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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
飛躍の召喚
24/89

『覇円』

 決死の一撃、『聖白光』を放った『聖剣』は消えてなり、細い宝刀に戻った。当然の反動といえよう。しかし、敵にまだ余力があるのは見て取れる。


「スフラ下がれ! 俺が何とかする」


 『聖剣』を使えないスフラ、ここでの戦いは厳しいだろう。


「『スモークエンド』」


 『フリースモーク』の投擲、カラフル花の反撃がくるまえに決着をつける算段だ。攻撃を防ぐ花がない今、天を衝く爆発音が鳴り響いた。


「やったの……?」


 燃え盛る炎、黒い煙、焦げた匂い。どれもカラフル花の命を蝕む根拠だ。


「後ろの空を見て!」


 レミアンの声だ。戦いに参加できない彼女だが、それでも隊長。戦場においてただの荷物に成り下がるはずもない。3人がカラフル花に集中している間、レミアンは周囲の様子を常に監視していた。だからこそ異変に気が付いた。


 カラフル花の遥か後方。太陽のような丸い光が輝いていた。その光は次第に強まりこちらに向かう。さながら光の隕石だ。


「あれがカラフル花、最後の悪あがきです。ここは私が」


 声を上げたのはイリリだった。すかさず、健一が止めに入る。


「冷静になれって黒い柱みたいにデカいのは無理だけど、あれはこれの範囲内だ」


 そう言った健一の右手と左手には軍手をはめている。勿論、赤く染まり『錬術』を発動させている。


「『ダブルミラーハンド』」


 『ミラーハンド』相手の攻撃を反射する強力な『錬術』だあるが、誓約も多い。まず、反射するタイミングが合わなければならないこと。そして、質量が『ミラーハンド』の100倍以内であること。今回は『ミラーハンド』を増やし対象を広範囲にした。


 光の隕石が目の前に迫る。タイミングは問題ない。健一の時間感覚は時計のようだ。問題なのは質量のほうだ。『厄気』のこの魔法を思わせる攻撃がどの程度重いのかはスフラされもしらないだろう。


 自信満々に言ったけど、確証はないからな。見解が違ったらゲームオーバー、なかなかの博打だけど。やるしかないだろう! 俺はスフラを守る、これ以上好きな人の傷つくすがたを見たくない。そして、この世界を救う救世主になる!


「今だっ!!!」


 両手を前に構える。赤く染まっていた軍手が輝き、鏡を形成した。鏡に映るのは白い光、刹那の時間、白い隕石に触れると。ベクトルを変え、遥か空に突き進むだ。


「よっしゃー!」


 歓喜の声を上げ、後ろを振り返る。


「終わったみたいですね。カラフル花を見て下さい」


 スフラに促され、視線を切り替えると燃えつきたカラフル花が見えた。一輪であった白い花も燃えつき、黒い球体が地に侍るのみだ。


「そうだな、とどめはどうする?」


 まさに、虫の息。あとは棒切れで殴るだけで消滅しそうだ。


「わたしにやらして! 『棘鞭』」


 レミアンは『錬術』を発動させいった。1mほどの赤い鞭に付属された棘が痛々しい。


「そのようなお願いをしなくてもレミアンに決まっています。これまでフローラを守ってきたのはあなたなのですから」

 その言葉を聞くと涙を浮かべ深く頭を下げる。そして、一歩一歩、花道を進む。


 フローラ軍は軍のお荷物、世間ではそういった声がある。『厄気エリア』の捜索率は全エリアの中でも最も低い。複雑な地形を有しているため、致し方がないのが事実であるが結果のみ考慮する連中がいる。おまけにレミアン、隊長の人格を否定する声も。


 レミアンは今までの戦いの日々が脳裏に蘇る。苦労を共に分かち合った仲間、民の罵声を受けた日々、何より自分の無能さで死なせてしまった兵士達。全てがこれで報われたなど簡単には割り切れない。しかし、確実に今までの日々が1歩進んだとこれでようやく実感できる。


 零れる涙が花畑を濡らす。深く握りしめた『棘鞭』は震えている。レミアンは右腕を振り上げ、同時に『棘鞭』はしなやかな曲線を描く。『棘鞭』のリーチ内に入り最後の一撃を加えようとしていた。右腕を振り下ろし、『棘鞭』は雷のごとくスピードを増す。コンマ数秒後、棘は黒い球体に刺さり粉々になる。


