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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
過去への召喚
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過去④

「早く治療を始めましょう。王女さまが倒れることになれば一大事です」


 白い煉瓦の橋。真ん中辺りで座る2人の少女。1人は至るところから血が流れ、もう一方は無傷に近い。一見するとどちらが勝利したのかわからない。


 イリリに促され、スフラは硬い煉瓦の上で横になると、胸ポケットから紺色のポーチを取り出した。薬や、包帯、メスなどが入った治療道具だ。


「そんなに心配しなくても大丈夫です。致命傷は避けましたから」


 そういって微笑むスフラ。表情は痩せ我慢なところはあるが、言葉は真実だろう。根拠に溢れる血は徐々に少なくなっている。スフラの無謀にも思えた突進は、算段のあってのこと。それがわかるとイリリは改めて、肩をがっくりと下げた。


「自惚れるつもりはありませんが、かなりの腕だと自負していたのですが」


「そう悲観することありません。イリリさんは十分にお強いですよ。正直な話し一般の兵士よりも」


「そういっていただけるとありがたいですが、王女さまはもっと早く決着を付けられたはずです」


 先ほどの攻防の中で、宝刀がロングソードを貫いたとき、本来ならばイリリの身体も突けていた。戦闘が終わって冷静になると思い返される。


「ばれていましたか。言い訳になりますけど、決して手を抜いたわけではありません。ただ、せっかく出会えた好敵手、もっと長く手合わせを願いたいと思ってしまって。気分を悪くさせたのなら、申し訳ありません」


「ちっと! やめてください、王女さまが頭を下げるなんて!」


 寝転ぶ身体をお越して、頭を下げようとするスフラをイリリは慌てて止めた。


「でも――。私の軽率な行動で傷つけたなら謝るべきです。すみませんでした」


 イリリの静止を振り切り、スフラは頭を下げた。イリリはただ目を丸くするばかり。バル王国の歴史は古い、建国以来バル一族が国を治めている。愚王でもなく、賢王でもない、不平不満がないわけでもないが、革命を起こそうというまででもない。平凡な王族。ズブラが即位するまではそれが王の認識だったが、ここ数年の快進撃によって、評価はうなぎのぼり。今では王を神のように称える。娘のスフラも同様であった。スフラが自らの過失を認め、頭を下げたのだ。


「謝るのはこちらです。王女さまに向かってケチを着けるようなことをいって」


「いえ」


 軽く返事をして、スフラは治療を開始する。まずは、傷薬を傷口に塗ったあと包帯で出血を止める。


「では、王女さまこれらを」


 イリリは胸にあるフェバルを一輪、一輪取り出しスフラに渡す。スフラがすぐさまフェバルを要求しなかったのは、イリリを信頼しているからだ。彼女なら逃げることなどないだろう。それに元々フェバルの所有数に興味がない。


「今では、この数のフェバルも納得です。チームもイリリさんが指揮したのでしょう。よかったら、その人達にも会いたいです。出来れば手合わせも」


「いえ、私が指揮したのではありません。それとチームはあと1人です」


 スフラの目が見開いた。唖然とするスフラの顔にイリリは少し頬を緩ませ。


「あと1人! つまり、2人でその数のフェバルを手に入れたのですか!」


 慌てた口調のスフラに対し、イリリはゆっくりと口を開いた。


「このフェバルは一部です。そうですね、ならば、王女さまにも半分をあげないと駄目なのですが、数が多過ぎで身に付けられないのです」


「数が多過ぎて! いったい何人倒したのですか?」


「数はちょっとわかりません」


「わからない? どういうこと?」


「私達は東街からスタートして、南街、西街、中街の受験者の大半を倒してきました」


「3つの街の受験者を!」


「はい、途中で棄権した受験者が半分ぐらいでしたけど」


 驚愕の数字だ。受験者は約1万人。単純に割って3つのエリアには7500百人。半分でも3750人。それをたった2人で葬ったといっている。


「疑う訳ではありませんが、本当ですか?」


 試験開始から約10時間。スフラでもその時間でこの人数を相手にするのは不可能だ。


「はい、もちろん。戦いましたが、多くは兄の戦略によるものです。決闘などで手に入れたフェバルはほんのわずかです」


 なるほど、戦略で。なくはないですかね。イリリさんが嘘をいっているとも思えませんし。


「それならイリリさんのお兄さんは尋常ならざる頭脳を持っているようですね。賢の兄に武の妹。いいコンビです」


 褒めたて得るスフラにイリリはブルブルと首を振る。


「いえいえ、私の兄は私なんかよりも強いです。私が手も足もでないくらいに」


「えっ!」


 随所で様子を見たことはあったが、スフラは全力で戦いに挑んだ。結果、勝利を得たが肉薄の勝利であった。


「ご無礼を承知でいいますけれど、おそらく王女さまよりも強いですよ。私の兄、イノア・シューミは」


 不遜な発言とイリリも自覚はしているが、頬が少し吊り上がる。自慢の兄を誇らしさはひしひしと伝わってくる。


「それなら、より一層お手合わせを願いたいですね」


 スフラは笑顔だが、ルビーの瞳は輝く、12才で戦場を希望するスフラは負けず嫌いに決まっている。


 もしかすると、その人が―――――。


 ネザマスラを揺るがす出会いまであと数時間を切っていた。


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