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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
飛躍の召喚
19/89

新技

時は少々遡る。後方の森の中に走っていった青い花。それ追うのは髪を揺らし、たわわな胸も揺らしながら走るレミアン。その見た目とは裏腹に森の中でも快速を飛ばす。


「まってよ~。追いかけられるのは好きだけど。追いかけるのは嫌い、っていうか、初めてですけど!」


 愚痴をつきながらも追いかけっこは続き、ようやく青い花が立ち止まったのは200m過ぎた時点だ。


 結構離れちゃったな。レミアンの後ろを振り返ると黒い霧で軍の姿はもう見えない。


しょうがないよね。このお花さんは単独行動しないと捕まえられないよね。


「さて、お花摘みをしましょうか」


 先に仕掛けたのは青い花、スイカほどの水の玉が宙に発生しレミアンに直進する。


「何時みても不思議だね。どこからともなく水が沸いてくるんだものね~、そこからきた名が水花」


「でも、それわたしには聞かないよ。『桜水晶』」


 レミアンが取り出したのは拳代の水晶。綺麗な球体をしているが全てが透明ではなく、中央は鮮やかな桃色が照らす。それを右手に握りしめ前に突き出す。


 水の玉は『桜水晶』に吸い寄せられるとスポンジのように『桜水晶』に吸い込まれる。すると、『桜水晶』に輝く桃色の光が膨張する。


 攻撃が防がれたと水花は感じたのだろう。水花は、滝を横に倒したかのような激流を流す。先ほどよりも強力な攻撃で力押しするつもりだ。


「無駄よ!」


 光景は前回の繰り返しだ。水はみるみるうちに『桜水晶』に吸い込められ桃色の光はより増していく。


「桜吹雪」


 『桜水晶』の桃色に光が強く輝く、一瞬、目を閉じるほどの発光。桃色の光は『桜水晶』から離脱しレミアンの頭上で輝いている。


「舞い散れ!」


 桃色の光が散り去った。桃色の光は桜の花びらのようにみえ、春風に吹かれたように飛んでいく。


 水花も黙っているはずもない。無数に舞う花びらを避けるのは不可能だと判断し無数の小さな水の玉を発生させる。


「それは、正解」


 桜の花びらが横殴りの雨に撃ち落される。


 レミアンの『錬術』の一つ、level6『桜水晶』は水分を吸収し中央の桜を咲かせる能力だ。


 通常だったら敵に触れないとこの『錬術』が発動しないけど、リリちゃんがこの花を振ってくれたおかげだね。「相性がいい敵を相手にしましょう」何ていっていたけど、そんなのあるのはきっと私だけだね。リリちゃんは大丈夫かな? あの救世主くんも、早く終わらせないと。


 レミアンと水花の間は数十秒もの間桜の花びらと横殴りの雨の応酬が繰り広げられている。膠着状態を危険と感じたのか。徐々に雨粒は太さを増す。そして、遂に水は花びらを押し返し突き進む。


「ごめんね、本命はそっちじゃあないの」


 バルをかざしたのは紫輝く右耳のイヤリングだ。既に赤色が消え、今にも『錬術』が発動可能。


「『愛の鎖』」


 右耳のイヤリングは消えた。しかし、レミアンに何か変わった様子はない。水花のほうも首を左右に振り辺りを気にするが変化はみられない。


 その間に水の玉はレミアンを打つ。


「いったっい!」


 弾けた声が出る余裕は水の玉が比較的小さいからだ。なおも徐々に水の玉はレミアンを打つ。次第に声も出ず、顔を崩しながらも攻撃を受け止める。


「捕らえ……た」


 いつの間にか両手にもっていたのは鎖。その先は水花の体中に巻き付かせていた。


 『愛の鎖』、levelは6。見えない鎖を操ることができるがその間レミアンは動けない。また、『厄気』の体を完全に捕獲することでlevel7の『厄気』まで拘束できる。


 水花の小さな顔、その小さな目が潤んでいるようだ。実際には水滴が付いただけだろう。


「そんなに怖がらないでよ。ちゃんとその青い花はどっかの男にプレゼントするからさ」


 右手に力を込めると鎖越しに気持ち悪い感触を覚える。そんな感触など無視しさらに力を込める。


 ぐっちゃ、という音が頭の中で再生される。水花は握り潰された。ぽつりと咲く青い花を残して。


「早く戻らないと」


 お花を摘み、全力で来た道を戻っていく。


 『ギガンテス』の攻撃で脇の林に逃げ込んだ赤い花。それを追うのは健一だ。整備されて道とは違い足場も悪く、視界も木々に遮られる。足が進まない健一とは対照的にその身軽な体を活かし木々の枝から枝に飛んで移動する。