 はずだった……。


 黒い球体は割れた。それも『棘鞭』が触れる前に。レミアンは疑問を浮かべる、ただ体力が尽きたのか。それとも……。


 割れた黒い球体、裂け目は5つ。次第に大きくなる裂け目、『棘鞭』はその空白を叩いた。


「そんな!」


 レミアンは青ざめた。


 黒い球体は5つに裂け、中身がむき出した。むき出しになったのは3つの白い毛のようなもの。よくよく見ると先端は丸まっている。遠くにいる健一たちも気が付いただろう。この森で一番大きい、黒と白は幻想的な感情に溺れる。


黒い球体はカラフル花の中心ではない、ましてや弱点などもってのほかだ。


 黒い球体はカラフル花最後の、おそらく最大の花であった。


「レミアン、戻りなさい!」


 スフラが急ぎ呼び戻す。Level3以下の『錬術』しか使えない状態では危険だ。レミアンの反応はスフラに呼ばれる前より迅速。半身になり花となった黒球体から目を離さない。まだ、攻撃はしてこないが何かが来るのは明瞭だ。


 しかし、そんな配慮は無駄であった。


 健一は肌に伝わる寒気を感じていた。


 寒い? 緊張感はもうないし、情勢はコッチが有利、確かにあの最後の花は怖いけどそれで冷や汗はもうかいてない。となると……単純に寒いのか?


「ケンイチ! 空を!」


 大声で叫ぶスフラ、即座に反応し上を向く。先ほどの寒気はこれが要因、太陽が隠れていたためだ。空が漆黒に染まる。そして、それは信じられないが確実に近づいている。


「これって……アイツの仕業なのか!」


「こんなこと門番しかできないでしょ」


 顔をしかめながらわかりきった質問をする健一に、イリリは尖った口調で返答する。


「焦ることはありません。あの空が落ちてきるまえにカラフル花を倒します!」


「そうです!『ギガンテス』」


 巨大化した剣は最後の花を貫こうと振りかざす。レミアンは既に退却済みだ。


 刃は花を貫く、花は黒い粒となり蒸発し、その奥はあった『コア』も一緒に貫き砕け散った。


「やったー!! リリちゃん、ありがとう!」


 戻ってきたレミアンは門番が消え、歓喜の表情を浮かべる。


「どういうこと…………?」


「わかりません、しかし、空は戻らないということは」


 健一、スフラ、イリリは天を仰ぐ。カラフル花は消滅した。その証拠に『コア』も消え、黒い霧も徐々に晴れていく。それでも漆黒の空は消えていない。


「俺が空を戻す! なんたって救世主だからな。みんなは遠くに逃げろ!」


「かっこつけないで、似合わないこと言わないでください!」


 健一の突然の提案にイリリは即座に反応する。あの空から発せられる圧力は黒い柱以上だ。そんなものを1人で片付けられるはずがない。


「あの『錬術』を発動するときですね」


 スフラはそう呟いた。か細く身を案じるような声だ。


「うん、そのつもり」


「確かにあの『錬術』なら、どうにかしかし、リスクをわかっていますか」


「当然、もうスフラに怪我はさせないよ」


 無理やり笑みをつくる健一にスフラも笑みで返す。健一の手足の震えはその笑みで和らいだ。


「わかりました。でも逃げることはできません」


「まず、今から逃げても間に合わないでしょ!」


 漆黒の空、文字通りその範囲は空のようだ。おそらく『フローラエリア』全体に落ちてくるだろう。


「それもそうか、じゃあ、見守ってくれ! 俺が再び救世主になるところを!」


 声を荒げ、鞄に手を入れる。声は震えていた。それも仕方がないことだろう。これから対峙するのはまさに天、そのものなのだから。

 少し震えた右手で鞄をまさぐり取り出したのは、コルクのような黒い塊に木の棒を突き刺したもの。


「それはなにですか?」


 イリリが質問する。健一の鞄、ポケットから取り出してくるものは全てこの世界にはない。イリリは決して好奇心旺盛な性格ではないが気になる。学者であれば涎が止まらないだろう。


「これはトンカチ、釘を打つときに使うってわからないか」


「釘?」


「異世界で木材を組み合わせ、繋げ合わせるときに刺す金具。それを叩いて木材に埋め込む道具がトンカチ」


「つまり、もともと打撃力のある道具ってこと!」


 タバコ、ライター、乾電池、石鹸液、様々な元の世界のものを『媒体』にしてきたが、殺傷能力を持ったものを『媒体』にしていない。元の世界ではそんな性質があるものは手に入りにくいことや、鞄の容量もあった。そんな中でも持ってきた『媒体』となるもの。


