『聖白光』
「まずは私がようすをみます。この『厄気』は情報がありませんので」
イリリは無限刃を構えながらスフラに視線を合わせ戦闘の了解を取ろうとする。スフラも頷き、イリリの意図に賛同したようだ。
「『無限刃』」
幾多にも分かれた刃は散乱しカラフル花に直進する。
花はゆったりと蠢く、花弁を細かく動かすさまは舞いのようだ。十輪を超える花からそれぞれの色に呼吸した攻撃が放たれた。赤い花からは火の玉を、黄色い花からは電気の球を、青い花からは水の玉を。放たれた玉は放物線を描き無限刃にぶつかる。火の玉は刃を吹き飛ばす。同じ現象は他でも同様だ。立場を変え、幾多ものカラフルな玉は健一達に襲いかかる。
「やはり、『無限刃』では手も足もでないですか。おそらくlevelは8でしょう」
奥歯を噛みしめながら分析を報告するイリリ。
「そんなことより、攻撃を防ぐぞ!『インセクトハウス』」
巨大な緑の檻に閉じ込められた4人。見た目はそう感じとれるが、今の状況では安心感が募る。怒涛の攻撃に『インセクトハウス』は揺れながらも壊れることはなく嵐を凌いだ。
「次はないかも……」
「いえ、心強いですよ」
そう言ったスフラの右手には『聖剣』を握っていた。
「レミアン、あの『錬術』を」
スフラは視線をレミアンに移すとそれに合わせレミアンは笑みを浮かべる。
「もう決るの……。いいよ。ケンちゃんこれ消して」
レミアンが指で刺したのは『インセクトハウス』、少し疑問が出る。もう耐久性が乏しいとはいえ盾をしまっていいのかと。そんな顔は、はたから見ればバレバレ、イリリが「早くしてください」と急かすので渋々『インセクトハウス』を消した。
「って! 追撃が!」
そんな隙を付くカラフル花の一撃。赤い花だけが一か所に集まり赤い花束の完成だ。その花が一斉に炎を吹く、炎が炎を飲み込み、螺旋を描きながら炎の放射は威力を増し放出される。
「王女様とレミアンさんを守ってください」
一歩前に出たイリリは剣抜き、腕を伸ばして剣を突き刺す。
「『ギガンテス』」
刀身を伸ばし巨大化する剣は炎の放射に突き刺さる。ぶつかり合う刃と炎、せめぎ合いの勝者は明白でドロドロと溶けた鉄が地に垂れる。
「やっぱり押されているな、俺の助けがないと無理だな!」
「無駄口を叩かないで、応戦してください」
「はいはい」
健一は乾電池にバルをかざす。
「『超電磁砲』」
電気砲は『ギガンテス』を伝わる。パチパチと音を鳴らしながら『ギガンテス』をつたい雷は炎に直撃する。『錬術』の同時攻撃。
鈍い爆発音。炎は鎮圧、雷は消滅、剣は溶解され、3つの攻撃は相殺された。
「ケンちゃん、リリちゃん、いい時間稼ぎになったよ! ナイス!」
声に応え、後ろを振り向くと左手で親指を突き立てるレミアン、表情は満面の笑みだ。気になるのは右手に持っている指輪、金色に輝く宝石が美しい。しかし、今は女性の美しさを引き立てる装飾品ではなく戦闘の道具になるのだろう。親指と人差し指でちょこんと挟み『錬術』を展開している。
「王女様、パス!」
まるでボールを投げるように平然と指輪を手か離す、それを受け取ったスフラは指輪を嵌めると『聖剣』を構え『錬術』の名を唱えた。
「『幻想風景』」
『錬術』を発動するとスフラは走る、猛進とカラフル花に突き進む。
「おい、なんだよそれ!」
スフラの身に信じられない現象が起こった。
正確にはスフラたちが走る、猛進とカラフル花に突き進む。カラフル花も戸惑いをみせるがすぐさま反応。色とりどりの砲弾で全てのスフラは攻撃をする。しかし、スフラたちは歩みを止めず『聖剣』振り下ろす。『聖剣』に斬られない攻撃はない、砲弾は真っ二つに割れ消滅した。
「なんでスフラが何人もいる!」
驚きながらレミアンに説明を求める。今、健一が見ている光景は何にものスフラが剣を振るう姿だ。艶のある赤い髪、真っ白な『聖剣』、なにより心ときめく女神のような顔は全てスフラそのもので間違いない。
「えっへん! これが私の必殺技、『幻想光景』、無機物、有機物に関わらず対象を複製できるの、7つまでだけど」
健一はそう言われて気が付く、分身したように増えたスフラの姿は全員で7人であることに。
「そうな『錬術』があるなら始めっから……って当然制約やリスクがあるのか」
