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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
真実の召喚
35/89

集団戦

 王城のさらに北側、かつての『王都エリア』のあった地域。以前のような黒い球体はないが、それを遥かに超える敵の数。豊かな緑の草原は視点を頭上に変えると黒一色に変化しているだろう。数えるのも腰が折れる大群の数。『厄気』の種類と数は『王都エリア』と比べ物にならず、列をなして一歩一歩、確実に王都に進軍を進める。もろろん、軍も黙って見守るはずもない。戦える兵を集め戦を繰り広げる。炎が空を舞い、雷が地を這い、水が散乱する。剣で斬り、斬られ。殴り、殴られ。兵士達は鬼の形相で『厄気』を撃退していた。『錬術』は願いの力、侵略という目に見える形で追い込まれた兵士達は真価を発揮した。『錬術』のlevelがアップし、中には『精術』をマスターするものもいた。


 それでも、『厄気』の進軍は止まらない。


「なるほど、『厄気』全軍で攻めてきているのは本当だな」


 戦場に到着した健一がまず目にしたのは、負傷兵の数。後方に下がり、手当を施す兵士は既に何十もの兵士にも及んだ。次に目を引いたのは各所に散らばる黒い岩石、直径は2mほどで、所々に血痕が残る。奥には交戦中の兵士達。剣を振れば、金属音と共に受け止められる。黒い剣に黒い盾、黒い甲冑に頭部はなく、変わりに赤い球体が光っている。黒騎士が3人一組に固まり進軍していた。1人でも厄介な黒騎士が固まり、互いをカバーする。倒すのは一筋縄ではいかない。しかも、固まりの数は10以上だ。さらに目を引くのは黒騎士の少し後ろ、白狼のような身体に青い目。青光の数は一組に6つ。躾がなっているのだろうか、黒騎士の後ろをぴったりと歩く。


 視線を更に奥に移すとゴブリンの大群が陣取っていた。そして、集団の奥、小さい体に小さな羽。人の手のひらサイズの天使、フェアリー。そのそばに立つのは黒騎士の一回り大きくした体。白い甲冑に白い大剣。頭は同じ赤い球体。遠目からでも、並々ならぬオーラを感じる。


「数も脅威ですが、これまでとの一番の違いは戦略性が格段に上がったことです」


「戦略性?」


「あそこを見てください」


 そうスフラが指差した先には小さな少女が戦っていた。


「『ギガンテス』」


 イリリは巨大化した剣を振る。剣を振う先は黒騎士、2つの盾をぴったりと並べ疑似的は大楯をつくりだす。家が倒れるような衝撃を2人掛かりで止める黒騎士。『ギガンテス』の地を砕く一撃は黒き大盾で止まった。


 『ギガンテス』、その威力と攻撃範囲は『錬術』の中でも際立つ存在だが、弱点も存在する。規格外の大きさゆえ、剣を振ったあと隙が生じる。残りの黒騎士が勢いよく地を蹴った。散る砂煙、視界に広がる黒い影。その影は剣を引き、突き出した。


「隊長!」


 イリリの耳朶に男の叫び声が響く。叫んだ兵士の視線は黒騎士に移った。このままでは隊長が斬られる。兵士の行動は迅速だった。剣に炎を纏わせ、黒き剣を燃やし尽くそうと振り下ろす。


「ダメ!」


 イリリは瞬間的に叫んだ。これまでと同じパターン。黒い剣が炎の剣とぶつかり合うまで、数センチ。白い何かが飛び込んだ。速すぎるため、イリリが気づいた時には血が噴き出したあと。兵士の左腕に牙が食い込む。白狼に噛まれたのだ。振り払おうと兵士は腕を振るが、肉を噛む牙が緩む感覚はない。眉間に皺を寄せながら剣を振るう。白狼を刺すつもりだが、兵士は軽くパニック状態だった。戦闘中にも関わらず視界が狭まる。左側から迫る黒い剣に気づいたのは首を斬られる寸前だ。


 兵士は思わず目を閉じた。感覚に痛みはない、変わりに聴覚に金属がぶつかり合う音と覇気のある声。


「早く離れなさい!」


 イリリの声で瞼を開く。目に写るのは宙に浮かぶ無数のナイフ、黒騎士はそれを剣捌きで振り叩き落とす。そのとき左腕の痛みが和らいだ。白ウルフが噛みつきを止め、地面に体を落とす。白ウルフの腹部には深々とナイフが刺さっていた。


