい、お前達でも口を挟むな。これは政治の話。全ての権限は海王である俺が所有している。いくら、倅でも意見を述べるな。口を挟みたいなら、早く俺より海を知れ」


 怒鳴り声が室内に響く。テーブルの上の皿も共鳴するほどの大きな声。父でもあり、海王でもあるライザの命は絶対。3人は、顔を暗くして俯いた。


「わりぃな、バカ息子達が邪魔をして」


「そんな、皆。ライザさんの、ミレェイ国を思ってのことですよ。同盟という重要な案件。反対の声があるのが当然です」


「ふぅん、相変わらず口も上手いな。イノアを養子にできれば、後継者問題に頭を悩ます必要もねぇのにな」


「何をおっしゃいます。みな優秀そうな方ではありませんか」


「気遣いはよせよ。それよりも本題だ。今回の同盟でギャック国と戦争をする。それから、行く着く先はバルとルバで大陸は割れる。そしたら、天下統一戦の開幕ってことだろ」


 口をあんぐりと開けるガルバ。ライザは今回の同盟の芯まで読み切っている。


 イノアはより険しい顔になり、ため息混じりにいった。


「そのとおりです。同盟の先までは推測になるのでお話できませんでしたが、我々、バル国としてはゆくゆく、ギャック国はバルとルバで併合される計画です。ここから単刀直入に申します。バル国の天下統一に力を貸して頂きたい。天下を獲るためにはミレェイ国の力が不可欠です」


 重みと覇気のあるはっきりとした声が澄み渡る。言葉の大きさと、イノアの迫力に圧倒される4人だが、ライザは眉1つ動かさない。


「だから、さっきからいっているだろ。少しおまけが欲しいって。うぅ~ん、そうだな、この蒼い海も綺麗だけどな、たまには豊かな緑に囲まれたいときもあってな。そうだ、土地をくれ、豊かな自然に囲まれたところがいい」


「とっ、土地ですか!」


 これにはイノアも驚きを隠せない。海を縄張りとするミレェイがそんなものを欲しがることも予想外だが、それ以上に通常戦争で得る土地を交渉得るなど想定の範囲外だ。


「あぁ、そうだな。緑がいいといっても、生まれてこのかた海と過ごしてきた国だから、海が全くないのは困るな。干からびてしまう。そうだ、グラン港がほしい。どうせ、奪うのだろう」


 イノアの額に汗が流れる。言葉が詰まり、ごくりと息を飲み込む。動揺も隠せないようすだ。


 グラン港、海に面するギャックの中心の港町。もし、バルがギャックを併合できれば取っておきたい土地。経済規模はそれほど大きい。


「お言葉ですが、グラン港は規模が大きく、人口が少ないミレェイ国では切り盛りが大変だと思われますが……」


 歯切れが悪い。このあとのライザの返しは容易に想像できる。それが言い返されないことも。


「それが問題か。だったら、バルに協力を申し出よう。商業のやり方や、足らぬ従業員はミレェイに助けてもらう。両国でグラン港を発展させる。同盟のシンボルにもなるぞ。どうだ、名案だろ!」


 ニヤリと笑うライザ。黄ばんだ歯を覗かせる。


 何が両国のシンボルだ。話を聞いていたガルバは内心毒づいた。グラン港の利益は全部、ミレェイ国が持っていくって話じゃないか。ほんと、盗賊が可愛く見える。完全にこっちの足元を見られているぞ。しっかりしろよ、隊長。


 横目でイノアの顔を覗くと、目が合った。すると、口を開き、言葉にはならないような声で、ガルバだけに伝わる声でいった。


「ここからは頼む」


 はぁ?っと叫びそうな衝動は唇を噛んで抑える。


 何をいっている。バル国の経済を左右しかねない重要局面だぞ。それを俺なんかに。


 この交渉には元盗賊団であるおガルバの交渉術が必要だ。脳裏に蘇ったのは出港前のイノアの言葉。


 どういうことだ。盗賊時代の交渉術なんて。あんなもの、脅して、従わなければ徐々に要求を緩めるだけだ。始めに吹っかけているから少し要求が下がってもこっちとすれが問題はないし、相手もそれならと飲みやすくなる。俺にはそんなことしか…………。


 眉が急激に上がり、はっとする。


 そうか、交渉のやり方は俺を同じだ。だったら……、この場にはイノアさんがいる大抵の条件はあとで王に説得してくれるだとう。


 顔を上げてライザの瞳を覗く。その視線は雷鳴盗賊団の頃と瓜二つ。


「グラン港をそっちにやるなら、こっちにも条件がある」


 急に口を挟んだガルバに視線が集まる。自分よりも年上の男達の眼光を浴びながらも、そんなことに臆するガルバではない。


「条件だと。貴様、立場は分かっているのか?」


 目の奥に眠る猛獣の瞳を隠さずライザはガルバを睨む。ここはお前の入る世界ではないと苦言を示すように。


「ああ、わかっているさ。条件といってもバルだけに有利な案じゃないさっきの提案みたいにな」


「ほぅ、なんだ。小僧」


「俺からは、両国で軍事交換を提案する」


「軍事交換?」


「まぁ、簡単なことだ。両国の軍の一部を交換するだけ。交換した軍はその国のルールに従う。ただし、軍の規模は両国に隔たりがあるから、交換する数は互いの比率でいいぞ」


 ガルバが説明を終えるとライザは口元を締めた。瞬きが少し増え動揺が隠せないようすだ。


 肩を下ろしたガルバ、横目で視線を送るとイノアが少しはにかんでいた。


 これで、正解だったか。ガルバは深いため息を吐き背もたれに体を預けた。


 軍事交換、一見すると両国平等に見えるが不平等である。規模は両国の比率によるが、大国のバルと島国のミレェイでは軍の数は約100倍にものぼる。つまり、ミレェイが100人送れば、バルは1万の軍を送ることになる。それだけで、数はバル軍がミレェイ軍を超す、軍隊の実権は実質バル国が握ることになる。完全は不平等条約であった。


 しかし、それがわかっていてもライザは首を振れない。なぜなら、表向きは互いの軍事理解、向上を深めるための条約に過ぎないのだ。裏にある、バル国が軍事を握る意図を指摘すると。今度はグラン港の経済をミレェイ国が牛耳るといった裏を指摘される。


 交渉が失敗して困るのはバル国の方だが、みすみす大金を逃すのは惜しい。ライザはもう一度ガルバを睨む。


「まさか、こちら側と同じ思考を持つ者がバル国にいるとは思いませんでした」


 ふいに声がした。今まで全く口を閉ざしていた眼鏡の男。他の3人は上の空。ガルバの話に全く理解できていない。だが、眼鏡の男は違う。羨望の眼差しガルバに向けていた。ただ、賞賛しているのだろう。両国の最優先事項の違いと、交渉の流れを利用したガルバに。


「ああ、全くそのとおりだ。ユタバ、まさか、こっちが金に汚いことを逆手に取られるとはな。わかった。ミレェイ国代表、海王ライザ・デザラ。バル国との同盟を承諾する」


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