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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
過去への召喚
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過去⑥

「今度は僕から仕掛けましょう」


 駆け出したイノアのスピードはこれまでと変わらない。目に見える速度では足に傷があっても関係ないようだ。これまでと同じように、黒刀の一閃。少なくとも周りの観客からはそう見えた。だが、スフラの脳裏には違和感が過ぎる。


 おかしい。何か不自然です。何かこれまでと違う。


 胸騒ぎを感じながらも、黒刀に対処すべく、宝刀を横に薙ぎ払う。それも、スフラの全力で。耳朶に響く鈍い音。一方的に宝刀が黒刀を押し切り、イノアごと吹っ飛んだ。


「そんなっ! みねうちですって」


 眉間ひそめる。この期に及んで、手加減されたのかと。だが、疑惑はすぐに払拭された。宙を浮かぶ2つの玉。小さな黒い玉、小さな豆ぐらい。互いにぶつかると破裂音を発生させた。


 両手を顔の前でクロスさせる。この距離での爆破はもう避けられるものではない。致命傷を避けるためのガード、同時に後ろに引き下がる。


 あれは小型爆弾。仕組みは簡単でしょう。内部にビー玉が通るほどの空洞を開け、火薬玉を仕組む。空洞の通路は二段に、柄の付近には二段を行き来する通路。必ず、天に掲げるのは刀身を上にすることで火薬玉を柄付近に収める。刀身で斬るときはそのまま火薬玉も刀身の先に進む。火薬玉は行き止まりで止まるだけ。反対に逆の峰内側から僅かに空けた穴から火薬玉が飛び出す。穴の近くに薄い鉄版を仕込めば摩擦熱で着火、外に飛び出したときに爆破。見事な仕込み刀です。見たことも聞いたこともありません。住宅街の無残な姿はこの爆破で破壊、逃げる敵を超スピードで追いかける。何千人に勝つのはあながちどころか、十分に可能ですね。


 黒い煙のなか、苦笑いを浮かべるスフラに、黒い閃光が襲いかかったが、白の閃光が一筋。


 煙幕の中、スフラの視界は暗黙。そのなかでも、スフラは正確に黒刀の軌道に合わせ、イノアの身体を吹っ飛ばした。完全に不意をついた一撃は簡単に返された。予測の範囲外の反撃に、よろめきながらも着地し今度はイノアが苦笑いを浮かべる。


「王女さまには何が見えているのですか?」


 そういうほど、煙幕の中でも視界は良好、そう考えるほどスフラの剣は正確だった。


「いえ、見えているのではありません。感じているのです」


「感じている? それは、このフェバルの花には王族だけに声が聞こえるという都市伝説と関係しているのですか?」


 フェバル、この国を象徴とされている花。王都のいたるところで植えられ、これを目にしない日はない。この花がこれほど重宝されているのかはこの国の歴史にあった。綺麗な花であるが、それなら他にもたくさんある。医療用に役立つこともない。それどころか、蕾に僅かな力が加われば蕾は開かない。非常に手間がかかる花、そんな花が王都中に花開く理由は昔々、何年前かわからないほどの時の昔。まだ、バル国建国前、生きる場所を放浪としていた人々がいた。縄張り争いに負け、飢えに苦しむ。果てに、リーダーの男が何かの声を聞いた。声に導かれ進むとそこには誰の手にも落ちてない。豊かな自然が広がった領土を見つけた。そこが現在の王都で、その集団のリーダーが王族の先祖をいわれている。


 「感じているのです」といったスフラにイノアはこの伝承を思い出した。


「私もお父さまもフェバルの声は聴いたことはありません。それと関係しているのかはわかりませんが、肌に纏わりつく煙幕の気流の変化から、攻撃を読み取りました」


「肌?」


「はい、私たちはとても敏感肌なのです」


「よくわかりませんけど、…………わかりました」


 首を捻りながら、言葉を返した。


「要するに、王女さまに煙幕は通じないってことですね。ならば」


 イノアは峰内のまま黒刀を振り3つ小さな黒い粒が飛んできた。


 ひとまずスフラは距離と取った。爆破を避けるためにはスタンダードな行動だ。


「…………って、爆破しない!」


 視線は前方に飛ぶ火薬玉、爆発することなく、ただのビー玉のようにぽつんと地面に落ちた。


「続いて、いきますよ!」


 息突く暇もなく、矢継ぎ早に火薬玉を繰り出し、イノア自身も突っ込む。


 これもカモフラージュ? いえ考えている時間はない。


 バックステップで火薬玉を躱すと、破裂音が続けて3回。どうやら、今回は火が着いていたようだ。煙幕で視界は覆う。直接、スフラに煙幕が触れないぶん、いつイノアから黒い閃光が繰り出されるのかわからない。


 それにここはどう考えても!


