表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
真実の召喚
44/89

『聖衣』

 スフラは駆け出した。鮮やかな桜色がひらひらと揺れる。戦闘とは無縁に感じられるドレスとベール。優美な姿はこの世の男を虜にするだろう。だが、目は荒らしくオーラは別格。心臓を圧迫する威圧感を放つ。


 だが、引くことなどない。レンは地を勢いよく蹴った。2人の剣が交じり合うまで風を過ぎる時間さえないだろう。


『聖衣』といったか。パーティー用のドレスなんてことはないだろう。『聖火剣』と同時に発動したということは防御系か、試してみるか。


「殺人刃 一の型『背殺』」


 間合いに入った瞬間、『封厄剣』を垂直に払う。音速を超える斬撃はスフラの脳天を割る一撃だ。


 スフラの反応は薄い。これまでのように躍起になって攻撃を躱そうとする素振りはない。ゆっくりと『聖火剣』を振り上げ、『背殺』の斬撃に沿うように振るった。


 一瞬『聖火剣』が燃え盛った。紅蓮に燃える斬撃、『背殺』の一撃も全て燃やし尽くす。


 始めの『錬術』、全てを燃やし尽くす剣『聖火剣』。俺のちっぽけな攻撃じゃ、全てが灰か。でもな、そんなことは承知。


「これならどうだ! 殺人刃 五の型『八つ切り』」


 『封厄剣』の突きの連続、傍から見れば残像により剣は何十本にも、何百本にも見える。


 どうする。これなら『聖火剣』で受け止めるには不可能だ。『聖衣』を使うしかないだろ。さぁ、そのドレスの能力を見せてもらおうか。


 熟年の戦士であるレン。まだ見ぬ敵に関しては情報収集を優先して行う。収集したデータを生かし、経験と幅広い手札で戦場を打破する。これまで何百回もそうやってきた。鬼神の常套手段。


 目で追えないスピードの突き。スフラは抵抗もせずにただ眺めていた。悲しそうな表情を浮かべて。


 そして、一歩、足を進めた。


「はぁ?」


 レンは思わず剣を止めそうになる。スフラが『聖火剣』を振うことなく握ったまま、抗うことなく、平然と『八つ切り』の中に歩いてきた。


 『封厄剣』は当然スフラを刺す。剣自体の性能はただの短剣だが、使い手は達人。まともに食らえば致命傷は必須だ。


 しかし、スフラに傷はない。一滴も血は流れていない。『封厄剣』はピンクのドレスから動いていない。突きがドレス刺した。そして、ピタリと止まる。レンの剣戟が受け止められた。


「私の『封厄剣』は全ての攻撃をゼロにできます」


「ゼロに……」


 ゼロ。文字通り攻撃を無くすのだろう。


「これで私の弱点である制限の内に勝負に出られます!」


 はっとしたレンはすぐ『封厄剣』を引き距離を取ろうとするが、スフラは『封厄剣』を横に薙ぎ払う。紅蓮の炎はレンの直ぐそばまで迫っていた。


「『風羽』」


 薄い黄緑の線がレンを包む。紅蓮の炎は空を燃やす。寸前の所でレンは空中に回避した。


 空に浮かぶのは頬を引きつく顔。それを見上げるスフラの顔は儚い。


 全てを燃やす剣、全てをゼロにする衣。これ以上の攻守はない。だが、兆しはないことはない。スフラの、いや、バル一族の弱点を付く。


「『ファイヤーボール』」


 巨大な火の球をスフラにぶつける。しかし、スフラはただ眩しくて目を瞑り、ただ立ちつくのみ。それで十分だ。


 火の玉はスフラに被弾するが火傷どころかドレスを燃やすことなく鎮火する。


 それでもレンは奥歯を食いしばりながら『ファイヤーボール』を連射。


 スフラの視界は火の嵐。断続する『ファイヤーボール』に軍隊も半壊するだろう。だが、相変わらずどこ吹く風。スフラはカッパで雨を防ぐように悠然と立ち尽くす。


 次第に火の嵐が収まる。スフラの顔色が変わり眉をひそめた。上空にレンの姿が見当たらないのだ。


「殺人刃 六の型『肉強靭』」


 スフラの背から声がした。すかさず踵を返す。いくら『聖衣』があろうと後ろを取られるのはまずいと考えたのだろう。しかし、振り返ったはずの背中からまた声が聞こえた。


「殺人刃 三の型『脳突き』」


 稲妻のように鋭い突きがスフラの後頭部目がけ繰り出される。以前のよりスピードは倍近い、『肉強靭』は身体能力を上げる型。


「だめか、それも『聖衣』の一部」


「ええ、このベールも攻撃は通用しません」


 そう返事をすると振り返りざまに『聖火剣』を振う。


 捕らえた!


