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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
飛躍の召喚
31/89

本物の救世主

 『セカンド』の乗組員の面々は呪鯨を討伐したあと、急ぎ『門番』のいる9の島に船を進めた。スフラとイリリ、レミアンは仕切り周りを警戒していた。ひと仕事を終えたレンは柱にもたれ休む。先ほどの戦いの功績でもう健一も咎める気がしない。


「まだ、7の島に厄気がいるのか? 少しは休んだら?」


 警戒を途切れさせない、スフラ達。もちろん、敵地の真ん中であるが、大物を倒し、見渡す限り『厄気』の姿もない。ここは肩を休めるときだ。長い戦いではレンほど要らないが休息は必要だ。


「変です。『厄気』が少な過ぎます」


 スフラが目を細め警告する。


「他の島にいる『厄気』が移動してくるはずですが、それがありません。最悪、ここで待つのが最良かもしれません。9の島で『門番』と同時に他の厄気と戦うのは非常に困難ですから」


 1の島、2の島、4の島、7の島は『ファースト』によって攻略した。3の島、そして、呪鯨のいた5の島は『セカンド』が攻略。つまり、6の島、8の島にはまだ、『厄気』が生存していると推測させる。


「でもさ、このまま待っていても仕方ないか。それよりも先に9の島に行こう。早く『門番』を倒せば済む話だろ」


「また、無茶なことを。前回の反省をしてください!」


 健一の言葉をイリリは呆れ顔で咎める。


「いや、今回は無鉄砲でいっているんじゃない。完成したんだ。『精術』」


 右手には火炎石の屑。手首のスナップを効かせ宙に飛ばす。宙に漂う、蛍の光のような淡い光。


「イリリ、いくそ!」


「ほぇ?」


 淡い光、飛ぶ方向はイリリだ。


「って、急にあなたって人は『無限刃』」


 溜息混じりに『錬術』を発動。無数の刃は蛍の光を斬る。


 はずだった。


 淡い光は刃に触れると、ドロドロと銀液を落とす。蛍の光が刃を溶かしている。


「そんなっ!」


 大きな目を開くイリリ、赤い目を輝かせるスフラ、空いた口が塞がらないレミアン。腰を下ろし遠目で見ていたレンの表情は険しくなった。


「もう、スフラも。誰も傷つけない。俺が『門番』を片付ける」


 健一の決意の眼差しにスフラは無言で頷いた。


 マストを最大限に広げ、風を受け止め、最大速度で『門番』を待つ9の島に船を飛ばす。こうして、危機一髪。ミレェイ軍、壊滅寸前に間に合った。


「これって……」


 健一の目に飛び込んできたのは透明な水、円形の島、巨大な怪物。一瞬にして状況を飲み込む。


「ミレェイ軍が壊滅状態です。直ちに助けにいきますよ」


 『聖剣』を構え、船を飛び降りる。続いて、イリリ。


「みんなはこの船を守ってね。この『セカンド』が最後の砦だから」


 レミアンは流れる木材を横目に遣り、兵士達に指示を送る。


「心配するな、いくら俺でも泳いで帰れないからな」


 柱に倒れてもたれるレン。この戦闘にも参加する意思はない態度だ。船だけは死守する意思はある。


「ふぅん、今回は俺が速攻片づけるからな」


 鼻息を吹かし、健一も船から降りる。


「では、師匠。いってくるね!」


 笑顔を浮かべ、兵士達、一人一人の顔を眺めて船から飛び立った。


 見送るかたちとなったレン。深いため息を尽き、言葉が漏れる。


「習得してしまったか。もし、あのステージに入ったら……」



 船を降りた健一達。まずはミレェイ軍と合流するのが先決。『門番』の情報を得るためだ。


 行く手を阻むのは2本の触手。太陽の光が遮られる。塔が倒れたかのように上から襲う。スフラは『聖剣』を構えた。速度はそれ程ではない。2本の剣筋が光る。高速で振り下ろし、すぐさま横に振り払う。1つは縦に、もう1つは横に真っ二つに裂けた。


