表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
過去への召喚
57/89

過去⑩

 道なき道。その言葉に何一つ誇張がない。木の上、本来、鳥や獣の寝床がフローラ国に続く道であった。


 イリリは小型ナイフで木の幹に突き刺し、それによじ登ってまた小型ナイフを突き刺す。一度に登れるのは数十㎝。これを何十回も続ける。当然、木の枝もあるが余りにも細い。少しでも足を掛ければ簡単に折れるだろう。よって、ひたすら芋虫のように木の幹を垂直に登るしかない。


 こんな木々の上に人の集落あるとは思えないのですが…………。聞いたら、「登ったら全てわかります」といわれますと。なかなか大変ですけど、仕方ないですね。


 軍服が木の幹に擦れ汚れることも気にせず、先を進むイリリを追った。イリリの手際は順調だ。ナイフを刺して、体を引き寄せ、足を掛ける。一連の造作が滑らかにおこなわれる。経験があることは確かなようだ。


「王女さま。もうすぐです」


 イリリは既に地上から50メートル程上に到達。脇には一層生い茂る枝と葉でイリリが隠れそうだ。


「もう少し待ってください」


 勢い良くナイフで刺し体を引き寄せる。イリリから遅れること数分。スフラも辿り着いた。高くそびえ立つ大木の1つ。最頂部付近までスフラとイリリは登り切った。


「なるほど、こういう種でしたか」


 スフラとイリリは枝に腰を下ろしていた。大木はある一定の高さから枝の太さは何倍にもなり人が座っても跳ねても折れることはないだろう。枝の大きさはどの大木と同等。所々、木材で敷き詰められた道のようなもの通っている。下から見ると葉に隠れて、太い枝は見えないだろう。


「森の守りは枝を伐採することです。村の下地になっている以外の枝を切って、敵を抑止すると共に、栄養を集中させます」


「これでは見つからないはずです。バル軍も攻めずによかった。迷いの森をいわれる由縁は、木の上に潜んで道しるべをこっそりと消すためですね。迷わないための印がなくなる。迷うのも当然ですね」


「そのとおり迷いの森は人工的に作り出されたもの。さぁ、ここが入り口です」


 イリリが指差したのは枝と木材で形成された道の奥、入り組んだ木の枝が絡めっているがぽっかりとトンネルの穴のようなもの。陽の日差しがより一層強く輝いている。


 イリリは光に向かい歩いていく。木の枝は垂れることなくミシミシと音を立てることもなく大地と同じようにイリリの歩みを受け止めている。それを確かめるとスフラも後を着いて行った。


「ここはしゃがんでくくりましょう」


 腰を曲げたイリリはトンネルの前に着いた。スフラも隣で腰を曲げる。


その時だった。


「この、不審者どもっ!」


 声と同時に疾風のごとくそれは現れた。一瞬、光を影に、そして、一瞬で元の光に。誰かがトンネルから姿を現すとイリリの背後に周り手元に携帯された銀色を首元に当てた。


「その子を離しなさい!」


 腰に携えた宝刀をいつでも抜く構え、スフラの居合切りの範囲内だ。目はまじまじと、イリリを捕らえた人物を見る。綺麗で長いピンクの髪、小さな顔に垂れ目がチャーミング、服装は緑を基調としたワンピース。年はスフラとそう変わらない見た目だが、すでにたわわな胸をもっている。


 羨ましですね……って、そんな場合ではありません。


「侵入者がどの口聞いているの~? ここフローラ国の入り口を見つめた人はただでは返さないからね。女の子もたまにはいいな~、あとで楽しみにね!」


 女の子は垂れ目をくしゃくしゃにして、唇を舌で濡らした。


「もう一度いいます! その子を離しなさい。私達は侵入者ではありません。バル国を代表してフローラ国との会談に参りました」


「バル国の代表? ふざけないで、あんな侵略国家の代表があんたみたいな小娘なわけが――」


「小娘で国の重要ポストに就いているのはあなたもですよね。レミねぇ」


 女の子は、言葉を止め。首を下げて自分が脅している相手の顔を確認すると、垂れ目が一瞬にして、吊り上がる。


「えっ! リリちゃん!」


「王女さまご紹介いたします。こちら、フローラ軍、警備軍副隊長。レミアン・ナッザです」


 自由になったイリリはレミアンの紹介を始めた。


「先ほどは大変なご無礼を。まさか、リリちゃんの知り合いとは。本当に失礼いたしました」


 緊張感は既に切れ、垂れ目が更に垂れさがる。温和ながら妖艶な空気を纏いレミアンは頭を下げた。


「いえ、何の許可なく国に足を踏み入れようとしたこちらが無礼でした。あなたは国を守る兵士として当然の役割を果たしました」


「そういって頂けると有難いです。リリちゃんを殺そうとしたなどと知られれば私の首が飛びます。何せ、リリちゃんは森の民の一員ですから。それが、どうして侵略国家の軍服など着させてられるのか、あとで説明してもらえますか! 剣王の娘さん」


