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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
飛躍の召喚
33/89

裏切りの刃

「まずは喜ぶ前に治療だ」


 健一は『フリースモークモア』を消し去り、傷薬を手にすると。『錬術』を発動させ、効果を何倍にも飛躍する。『ポーション』に昇華された薬を包帯に染み込ませスフラの傷口に当てた。『ポーション』は即座に傷口に染み込み、薄い膜つくる。人間の回復力を底上げする。


「これで血は止まった、大丈夫か!」


「はい、ケンイチのおかげで命の心配はありません。本当に何もかもありがとうございました」


 スフラが涙と少し頬を赤らめながら笑っていると、後ろから複数の足音が聞こえてきた。


「無事ですか、王女さま!」


 イリリの大きな声は近くにいた健一たちに煩わしいほど響いた。


「イリリ、この通り。何とかケンイチのおかげで」


 イリリはほっと肩を撫で下ろす。真近くで見て、容態の確認と無事を認識したのだろう。


「それにしても、ケンちゃんヤバくない! 門番を一瞬で!」


 高い声で話すのはレミアン。目をキラキラと輝かせ健一を見つめる。まるで、恋する乙女だ。


「うんうん、もっと褒めてもいいぞ! なんだって、俺の前ではもう門番なんて敵じゃないからな、もうそこらへんのゴブリンって感じ!」


「あれは『精術』ですよね?」


 テンションが上がりきった健一とは対照的にイリリは冷静に話す。


「そう! 俺って天才だからすぐマスターしちゃった。もう少し練習すれば簡単にものになるよ!」


「それはマスターっていわないです」


「まぁまぁ、細かいことを気にせずに今はこの晴れた霧から見える青い空を見上げて――」


 健一の視線は上空に移ると、言葉が途切れた。黒い霧が次第に晴れ、快晴が広がるはずだ。しかし、視界に映るのは相変わらず不気味な黒。黒い霧が晴れる気配は微塵もない。


「ケンイチ、あれを!」


 スフラが指さす方向。先ほどまでクラーケンがいた更に奥の海面。


「はぁ!」


 突発的に大声で叫んだ。赤い光が灯す球体。『コア』はまだ壊れていない。


「どういうことだよ!」


 怒鳴る健一にイリリが目を険しくなる。


「単純な話です。クラーケンは門番ではなかったのです」


「俺の失態だ」


 急いで船から降りてきた。ユタバとレン。船の戦力は大きく低下するが緊急事態では仕方がない。


「いや、気にすることじゃねぇよ。あれを門番と思っていたのは何もお前だけじゃない。ここにいるみなが勘違いをしていた。責任は全員にある。それより今、すべきことを考えろ。スフラはもう戦えない、穴埋めにはならないがこの2人が戦場に出るべきだ。まずは、門番を見つけること。『コア』があるってことは必ずこの近くにいる」


 そう意見したのはレン。これまでに脱力感のある表情は抜け引き締まった顔を覗かせる。


「なに急に仕切っているんだよ!」


「うん? 不服か」


「ああ、嫌だね。いくら強かろうが、割り切ってしか戦いわないあんたみたいな人は」


「そうか、みなはどうだ」


 視線を変え、イリリ達3人の顔を見る。


「レンさんが適任ですね。やる気を出している状況なら」


「俺にもう何かいう権利はない。みなで決めてくれ。まぁ、師匠以上の指揮官はいないと思うが」


「私も師匠がいいと思うな~」


「と言うことで指揮官は俺だ。命令には従ってもらうぞ。救世主さん」


 健一の目が細く吊り上がる。不満な顔を隠そうともせず、十分に間をおき。


「――――わかったよ」


 溜息混じりに同意した。


 健一は島の東端により、望遠鏡を手に遠くを眺めていた。門番を探すために東と西二手に別れた。船を使わないのはなるべく陸上戦のほうがこちらに有利だからだ。島で見つけおびき寄せ、討伐するのが理想的。もし、発見できない場合は船での探索になる。


「それにしても、さっきもレンのことを師匠って呼んでいたけど」


 健一は隣のレミアンに話しかけた。門番が襲ってきたときに対応しやすいために2人一組で行動している。レンはユタバと、イリリは船番だ。


「あ~ぁ、それはね。昔はレンさんに戦術を教えてもらっていたの」


「あの人が?『精術』を聞いたときにはほとんど何も教えてもらえなかったけど」


「昔はあんな人じゃなかったの。もっと活気溢れる人で、先王とは血よりも固い絆があったよ。当然、その娘である王女様はわが子のように可愛がっていた。でも、先王が亡くなってから、塞ぎ込んでしまって。今でも隊長の役目を務めているけど、あの人が本気になればすごいよ」