「うん、ケンちゃんもわかってきたじゃない。この『錬術』は自分には使えない、そして、発動の後、数時間は高levelの『錬術』は発動できないのよ」
「高levelって、どのくらい?」
「うーん、そうだね。Level3が限界かな」
あっけらかんと笑っていうがこの状況では危険は賭けだ。Level3など木偶小人を倒すので精一杯、level8の門番などもっての他だ。
「心配なさっているのですか」
不安げな表情を浮かべる健一にイリリが話しかけてきた。目が吊り上がり、どこか怒っている様子だ。
「あの王女様が7人もいるのですよ。負けるはずがないでしょう。このエリアはこれで攻略です。もうあなたの出番もないですよ」
イリリの言葉に表情が柔らなくなり、言葉を返す。
「そうだよな、スフラが7人いる。どう考えてもこれで終わりだ」
カラフル花の猛攻が続く、炎の放射や雷撃、滝のような水弾など息つく暇もない連撃だが、『聖剣』の前では全て無効。すべてを切り裂く剣、『聖剣』。その特異性から圧倒的な攻撃力をもっているというのが世間での認識だ。もちろんそれも間違いではない、しかし、戦いに顕著に表れる有効性は防御面だ。どんな攻撃でも触れれば斬られ消滅する。スフラの剣技を持ってなせる超攻撃的防御術。
7人のスフラはカラフル花まであと数m。カラフル花の180°囲む陣形だ。もう一歩踏み込めば刃が貫く。だが、スフラの足は止まった。いま、一撃を下すのは危険だと察知したようだ。『聖剣』を構え何時でも反撃を取れる体制を保ちカラフル花を観察する。
色とりどりの花が咲き誇るその奥。黒い球の周り、咲かけの黒い蕾が妙な緊張感を漂わせる。他の花とは明らかに存在そのものが一線を介しているのだ。
あの黒い花からは痛烈な一撃、そう考えるのが妥当でしょう。それなら攻撃を仕掛けられる前に仕掛ける。幸いこっちは6人を犠牲にしてもいい。迷う選択ではないはずなのですが、私の戦士として勘が警鐘を鳴らします。ここは引くべきだと。
そこでスフラはひと呼吸を置いた。
いや……、さっきのことで思考が鈍っているのでしょう。ここは攻め時!
一番左手に構えるスフラは地を蹴った。白銀の剣が閃光のごとく花を斬る。一瞬にして地に降りる花は強風が過ぎ去ったあとの木の下。カラフル花も黙って伐採を許可するはずもなく、周りの花が応戦しようとする。
「今です!」
残り6人のうち3人が一斉に飛び出す。飛び出したのは左から2番目、真ん中、右端のスフラだ。
そのときだった。ゆっくりとゆっくりと悪魔の花が咲いた。黒い花が咲いたのはスフラの目には映ったが、スフラは首を傾げる。カラフル花になんら変化はなく、3人のスフラに斬られ続けている。花の半分は斬っただろうか。中央の黒い球体は守られていた花がなくなり剥き出しになっている。ただ、黒い花には未だ届いていない。
そのときだった。
黒い雷、いや、雷にしては小さい。神の鉄槌、神の裁き、神の悪戯、目を覆いたくなるような光景に健一はそう思わずにいられない。
直径3メートルほどの巨大な黒い柱。黒い光線は天から地を貫く。カラフル花ごとスフラたちを飲み込んだ。カラフル花にはなんら異常はない、自らの攻撃は効かないようだ。対照的に4人のスフラは跡形もなく消滅している。黒い柱は消えず、その邪悪な存在感を放つ。そして、巨大なフィルムからは不釣り合いな速度で進撃を開始した。
残り3人のスフラは黒い柱を目の前にしていた。背を仰け反らしても柱の頂点は見えない。距離にして残り2m。2人のスフラは勢いよく黒い柱に向かい『聖剣』を振りかざす。
神々しい剣技は黒い柱を切り刻む。すべてを斬る剣『聖剣』、対象が巨大な造形物でもそれは劣らない。ただ、斬れば消滅する剣ではない。目にも留まらない剣さばき、『聖剣』を振るうたび、黒い液体が零れる。このまま削れれば黒い柱は消滅するだろう。もちろん、そんな時間は残されていない。
「「ぎっやっ!」」
進撃を続ける黒い柱に2人のスフラが飲み込まれ、ついに本物のスフラ1人になった。
「しかたありません、『瞬間移動』」
ポケットから虹石を取り出し、フェバルをかざす。すぐさま虹色に輝きを放ちスフラを包む。一度退く決断を下した。
瞬時の移動ののち、スフラは健一たちのところに戻った。