「変です、余り手ごたえないですね」


 『聖剣』を振り払い汚れを取る。顔は険しく、首は少し曲がる。


「まぁ、進もうか。『スモークエンド』」


 ひと言ついでに。そのくらい軽いノリで『フリースモーク』を発動後、隙間を置かず投擲。狙ったのは左側の触手2、3本。静寂の包まれていた海面を揺らす爆音。烈火の炎が散らばり、煙幕が舞う。鼻に焦げた匂いを感じる、触手は真っ黒に姿を変えた。


「無事ではないようですね。ユタバ」


 駆け寄ってきたスフラに視線を伏せるユタバ。


「申し訳ございません。多くの兵を亡骸にされてしまいました」


「今、口に出す言葉ではありません。『門番』の情報を」


「はい、クラーケンの攻撃手段としては10本の触手です。王女様と救世主のお力添えで4本葬りさしましたが、見て下さい」


 指を指すのは負傷した触手。スフラを始め健一達も視線を注ぐと、触手が再生している。


「あの触手は無尽蔵です。クラーケンもそれを利用し、果敢に突っ込んできます。さらに、その隙を口から黒い弾丸を放ちます。この惨状は一回の散弾によってなされました」


 額に汗を掻き、眼鏡の奥は暗くなる。ユタバは抜け殻のような目をしていた。


「そうですか、よくここまで踏ん張りました。ミレェイ軍は『セカンド』に撤退しなさい。あとは私達がやります」


 そういうとスフラは振り返る。クラーケンの触手、打ち下ろす数は6本。先ほど、スフラと健一に料理された4本の触手を除き、全ての触手で襲い掛かる。的は近くにいた、イリリ、ケンイチ、レミアンだ。3人は距離を取り、クラーケンと対峙する。


 島の前方左よりにいたるレミアン。後ずさりをしながらも、『棘鞭』を発動。その妖艶は表情に魅了されたのか、疾風の速度で触手が顔面を襲う。


 女の子の顔を狙うなんて、趣味が悪いわね。


 顔をしかめながらも、『棘鞭』を振るう。クルクルとうねりを作り、触手に絡ませる。棘の1つ、1つが触手に刺さった。ミシミシと繊維が切れるような音が鳴る。しかし、『棘鞭』は切れてはおらず、がっちりと触手をロックしている。


「私だって、これぐらい出来るわよ!」


 妖艶とは無縁な男のような声で言い放った。


「伸びなさい、『ギガンテス』」


 覇気を纏う声は前方右側だ。


 掛け声と共に、短剣は巨大な刃物へと変化する。大きさは丁度、触手と等しいくらい。


「はぁぁっ!」


 振るう剣、相対する触手。交差する2つの出化物は、海底にも響く打撃音を鳴らせぶつかった。歯を食いしばり、握る手にさらに力を込め、体重も前のめりになる。


「いっけっ!」


 イリリの声。珍しい荒々しい声だ。それもそのはず、『ギガンテス』で触手を斬れれば大きな戦果になる。


 軽く舌打ちをした。だが、すぐさま力を精一杯込める。『ギガンテス』と触手は鍔迫り合いを繰り広げていた。



 健一は四方から猛烈なスピードで近づく触手から、目を切った。


 あと、8.4秒。


 少し、首を左右に振る。イリリとレミアンが対等していることを確認し、後ろを振り返る。スフラと目が合った。『聖剣』を右手に構え、ただ歩いているようにみえるがひとつの隙もない。すぐにでも戦闘に参加できるだろう。


 それを見えて決意を決めたのか。トンっと、『フリースモーク』を地面に打ち付けた。モクモクと煙が滾り、4つの煙の球を型取る。


「いっけー!」


 ふわりと空中を漂う煙の球。速度はゼロゆっくりと移動する。触手は煙の球を無視したようだ。一直線に健一を吹き飛ばそうと勢いを増す。しかし、健一は微動だにしない。それどころか、数かに口元が緩む。4本の触手が追突する直前、煙の球は触手に接触した。