「ふぅーん」


 信じられないといった顔の健一。これまでの意欲を垣間見れば当然だ。


「まぁ、俺は『厄気』を滅ぼすために全力でぶつかるだけ――――」


 海面が上がった。そう勘違いされるほどの光景だ。直径5mほどの海水が見上げるほど突き上げられたあとに滝のように海水が落下する。そうしてそいつは姿を現した。全長は5mほど。銀色の王冠、赤い眼光、立派な白い髭。人と同じような上半身に右手には金色の槍を携える。下半身は巨大な魚類の形、青い鱗に虹色に輝く尾ひれが美しい。


「きたかっ!」


 背筋に寒気を感じる。今までにも感じた強者のオーラ、間違いなく目の前の『厄気』こそ門番だ。


「こっちか」


「これが、本当の門番」


 反対側にいた、2人も巨大な海流の打ち上げに気が付き健一たちの元に駆け寄った。


 対峙する4人。門番から目線を外さず、『錬術』を準備する。


「この見た目は、あれだな。ポセイドンだ」


「何それ?」


 レミアンが疑問の言葉を投げかける。


「あぁ、俺の世界の海の神様だったっけ。そんな感じ」


「門番に神の名を付けるのですか」


 ユタバが苦笑いを浮かべる。


「それもそうか。え~っと、何にしようかな」


「おい! 無駄話はそこまでだ!」


 レンの声が響く。ポセイドンを見ると、槍を引き今にも突き出そうとしている。


「よし! 『フリースモークモア』」


 健一は『精術』を構え、戦士の目に変える。今にも、門番との一戦が始まろうとしている。


 そのときだった。


 天から一筋の黒い雷が落ちた。それはポセイドンを直撃すると、王冠を割り、体を抉り、右手からは黄金の槍が離れた。大きな海面を打つ音と、大量の水しぶきが健一達を濡らす。ポセイドンはゆっくりと倒れた、体を貫く穴が痛々しい。徐々に黒い塵になるポセイドン、その傍らにはそれの元凶。黒いオーラを身に纏った人が海面に立っていた。


「あれは、フローラの森で見たやつだ!」


「フローラで、でもあれはケンちゃんの勘違いじゃ」


「目の前にいる。勘違いではなかったんだ!」


 水面が円状に波打つ。一歩一歩、黒いオーラを纏った人が近づく。一瞬でも、姿を見れば嘔吐を感じるほども高圧力の威圧感。距離が近づけば近づくほど呼吸が乱れる。


「敵なのか? オーラは完全に厄気だが」


「どう思いますか師匠――――?」


 レミアンが返答を求めるが、レンからは返ってこない。顔を覗くと、目線を落とし何かを考えているようだ。


「あれは―――――。厄気です!」


 背中から空気を割るような声がした。振り向くとイリリが剣を構え走ってくる。


「『無限刃』」


 幾多もの刃が、空を斬る音を立て黒いオーラの人に放たれた。


 誰もが刃の行方を見守った。これに対してこの謎の厄気はどう対処するのか。何しろ、情報が全くない。5人の目が一瞬の隙間なく謎の厄気を監視する。にもかかわらず、やつは不意に姿を消した。


「はっ!」


 思わず吐息が漏れた。その時間でさえ命取りだ。謎の厄気は姿を消し。


 鈍い音が聞こえた。真後ろからだ。すぐさま振り返ると、謎の厄気はイリリの背後に立ち、頭部に殴打を加えた。イリリは抵抗する余裕はなく、体が脱力し目を閉じその場に倒れた。


 健一は無反応だ。本来なら怒りの声を上げるはずだった。これまで、共に戦ってきたイリリが倒されたのだ。しかし、余りにも、簡単に手際よく一瞬でイリリを倒した敵に声がでない。


 更に衝撃的だったのは。ゆっくりと黒いオーラが消え、頭部が覗くと。その顔はまるで人と変わらない。美男子に見えたからだ。


「なんだっ?」


 声をかけたのはレンが隣にきたため。


しかし、手に持つ小刀には気がつかなかった。


「おい、これって?」


「ごめんな。全て俺の責任だ」


 喉から絞りだした声。健一が目線を合わせると。


 小刀は健一の脇腹を刺した。目を開き、レンを見つめる。


「何をして……」


「もう、お前はこの世界にくるな。きっとそう願えば『錬術』だって跳ね返せる。本当にすまねぇな」


 死んだ魚の目、廃人の目、光が消えている目。レンの目はただ、ただ、深く黒ずんでいた。


 痛みに耐えられず、倒れ込む。次第に黒い光が体を包むのを感じた。眠気が襲う。それに抗う体力もない。目が閉じられる。黒い光は健一全体を包み、発光した。そして、天に昇る。もう、健一の姿はそこにはなかった。


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