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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
真実の召喚
36/89

『白騎士』

白騎士は大地に刺さる大剣を引き抜き、健一の脇腹目掛けて薙ぎ払った。大剣の長さは2mを超える。駆け寄ってきた健一には十分なリーチ内だ。健一も負けじと『フリースモークモア』を振り払う。白い球体からは黒い煙がモクモクと。錯乱することなく、『フリースモークモア』に纏わり着き、黒い煙の剣と化す。


 あと、一瞬だろう。白い大剣と黒い剣が交差するのは。健一は少し口角を上げた。


 この剣はガード不可だ。触れた瞬間、黒い煙に吸い込まれる。煙の量が少ないため『厄気』全てを吸い込むのはできないが、剣の一部なら大丈夫、剣は少し欠ければあとはガラクタだ。


 共に横払いになった剣。金属音を鳴らし、鍔迫り合いを繰り広げるかと思いきや、互いに空振り。白い大剣は黒い剣とぶつかる寸前、軌道をずらした。黒い剣の真下を斬る白い大剣。ビュンと空を斬る音が鳴る。


 健一は思わず口を開けた。鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情。普通に考えて、剣の大きさも振る者の体格も白騎士が1段階上。鍔迫り合いを避けるわけがない。ならば、理由はひとつ。健一の『精術』、『フリースモークモア』の能力を把握していることになる。


 そう健一が確信したとき、白い大剣は、横払いを終えると一度腰に剣を引いた。剣の先は健一の心臓を的に。体を前のめりに、右足を大きく踏み出し、引いた剣を神速の速さで突き出す。


 やばい! 死ぬ。


 直観してからの行動は迅速だった。まず、避けることを一番だ。邪魔な錘は捨てなくては。鉛玉が落下したような音が響く。『フリースモークモア』が地面に落ちた音だ。健一はいの一番に『フリースモークモア』を捨てた。その間も、命を抉ろうとする大剣から目を離さない。


 引いて避けるのは無理だ。それなら、左右上下。左右は幅広い大剣では隙間がない。なら、上下。下にしゃがむのは切り返しに斬られる。なら上に飛ぶ。あと、突きまで、2.89秒。今の俺ならいける!


 風を切る音と共に、大剣が突き出される。


 ほぼ同時に跳躍し、大剣を躱す。必死の一撃を避けたが、健一は無防備な空中。白騎士は大剣を翻し、大剣を突き上げる。そのまま健一の身体はすぱっと斬れるはずだった。


「『アクアクッション』」


 跳躍と同じタイミングで『錬術』を発動。素早くポケットからフェバルと取り出したものは黄色い水風船。大剣の突きを躱したとき、水風船は大きく膨らむ。臨時的に巨大なベッドに寝ている状態だ。巨大な水風船に大剣が接触する。風船らしからぬ、耐久性。大剣に圧迫されながらも、形をくの字に変えながらも形状を維持する。メッキと嫌の音がした。白騎士がさらに力を込めたのだろう。鼓膜を猛烈に刺激する破裂音が響いた。


 あっつぶねー。危機一髪。


 「アクアクッション」の破裂。その勢いを利用し、不安定ながらも体を起こし飛んだ。着地すると即座に『錬術』を展開。前方の白ゴブリンたちは動くようすはない。白騎士の命令なのかはわからないが、この戦いは静観するようだ。それを確認したあと、健一は振り返った。水しぶきを浴び、真っ白な甲冑は光輝いていた。光は接近する。白騎士は地響きを鳴らしながらもう突進で進む。


「『フリースモークモア』」


 大剣で今にも身を斬ろうとする白騎士に対抗するべく、『フリースモークモア』を払った。玉状にいくつか発射された黒い煙。触れればどうなるか理解している白騎士は足を止め。大剣の先を光らせ、目にも止まらぬ速さで剣を振った。


 大剣の先で眩く照らす明かり。それは大剣から離れ大気中を伝う。小さな、蛍の光のような光。次第に伸びていき、光の矢に様変わりした。


 スフラの『聖剣』に近い能力か。やっかいだな。まずは――――。


「『ブラックウォール』」


 白い球の小さな穴。噴き出す黒い煙。健一の視界を防ぐように間延びし、やがて、黒い壁になる。黒い城壁のようだ。発光し射ようとする光の矢は黒い壁に刺さると闇に飲み込まれるように吸い込まれた。