虹色に発光し瞬間移動を終えたスフラ。まず、目にしたのは健一の姿。『フリースモーク』を肩に担ぎ投擲の準備を終えていた。
「とりあえず攻撃してみる」
左足を前に出し、腰を回転させる。体のベクトルに従い右腕を伸ばし『フリースモーク』を精一杯放つ。
煙を吹かし、飛行機雲のような放物線。結末は飛行機の墜落のごとく大爆発だ。黒い柱に『フリースモーク』は直撃した。耳が痛むほどの爆発音と四方八方に錯乱する黒い液体。確実に削っているが、悪魔の行進は止まらない。
「くっそ!」
雄たけびに近い声を荒げ、悔しさを露わにする。
「王女様の『聖剣』で止められないのですよ。あなたの『錬術』では無理でしょう」
「わかっているよ。でもさ、なんか黒い水みたいなのが漏れていただろ。剣でそれだから爆発だったらいいかんじで噴き出して倒れるかなって」
「倒れるかなって! なんでそんな適当なのですか!」
顔を真っ赤にして怒鳴るイリリ。
「しかも、時間がない。あと19.89秒だ」
「何が19.89秒ですか?」
眉をひそめ尋ねるイリリを半ば無視し、素早く『錬術』を発動される。
「『インセクトハウス』」
緑の鉄作が健一たちを守る最後の砦となる。
「ここまで到着する時間、イリリがいっただろ。戦闘には時間把握が必須だって」
鼻息を鳴らし、自慢げな表情でつくる。イリリはおおきな目を開きただただ驚く。
確かにそう進言しましたよ。でも百分の一秒まで……。
「イリリはなにか勘違いをしていますよ」
少し固まっていたイリリに声を掛けたのはスフラだ。
「勘違いですか?」
「ケンイチは『錬術』の才能だけでなく、戦闘の才能もあるということです。」
プレゼントを見せびらかす子供。そんな笑顔を浮かべるスフラ。
そうですね、そうでなくては困ります。ゆっくりと目を閉じ、再び大きな目でイリリは前を見る。
「そろそろくるぞ! おそらく、『インセクトハウス』は瞑れる。でも、30秒は稼げる」
「30秒、十分です。ケンイチとイリリはレミアンを守ってください。ここは私が」
「いや、俺もあれなら対抗できる」
スフラは黒い柱を1人で背負うつもりだ。あの悪魔を。それを止めようと健一も参加を希望するが。
「それは危険です!」
「でもさ!」
食い下がろうと詰め寄ろうとしたが肩を掴まれた。イリリの小さな手だ。視線をイリリに移すと「ここは王女さまにまかせましょう」と目で訴える。
「わかったよ」
渋々健一は引き下がった。
金属の摩擦音が脳天に響く。大地震に似た振動が震わせる。『インセクトハウス』と黒い柱の衝突が始まった。速度は滑らかだが立方体は黒い塊に押され変形されていく。この檻が持たないのは明らかだ。
スフラは天に掲げる。強風で折れてしまいそうな細剣、純白の剣『聖剣』。目を閉じ、スフラは唱える。
「何っ! 時間はないぞ!」
焦りの色を隠せない健一だが、イリリにそんな様子はない。
「ケンイチさま、私やあなたでさえ『錬術』の痛烈な一撃を身に付けている。王女様ができないはずないでしょう」
「level9の『聖剣』、ただ振うだけで最高クラスの攻撃。それが技となると必殺の一撃です!」
どこから集ったのだろうか、『聖剣』の先端。淡い白銀が光を放つ。それを感じたのだろうか、スフラは目を開く。
ギリッっと大きな音がした。黒い柱が緑の檻を押しつぶした音だ。もちろん、進撃は止まることはなくあと数秒で健一たちを飲み込もうとしていた。
「『聖白光』」
スフラが振り下ろしたのは1度。それが全てであった。
白銀の閃光、『聖剣』の軌道をなぞる閃光は『聖剣』から離れてもその輝きを失はず、より光の強さを増していく。三日月状に放たれた白銀の閃光、黒い柱は音もなく消滅。白銀の三日月は輝きを失わずカラフル花に直撃。まぶしく輝く光の中、色とりどりの花びらが散っていく。
「やりましたか!」
「イリリ、それフラグ!」
終息する光、健一は目を血眼になりカラフル花の姿を探した。そこには花が枯れ落ち、黒い球体を守る茎も消えていた。あの攻撃の原点であった黒い花も姿かたちもない。
「これはまずいですね……」
スフラは息を飲んだ。ここまでしないと対抗できない一撃を放つ黒い花よりも、自らを守る茎よりも、カラフル花が残したのは。黒い球体とたった一輪の白い花だ。