 自分が助かったことを理解した兵士は右手で左腕を押さえる。出血量は少なくはない、血が治まる望みも薄い。後ずさりの、1歩、2歩目は黒騎士と白ウルフを交互に見ていたが、追撃のようすがないと見ると急ぎ踵を返し駆けていった。


「『舞え! 無限刃』」


 散った花のように、剣から散った無数の刃。風を切り、空を進み、白ウルフを襲う。止めの一撃は当たればの話。幾度も同じ手が通用する相手ではない。刃は弾かれた。白ウルフを庇う黒い胴体。黒騎士の盾によって、白ウルフはナイフに刺さりながらも逃げていく。イリリは下唇を噛みながら眺めることしかできない。


「『厄気』って、こんな集団戦してたっけ? あの人型の『厄気』のせいか、これじゃあまるで人の戦いだ」


 今までも『厄気』が集団で戦うことがあった。だが、数に身を任せ集団で突っ込む。戦うというよりも襲うといったほうが正しい。ましてや、異なる種類の『厄気』が連携して戦うことなどなかった。


「驚くのはまだ早いですよ」


 今度は空に指を刺す。促され空を見上げる。どこまでも広がる青空、白い雲。いくつもの黒い岩。


「って! あれ、こっちにきてないか!」


 黒い岩は徐々に大きくなり、周辺に並ぶ岩と同じものだと理解した。


 まぁ、スピードはないし。十分に逃げられるよな。


 地を震わせる音が響く。隕石が落下したような衝撃だ。なおも、隕石の落下は続く。


 健一とスフラは何の苦戦もなく避ける。瞬間、瞬間の戦いをしている2人には動作もない。

 

 大きいだけ、こんなの元気な子供でも逃げられる。元気な……!


 上空に目を遣る。岩が自分に降ってないことを確認すると視線を遠くにやった。兵士の前線から後方。そこにいるのは戦闘不能になった負傷兵が後方に向かう。そこに無残にも降り注ぐ岩石。いくつもの耳障りな音が鼓膜に触れる。


「あのゴブリンにこんな活用方法が」


 黒い岩石を投下したのはゴブリンだ。仲良く2人一組で黒岩を持ちぶん投げる。方向もただ、闇雲に投げているのではない。放たれる数十の岩石は一定の距離間が開いている。負傷兵に追い打ちをかけるだけでなく、進路を妨げる効果もある。ゴブリンを狙いたくても黒騎士と白ウルフ。更に奥に白ゴブリンが陣取る。辿り着くのは困難で、到達したとしても袋の鼠だ。


「そして、ここまで進軍を許している一番の要因はフェアリーです」


 いわれてみると疑問が浮かぶ。なぜ、フェアリーがあんな後方にいるのか。大量のゴブリンの後ろに隠れるように存在していた。


「おい、それはなしだろ……」


 その疑問はすぐに解けた。フェアリーの傍に黒騎士、白ウルフ、など様々な『厄気』が集まっていた。腕を失い、足が曲がり、首から上は消滅している『厄気』達。箇所はバラバラだが共通しているのは重度の負傷を負っていること。フェアリーの口が動く、相変わらずのお猪口。何をいっているのかここからは聞き取れない。だが、美しい歌を歌っているのだろう。みるみるうちに失くした腕は再生し、足は真っすぐに、顔も復元してこちらを睨む。


「フェアリーの歌声により、『厄気』は復活します」


 意思統一がはっきりしている。隊列を乱すことはせず、目の前の兵士を倒す。下がる兵士は追わず、後方に任せる。手傷を負えば素早く引き、回復。再び戦場に立つ。まるで軍の戦い方だ。


「でも、そんなこといっても仕方がない。いくぞ!」


「はい!」


 かつてない劣勢に立たされた軍。逆境を跳ね返すべく、世界最強と救世主が戦場に降り立つ。



「『煙回砲』」


 煙の砲弾、高速回転をしながらイリリの脇を通過した。標的は黒騎士と白ウルフ。黒騎士の1体は直撃、隣の黒騎士の身体も半分ほど抉り取った。真後ろで牙を見せていた白ウルフ2匹も直撃。煙の砲弾の勢いは止まらない。黒騎士と白ウルフを巻き込みながら突き進む。次の標的は白い化け物。黒色と違って高レベルなゴブリン。白ゴブリンの大群。煙の砲弾が大群を割る、2列目、3列目と突き破り4列目に差し掛かると回転は止まった。推進力も消えたのち、煙の砲弾に赤みを帯びる。熱気が充満し、赤みは紅蓮ほどに濃くなる。大地が唸る大爆発を起こした。密着して、隊列を組む白ゴブリン。天にも昇る煤煙を避ける術はない。城壁のように並ぶ白ゴブリンに風穴が空く。