 この『ブラックウォール』は究極の防御だ。触れたもの全てを吸い込む。俺の知っている時点で、この黒い壁を破壊できるのは『聖剣』ぐらいだろう。ただ、難点もいくつか、範囲が俺の前方しかないこと。そして、黒い煙が濃い過ぎるため、前が全くみえないこと。でも、逆に相手と自分の行動を絞れる。


 嫌な気を感じ、健一は壁の左側に身体を逸らした。ついさっきまで健一が立っていたところ。黒い壁の後ろには光の矢が刺さった。光の矢は黒い壁を突き破ったのではない。黒い壁の上を通過するとほぼ直角に落下。2撃目にして、狙いはピンポイントだ。


 まぁ、それぐらいやるよな。Level8だったっけ、顔なし騎士。


 黒い壁の隅、ちょっと顔を出す。白騎士が見えた。大剣を天に掲げ、頂点の光は眩しさを増していく。


 何か仕掛けてくる。その前に……!


 黒い壁から身を乗り出して駆ける。面等向かって白騎士と対峙する形だ。瞬間に白騎士は剣先を健一に定め、大剣を雷のごとく振り下ろす。大剣の先から、白い矢の連撃が始める。


はずだった。


「『ブラックホール』」


 黒い壁から外に出たと同時、球状に溜めておいた黒い煙を発射させた。


 Level8でも、瞬殺だった攻撃だ。耐えられるものなら耐えてみろ!


 突き進む黒い煙玉。途中、白い矢が刺さったが、全く勢いは衰えない。黒い煙玉は徐々に拡大し、白騎士の逃げ場を奪う。


 白騎士はバックステップで避ける。だが、黒い煙の膨張速度は増す一方だ。黒煙が白い甲冑を捉えた。一度捕まると逃げ場のない蟻地獄。白い足が飲み込まれ、連れられるように身体も飲み込まれていく。



 あと問題なのはやはり、フェアリーか。踵を返し、白いゴブリンの奥。小さな妖精に鋭い視線を浴びせる。


 緩んだ口元が、勝利を確信していた。思考は既に次の戦闘に移っていく。切り替えの早さは優秀な兵士になった証でもあるが、驕りでもあった。


 痛みが走る。右腕からだ。血も盛大に噴き出す。首を横に動かすと、血まみれの右腕。右腕を斬ったのは、近くに落ちる大剣。右腕を押さえながら急ぎ振り返る。黒き煙に白騎士は飲み込まれ跡形もない。


「くっそがっ!」


 怒りに任せた叫び声。油断というのは些か、険しいだろう。白騎士は身体の自由を奪われ、消滅する寸前に、残りの力全てで大剣を投げるという博打に賭けたのだから。しかし、結果は凶。投げられた大剣は健一の右腕を切り裂いた。


 健一の叫び声がこだまするなか、戦場に混乱を生じていた。『厄気』側の指揮官である白騎士が討たれた。敵との最前線に立つ黒騎士と白ウルフは目の前の敵を倒すのみ。先ほどのように一直線で進軍をおこなってはいない。兵士を倒せず停滞している黒騎士達。兵士達に押されている黒騎士達。そして、兵士を倒し、進軍の先頭を行く黒騎士達。


「みな、一斉に攻撃を狙いはあいつらです」


 イリリのハキハキした活気ある声を合図に兵士達が駆け出した。今、走り出したのは予備兵の独立部隊。その数20人。バル軍のエリート集団、この数では数体のlevel6、5の『厄気』には十分だ。


「イリリ、ここは任せました」


 いつの間にか前線にまで上がってきたスフラが声を掛けた。


「王女様、ケンイチさんが!」


 小さなシルエット、立ってはいるが左手で右手を押さえている。時々落ちる液体。離れたイリリからも健一が重症なのは推察できる。


「わかっています。イリリはここの黒騎士を、指揮官を失った今なら容易いはずです。岩石の打ち落としも止みました」


「王女様はケンイチさんを助けにいくのですね?」


 イリリは大きな目を見開いた。すぐ帰ってくるはずの返事がなかなか帰ってこないからだ。


「ケンイチなら、まだ、大丈夫でしょう。私達の救世主はこんなことでは負けません。負けてしまっては困ります」


 強い口調で言い放つスフラ。


「そう……ですね」


 ぼそっとした声でイリリは返事をした。スフラはそれに全く気が付かないようすでポケットを探りながら、視線は前方の『厄気』を見据える。大きな瞳を潤ませるイリリはこれっぽちも目に入っていなかった。


