カラフル花
「何とか皆命は取り留めました。これもケンイチの『錬術』のおかげです」
スフラは近くの木に背を預けて腰を落とす。その隣の木で同じように休息を取る健一は地べたに横になっている独立部隊を見ていた。治療を施し、毒の影響もなくなった。しかし、まだ立つのも困難で戦闘に参加するなど論外だ。
「まぁ、助かったのはよかったけど。これからどうする? 取りあえずイリリとレミアンが来るまで待つ?」
独立部隊の戦線離脱、イリリの負傷。この深い森では『コア』がどこにあるのかがわかりにくい。さらに『コア』まで辿り着いたことはないので奥に踏み込めば踏み込むほど『厄気』は未知数だ。
「そうですね、もうすぐだと思いますけど――」
独立部隊は毒に侵された影響でこの場から動かれない、処遇の措置も考えければならない。時間が経てば動けることになればいいのだが、最悪の場合見殺しにすることになる。一番最適なのは『コア』を倒すことだが。
「お待たせしました」
遠くからの声の主はイリリ。破れた軍服からは傷跡を語るが傷口は塞がっている。覇気のあるハキハキした声。元通りの隊長、イリリが戻ってきたとひと目でわかる。その隣にはレミアン、レミアンの後ろにはフローラ軍が寸分狂わない列を成している。
「ここは前進するべきです。『コア』を破壊するまでとは言わずとも『コア』を発見するまでは侵攻すべきですよ!」
「リリちゃんは病み上がりでしょう。これ以上は危ないよ。独立部隊も負傷した、フローラ軍も戦える兵は半分ぐらい。ここはもう引き際だよ」
今は軍議中、交戦のあった広場。その中心にスフラ、イリリ、レミアン、そして健一も参加している。
イリリ、レミアンは白熱した議論を展開する。イリリが前進派、レミアンが敗走側だ。スフラは中立に議論の舵を取る。判断をくだすのはもちろんスフラだ。両者の意見を深く耳を傾け、正しい判断をくだす。軍のトップにおいて、国のトップにおいて最も必要な能力だ。
息つく暇もない軍議、それについでに呼ばれたケンイチは。
暇だ。会社の会議を思いだす、あんなの上役しか発言権がない。かといって、兵士の中に知り合いもいないし、気を使って入れてもらっているのはわかっているけど。
両手を後ろに回し体重を後方に移す。顔を上げ黒い空を見上げる。気分のいいものじゃあない、汚染物資をふんだんに盛り込んだ雲みたい。すぐに目を逸らし前方の木々に視線が移る。まだ、道は長いのか……。そんなことを思っていると。
「あっ!」
突然声を発した健一に一同が何ごとかと顔を向ける。
「今度は見間違いじゃないって、あれ!」
健一が指差したのは北東の木々、肥えた木々が悠然とそびえ立つその間。赤い閃光を捉えた。
近くに『コア』がある。そこからのスフラの結論は早かった。余力があるフローラ軍は独立部隊の警護に回る。スフラ、健一、イリリ、レミアンは『コア』の方向に向かう。
「もし、日が暮れても誰も戻らない場合は撤退してください。ここに『厄気』が現れ対処できないときは私たちも方向に来て下さい。その場合は一緒に敗走します」
スフラはフローラ軍に指示を終えると森林に足を踏み入れる。その後をイリリ、レミアン、健一が続く。余力が残っているスフラと健一を前後に配置する隊列だ。
その道はこれまでと打って変わって快適だった。自然の森林特有の高く茂る草や垂れた枝や太い根などが余りない。ちょっとした山道を歩いている状況だ。そんな道に違和感がありながらも周囲の警戒は怠らない。前方に輝く赤い光は近づくたび膨張して見える。しばらく進むと。
そこは別世界だった。森林を抜けると。カラフルな花が咲き誇っている。お花畑、それ以上の表現が見つからないほどの圧巻の景色。本来なら感想を分かち合い、写真でも撮りたいところだが。お花畑の後方で赤く輝く『コア』、そのすぐ前には『厄気』、黒い球体を包み込む棘付きの茎、幾多の茎から伸びる先は幾千もの色とりどりの花。地に足が着いているようすはなく空中に浮いているようだ。
心臓を握られているような感覚、この感覚は2回目だ。スフラたちに聞くまでもない。
「『フローラエリア』の門番、名はカラフル花とも名付けようか」
健一は冷や汗をかきながら呟いた。




