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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
真実の召喚
43/89

想いと想い

 レンが胸ポケットからフェバルを取り出す。かざされたのは短剣。剣はなんら変化なく、赤いオーラを脱色した。


『封厄剣』


右手で持ち、体の前に突き出す。前戦争時代、傭兵であるが、大陸中に名を轟かせ刃。「殺人刃」の構え。鬼神レン。目は鋭く尖る。鬼の目はそのときに戻っていた。


『聖剣』


 スフラの細い腕の先。目を奪うほど純白の剣。全てを斬る剣、王女の名刀。愛称に全くはじない能力を有している。


「はぁぁっ!」


 先に仕掛けたのはスフラだ。短剣よりも長いリーチを生かしレンの心臓目がけ突きを繰り出す。


 甲高い金属音、レンは短剣でしっかりとガードをするが、手は震えその額には汗が零れる。


 何ていう力、いや、体の掛け方がうまいのか。一撃に体重を乗せている。『錬術』なんかなくても、そこらの兵士じゃあ、相手にはならないな。だからこそ、あんなことをしたのか。ズブラの血を色濃く受け継いでやがる。


 レンはしゃがみ込み、『聖剣』の突きから逃れると、短剣を突き返す。スフラも負けずと『聖剣』を横に払う。鈍い金属音、響きが収まるのを待たず再び斬り合いが始まる。


 ギィン、ギィンと連なる音。スフラは『聖剣』特有の威力、軽い剣だがその衝撃は大剣なみ、それに加え幼い頃から鍛錬に鍛錬を重ねた剣戟技術で斬り合う。それに対して、レンの『封厄剣』の効果により、『聖剣』の能力全てを斬ることは防ぐ。短剣のリーチの短さは素早い剣捌きと先読み。誰にも教わることなく、我流の剣戟。何十年という戦場で形成されたその剣戟は一撃一撃が人を殺める最短ルート。


 スフラの垂直斬り、『聖剣』は白い閃光となる。レンは下から『封厄剣』を振り上げると、空を斬った。


 えっ……! 何故、レンさんが剣先を誤った?


 スフラの考えは否定される。レンは『封厄剣』を振り上げると同時に体を横に逸らせ、垂直斬りを避けた。そして、『封厄剣』を無防備なスフラの頭上に振り下ろす。


 血しぶきが飛んだ。しかし、少量。


 危なかった……。


 スフラは心の中で溜息を漏らす。出血は右肩から、スフラは剣が振り下される寸前、首を左に曲げ、体を逸らし、切り口を最小限に抑えた。すぐさま、斬られたことなどなかったように、これまでのどの一撃より早く『聖剣』を振り下ろした。


 瞬足の閃光にレンは眉を潜めた。これまでも全力、最大速度だと考えていたが見誤ったからだ。思い込みにより『封厄剣』の切り返しは遅れる。


 ギィンと鳴る金属音。レンの短剣は間に合った。だが、レンの眉間の皺は取れない。『聖剣』の剣先は今にもレンの顔を突き刺しそうだ。受け止めた短剣の位置は首元辺り。完全に鍔迫り合いで負けている。更に、スフラは一歩踏み出し全体重を掛けて首を取ろうとする。


「くっそ!」


 この体制は分が悪いと判断したのか。バックステップで、『聖剣』から逃れると、すぐに反撃に出る。片足着地、そのまま、両足はつかず、体重を後ろから前に、片足を踏み込み跳躍する。


「殺人刃 一の型『背殺』」


 音よりの早く、斬撃は振るわれた。垂直の剣筋はスフラの頭から体を切り裂く。『聖剣』のリーチは程遠い。


『虹瞬』


『聖剣』を持っていない左手。虹色に輝きだす。


 瞬間、スフラは姿を消し音速の剣は空間を斬ったのみ。


「くっそ!」


 再度、悪態を尽きながら、小刻みに首を動かす。スフラの瞬間移動は終わっていない。姿は消えたまま。慎重に目を動かす。一撃必殺といってもいい『聖剣』。一瞬の遅れが命取りになる。しかし、予想もしない方向からスフラは現れた。


 スフラの目からは一瞬、たじろぐレンの表情が見て取れる。スフラが現れたのは、レンの正面。2、3歩歩けば、ぶつかる距離だ。『虹瞬』で消えたアドバンテージなど自ら捨てた。いや、姿が消えたことなどレンにはアドバンテージにならない。歴戦の戦士には無駄なトラップだ。すぐに見つかり体制を整えるだろう。だからこそ、一番意味のない正面移動はレンの不意を突いた。


