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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
真実の召喚
41/89

炎龍

――数時間前――


 森林では葉を踏む音鳴る。イリリ率いる軍隊は森林の足場の悪さなどお構いなしに、隊列も作らずただ一心に駆けていた。王都を出発して、数時間、フローラに着いたイリリ達の目に飛び込んできたのは、森の奥に見える3つの火柱。森を進むと火柱はより鮮明に、驚くべきはその巨体。火柱というよりは火炎で形成させた円柱のモニュメント。直径は10mほどでそれが3つ。3つの火柱の周りをとぐろを巻くように移動、ほとばしる炎を水浴びのように受け入れる赤い鱗、蒼い眼。Level8、炎龍が遠吠えを叫びながらイリリ達を迎えた。


「炎龍に集中させては貰いえませんか……」


 脚力を飛ばし、火柱の傍までやってきたイリリ達。同じように火柱の隣に佇む。『厄気』達を見た。小さな黄色い花、そこから伸びるつるは胴体を描き、足を模る。Level5、つるくらげ。数は数十匹。更に、花の妖精を思わせる容姿。火花、雷花、水花がそれぞれちょこんとお姫様のように座っていた。


 まずい、ですね。本来なら、王女様とケンイチさんがいてどうにかなる相手です。でも、そんなこといっていられる余裕はない。ここまで、兵士や民間人はいない。おそらく、あの火柱の中に閉じ込めているのでしょう。当然、身の安全を考慮して……。


 ならば、それを逆手に取ります。


「みな、隊列を3つに分け。進軍しなさい。私が援軍します」


「「はい!」」


 即座に兵士達は隊列を組み始めた。その間、炎龍を中心とする『厄気』はただ、静観していた。イリリ達は何をしようと勝ち目はないといったようすだ。


「全軍出撃!」


「「おぅぉー!」」


 イリリの合戦の合図に兵士達は駆け出した。3つに並ぶ火柱。右から、火花、雷花、水花と並び、脇につるくらげを配置する。炎龍は相変わらず、体を波打ちながら、空中遊泳中だ。


「『無限刃』」


 幾多に中に放たれた刃。それらが集約し、刃の鉄球を造形。計、3つの刃の鉄球は色花を標的に突っ込む。


 火炎の球。電撃の球。水の球。それぞれ、色花から放たれた。3つの球を刃の鉄球は激しい音を荒げ、両者とも塵になる。その間に兵士達は走り続け、『厄気』達の目の前まで迫っていた。


「「かかっれー!」」


「「おう!」」


 各隊の指揮官の合図に、活気ある応対。今にも熾烈な争いが始まろうとしていた。


 それを打ち破る、業火の太陽。


 炎龍は兵士達の上空に巨大な火炎玉を牙の前に保ち、いつでも兵士達を焼き尽くす準備をしていた。


「『ギガンテス』」


 大木のような大剣が炎龍の横をかすめる。炎龍はとぐろを巻き体制を整え、太陽のような火炎玉の標的をイリリに変える。


 これでいい。色花と炎龍が同時に兵士達に襲い掛かれば一溜まりもない。まずは、色花と炎龍の分断。あとは、私がどれだけ覚悟を決められるか。


「うっりゃー」


 イリリは唸り声を上げながら、『ギガンテス』を横に振り払う。炎龍は悠々と避け、灼熱の火炎玉を放った。熱気が伝わる、息苦しく、肌が焼ける。まともに食らえば即死は免れない。しかし、イリリはその場から微動だにしなかった。大きな瞳に決意の色と燃え盛る太陽が映る。


 地に降り注いだ灼熱の火炎玉は辺り一面を燃やし、黒い煙幕を発生させた。炎龍はそれに満足したのか、火柱の前方で戦う『厄気』達の元に向かう。


「『ギガンテス』」


 強大な刃が炎龍を突いた。炎の鱗が数枚落ちたが、すぐに体制を変え、蒼い双眼で刃の主を睨んだ。


「はぁ、はぁ。やはり、さほど聞きませんね」


 イリリの軍服はところどころ燃え、綺麗な肌を晒す。素肌も火傷の跡が残り、顔にも煤のあとがついている。ボロボロのイリリがよろめきながらも立っていた。周囲には何本もの短剣ほどの刃。『無限刃』で周囲に刃を散らせ、高速回転させることで火炎の威力を削いだのだろう。それでも、この威力、次はないだろう。