 森を国家としているフローラに国にとって、外部の情報は余り必要ない。もちろん、諜報部隊は存在しているが最小数。情報の獲得はこちらの情報も危惧しなくてはならない、フローラには情報を得るよりも流されるほうが圧倒的に危険だ。そのため、ショーミ兄弟の名はここまで広がっていない。バル国の情報は剣王の号令の元、強固な軍を投入し次から次へと領土を奪う。侵略国家という印象だ。


「違います。レミねぇ、私達は自ら望んでバル軍に――」


「うぅ~ん、今はその話はいいよ。リリちゃんが帰ってきたって知ったらみんな喜ぶから、早く中に入ろうか。お連れの方もどうぞ」


 レミアンの顔は笑顔だったが、スフラに向けるその目は凍てつくオーラを放っていた。


 レミアンの先導の元、光のトンネルを潜る。屈んで覗くとかなりの長さであることがわかり、フローラ国は何度目を細めて見ても光に遮られて見えない。一番小柄なイリリでも、トンネルを通るときは、ほふく前進で進む。体で落ち葉を踏む感覚。森の匂いはより一層強くなる。軍服には落ち葉を擦った緑の汚れがデザインと化したころ。トンネルの光が強くなり、視界が開ける。


「ここが、フローラ国ですか――――」


 光のトンネルを出たスフラは、目の前の光景にただ茫然とするだけだった。


 木々の隙間に煉瓦が並べられ、ずらっと住居が並ぶ。大地の代わりに木材の床。広々とした空間には人が行きかい、側面の並ぶ店舗で買い物や、食事を楽しんでいる。家や店の脇に木々が生え、木の葉が舞うこと以外は何ら普通の街並みと変わりない。


「フローラ国とミレェイ国の軍事規模は中国並みです」そんなバカげた話をしたイノアの言葉を思い出す。


 あれは同盟作戦の許しを乞うために誇張していったものだと思っていましたが、少なくとも文化水準はうちと変わりないようですね。


「じゃあ、森長がいる神樹にいこっか! きっと、驚くよ~。そっちも、用があるのでしょ」


「はい、よろしくお願いします」


 スフラは軽く会釈したが余計にレミアンの気に障ったのか。プイっと視線を外しドスドスと音を立てながら大通りを進んでいく。


「すみません。王女さま。悪い人ではないのですが…………」


「いえ、気にしていません。早く着いていきましょう」


 イリリは申し訳ないとった表情だが、スフラは気にするようすはなく少し小走りで先を行くレミアンに着いていった。


 繁華街を抜けると、細い分かれ道が4つ。レミアンは一番左の道に進むと、先ほどのような賑わいはなく、木材の床を踏む音だけが静かにこだまする。


 随分と進んだ感覚、もう小一時間程経ったころ。スフラの脳裏に不安が広がっていく。


本当に森長と会わせる気があるのでしょうか。レミアンさんを信用しても――――。


視線は前を行くイリリに移った。レミアンの次に歩くイリリは何の文句も言わず歩く。


なら、大丈夫ですよね。本当はイリリにあとどれぐらいで着くのか聞きたいところですが、それをすれば私がレミアンさんを信用していないと示すことになる。同盟を目的とした来訪でそれはまずい。ここは耐えましょう。


 そんなスフラの思考を鼻で笑うように、この進行はもう1時間続いた。


これ以上の時間が掛かると、あちら側にも迷惑が掛かってします。最悪、先の作戦が実行できなくなる場合も。


唾を飲み込み、決意を固める


 意を決して、スフラは口を開いた。


「すみません。あと、どれほどの――――」


「ここよ」


 スフラの決死の一言を遮ったレミアン。立ち止まったのは道の果てだった。細い道は途絶え、木々が周囲を囲む。


「そこには何も……」


「いえ、王女さま。ここから下に降りると森を統べる木、神樹の幹が見えます。代々、森長は神樹に寄り添い森を守っています」


「神樹に寄り添い守るのですか?」


「降りれば、全部わかるわよ。フローラ国の全てが」


 登るときと同じ要領で、ナイフを刺しながら降りる。下に下に刺していくため、登りよりも難しいが、一定の高さまで下るとあとは一瞬だ。


 落ち葉を踏む音が荒々しく森を揺らす。音の根は3つだ。


 腰を曲げ着地したスフラが前を向く。


 ひと際大きな大樹が目の前に、周囲の大木の倍以上の大きさの幹。そこから伸びる枝は太く幾多別れ、その先は他と枝と深く絡まっているようだ。そして、幹に背もたれを預ける女性。


