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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
始まりの召喚
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異世界は期限つき

「ここは……」


 健一は目を開いた。白い石の壁に蝋燭や絵画、装飾品。どれも高級感漂う。地べたには赤い絨毯が敷かれている。その先にはひと際大きく豪華な白い椅子。健一のイメージの中で一番合致するのは中世ヨーロッパのお城だ。そして、視界の大部分を占める1人の美女。宝石のように輝く赤い瞳に鼻筋の通った鼻、ピンクの唇は小さな顔に違和感なく配置され、赤い髪は女性としては高身長の腰まで伸びていた。服装は白のドレスに胸に施した赤い花の刺繍がアクセント、可憐さをより引き立させる。可愛らしいはずの外見だが、どこか凛とした印象を受ける。そして、目が充血しているのが印象的だ。


 ずげーー、タイプ!ってそんな場合じゃない。


「ここはどこだ?」


 寝転んだ体を起こし美女に疑問を投げかけた。質問をしながらも頭を働かせる。


 えっ……、さっきまで屋上にいたよな。少なくても日本ではないよな。こんな部屋もないし赤髪の美女もいない。


「やっと……、来てくれましたね。救世主様」


「救世主? 何のこと?」


「ここは私に説明させて下さい。王女様は体を休ませて、何日も寝ていないのですから」


 声の方向に振り返ると健一は初めて気付く。周りには何十人といたことを。皆同じ上下の黒い服、胸には赤い花のエンブレムが施され、上着の左右にポケットが2つ、計4つもある。他にも革のポーチのようなものを腰にいくつも掛けている。先頭の少女が健一に近づく。先ほどの声はこの少女のようだ。短い黒髪に丸顔、小さな身長だが、大きく鋭い目は気が強そうな心象を受ける。


「まず、初めに失礼ですが自己紹介をして貰えますか?」


 とても理解ができない状況だが、取り敢えず返答をする。


「えっ! 堀木 健一だけど」


「ホリキ様ですね。私はイリリ・シューミと申します。こちらは王女様のスフラ・バル様です」


 自らを名乗った後、手招きを入れ先ほどの美女も紹介する。


 王女!いや、そう言われても何も不思議じゃないけど、どこの国だ?いや、それよりここは何処で何故こんな所にいる。おれは屋上にいたはずだ。


「まずは申し訳ありません。今このような状況に陥っているのは我々の責任です。今は何も分からないと思いますので簡潔に説明いたしますと。ホリキさんは異世界に召喚されました。この世界の救世主として」


「異世界? 救世主?」


 突然降りかかってきた言葉、意味は分かるが理解は出来ないに健一は頭を動かすことを諦めた。


「どういうこと?」


「そうですね。つまり、この世界には最低でも2の世界があるという事になります。ホリキさんが元々いた世界と今いる世界。我々はとある問題を解消するために古い伝記に記載されていた異世界の存在に目を着けたのです。大きな選択でしたが我々は異世界から救世主を召喚することに懸けました。結果、ホリキ様が召喚されたということです」


「なるほど……、それじゃ、ここは日本でも地球でもないってこと?」


「はい、そのような都市も街もありません。申し訳ありません。勝手に連れてきて本当に……」


 スフラ王女は健一の傍から動かず、頭を下げ謝る。王女が頭を下げたことに驚くイリリも素早く頭を下げる。そんな2人の行動など気にもせず健一は天井を見上げ。


「よっしゃーーーーー!」


 部屋中に健一の声が響いた。


「マジで、マジか! 異世界だと。これで、これで地獄から抜け出せる」


 拳を握り締め顔には笑みが浮かぶ。予想外の健一のリアクションに部屋の誰一人余すことなく口が開く。突然異世界に召喚されたと聞けば激怒するに決まっている。いかな理由があろうとやっている事は誘拐、拉致と変わりない。王女もそのことは十分に覚悟を決め、許しを乞うつもりだったが。


「しかも、異世界って。何そのファンタジー世界。もしかして俺魔法とか使えるの。炎とか、氷とか出せる?しかも、救世主って俺強いの?」


 目を輝かせ、興奮気味にスフラ王女とイリリを交互に見る。健一の質問に戸惑いながらイリリが答える。


「そうですね。魔法というものはありませんが、『錬術』という炎や氷などを生み出すものはあります」


「マジで! テンション上がってきたーー!」


 笑みと握り拳を再び作り今度は軽くジャンプも加え。着地した後、健一は浮かんだ疑問を口にする。


「うん? 救世主ってどういうこと?」


「これは私が」


 イリリに代わってスフラ王女が説明を続ける。


「ホリキ様を召喚したのは私です。先ほど説明しました『錬術』というもので。『錬術』は事象を濃く願う必要があります。異世界人を召喚するさいにこの世界を『厄気』から救って下さる力を持つ人を願いました。ですから恐らく強い力を持っているかと思います。こちらの身勝手なお願いですがどうか私達と一緒に『厄気』と戦って下さい」


