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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
真実の召喚
34/89

 光に視界を奪われる。眉間に皺を寄せながら目を強く瞑る。3回目だが、この眩しさにはされない。ふと、そう感じながら、光が薄まると健一は目を開けた。広がる青い空、ぽつぽつとそびえ立つビル。激しい走行音。そこにはいつも通りの『ゲイン』の屋上、少し懐かしい光景が目に入った。


「戻ってきたのか……」


 溜息混じりに、まずは腕時計に目を落とす。時刻は12時32分を差していた。


 前に召喚されたときより短いな。早くに戻ってきた影響か――。


 そこで健一は思い出す。腹に刺された感触を。反射的に脇腹に手を当てるが、かすり傷ひとつない。思わず安堵の息を漏らした。どうやら異世界での傷はこっちでは引き継がれないようだ。この現実ではまだ生きられる。生きていきたいかどうかは別として。


 俺は死んだのか、それとも死ぬ前に戻ってきたのか。もし、死んでから戻ってきたら。もう異世界に召喚されることって……!


 健一の顔が青ざめた。


 いや、そんなことを考えてもしかたがない。それに――。どして、レンが俺を刺すんだ? 態度が悪かったから? いや、流石にないか。それに、あいつ「ごめん」って。「もう、この世界にくるなって」どういう意味だ。単純に嫌われているだけか? やっぱり、元、武人は気が荒い? でも、スフラはやさしいし。イリリは少し怖いか。


 それよりも一番の心配はあの人型の『厄気』を倒せたのか? スフラ達は無事か? くっそ! 結局、こんな世界にいても仕方がない。でも、どうしょうもないよな――――。今はスフラを信じてまた召喚させるのを待つしかないか。また、使えそうな『媒体』でも探しながら、正直、あの人型の『厄気』は『精術』を使っても厳しい、それほど圧倒的なオーラだった。


 そう結論づけると、隣に置いてあったコンビニ袋からオニギリを取り出した。自分の記憶では一週間近くここに放置されていたものを食べるのには抵抗があったが、空腹に負け封を開け、口に運んだ。


 少し、びくびくしながらも咀嚼する。いつものコンビニ味だ。


 また召喚されたら、残る『厄気エリア』はあと1つ。それを片付けてあの世界に平和をもたらす。そして、スフラと俺の理想を叶える。ご飯を咀嚼しながらそう誓った。



――1ヵ月後――


 相変わらずの特等席。ゲインの屋上には健一が街を一望できる景色を独占している。しかし、体全体が弛緩している。糸が切れた操り人形にように体に力が入っていない。柵に体重を預け、胡坐を掻き座り込んで下を向く。


「死んだんだ。あの世界の俺は死んだんだ!」


 1ヶ月後も召喚させる様子がない現状を健一はそう結論づけた。何度かの溜息をつき、両目が涙目になる。


 まだ、何一つ終わってない。何も叶えてない。


 健一にとって、夢の世界。剣と魔法のファンタジーの世界。ないとわかっていながらも、強く焦がれたその世界でまさに、主人公のごとく活躍した。


 でも、まだだ。もう少しだ。俺はまだ、救世主じゃない。ヒロインを、スフラを救えていない。


「スフラ! まだか! 俺の力が必要じゃないのか!」


 天にも届く健一の叫び声。晴天によく響く。しかし、ただ虚しく声は消え、降り注ぐ太陽の光が鬱陶しく照らす。健一の声を聞く人はこの世界にはいない。


「だめか……」


 あきらめたかのように俯き、ポツリと涙が零れた。灰色のアスファルトには水玉が増えていく。


 そのとき、光の柱が落ちてきた。その意味をよく知る健一は急いでリュックを手に取り、涙を拭う。


 ついにきた。これで全てを終わらせる。俺が異世界を救う救世主になる。そして、スフラも救う。


 光に包まれた健一。やがて、光は消え健一の姿も消えていた。


 健一にとっては懐かしい光景だ。白い壁に絵画。赤い絨毯に大きな椅子。謁見の間、見渡すと記録と合致した。会いたくて仕方がない人も目の前にいた。


「スフラ――!」


 赤い長髪にルビーのような瞳。軍服からもわかるスタイルの良さ。目の前にいるのは間違いなく、スフラだ。


「ケンイチ、ずいぶんと遅くなってしまいました」


 少し頭を下げ謝った。


「うんうん。いいよ、またこの世界に召喚されたスフラに会えた。本当はこの幸せを嚙みしめたいけど、早く『厄気エリア』を進軍しよう。あと、1つだ。軍の準備はどんな感じ?」