 スフラは力を両足に集中させた。次の瞬間、煙幕の中から、火薬玉が飛び出した。


「っと!」


 目は見開き、口を開ける。急いで、跳躍寸前であった足をなんとか地面に留めた。


 イノアはスフラが煙幕の中、火薬玉で攻撃されたときに、跳躍するのは予想していた。火薬玉は4つ、全てがスフラの頭上を的にしていた。


 そういえば、これで1本取ったばっかりですね。微笑を浮かべたスフラだが、すぐに気を引き締めた。風が吹き、煙幕は消えかける。それでも、残る黒煙から一閃の黒光り。


 鋭いイノアの突き、火花が散る。スフラは防御で精一杯。突き出された黒刀、宝刀を横にして防いだ。


「危ない、ギリギリでした」


 こめかみが震えるが、表情は明るく振る舞う。しかし、奥歯を噛みしめているのは丸わかりだ。圧倒的に不利だが押し返せる。両腕に力を込めようとしたそのとき。


「もう、わかっていると思いますが、火薬玉の爆破時期は思い通りにできます」


 脈略なくそうはなすイノアに、スフラは鋭い視線を浴びせる。


 何のはなし? 集中力を乱すため、そんなことする人じゃあ……。


「そして、それは刀から飛び出してからも可能なのです。一定の条件を満たせば」


 そういいながら、幾度とみせた爽やかな笑顔を向けると。カァンという鈍い音が小さく鳴った。イノアの足元から発生した音。スフラが目線を下げると、コロコロと黒い玉が転がっていた。赤みを帯びながら。


 反応する手段がない、いくらパワーで優っていても、ギリギリのライン。ここから宝刀を引けばすぐさま黒光が一閃を放つだろう。


 そうか、始めの爆破しなかった火薬玉はこのための。靴底に金属版を仕込んでいましたか。スフラにはもう冷静にそう分析し。少し、頬を緩める。


 足元を過ぎた辺りで赤みは最高峰に黒色の影もない。


「完敗です。イノアさん」


 何故か清々しい笑顔で、火炎玉の爆破を受け入れた。



「スフラ! スフラ! 起きなさい」


 意識の外から、耳を撃つ、聞きなれた声。スフラは急いで目を開けた。


 視界は薄暗い。もう、時刻は夜のようだ。スフラを囲うように、人が集まり視線を送る。その中にスフラと顔馴染みの人物が。先の戦闘で勝ったイリリと、負けたイノア。それと見物人と化していた受験者。それとは別の2人の男。


「負けたな、スフラ」


「お嬢さん、負けるとはおもってなかっただろ!」


 ズブラとレンが脇に立っていた。確認すると、羽織ってあった毛布を、吹き飛ばし、立ち上がった。


「お父さま! レンさん! どうして、ここに!」


 狼狽しながら、首を左右に振る。確か、試験が終わるまで、ズブラとレンは王城に待機する手筈だ。


「もう、試験は終わったからな、迎えにきたよ」


 試験は日の出まで、今はどうみても夜、スフラの体感では9時ぐらい。それがもう終了ということはイノアのいったことが正しいかったのだろう。


 本当に、他の4つの街はショーミ兄弟に倒された、棄権したということですか。もう、疑わないですけど。


自身、破れたイノアの強さを疑うことなどもうない。


「そうですか。すみません、お役目を果たせませんでした。受験者の力量を計ることが任務だと気づいていたのですけど、剣を交えたのはたった3人。申し訳ございません」


 頭を下げるスフラだが、レンが首を振った。


「おいおい、十分だ。俺達もお嬢さんと相手になる受験者も、まさか勝つ受験者がいるとは思わなかった。それも、年も変わらない受験者でな」


 レンの視線はイノアとイリリに。イノアは軽く会釈して、イリリは口角が上がる。鬼神のレンに褒められた、大陸中に自慢できる栄誉なことだ。


「イノア・ショーミ、イリリ・ショーミ。こちらにきなさい」


 ズブラの呼びかけに背筋を伸ばし、すぐに駆け寄り膝を付けて頭を下げた。


「あとで正式に伝文を送るが、この場で結果を伝えよう。イノア・ショーミ、イリリ・ショーミを軍幹部候補生として、我がバル軍に迎える」


「「ありがとうございます」」


 こうして、軍幹部候補生選抜試験は合格者2名。なお、補欠合格者として、38名が合格。一般の兵士として組み込められることになった。




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