 深々と頭を下がるスフラ王女。長い髪が地まで垂れ下がる。横のイリリ、後ろの十数人も同じく頭を下げた。空気が重苦しくなるが健一はお構いなりにハツラツな声をあげる。


「うっそー! 救世主ってヤバイ。 俺の第2の人生かなり楽しくなりそうだ。その『厄気』とかいうやつはどうせあれだろ。人間を襲う存在だろ」


「はい、その通りですが。なぜご存知で?」


イリリが答え、首を少し傾ける。


「いや、たぶん。この世界は元の世界のゲームや小説の世界に似ているみたいだ」


「ゲーム、小説の世界?」


「えっと、元の世界で流行った想像の世界みたいってこと」


「なるほど。そのこともホリキ様が召喚されたことにも関係がありそうですね」


 スラフ王女が頷きながら言った。


「あの~、そのホリキ様って言うの止めてくれない。堅苦しいからさ。健一でいいよ。」


 にっこりとした健一の表情に同調しステフ王女も白い歯が見える。


「わかりました。では、ケンイチさんと呼びます」


「う~ん、硬いけど。まぁ、それでも」


「それでは急ぎになって申し訳ありませんが移動しましょう。時間がないので」


スフラは健一から視線を外し白い扉に進む。


「時間がない? あぁ、もしかして。何か至急の用事でも」


 スフラは王女だ。もちろん、分刻みのスケジュールが用意されているだろう。健一の言葉でスフラの足取りが止まった。直ぐに振り返りはっきりとした口調で話す。


「1番に話すべきことでした。ケンイチさんはこの世界に1週間しか存在出来ません」


健一は目を大きく開き、開いた口が塞がらない。ようやく口を動かすと。


「はぁ!!」


しばらくの間、城中に声が響き渡った。


 白い城から外に出るとレンガの家や赤い屋根、煙突など。中世ヨーロッパ風の建物が軒並ぶ。その風景を大胆に割る賑やかな大通り、両脇に店や露天が並び人々の話し声はどこからも聞こえる。


「まずは演習場で『錬術』の訓練をします。それが一定のレベルに達したなら今度は戦闘の訓練です。まずは3日間、訓練に集中します。後の2日で実践に移りたいと思っているのですが……」


「聞いています?」


「うん、うん。聞いる」


 イリリはこれからの健一のスケジュールを説明しているのだが、健一は肩を落とし首は前に倒れ俯いている。


「そんな、奇跡が起きて仕事から抜け出せたのに……たった1週間なんて、あんまりだ」


「ケンイチさん、大丈夫ですか」


横からスフラの声、視線を横に遣ると綺麗な赤い瞳に吸い込まれる。


「大丈夫、大丈夫。ちょっと疲れていただけだから」


「本当ですか。無理ならイリリにも言って下さい。あの子の訓練は厳しくて逃げ出す部下も多いですから。お気を付けて」


「お気を付けて?」


「当たり前です。王女様が一緒に訓練出来るはずがありません」


「そうですよね……」


「時間がありません。早く行きますよ」


スフラ王女に一礼し大通りを突き進む。


「ちょい、待ち」


大通りを突き進むイリリを呼び止めると作業着の胸ポケットからタバコとライターを取り出す。箱の中から1本を左手の人差し指と中指で挟み、慣れた手つきで火を灯す。


「それは、何ですか?」


 初めて見るものに興味津々のスフラ王女。何もしていないのに火が起きている。この世界では有り得ない現象だ。


「タバコっていう。俺がいた世界では気持ちいい毒みたいなもの。吸わない方がいいけど、止められないよ。これは」


フゥーと息を吹き出すと白い煙が空に昇った。


「だから、王女様は吸わないほうがいい」


「毒でしたらケンイチさんも吸わないほうがいいのでは?」


「それは分かっているけどさ、そう理屈通りにいかないって。何事も」


「そう……ですね」


 ゆっくりと頷くスフラ王女に呆れられていると感じたのか。健一は小走りになりながらイリリの元へ向かう。


「頑張って下さいね、救世主様」


 小走りになりながらスフラ王女を振り返る。眩しい程の笑顔に鼓動の速さを感じながら、イリリと同じく一礼をした。


「あの美女ともあと1週間か…………」


 そう小さな呟きを残して。


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