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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
過去への召喚
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イノアの語り

暗い、暗い。ここはどこだ。あれは誰だ。闇の奥にいる人物。長い髪にルビー色の瞳、ああ、俺が心から愛し助けたい女。彼女の理想と、俺自身の理想を叶えるために、俺は戦わなければならない。勝たなければならなかった…………。


 そうだ、俺は……負けた…………。


 はっとして目を開く。ようやく自分は眠っていたと理解した。


 どこだ……?


 視界に広がるのはこれまで見たことのない景色。薄暗い曇雲が空を覆う。窓はなく、黒い壁や床は随所に破損している。ボロボロの城、半分以上損壊された枠組みからそう推測させる。人が住むようなところではない。


 どうして、こんなところに。俺は確かミレェイで人型の『厄気』と戦闘に負けて、他の兵士は? ユタバはどこだ?


「目が覚めたか」


 視線を横に向ける。砕けた床に無造作に生えた草。ぽつりと置かれた椅子。木材で生産されているが所々黒焦げ、いつ壊れてもおかしくない。


 椅子に座っている1人の男。茶髪の短髪にくっきりとした二重まぶた。高い鼻筋に薄い唇。爽やかな印象は陰湿な廃墟の雰囲気に似合わない。


「確か、イノア……」


 こいつは『厄気』のリーダー、そして…………。


 ユタバが驚き、放った言葉を思い出す。


 元軍総司令官で、次期国王。それにスフラの…………婚約者。


 ゆっくりと腰を上げ、健一に近づいてくる。反射的に体を起き上がり、ポケットからフェバルとタバコを取り出そうとする。いつもの感触がない。ポケットから全ての『媒体』とフェバルが消えていた。


 内心舌打ちをした。


 当然か、武器を奪われるのは。たぶん、ここは『厄気』の陣営、ルバってとこだろう。そして、俺は捕虜扱いか。


 状況を理解した健一はイノアを睨む。敵意の塊を存分に投げつける。それを感じたのか、イノアはふぅっと大きな溜息をつき。大きく肩を落とした。


「そう身構えないでくれ。疲れているだろう。悪いな、簡易なベッドすらなくて、よかったらここに座らないか。いつまでも床の上に寝転がらせるのは申し訳がない」


 丁寧な物腰と優しい声、まるでホテルに訪れた客をもてなしているようだ。


「お前は何を? 俺は捕虜だろ、拷問でもして情報を聞き出すのではないのか?」


「いやいやいや、そんな物騒なことはしないよ。前にもいったとおり。ただ、話がしたいだけです。だから、かなり強引だけどここに連れてきました。本当に申し訳ないと思っています」


 そういうとイノアは頭を下げた。


何だこいつ、『厄気』のリーダー? それとも人? 裏切り者か?


 「話? だったらお前は何者だ!」


 一番の疑問を愚直にぶつけた。


「そうですね。難しい――――。何といっていいのか。人でもあり、『厄気』でもある存在ですかね」


 イノアの発言に首を傾げる健一。全く意味がわからないといったようすだ。


「心配しなくても、話を聞けば全てお分かり頂けるかと思います」


「話って何の話だ?」


「そうですね。この世界の過去の話。もっと、明確にいえばスフラの過去とこの世界の真実です」


 スフラの過去! 


「そんなこと俺だって聞いている。スフラは――。


 健一は自分が知っているスフラのことを話した。全時代から戦場に立ち、父親である国王が亡くなってからも、くすぶることはなく国と軍を率い、『厄気』と戦う。自分の理想に一生懸命で、異世界から俺を召喚してこの世界を救おうとしている。


「それだけですか」


 長らくマシンガントークのあとイノアの感想は素気ないものであった。


 それだけって、こいつ! でも、確か……。


「お前がスフラの婚約者というのは本当か!」


 意を決して聞いたが、返答はまたしても、味気ない。


「そうだったな。しかし、それはもう無理なこと。でも、いまはそんなことどうでもいい」


「どうでもいいだと!」


 目が吊り上がり、目玉が前に出る。


「いや、勘違いしないでくれ。いまもスフラのことを愛している」


 今度は眉が歪む。


 愛しているだと! お前はスフラを倒しただろ!


今にも吠えようとするが、イノアの言葉に止められる。


「それなのにどうして、『厄気』を率いて戦争を起こしているって顔をしていますね。当然のことだと思います。しかし、私も話を聞けば全て納得してくれると願っています。あなたなら」


「はっ? 意味わかんねぇけど、何を吹き込む気だ!」


「いえ、そんなつもりはありません。しかし、そうですね。一方的に全てを話すのはこちら側の勝手です。もし、よろしかったら――」


 そういうとイノアは軍服の腰から短剣を取り出した。反射的に立ち上がり反応するが、『媒体』もフェバルも没収させていることに気づき、再び座りこんだ。


「あなたは知らないでしょうが、この世界に、スフラについて、あなたは重大な要素になっています。あなたは聞かないほうがいいかもしれません。突然、この世界に連れてこられた、有なれば被害者なのですから。ここでお別れでも構いません」


 イノアはケンイチの前まで近づくと短剣を心臓の前に突き出した。


 早まる心拍数、死は目の前。そこで健一は思い出す。俺はこの世界では死んでも死なない。


「確かあなたはこの世界で死ぬと元の世界に戻りますよね。だったら、ここで帰りますか?正直、もうこの世界に関わらないほうがあなたのためだと思います」


「はぁ! さっきから、お前の話は意味わかんねえよ! もういいからささっと話ってのを聞かせろ! どうせ、ほらか、何かだろ!」


「後悔しますよ」


 聞き覚えのある響きだ。とても覇気のある声はイリリを思わせた。


「後悔ならしねぇ、俺はこの世界でスフラと俺の理想を叶える。そのあと、ウキウキの異世界ライフを送る!」


 イノアは目線を下に巡らせ、口を細める。大きな溜息をつくと、先ほどと同じく覇気のある声で話した。


「決意は固いようですね。さすが、救世主です」


 お前がそれをいうか!っと内心毒づくが表情にしか出さない。目は今にも襲いかかりそうなほど、怒りの色をおびる。ゆっくりと首を縦に振った。


「わかりました。では、お話しましょう。世界の真実を、『錬術』と『厄気』の関係を、スフラの罪を、話はそれ程昔ではない、ほんの10年前に遡ります。バルが世界を統一する前のことです――――」



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