「ケンイチ、いろいろ話さなければならないことがあります」


 ルビーの瞳が険しくなり、空気が張り詰める。何か重大な事態が起きていることは安易に予想できた。


「ああ、俺も知りたいことが。レンについて、何で俺は刺された?」


「そうですね、まずはケンイチが元の世界に強制送還させたあとから話しましょう」


 ゴクリと健一は息を飲んだ。人型の『厄気』。彼の強さを考えればどんな被害が出たのか、容易に想像できる。


「ケンイチを刺したあと、レンは人型の『厄気』の隣まで歩いていきました。レミアンやユタバは茫然としイリリは大声を上げて呼び掛けましたが反応はなし。そのときから『コア』が壊れ、黒い霧が晴れていきました」


「あの人型の『厄気』がポセイドンを倒したのは本当ってことか。でも、どうして『厄気』が『厄気』を」


 健一の顔が歪んだ。今まで『厄気』は人を襲うことが常識。実際に健一も肌で感じていた。


「人と同じです」


「人と同じ?」


「えぇ、人と人が争うように『厄気』と『厄気』も争いを始めたようです」


「私達は『厄気』の認識を変えなくてはなりません。『コア』の近くにいる高levelの『厄気』が門番だと決めつけていました。ミレェイがそうです。最後のエリア、『ルバエリア』もそうです。山脈にそびえ立つ城を根城にするドラゴンが門番だと思っていました。見誤りでしょう。あの人型の『厄気』こそ、最後の門番なのです!」


 最後の門番、そういわれてもなんら不思議に思わない。事実、『ミレェイエリア』の門番を一撃瞬殺で倒したのを見ている。むしろ、それでしっくりとくる。


「それじゃあ、あの人型を倒せば。『厄気』がなくなるってことか!」


「それは……。そういうことになりますね」


「うん?」


「いえ、事態が事態なのでそこを考える余裕が」


「事態が事態?」


「緊急事態です。人型の『厄気』は各所に散らばった『厄気』をまとめ上げ、王都に攻め込んでいます」


「何っ!?」


 驚きの声を上げる。『厄気』は人を襲うが、それはエリアに攻め込んだときか、急に現れときぐらいだ。直接、王都を攻め込んだことなどない。


「そして、レンさんの行動にも推測ができます」


「推測?」


「レンさんは元々『ルバエリア』の隊長です。先に人型の『厄気』と接触があってもおかしくありません。能力も不明ですが、催眠の類だと仮定すればすべて納得いきます。王都を攻める計画はそのときからあったのでしょう。レンさんから情報を聞き出し、『ミレェイエリア』で待つ。催眠は強力な効果です。何らかの制約がきっとあるのでしょう。仮説として。近くにいなければ能力が発動しないと考えれば辻褄が合います。王都に侵攻した場合に障害になるのはケンイチです。だから、確実に刺せるレンさんを使った」


「なるほど、納得」


 首を立てに振り大きく頷く。この1カ月の悩みの種が解決された。安心の息も漏れる。


 催眠か。ラスボスぽい能力だな。うん? でも、だったらあの言葉は何だ?「ごめん……なんて催眠でいうのか? まぁ、スフラのいうことが間違っているはずないか。頭いいし。


「わかった。それで今はどこまで攻め込まれているの?」


「まずは地図を見て下さい」


 スフラはポケットから、古びた紙を取り出した。丸まった紙は黒い紐で結ばれている。その紐を傷ひとつない綺麗な指先で紐を解き地図を広げる。


 地図に描かれたのは長方形を縦にしたような大陸。右側の中央に大きな黒い円。左側には木々が並ぶ。上側には山が描かれ、下側には城が書かれている。


「まず、これが王都です」


南に描かれた城を刺した。


「ここがフローラ」


 西に並び木々を刺した。あの木々の並びは森を表しているのだろう。


「こっちがミレェイ」


 東の円を刺した。よくよく見ると、小さな粒が9個見える。9つの小島は地図サイズだと豆粒のようだ。


「そして、ここがルバです」


 北の山を刺す。まだ、健一が踏み込んでいないエリアだ。


「それでは現在の戦時状況を説明しますね。まず、『厄気』側はフローラとミレェイを同時に襲撃しています。こちらも、それぞれも軍で対処しています。今は互角といったところでしょうか。しかし、『厄気』側の主力は王都に向けられました。『ルバエリア』にいる軍とも連絡が取れません。イリリを中心に対抗していましたが、徐々に南下を許し、今は旧『王都エリア』にまで押し込まれています」


 健一は息を飲む。そこまで『厄気』が侵攻されているのだ。


「ヤバイな、すぐいこう!」


 スフラの返事を聞く前に足を動かす。


「はい!」


 健一は急いで踵を返し、謁見の間の扉を開けた。乱暴な音が謁見の間に響く。スフラを置いていくような速度で螺旋階段を駆け降りていった。


「よかった…………。信じて貰えて」


 小さく漏らしたスフラの小言は健一に聞こえるはずもなかった。


「どうした! 急ごうよ!」


「はっ、はい! 今いきます!」


 安堵の表情を引き締め、顔つきは戦士に。


 これで最後。全部私は終わらせる。この戦いは私が始めたのだから――――。



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