 満身創痍の中、『ギガンテス』を振う。それに対して、炎龍は体を捻り、振子のように、半身を叩きつけた。


 燃え盛る炎龍の半身、山をも斬る、大剣『ギガンテス』。その2つの激突は一方的なものだった。


 バッキと折れる音。『ギガンテス』が炎龍の叩きつけに、『ギガンテス』の耐久な脆く、ポッキと真っ二つに折れた。


 目を細める、イリリ。呼吸はさらに荒くなる。そして、熱気を感じた。見上げると炎龍が火炎玉を放っていた。


 よろめく足で地を蹴る。一般人なら立ってはいられないほどの痛み。イリリは歯を食いしばりながら駆け出し、火炎玉の範囲外に逃げた。


 しかし、炎龍の追撃は続く。火炎玉はイリリを標的に放たれ続け、そのたびにイリリは傷だらけの体に鞭を打ち、何とか避けていた。それを許す炎龍ではない。無鉄砲に火炎玉を放っているのではなかった。火炎の的はイリリだが、その後ろにも広がるように、イリリが後方に逃げないようにしていた。


「もう、すぐですね」


 イリリが息を整えながら、目の前の光景に苦味を嚙みながら見つける。1番右の火柱。兵士達が火花とつるくらげと乱戦を繰り広げられていた。『厄気』は前方につるくらげを置き、後方から火花が援護する陣形。つるくらげを押す場面はあったが、奥に陣取る火花の猛攻を受け下がってしまう。一向に火柱に近づくことなく、みるみるうちに兵士達が倒れていく。おそらく、残りも同じようなものだろう。


 しかし、今、兵士達を助けにいける状態ではない。味方が背水になる。イリリ達は『厄気』に挟み撃ちにされていた。


 振り返ると、烈火の尾ひれがこちらに向かっていた。炎龍の半身がイリリだけでなく、兵士ごと叩きつけようと振るわれた。


 イリリは目を閉じ、口が小さく開く。


「ごめんなさい……」


 小鳥のようなさえずりは誰の耳にも届かない。


 イリリは目を開いた。炎龍の一撃はもう熱気で内臓が焼けるほど寸前に迫る。


「『無限刃』」


 炎龍の半身はイリリを含め、兵士達をなぎ倒した。吹っ飛ばされ、腕、首、内臓が飛び交う中。イリリは微かに、右目を開いた。


 揺れる視界の先は火柱。それを囲う銀の剣。まさに、無限の刃。それが一斉に高速回転。火柱に突撃を開始した。


 1つ、1つの風量は人を吹き飛ばす力もない。しかし、塵もつもれば山となる。嵐のような轟音と風速。『無限刃』は確実に火柱を蝕み、やがて、中の人が姿を見せた。


 大きく後ろに飛ばされながらも、イリリは何とか着地した。


 まだ、ここから……。


 今にも意識が飛びそうな体に再び鞭を打ち、口を開き、息を思いっきり吸い込む。


「レミねぇ~! 助けて!」


 森中に響き渡る声、上擦った涙声はとても子供ぽかった。


 もちろん、それは『厄気』にも聞こえて注目を集めることに。イリリの近くにいたつるくらげは即座に反応した。鞭のような足を伸ばし、虫の息のイリリにとどめを刺そうとする。


「『悪魔の口づけ』」


 セクシーの声とキスマークが飛んできた。不意打ちを食らったつるくらげはキスマークをつけられ、イリリに迫っていたつるは静止。


「うん、うん、その呼び方。うれしいな」


 火柱の中から、レミアンの姿を現した。


「はぁ、はぁ、間一髪でした。ありがとうございます。レミアンさん」


 そう返事をする。イリリは口もだらく緩み、服はボロボロ、体は焼き焦がれ、しかし、目には強い光を失っていない。


「もう、ボロボロ!。もう呼び方が戻っているのはツッコまないであげるから、リリちゃんは下がって、兵士達には退路を開くようにいっているから、ひとまずここを切り抜けて王都に帰ろう!」


 レミアンは無理やり笑顔でいった。イリリによって、火柱は消えフローラ軍は自由になった。だが、元々戦闘のあと。炎龍に蹴散らされた結果が火の中だ。負傷兵も多く、媒体のストックも少ない。つるくらげの群れさえ、茨の道。色花は修羅の道。炎龍など、死への道。それでも、兵士達は進み、レミアンは決して諦めない。兵士もレミアンも自分達が犯した失態だと感じている。


「それは……いや、です」


 微かに口が動き、隣にいるレミアンでさえ聞き取りにくい声だった。


「リリちゃん、今何ていった……」


 恋する『厄気』になった、つるくらげに命令しながら、レミアンは聞き返した。その顔は強張り焦りを隠せない。炎龍の蒼い瞳にはイリリとレミアンが輝く。その怒りのオーラを真に受けると首を絞められている気分になる。呼吸は乱れ、鳥肌が立つ。口を開き、森ごと焼き尽くしそうな火炎玉を練っていた。