「『ポーション』」


 緑色の液体が右手に降り注ぐと傷口に触れて瞬間、淡い光となる。大きな切り口を開かれた右腕の出血は止まり、傷口も元に戻っていった。


 これで死ぬことはないが…………。


 右腕に力を入れる。直ぐに激痛が全身を走り、眉間に皺を寄せた。


 くっそ! 右手を挙げろと思っても無理だ。神経が遮断させている感じ。そのくせ痛みだけは最高速度で循環しやがる。


 下を向き、奥歯を噛みしめ痛みに耐えているところ。足音の固まりが聞こえた。慌てて前を向くと白ゴブリンが一斉に進軍してきた。


「なめんじゃねー!」


 足を進めた。相変わらず痛みは酷い。それでも、目は鋭く尖り、瞳は淡く澄んでいた。


 お前らなんて、片手一本で十分だ。


 右胸ポケットから煙草を一本取り出した。左手の人差し指と中指で挟みながら、左胸ポケットからフェバルを取り出す。器用に片手で『錬術』を発動。『フリースモーク』を展開した。


「うっりゃー!!!」


 左腕一本で『フリースモーク』を振り回し、黒い球体から白い煙が飛ぶ。煙の銃弾、何発もの弾丸が広範囲に散乱する。


 さすがにこの状態じゃあ『精術』は使えない。今は俺にできること。『フリースモーク』で目の前の化け物どもをぶっ殺す。


煙の銃弾はゴブリンを撃つ。鉛玉のように体を貫くと烈火の炎が身体の中から燃え上がり爆発が起きる。爆風に巻き込まれる周りの白ゴブリン。逃げようとしても、密着して逃げる道もない。そして、爆発の弾は一弾ではない。放たれた弾丸は数えるのは難しいほど。爆発の連鎖は大地を火の海にしていた。


健一の連撃により形成が逆転。厄気軍の後方は壊滅の危機に陥っていた。残るは治療を施すフェアリーが厄介だ。


 虹の光が発光している。その小さな瞳には眩し過ぎる光。それでも、フェアリーは小さな目を片時も離さない。


 虹の光が衰えていく。同時に現れたのは赤い長髪、ルビーのような瞳。世界一の『錬術』使いにして、世界を統べる王女、スフラ。


「指揮官がいなければ、あなたなどいつでも倒せます」


 右手に持つ細い剣。言葉では言い表せない神々しさを醸し出す。斬れないものはない剣、『聖剣』。スフラが世界一と呼ばれるゆえんだ。


「はっあ!」


 素早く詰め寄り、『聖剣』を突き出す。


 フェアリーも身を守るべく、周囲に漂う白いカーテンを自らにぐるぐる巻きに。形は芋虫のようだが、幻想的なカーテンと優美なフェアリーでは絵になる。


 グッサっと鈍い音。『聖剣』は白いカーテンごとフェアリーを突き刺し、剣の先は体を貫いた。ぐったりと首を垂れる。小さな目が閉じ、体が黒い塵に変わっていく。


「これでひとまずこの戦場は終わりです」


 ほっと肩を撫で下ろし、息を吐きだした。


あとは、ここから、ゴブリン達を攻撃、ちょうどケンイチと挟み撃ちにできる。すぐに殲滅できるでしょう。そこから2人で反転して黒騎士達を倒す。気がかりなのは負傷者の数。岩石の間、間に休ませていますが体調が心配です。とにかく急ぎましょう。


 振り向き、爆破を起きていることに笑みを浮かべるスフラ。健一がまだまだ暴れ回っている証拠だ。私も、と足を進めようとした。


そのとき――――。


 全身に寒気が走った。次に呼吸が荒くなった。足が震え、手先の感覚がなくなる。唾を飲み込みながら振り返り、全ての原因であろう人を見る。


「…………きたの」


 黒いオーラを身に纏う人型の『厄気』が目の前に。黒いオーラは体を巡る。顔付近のオーラが薄くなった。僅かに見える顔、そこからでも端正なルックスが目立つ。人と変わらない顔だ。そして、薄い唇が微かに動く。


「久しぶりだね。スフラ」


 小さな声だが確かに、人型の厄気はそう呟いた。呟く声はこの世を憂うように儚い。


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