 純白の刃はレンの首に迫る。


 グサッ、肉を斬る生々しい音がこだまする。スフラは顔をしかめた。『聖剣』は確かに、レンを斬った。斬ったのは鎖骨付近を少し。首元に向けていた刃は刺さる瞬間レンの微かな跳躍によってずらされた。


 垂れる血そんなことも気にせず、すぐさま短剣を振う。


「殺人刃 三の型『脳突き』」


 今度はスフラの脳天に短剣が直撃、しかし、予期していたのか、バックステップで躱し、そのまま3歩ほど下がった。


 両者睨み合う。戦況としては共に軽い一太刀の互角。しかし、スフラの顔は険しくなる一方だ。


 今のでも甘いですか。正直、レンさんと剣の打ち合いで勝てる自身がありません。どこかで隙を付くつもりでしたが、それも防がれた。お父様が今まで戦ったなかで一番強いといった人。そして、全てを知ってイノア側に……。やっぱり、私が間違ってい――


「殺人刃 一の型『背殺』」


 音を超える斬撃。スフラは一瞬の短剣を振った軌道から予測。体を横にくねらせ、飛んで斬撃を避けた。さらに、2歩後退。


 遠距離ならこっちに分があります。


『聖光波』


 『聖剣』に光を纏わせ振り払う。纏う光は『聖剣』から離れ、光の斬撃をなったレンを襲う。本来は時間が掛かる一撃だ。門番に放つなら時間を溜めて光を放たなければ効果はない。しかし、相手は生身の人間。数秒で溜まる光でも殺傷能力は十分だ。


「まだ、まだ、まだです!」


 続けざまに『聖光波』を放る。綺麗に三日月型を描く『聖光波』、連続して放たれる光は圧巻だ。避けるには四方にスペースがなく、受け止めるには手数が足りない。だが、レンは表情を一切変えずに『封厄剣』を振り回す。


「『殺人刃 四の型『みぞ割れ』」


 『聖光波』が迫ってくるのを無視するかのように『封厄剣』を腰の横に置き、刃を水平に。ゆっくりと『封厄剣』を水平に素振りした。


 並ぶ三日月の白光。全て真っ二つに割れた。裂かれた三日月は勢いを失くし白光も消え去った。


 私はなんて甘いのだろう。レンさんが遠距離攻撃に対する引き出しがないはずがない。それどころかこちらの方が不利。どうする――


「『殺人刃 四の型『みぞ割れ』」


 ゆっくりと『封厄剣』が空を斬る。スフラは目を凝らす。空間を割っているような水平の斬撃が飛ぶ。


 瞬間的はしゃがむ。飛び狙いを定められるよりはましという判断だ。スフラの額から汗が零れる。一瞬でも遅ければ体は分裂の運命だった。


 危ない。しかし、これでこの遠距離戦も完全にアドバンテージを――!


 スフラが目を開く。


「『殺人刃 四の型『みぞ割れ』」


 『封厄剣』は目にも止まらぬ速さで振るわれた。


 しまった! 遅い振りはフェイク!


「『虹瞬』」


 左手から虹色が漏れる。再度、虹石を握りしめていた。空間をも切り裂く斬撃は虚しく空間を斬った。宙を舞うのは赤い髪1本のみ。ふとレンが溜息を溢した。


 出来るだけ早く終わらせよう。お前とは長く剣を交わらせたくない。ぎゅっと下唇を噛みしめ、もう一度、深呼吸をした。


「終わりだぁぁぁあ!」


 スフラの叫び声。声の出所はレンの真後ろ。『聖剣』を高く振り上げ、両手に力を込め、レンの背中に振り下ろした。


 素早く体を反転させ、『封厄剣』を突き出す。


「殺人刃 三の型『脳突き』」


 スフラは頭が真っ白に。反応が速すぎる、レンの達立ち位置が『聖剣』の剣筋を外れている。そして、突き出された『封厄剣』はスフラの胸に向けられていた。


 私は何て馬鹿なことを。真後ろなど、レンさんが一番警戒しているに決まっている。正面の奇襲の失敗で焦り過ぎた!