 年齢はかなりの高齢。白髪の長い髪、小さな顔は皺でくしゃくしゃで梅干しのようだ。背は小さく。服装は緑の着物のうえにミノムシのような茶色の藁で体を包んでいる。


「この方が、フローラ国の長、森長 ホホムラ・ナッザです」


 ホホムラと呼ばれた女性は小さく相槌を打つ。


「お初にお目にかかります。私は――――」


「よい、名は既に把握しておる。破壊の姫よ。それで、こんな陳腐な場所に何用か?」


 目尻が一瞬上がったが、直ぐに元の冷静な顔に戻す。


 破壊の姫なんて名前ではないといいそうになったが、ぐっと堪え、服の中に忍ばせてあった書簡を取り出した。


「詳しい内容はこちらに記載しておりますが、先に案件を述べますと、このたびは我がバル国と同盟を結んでもらいたく参上いたしました」


 スフラは膝を付き、ホホムラに書簡を手渡す。


「はっ! ふざけないで!」


 声を荒げたのはレミアンだ。


「私達、森の民は平和主義なの。それを野蛮な侵略国家と同盟だなんて、結ぶわけがないでしょ!」


「レミねぇ、今の諸外国の情報は耳に入っていますか。このままではこのフローラ国はルバの侵略を受けます」


「リリちゃん、本当にどうしちゃったの。本当にバル軍なんかに、どうして、あんなにイノアにいと一緒に平和はいいものだ。もっと、世界中を旅できるようになりたいって!」


「今回の同盟を発案したのは兄さんです。今は諸事情でいませんが、お兄さんも私も望んでバル軍に加わりました。それは道の行く先が同じだからです。そして、それは森の民も同じはずです」


「リリちゃん……」


「2人とも、少し席を外しておくれ。破壊の姫と話がしたい」


 レミアンが振り向くと書簡を読み終えたホホムラが重い瞼を開き、細い目で見据える。


「「わかりました」」


 ギィっと刃物が突く音が途絶えた。席を外すように言われた2人は再び木の上に登り始める。神樹の根本には僅かなスペースしかなく、遠くに離れようとしても高くそびえ立つ大木が進路を拒絶する。よって、レミアンとイリリはもう一度大木を登るしかなかった。


「さて、なにから話そうかの破壊の姫よ」


 まるで魔女のような不気味で畏怖漂う視線をスフラに送る。


「では、同盟の返答の前に1つ質問をいいですか?」


 普通の女の子なら泣きじゃくるほどの恐怖感があるが、幾多の死線を超えてきたスフラには通用しない。


「なんじゃ?」


「どこで、破壊の姫の名を?」


 破壊の姫、周辺国でのスフラの2つ名だ。戦場を縦横無尽に駆け巡り宝剣を振るう姿は剣王の面影を残し、それでいて獰猛な戦い方は鬼神を連想された。そこからきた名は破壊の姫。彼女の隊と戦闘するときは倍以上の兵を用意すべしといわれている。


 しかし、それも大陸の中央で覇権を争っている国の話。乱世から隠居状態のフローラ国、いくら、森の長ともいっても知っているのは不自然ではないか。明らかにスフラの姿を確認して破壊の姫といった。


 私の姿も割れていますか。そこまで有名になった、と自惚れる気はありません。どうやらイノアの推測が当たっているようです。


「なぁに、有名じゃぞ。剣王の娘が戦で大暴れしておると」


「それはそれはお恥ずかしい限りです。これからは王女らしくお人やかに戦いますね」


 にこっとスフラは笑顔を振りまく。


「そうか。では、こちらから質問をいいか。国の答えではなく、スフラ姫。あなた自身の声が聞きたい」


 眼球は鋭く、スフラの体まで硬直させる。


「どのようなことでもこちらは構いません」


「ではな、このまま戦争を繰り返し、どこまで行きつく気じゃ。そちらがもしも大陸を統一しても何もこの世は変わりませぬ。また、どこかで戦争の火種が生まれやがて大陸全土で大火事が起きる。それをそなたたちは望みか、一時的な荒野を欲しているのか」


 書簡の内容は同盟の締結の他に、このたびの作戦の行く末。国をバルとルバにすること。そして、ルバを滅ぼし大陸統一を果たす。さすれば、世界に平和が訪れるだろうと書かれていた。


「いえ、違います」


「ほぅ、まさか大陸統一をしただけで、世界が平和になるとバカな夢をみているのか?」


「それも違います。私の、私達の願いはみんなを笑顔にすることです。大陸統一はその第一段階に過ぎません。まずは私達の願いを叶えるために、大陸全ての人々を考えられるようにしなくてはなりません。そのための大陸統一です」


 そう言い切ったスフラの目をホホムラはじっと見つめていた。


「それなら多くの人を犠牲にしてもいいのか?」


「いえ、それは本来許されるものではありません。しかし、今はそのすべがない。私達は最善をするしかない。そのための同盟です。どうかよろしくお願いいたします」


 スフラはゆっくりと深く頭を下げた。


 ホホムラはゆっくりと目を閉じる。数秒の沈黙のあと口を開いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