 距離は次第に離れ、健一の目には点滅する赤いランプのようだ。


これは戻ったほうがいいのか? 軍から距離も離れ、標的も見失いそうな健一がそんなことを考えていると。


 枝から飛び立った赤い花は草花に着地した。直径5m程の小さな草花が生い茂り木々の姿はない。そこは木々に囲まれた森林の中で憩いの空白だった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 やっと止まってくれた。


 両手を膝に置き体を折って呼吸を整える。いくら『錬術』が優れていても体力は一般人、厳しい訓練をしている兵士の足元にも及ばない。しかし、今は健一も兵士の端くれ。頭だけは前を向き赤い花から目を逸らさない。


 赤い花がくるりと1回転すると呼吸したかのように周りに火の玉が数個灯る。


 うっわ! マジか、それ魔法じゃん。


 目を輝かせて火の玉を凝視する。しかし、余り眺める時間はないようだ。矢のような速度で火の玉が降り注ぐ。


「『フリースモーク スモークショット』」


 素早く展開した『錬術』を発動され攻撃を加える。『フリースモーク』から発射された煙玉、狂いなく火の玉に命中し上空には爆破の花火が開く。


「まだまだ、『スモークウエーブ』」


 腕を天に伸ばし勢いよく振り下ろす。その軌道を描くように煙は弧を形成する。煙の三日月は赤い花に襲いかかった。


 赤い花はそんな状態でもなにひとつ態度は変わらない。花の体を激しく動かす。すぐさま変化は現れた。小さな光、蛍の光に近い。しかし、その色は橙、高熱であることを示している。そんな光が一点に集った。


 煙の三日月が赤い花を包む。『スモークウェーブ』の効力としては圧縮された煙と広範囲の形状からなる爆発。普段の『フリースモーク』とは威力が一段階違う。


 だが、爆発は起きない。その変わり橙の光が強くなる。


 なんだ……それ!


 激しく燃えた。まるで、たき火の中に紙切れが紛れ込んだように。さぞ当たり前だと感じられるほどに。橙の炎で煙の三日月は燃えていた。


「うそだろ。何で煙が燃えている……。いや、異世界だからありか……?」


 そんな意味不明な理屈を考えていたのだが、すぐに重要なことに気がついた。


 それよりも『スモークウェーブ』があいつの攻撃で消滅したということ。『フリースモーク』の中で『スモークエンド』を除くと最高威力がある攻撃だぞ。この近接線じゃあ『スモークエンド』はこっちまで巻き込まれてしまう。それって、『フリースモーク』ではこいつを倒せないってことか!


 乏しく光る、橙の炎。しかし、目の映る光は背筋を凍らせる。


 『火炎放射器』も結果は同じだろう。『ミラーハンド』も小さい光では躱されるリスクが大きい。


万事休す……だったな。前回では!


 ゆらりと橙の光。揺れているのは風の影響、ゆったりとではあるが確実に健一を焼き尽くそうと接近する。幼児の一歩のような速度はこの光を消滅するわけがないという自信だろうか。


 それを肯定するかのように赤い花は周りの火の玉を停滞され、守備を固める。


「知っているか、お花さん。救世主さまの力を」


 ポケットから取り出したのは黄色い円錐の形をした容器。側面にはシャンプーと書かれている。バルにかざし『錬術』を発動するも、容器の色が鮮やかな虹色になるでだけで形状に変化はない。


 しかし、何ら焦ったようすのない健一は右手で容器を持つと、キャップを外す。そこには小さな突起と穴があった。小さな突起に親指をかける。


「バブルフィバー」


 親指に力を込める。容器の小さい穴からはシャボン玉のような、いや、見た目はシャボン玉にしか見えないものが噴き出した。意思のある風が吹いたかのようにシャボン玉は橙の光に近づく。


 健一は息を飲み、赤い花は花びらひとつ動かさない。両者、2つが触れるまで固唾をのんで見守っている。


 音はしない。しかし、自然と健一の耳にはパッチっとシャボン玉が割れる音が聞こえるようだ。


「これからだよ」


 橙の光は確かにシャボン玉を消したはずだ。健一が新たに『錬術』を発動されたしぐさも見て取れない。しかし、突如に再びシャボン玉はその淡い虹色をみせた。先ほどの大きさはないが虹色は5つになっている。


 赤い花の小さな顔からでも戸惑いが感じ取れる。動揺を隠し隠し切れないがそのまま何もしない『厄気』ではない。手のような花びらを動かすとそれに連動して橙の光も動く。


 思っていたけど、コントロールが効くのか。避ける選択はなくなったか、あの光を消す必要がある。これは嵌るかどうかだ。


 5つに分かれたシャボン玉。それを1つ1つ消して回る橙の光。その光のまぶしさはいっさい陰りをみせることはなく。障害を全て排除した光は本来の標的である健一を目指しゆらゆらと前進を見せたのだが……。