 ここでスフラを攻めるべきか、スフラが背に移動してきた場合に、速度、位置、攻撃まで全て予想したレンを褒めるべきか。何方にせよ、胸に刺された短剣は深々に刺されている。


「ここまでだ。お姫様」


 レンはゆっくりと『封厄剣』を引き抜く、ドバっと溢れ出す血。スフラは反射的に左手で傷口を押さえた。


「まだ、まだ、私はこんなところで終わらない」


 バックステップで後退するとフェバルと小さな容器を取り出した。


「『ポーション』」


 健一から譲り受けた傷薬。切り口にはよく効く。胸に開いた出血口は流血を止めた。


「お姫様、俺は別にお前の判断を間違っているとは思わない」


 ゆっくりと半ば諭すようにレンは話始めた。スフラは目を吊り上げる。痛みも忘れて乱暴に言い放った。


「だったら! どうして、私の前に立ち塞ぐのですか!」


「そうだな……」


 少し口を閉じ、俯いてから再びスフラに目を合わせた。


「それより、イノアの考えを支持したからかな」


「ふざけないで!」


 顔は怒り狂う、声は獣の鳴き声のようだ。


「そうだな、この言い方はふざけている。謝る。すまん。でもな、俺も何ていうかわからないけど、イノアの方が終息に向かっている気がする」


「どこが! ここままだと『厄気』が世界の人々が皆殺しにします!」


「それはそうだ。でも、それは先送りでもあるだろ。だから、俺はイノア側に付いた。全ての元凶としてこの呪いを解くために」


 そう言い終えたレンの頬に涙が流れる。それを見つめるスフラも泣きじゃくる。


「でも! でも、私は私の理想を叶えないの! お父様の理想も叶えたいの! あなたもお父様の考えに共感したのではないのですか!」


「そうだな、そうだった。始めから間違っていた。俺がイノアに心動かされたのは、戦いが生きがいだった俺が世界を変えようとする男と一緒に歩いたっただけかもしれない」


「レンさん……。もう、その考えは変わらないのですか?」


 涙で声を震わせながら聞いた。聞いた自身の返事は判っていた。


「ああ、もう無理だ。俺は決めてある。でなければ、戦友の娘に傷を負わせない」


 ゆっくりと、スフラは頷いた。


「それでも私の理想は譲れません。亡き父の親友を倒してでも進みます!」


「やめろ、勝負は着いている。そんな傷を負ってまだ俺と斬り合えると思っているのか?」


 優しい声でなだめるレン。これ以上、剣を振る意思はなく、剣を納めたいようすだ。その表情は父のように優しい。


「まだ、あなたが知らない『錬術』があります」


 そういうとスフラは左手を頭にやり、髪の毛数本をちぎった。そして、フェバルをかざす。赤い髪の毛がさらに赤く染まる。その間に『聖剣』にさらにフェバルをかざす。


 それを見つめるレン。表情から温和な雰囲気は抜け、戦士の目に戻る。『聖剣』が赤く、灯っているかのような変化にレンは目を丸くし急ぎ駆け出した。


 知っているさ。目にしたことがあるのは俺とズブラだけだと思っていたが、娘に受け継いでいたのか、始まりの『錬術』。


 『聖剣』を包む赤い光が発光し消えるとそれは目を奪われるものだった。細く白い細剣は紅色に染まり、炎のように刀身がゆらりと揺れている。


「「『聖火剣』」」


 スフラとレンが同時にその剣の名をいった。


「やはり、『聖火剣』は知っていましたか。でも、こっちは私のオリジナルです」


 レンの手が届きそうな距離。ちぎられ、元々の赤とさらに濃く染められたスフラの髪の毛は白く輝いた。光は徐々に大きくなり、レンの視界を包む。


 一瞬、目を閉じると同時。光が収まる位置下がる。何か仕掛けられた場合に対応するためだ。しかし、光の輝きは強く駆け出す前の位置まで戻された。


 ただの目くらまし? そんなわけないよな。


 再び開かれた両目は鬼の目。もう一度、覚悟を飲み込む。


 次第に光は収まった。ゆっくりとシルエットが浮かび、赤い髪が光の線の間から垣間見る。


「はっ……」


 その姿に思わず声を詰まらせる。スフラの頭から薄いピンク色のベールを被り。軍服はどこにいったのか。真っ赤はドレスを着こむ。このままバージンロードを歩けそうだが、神々しいオーラを放つ。両手で持つ『聖火剣』もそのオーラに一役買っていた。


「この『聖衣』と『聖火剣』で私の理想を叶えます。道を阻むものは全て消し去ります!」


 スフラは悲しそうな顔をしながら、獣のような目をした。


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