 時間など1ミリも残させていない。レミアンの頭の中にある策は単純で簡潔なもの。『厄気』の群れを一点突破、炎龍は無視して逃げる。敵に背を向けて撤退するなど、戦士をして恥じる行動だが、生き残る人がいるかもしれない。その可能性にレミアンは望みを託そうとしている。賢いイリリなら、同じ結論に至る。そう確信していた。しかし、返事は曖昧だった。


 いやって。リリちゃんがいった……。戦の場で、指揮を預かる身で、自分の感情をいった。


「何か考えがあるの……」


 混沌となる頭の中、レミアンはそう返した。


「はい、まず『マジック・ミラー』を発動させてください。そうすれば、私が全て終わらせます」


「ダメ、また、『刃化』するつもりでしょ。あんなリリちゃんの命を捨てるような『錬術』はダメだよ。ケンちゃんもいない、回復もできない。王都に戻って、王女様と合流しようよ!」


 声を荒げ、必死に目で訴える。しかし、イリリの目力は衰えない。


「王女様は、今倒れています」


「そんな!」


 事情を知らないレミアンが驚きの声を上げる。


「だから、ここで。私が炎龍を倒さないと。このぐらいの『厄気』、私が倒さなくてはならない!」


 レミアンの潤んだ瞳。その瞳はイリリの大きな瞳に吸い込まれそうになる。それほど並々ならぬ意思を燃やす瞳。レミアンにはそれを消す涙を流せなかった。


「リリちゃん…………。わかった、でもお願い死なないで」


「はい、約束します」


「ウソばっかり……」


 小さく、イリリに聞こえないように呟いた。


 イリリとレミアンの後方、炎龍の一撃に陣形を崩された兵士達は色花達の猛攻を受けていた。火の球、雷の球、水の球、必死の思いで避けた脇にはつるくらげ。緑の縄に絡めとられる。このままでも、あと数分で全滅。今にも放たれようとする大烈火が落ちると即座に全滅。運命を握るのは紅蓮の龍。抗うのは小柄な少女の戦士。


「みんな、急いで下がって! 『マジック・ミラー』」


 兵士達にそう指示を出すと。レミアンの右手。手のひらサイズの手鏡が6つ増殖。それがイリリの周囲に漂う。次第に回る。メリーゴーランドのように。鏡に映るのはイリリ。立っているのが不思議な死にかけの少女だ。鏡にヒビが入り、砕けた。砕けたガラスが集まる。ガラスは透明職人がいるかのように人を形成する。まだ、子供っぽさが残る小さな女性。6つの分身が完成した。


 イリリは自分達で目を合わせることもなく、両手に短剣を持ち『錬術』を発動させる。その傍らで見守るレミアンは頬に涙を流した。


「『刃化』」


 火傷のあとや、すすで汚れた両手は、小さく握りしめたくない。しかし、今握るのは刃だ。彼女自身の意思で。刃は両手を突き破る、血が吹きだすことなどお構いなし。続いて、腕、肩、胸、脇側、腹。人体の大部分に刃が生える。銀色のそれは、イリリを切り裂きながら前方広範囲に伸び続ける。それが7つ、刃の津波の完成だ。


 始めに刃の津波が襲ったのはつるくらげ、細くて軽い体でも避けることは難しく切り裂かれる。次の犠牲者は火花。橙色の蛍日。刃を焼こうと接触するが、その前に炎が斬られる。


 イリリの奥の手『刃化』は物理体だけを斬るのではない。


 抗えない勢い、刃の津波に火花は飲み込まれた。尚も広がる津波。右端の『厄気』は既に壊滅状態。それを砕こうとする烈火の炎が降ってきた。


 炎龍は標的を刃の津波に、理由は2つ。1つは標的が7人では火炎玉で仕留め切れない可能性。2つ目、あれは危険だと炎龍の本能が感じたためだ。


 熱風が大地を焦がす。つるくらげと兵士は焼かれ塵となる。それでも、刃は砕けない。灼熱の火炎玉が放たれ刃の波をせき止めようとする。鼓膜を裂く轟音が響く、熱が上がり、近くにいるだけ命はない。ぶつかり合い周囲にまき散らす銀の破片と炎の一部が『厄気』と兵士の命を奪う。


 レミアンは距離を取り、兵士達を誘導する。イリリと炎龍の大撃は、兵士が間に挟めるようなものではない。巻き込こまれ命を落とすだけだ。兵士達は急ぎ踵を返し退却した。安易だったのは指揮を仰がなかった雷花だ。比較的、距離は近かった雷花ぶつかり合う銀と炎に近づいた。炎龍を助けるつもりだったのだろう。しかし、雷花では戦場に上がることもできない。飛び交う、刃と炎を真に受け消滅した。


「リリちゃん。兵士達は避難したよ。もう、犠牲もでない。思いっきりやって!」


 一心一体の刃の津波と火炎玉。その均衡は崩れた。ゆっくりと刃が炎を喰う。津波が押し返し始めた。


 


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