 漆黒の空はより近い、マンションの5階ほどの高さだろうか。急ぎ左手に持ったバルをトンカチにかざす。黒い塊、木の棒も赤く染まる。


 もともと打撃力がある。イリリは健一の言葉を反復していた。そう言えばあのタバコとかというものはただの嗜好品。それでlevel7、元から武器として成り立つものなら。


 赤色は光の粒となって脱色され、その変化が明確に示される。木の棒は1mほどの白い円柱状に、黒い塊は直径2mほどの円盤状にそれぞれ何倍も大きくなって形を変えた。


「うっりゃああー!」


 両手で握っても円周は覆えない。握力を振り絞り、変形したトンカチを持ち上げる。口角は以上なほど吊り上がり、目は大きく開く、口からは唸り声を溢す。自身の『錬術』と格闘すること数秒、彫刻のようなトンカチは肩の上まで上がった。


「大丈夫なの!とても戦える武器になれるとは………」


 イリリは不安の言葉をスフラに投げかける。健一が返答できる状態ではないのは見て明らかだ。空の闇は近い、部屋の天井と余り高さの違いはなく大男が跳躍すると頭の先が闇に飲まれそうだ。


「心配しないでレミアン、イリリも。あの『錬術』は私の『聖剣』を破りましたから」


 イリリ、レミアンとも目を丸くする。Level9『聖剣』、全てを斬る剣。世界最強の錬術使い、スフラの十八番。それを破る。強さを示すうえでこれ以上説得力のあるものはないだろう。


 イリリの頭は妙に納得した。模擬戦をとはいえスフラを倒した健一。当然、『聖剣』は使っていない、使えばスフラが負けるはずがない。しかし、疑問もあった。Level7を連発する健一に、最後の一撃とはいえ門番を倒した健一に『聖剣』を使わずに相手になるのかという疑問が。


「はぁーあ、『覇円』」」


 歪な鉄槌、健一の奇声とともに空に打った。黒い空に向水平、つまり、上向きに振る。いや、振るというより天目がけて突き刺す。もちろん、それでは黒い空、この世の全てを覆い尽くそうともする闇に触れてさえいない。


「えっ!」


「そんな!」


 イリリとレミアン、瞳を震わせ呟く。攻撃が外れた。最後の攻撃が。


「黒い空を見なさい」


 気品ある声が響く。スフラはこの状況に何一つ表情を変えず、ルビー色の瞳で黒い空を見る。


 池に小石を落としたかのような円状の振動が広がり、黒い空は丸く抉られていた。


「ケンイチの『覇円』はlevel9、空間を振動され攻撃します」


「「level9!」」


 驚嘆の声を上げる2人。今、Level9を発動できるのはスフラしかいない。


「しかし、リスクももちろん」


 視線は健一に移る。呼吸は荒く、表情も険しい。『覇円』も地面に置き腕を休めている。それはただ疲れを取るためだと理解できるが、服が所々破けているのは不可思議だ。


「反動として、自らもダメージを負います。今は立つのもやっとのはずです。あの一撃で決めなければなりませんでした」


 上空という言葉は不適切となった接近した黒い空、『覇円』により大きな穴が開いているがなおも下降は止まらない。


「はぁはぁはぁ………」


 くっそ! 体の中が骨ごと痛いし吐きそうだ。スフラとの演習は『ポーション』を使いまくって回復したけど今回はこの時間はないな、地が闇に染まってしまう。まぁ、でもやることは単純だ。もう一度『覇円』であの陰湿な空に穴を開ける!


「うらぁぁあ!」


 声を気張り、持ち上げる。腕、下半身の震えが大胆になっていく。限界は近い。黒い空は目と鼻の先だ。


 ふざけるな! ここままじゃ、スフラが! 


 クシャクシャな顔、僅かに空いた目でスフラを見つめる。


「『聖光波』」


「『ギガンテス』」


「『棘鞭』」


 いても立ってもいられないのか。3人は『錬術』を発動し黒い空に抵抗する。光の波動は黒を白に染め、巨大な刃は雲に突き刺さる。棘が雲を痛み付ける。しかし、黒い雲は何もなかったかのように地面に接近する。3人からは全く意味がなかったと歯を食いしばる。


 しかし、ケンイチの表情は覇気を取り戻した。


 今の攻撃であと0.5秒余裕ができた。また、スフラたちに助けてもらったな。今度こそ、今度こそ、スフラを守れる強さを、戦場に立たず王宮でお茶でもできるように。今は無理だけど、今度を得るためにこの空を晴らす!


「いっけー!」


 振り回す、『覇円』。両腕からはプチプチと音をたてる。


「っだぁ――!」


 両手から離れた『覇円』は黒い粒となって蒸発する。両腕は力なくぶら下がり、無理やり笑みを浮かべてスフラに話した。


「このお花畑、綺麗だよな。今度デートしょうよ」


 地までは2mほどに迫った黒い空。6つの穴から徐々に穴が拡大し消えていく。間から差し込んだ日差しは疲れ切った健一の顔を照らしていた。


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