 少し頬が緩む。


 紅蓮の炎はレンを斬った。スフラの目には確かにそう見えた。だが……。


「殺人刃 五の型『八つ切り』」


 背後から連続して突きを繰り出す。一撃、一撃が必殺の突きだが『聖衣』の前には意味を持たない。だが、スフラは焦燥を浮かべていた。


 紅蓮の炎が斬った先。ゆっくりと目の前のレンが揺れると煙のように消滅した。


 残像……。それ程の動きを。


 改めてレンの技巧に感銘を受けながら、再び『聖火剣』を振う。再び紅蓮の炎はレンを焼いた。しかし、それがレンなのかどうか。刀身は炎、斬った感触は元々ない。


 思わずスフラは振り返る。そこにはレンの姿はない。もしかして本当に斬ったのか? そんな思いが過ぎり再び視線を前方に送ると紅蓮の炎は空を焼き切る寸前。その奥にレンの姿があった。


 レンは攻撃が通じない。スフラは攻撃が当たらない。両者、攻撃が無になる状況。しかし、互いの心情は対象的だ。


 どういうことだ? なぜ、あんなに攻撃を受けている。『聖衣』には何か大きな制限があるはずだ。バルの血はそういった血。リスクゼロにしては効果が絶大過ぎる。まさか、リスクがない。いや、それなら始めから使っていたはず。何かあるはずだ! 考えろ!


 レンさん。今頃戸惑っているでしょう。でも、無駄ですよ。『聖衣』のリスクは判ったところでどうしようもないですから。問題は『聖火剣』の回数制限。残り7振り。『聖火剣』は使い過ぎると意識が遠のく。制限までにレンさんを斬らないと。


 硬直の数秒。先に仕掛けたのはスフラ、愚直に真っすぐ進み距離を詰めた。それに従いレンは後ろに下がる。まだ、対策も考えつかない状態で戦うのは愚策だ。身体能力はレンが上回る。後ろ向きという体制の不利はあるが、2人の距離は一定を保ったまま丘を下る。森は遠くに、スフラの視界の端には巨大な城が見えてきた。


 使用回数は違う。『八つ切り』を受けるはずがない。時間制限も違う。こんな悠長に戦うはずもない。とすれば……、自らに何か影響を与えるものか。『幻影風景』のように、発動後使用者に何らかの制限があるタイプ。だとすれば今までの行動に説明が付く。


 レンはそこで表情を曇らせる。相変わらずのバックステップ、丘を下り。草花が生えた草原から、景色がガラリと薄くなる。一面に広がる荒野に移行、ここはもう王都付近だ。


 なら考える意味はない。俺が何をしようと『聖衣』自体には何ら制限がないのだから。結局、あの衣を破らなければならないのか。


 レンの瞳に映るピンクのベールに赤いドレス。年甲斐もなく見とれてしまうほど。


 ズブラ、お前の娘は存在しているだけで人々に希望を与えられる。それなのにお前の才能を全て受け継いでしまった。あの頑固な性格も。自らの呪いを解く前に死んでしまった。お前を見て、その心は鋼鉄のようだ。なんとかして、溶かしてやりたかったが――――。どうやら俺には無理だ。やっぱり、お前の相棒など俺には身が重かった。なぁ、どうして、そんなに早く逝ってしまった。呪いに気づいてすぐお前は倒れて…………。


 呪い!


 レンの表情を引き攣る。後方に逃げ続けながらも記憶を遡る。


 前時代戦争のとき、ルバ帝国との大戦ののち、ズブラは統一の最後の砦。ミレェイに単身乗り込んだ。兵をこれ以上傷つけたくない。お前はルバ国境付近の護衛を頼む、また、仕掛けてくるかもしれないなどといって。結局、3日でミレェイは落ち、ルバも降伏。バルは世界統一を果たした。確かに、ズブラの強さなら1人でミレェイは落とせるが3日は早すぎる。だが、もしあの時、今のスフラと同じ状況なら、『聖衣』の制限は……!