爆発音と破裂音が同時に鳴る。煙の球の爆発は触手を木っ端微塵に粉砕した。


「スフラの出番はいらないよ」


 得意げな表情でスフラを迎える。左右に展開する触手。イリリとレミアンと対峙していた触手も一度退いた。クラーケンの立場からすれば己を守る手段を確保するためだ。手が空いたイリリとレミアンも健一達の所に駆け寄ってくる。


「あの触手は再生するようです」


「再生!」


 健一は目を開き驚く。


「なるほど、『門番』にしては脆いと思っていましたが」


 横からイリリが話に入る。視線はクラーケン。4本の触手、短くなり触手の機能は果たせない。2本は『聖剣』に斬られ、もう2本は『フリースモーク』に焼かれたものだ。傷口から白い葡萄のようなものが膨れ上がり、触手を再生させる。


「でも、今が隙でしょ。ここで勝負をつけちゃお!」


 レミアンが『錬術』の用意をする。ここでスフラを分身させ、早々クラーケンを撃つ作戦だ。


「いえ、それは時期尚早です。あの口から黒い弾丸を飛ばします。みな、防御態勢を取ってください」


 スフラの言葉にみな、クラーケンの口のようなもの注目する。


「塞いだらよくない?」


 『フリースモーク』を左右に振り回し、発射された煙の球はクラーケンを襲う。


 そのとき、口のようなものが動いた。


 刹那、黒い銃弾が錯乱する。


「『インセクトハウス』」


 緑の牢屋、スフラの警告に従い準備を開始していた。目にも止まらない黒い弾丸が一発。緑の檻に直撃し激しい揺れを起こす。さらに、弾丸は『インセクトハウス』を撃つ。


「これはヤバイ!」


 流れるような弾丸の連続。『インセクトハウス』の柵は曲がり、形は歪に変わる。尚も続く弾丸に健一は焦りの顔を浮かべる。不安は現実に、甲高い音を奏で、柵が破壊された。破壊されたのは一部、しかし、徐々に破壊は広がる。


「うわっ!」

 

 健一の横目に流れる黒い弾丸。撃たれるのも時間の問題だ。


「仕方がないですね、突撃します。レミアン!」


「はぁーい!」


 弾丸に破壊される柵。それに足を伸ばすスフラ。黒い弾丸は今にも心臓を貫きそうだ。レミアンが陽気な声で返事したあと、ポケットから素材を取り出し『錬術』を発動。


 14ものルビー色の目。7つの白い剣。7人になったスフラの目は弾丸の奥、白い化け物を捕らえる。継続して、発砲される弾丸。口はせわしなく動いている。触手はいつの間にか再生され、10本の巨大な足は初めに元通りだ。


 7つの白い光線、緑の柵を木枝のように切り刻むと一目散に走り出した。弾丸な嵐の中なら、歩くよりも走るだろう。7人のスフラは縦一列。直進しかしない黒い弾丸。当然、最後尾に本物が並び、前6人は倒せてもクラーケンに辿り着く寸法だ。


「おい! 待ってって!」


 健一が叫んだときには、スフラは弾丸の中を駆けていた。


 また、1人で……。また、傷つくのか。俺はまたそれを眺めるだけで。強いから、わかっている。『厄気』を撲滅させるにはスフラの力が必要だ。誰よりも美しい彼女の犠牲が必要だ。そうスフラが率先して戦い、傷つくことは仕方ない……。


「ふざけんな!!」


 唐突な健一の叫び。狼の遠吠えのように何処までも響き、侘しさを感じさせる声だ。


 振り向いたイリリとレミアンは健一の顔から視線は離せない。それは紛れもなく戦士の顔だ。


 『フリースモーク』を片手で持ち、弾丸の嵐に足を進める。最愛の人を最強の自縛から救うために。


 俺は本当の救世主になる。健一はそう誓った。


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