「さぁ、どうする? お花ちゃん」


 赤い花は目を走らせる。目線が止まると花びらが微かに動くのは数を数えているのだろうか。再び、瞬間に現れたシャボン玉。今回の虹の数は数十にのぼった。


橙の光は止まるか、またさっきみたいに1個1個撃ち落してくれたら助かったけど。そう上手くはいかないよな~。


 橙の光は突き進む。赤い花は無数のシャボン玉を無視し、先に健一を焼き尽くす魂胆だ。


 それなら、「バブルフィバー」の本当の特性を活かすか。健一は右手に持った容器を手から放す。黒い光になり、容器の原型はもうない。しかし、奇妙なことが起こった。イリリやレミアンがこの場にいれば混乱しているだろう。媒体である容器が消えたにも関わらず。無数のシャボン玉は消えておらず赤い花の目からすれば泡の軍勢に飲み込まれてしまいそうだ。


「バブルフィバー」はシャボン玉を発動させた方向に自動で突き進む『錬術』。衝撃を受けると数個に分裂し、それを繰り返す。1つ1つの威力は小さいが数で押す『錬術』である。


 慌てて赤い花は周りに囲った火の玉を展開された。シャボン玉はリプレイのように火に触れた瞬間、弾けてしまう。しかし、今度は数が多い。つい赤い花の視線は目の前のシャボン玉に集中する。橙の光は健一に届いていないにもかかわらず。


 あの光が届くまであと7秒ってところか。避けられるけどまた追いかけられるだけか。そしたら、「バブルフィバー」は赤い花を過ぎ去る。つまり、この7秒はチャンスだ。


 ふと、この時、健一はイリリと修行したときのことを思いだした。1週間か1か月前か定かではない。初めて異世界に召喚されたあの日の修行だ。


「いいですか、兵士に取って大切なのは時間の把握です。『錬術』を発動までにかかる時間、攻撃に移る時間、近距離の場合は『錬術』を振り回すスピード、遠距離の場合は『錬術』の速度。これらの時間の把握は基本事項です。速やかに覚えて下さい」


「そんなの無理だって、頭悪いし」


「駄々をこねている場合ですか。ケンイチさまは救世主になりたいのではありませんか。そうでしたらこれくらい当然です」


「なりたいけどさ。人には得意不得意ってものがあるだろ。俺の『錬術』は強いし何とかなるだろ」


 めんどくさそうな顔を浮かべる健一に、目尻を立て一喝する。


「なんとかなんてなりません! 戦いを舐めているのですか!」


「いっ……いえ」


 イリリの凄まじい剣幕に即座に首を横に振り否定も言葉を述べる。


「では話の続きです。時間の中で一番大切なのは敵の呼吸、動きや攻撃の時間を読めるようになることですがこればっかりは経験が必要です」


「うん、なるほど」


「そして、全てに共通する大事なことがあります」


「何?」


「時間を細かく刻むことです。戦いでは秒単位では話になりません。100分の1秒を計れる感覚を身に着けて下さい」


 何無茶苦茶なことを。その時は健一も思っていたが。実際に戦うとその大切さに実感した。そして、ただ、正確な時間感覚を身に着けることは元の世界でも訓練が可能であった。


 仕事で使う腕時計をデジタル時計に変えた。それも、秒数も細かくわかる時計だ。そして、暇なとき、いや、仕事の間でも時計を見続けた。自分の体内時計と比較をし、修正を繰り返した。


 あと、6.5秒ってところか。日々、デジタル時計を見て仕事をしてきた成果を見せてやるよ。


 素早く胸ポケットからバルを、ポーチから5㎝ほどの小さな円柱の形、黄金色に輝いているものを手に取った。そして、すかさずバルにかざす。


 あと、2.2秒。 間に合わないな、このままじゃあ焼かれる。


 健一はしゃがみ込み、赤い花の姿を捉える。身の丈がちょうど同じくらいになった。さらに体内時計の針の音に耳を澄ます。


 あと、0.10秒と1.04秒。


 橙な光は健一の頭上を通りすぎた。すぐ、赤い花は気が付き花びらを動かして軌道修正する。


 それは1.89秒遅いぞ。


赤く染まった小さい黄金の円柱は健一の手を離れると電気を纏い空中を横たわる。赤い花を真っすぐに捉える雷撃の銃のようだあった。


『超電磁砲』


 発光に包まれ、同時に黄金の円柱が発射する。その間も纏う電力は増しているように発光は輝く。だがそれ以上に尋常ではないその速度に圧倒される。


 正確な体内時計を持っていない赤い花も悟る。橙の光が届かないことも、周りに散らばった火の玉が戻らないことも。この電撃の速度では何もかも間に合わないということに。


 『超電磁砲』は直撃するとビリビリと音を鳴らしながら電撃は天に昇る雷のように突き上がり。


空にひらりと舞う赤い花。空に咲き散った最後の優美。


「さて、ここから軍まで戻る時間は……。まぁ、歩きながら考えよう」


 健一はぽっかり空いた草花をあとにした。



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