「ケンイチさん! よかった。召喚されたのですね」


 振り向いたイリリ。肩が下がり、安堵の表情を浮かべている。


「おう、異世界のピンチに救世主がいなきゃ、どうするんだよ!」


 放たれる覇気のある言葉。幾戦もの戦いを乗り越え、眼光には並々ならない力が宿る。始めて召喚せれたときとは別人だ。そこには命を懸けて戦う、戦士の姿があった。


「頼りにしていますよ。ところで、王女様は前線に上がっていますか?」


「いや、後方いる。降ってくる岩をどうにかするっていっていた」


「そうですか」


「まずはこの前線を押し戻したい。何か手はないか」


「確かにそれが急務ですね。ですが、この組み合わせはなかなか厄介です。現状、ここを打破できるのは王女様とケンイチさんしかいません。あとは足止め程度、私も含めて。その最たる原因はフェアリーです。『厄気』がゾンビ状態になりますから」


「なら、フェアリーを狙うか」


「それが出来れば始めからしています。例えケンイチさんでも厳しいでしょう。ガーディアンのように立ち塞がる白騎士、levelは8です」


「level8だと!」


 Level8、門番クラスの強さを誇ることになる。


「だったら、俺がやる! まずは白騎士までの道を開くぞ! 『スモークショット』」


 フリースモークを横に振り払い、煙の弾丸を何発も放つ。標的は白ゴブリンの集団、弾丸は縦並びに、当たり爆発すれば人が通れる十分な道ができる。


「ちょっと、だから流石に1人では――」


 イリリの窘める声が消えた。予想外の『厄気』が前線まで上がってきた。疾風のごとく振り払われた大剣に。煙は斬られ、変哲のない煙のように消滅。


「そっちからきてくれるとは助かる。もしかして、俺を倒せるつもりか!」


 白ゴブリンの軍勢を従えるような騎士、いや、実際にあれの指示でこの『厄気』たちは行動している。全身白に装飾された甲冑、お揃いの大剣、赤い頭は不気味さを際立てる。


「この雰囲気、level8なのは間違いないな」


 健一は前に立つ白騎士の全身を見渡しそう評価した。


「まぁ、今の俺の敵じゃあないけどな!」


 フリースモークを左手に持ち、右ポケットからフェバルを取り出す。目は白騎士から離さず、目を閉じても可能な一連の動作。『錬術』の発動、『フリースモーク』に発動された『錬術』は『精術』になる。


「『フリースモークモア』」


 黒い棒状、白い球体、真逆の色になった『フリースモーク』改め『フリースモークモア』。右肩に担ぐと地を蹴り、白騎士に駆け寄る。


 それを見ていたイリリは首を傾げていた。おかしい……。どうして、白騎士がここで前にでるのです。攻勢なのは『厄気』側、このまま最後尾で指示を送ればいいものを。白騎士が消滅すれば、この集団は麻痺するはず。まさか、ケンイチさんを討てるつもり?


 だったら、舐めすぎですよ。


 白騎士の不可解な行動を考察していると、視界の両端から黒が映った。首を左右に振る。黒騎士は1体ずつ、左右から迫っていた。


 相手に出来ない数ではない。でも、ケンイチさんに助太刀するのは厳しくなりましたか。イリリは眉間に皺をつくりながら、剣を取り出した。


 健一が『精術』を発動する間も、今走っているときも、白騎士は1ミリも動く仕草はない。地に大剣を突き刺し、両手で柄を握る。『厄気』からすれば強敵の1人である健一が目の前に迫っても、悠然とした態度を崩さない。イラつかせる態度だが、他にも健一の集中力を乱すことがある。


 轟音が空から響く、花火大会のような爆発音の連続。もちろん、花火のようなものなく、火炎と煙幕が空を覆い尽くそうとしていた。ゴブリンたちから放たれえる岩石、青空を舞っているうちに火炎玉が直撃する。後方からスフラが『ファイヤーボール』を放つ。特大な火炎玉は百発百中。岩石に命中し爆発によって灰になる。


 スフラの活躍によって被害はないが。白騎士が前に来てからというもの放たれる岩石の数が増している。『厄気』が急いでいるのはあきらかだ。


 ここで決めるつもりか、それはこっちもだ。目に鋭さを増し、目の前の白騎士を睨みつけ、力強く地を蹴る。




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