「スフラ! お前死ぬつもりか!」


 鬼の形相、しかし、目には涙が溢れる。バックステップを止め、スフラの猛進を受け入れる。スフラも『聖火剣』の間合いに入ると足を止めた。


「もう、私だけが生きることは許させません。蹴りをつけます!」


「蹴りを! 何を信じるべきかもう一度考えろ! お前は現実を受けいれていないだけだ!」


「でも! 人が大勢死ぬ! それは私の理想に反します! 私が全てを終わらせます!」


「なぜだ? そんなことズブラも望んでいない!」


「それでも、私の理想を突き貫きます!」


「やめろよ…………。お前だけには死んでほしくない。柄じゃないが、あいつからお前を守るように託されていた。考え直そう、みんなで力を合わせればあの悪魔にだって…………」


 スフラは口を閉じた。ゆっくりと唇を噛み。ルビー色の瞳がやさしくなる。


「ありがとう……レンさん」


 でも、もう止まられない。


「『聖火炎上』」


 天に掲げられた『聖火剣』、紅色の輝きは空さえも燃やし尽くす。次第に紅蓮は濃くなり、刀身も伸びる。


 もう、止められないのか。あのときみたいに。軽く目を閉じ、一瞬空を見上げた。息を吐き出し、全てを飲み込む。


 光の動き、一瞬でレンはスフラの懐に入った。まだ、『聖火剣』は天に掲げたままだ。もちろん、短い『封厄剣』のリーチ範囲。レンの目の涙は既に渇き、鬼に変わる。


「殺人刃 一の型『背殺』 四の型『みぞ切り』」


 音速を超える、垂直斬り。空間を切り裂く水平切りがほぼ同時に繰り出された。しかし、それもどこ吹く風。『聖衣』に守られたスフラには傷1つない。


「殺人刃 五の型『八つ切り』


 息も付かせぬ連続攻撃。今度は全て同じ点で狙う。『背殺』と『みぞ切り』の交差点をひたすら突き続ける。


 全ての攻撃をゼロにか。随分と曖昧な言い方だな。ゼロとは何か、恐らく放出系なら放出そのものを失くすだろう。『ファイヤーボール』なら火が消えるということだ。それなら打撃はどうなるか。推測されるのは攻撃手が乗せた威力をゼロにする。その証拠に僅かだがドレスが窪む。『封厄剣』ではなく短剣で突いて、いや、掠るぐらいの効果はある。数回では何もないが、それが数百回全く同じ位置ならどうなる!


「おっりゃぁぁぁぁあ!」


 高速の連撃がスフラを襲う。退こうにもスフラにはレンから逃れる術はない。天に輝く炎が炎上するまで待つようだ。


 微量な音だが、レンは聞き逃さなかった。


 ビリっと服が破れる音。これで決める。


「殺人刃 七の型『心落とし』」


 体を抉り取るように突きねじ込む『封厄剣』。剣を振う動作も見えないどころか、突かれるまでスフラは刃に気づかないでいた。まさに、絶対必殺。レンもこの技を使って、ズブラを瀕死に追い込んだ。


 スフラを見つめるレン。輝く紅蓮の炎の下、表情はやりきれない。『封厄剣』はピンクのドレスを突き破り、桃色は血に染まる。その時寒気が走った。もう一度、スフラの表情を見る。赤い瞳は一切変化がない戦士の目だ。


「レンさんなら…………。『聖衣』を破ると思っていました」


 瞬間、『封厄剣』を抜こうとしたレン。しかし、全ては遅かった。


「『虹瞬』」


 『聖火剣』を持つ両手から虹の光が漏れた。虹石を手に隠し持っていたようだ。『封厄剣』が捉えた肉の感覚が消え、空中を突く。


 頭上からスフラの声が聞こえた。これまでにない、悲しい声だ。


「『聖火炎上修羅』」


 解放された『聖火剣』。スフラの手から放たれた剣はレンの目の前に落ちる。紅蓮の色取られた『聖火剣』。炎が一瞬にした白に変わり、一面に広がる。白い炎はレンにも直撃、対抗の時間もないまま体は白い炎に包まれた。


「終わりましたか」


 着地したスフラは燃え盛る白い炎を眺めた。


「今までありがとうございました」


 深々と礼をし、涙は歯を食いしばり無理やり留めた。スフラが涙を流す資格はない。しわかっていても流れる涙を拭い、軽く手当をしたのち、急ぎ軍の待つ森林に戻った。


 揺れる白い炎。荒野でもその炎は燃え続ける。それに背を向け駆け出すスフラ。揺らめく炎の間からレンは遠のく意識の中スフラを覗き見る。


「まだ……。まだ、死ねねぇ…………。『虹瞬』」


 死の淵寸前のレン。右手が七色に光る。発光は強く輝く白い炎にかき消された。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