雷花
森のくらげも残すところ数匹。健一ら隊長達で数を削ったあとは軍隊の数で押し進めた。
「みんな~、いいかんじ!このまま行こう」
レミアンの気の抜ける指示、聞いているこっちが肩の力が抜けそうだ。しかし、フローラ隊は声を張り上げ気合を入れなおす。今、前線で戦うフローラ隊はこの形で士気を保つようだ。
「これで、最後!」
キスマークをつけられたつるくらげはゆったりとレミアンの前まで近づき、本当に口づけができる距離で足を止めた。レミアンはそれを見つめながら腰に掛けた短剣を抜き。
「ごくろうさま」
笑顔でお礼をいい、素早く黄色い花を切り取った。
つるくらげの群れを倒し、進軍を再会する軍。途中、木偶小人やつるくらげが出現したが前回ほどの数ではなく、特に危なげなく軍の足も止まることはなかった。
このまま『コア』までいけたらどんなにいいだろう。レミアンがそんなことを胸で呟いたその矢先。
「そんな訳ないよね」
軍の前に現れた3つの色。身の丈は幼児ほど、頭から花が咲き花びらが髪のようにみえる。小さな丸い果実のような顔。体は花のかっぱを着ているようだ。それが3匹、いや、3輪。赤、黄色、青と3色が色鮮やかに咲いている。
「みんなさがって!」
「下がりなさい!」
イリリとレミアンの声が重なり部下に指示を飛ばす。すぐさま隊列は後退。前方の『厄気』と対峙するのは健一とイリリ、レミアンだけになった。
「こいつは……」
健一はこの中で圧倒的に経験は少ない。だが、それでも強敵であるということは感じ取れるようだ。
「説明するね。『三色花』といわれる『厄気』levelは7」
「level7か」
前回の記憶が駆け巡る。結界に閉じ込められ、3人で漸く倒した『フェアリー』と同level。更に今回は3匹一度に戦わなくてはいならない。
「厳しいですが、1人1殺でいきましょう」
横からイリリが提案する。健一はゆっくり頷き、レミアンは素早く頷く。Level7程の高levelが相手ならば多くの兵士ではかすり傷さえ負えない。精鋭揃いの独立部隊でさえ、倒せる『厄気』はlevel6が精一杯だ。
「まず、私が分散されます。相性から私は黄色、ケンイチさまは赤、レミアンさんは青でお願いします」
「相性?」
意図がわからない単語に健一が反応し尋ねる。
「三色花の能力との相性です」
「能力?」
「ええ、ちょうどケンイチさまが魔法とおっしゃっていた力に似ています」
巨大な刃が三色花を隕石のごとく襲う。しかし、素早く昆虫のような敏捷性でそれぞれ別方向に避けた。
前方に避けた黄い花。名指しで指名したようにイリリの前に現れた。後ろに避けた青い花、それに連動し長い髪を翻しながらレミアンが走りだした。健一は横に避けた赤い花を追いたいが横の林の中に逃げ、見つけるのも一苦労する。しかし、追わない訳にもいかず固くなった足を進めた。
「一瞬で終わらせます」
吸い込まれるような目を開きイリリは決意を込めて宣言する。
「『無限刃』」
無数の刃が空を舞いながら黄花を襲う。対して黄い花は髪のような花びらをはらりと天に伸ばすと小さな頭上から直径10㎝程度の黄色い球体が出現した。黄色い球体はパチパチと音をたて2つ、3つと増殖していく。
刃が黄花を突き刺そうとしたが黄色い球体がセンサーに感知したように盾となって防ぐ。それも刃は黄色い球体に触れた瞬間、ビリビリと聞こえ明後日の方向に飛ばされた。
「これが三色花の内の1輪、雷花ですね」
イリリはばつの悪そうな顔を浮かべた。だが、すぐに顔を正し戦士の顔になると素早く『錬術』を展開する。
「『ギガンテス』」
巨大な刃に似使わない手で握りしめ今度は振り下ろすのではなく横に薙ぎ払う。雷花が避けることを防ぐ狙いだ。
「くっ、ダメですか」
巨大な刃をも黄色い球体は受けきる。触れた瞬間、放電し弾かれる。
「ですが、単純にあなたのlevelを超えれば、倒せるはずです」
イリリは『ギガンテス』を解き、腰に携えたナイフから2本同時に引き抜いた。
イリリが何か行動しようとしている。そのことは雷花にも感じとれたようだ。黄色い球体を1つ、2つと放った。
黄色い球体は近くでみると電気の集合体だと理解できる。1mmでも触れれば感電は免れないだろう。
右肩を狙う電気の塊、イリリは半身になって避け次の攻撃を見定める。次の攻撃は顔面を狙う。それも悠々としゃがみ躱すと雷花の周りに更に雷の球体が発生している。
まずい、これでは押され続けてしまう。今の内に『錬術』を展開しないと。
3つ目の雷の球体は足元を狙っていた。それを何の窮屈もなく地を蹴るとナイフを持ったままの右手でポケットからバルを取り出した。視線は目の前の敵をじっと捕らえる。
まだ、攻撃するようすはない。おそらく様子をみるつもりでしょう。その時間を狙います。バルをかざし、『錬術』を発動されようとする。ちょうど、雷の塊がイリリの足元を通過した瞬間だった。
雷花が赤ん坊のような微笑みをしたのは。
始めは痺れを感じた。足の指先から頭の頂点まで。一瞬すら感じられない速度で電流が走る。その直後に轟音が足元から耳を打った。遠のく意識を歯を食いしばりながら保ち目線を下に移す。足元を通過するはずだった雷の塊はイリリ足元に吸い付いた。正確には球体の形状を崩し、意思を持っているかのように捕獲した。
「ぎぁぁぁっぁ!」
雷鳴とまぶしい光がイリリを包む。
ぐったりと地面に平伏すイリリ。目は僅かに開き雷花を見つめる。
最初の2発はただ動かない球体だと勘違いされるため、確実に捉える体制を整えるためですか。ほんと、どこかの救世主よりも賢いじゃあないですか。
一つ深呼吸、手足に全力を込めふらつきながらも立ち上がった。しかし、絶体絶命は変わりない。3つの雷の塊が同時にイリリを襲う。
「間に合え!」
倒れてもなお離さなかった両手のナイフ。赤く染まり『錬術』を発動するにはまだ時間が掛かりそうだ。
間にあわない、なら。
イリリの大きな瞳で3つの来光を捉えた。
イリリが痺れとダメージを確認する。まだ、前回とはいいませんが痺れは薄れてきた。神経を両足に集中する。そして、雷撃が直撃する瞬間。素早く起き上がり、バックステップで避ける。
しかし、それは一時しのぎに過ぎない。再度、雷撃が襲う。今度は確実に捉えようと、それぞれが蛇のように形を変え噛みつこうとする。
「今です!」
地面に着地したイリリは足を交差させ体を反転させる。体制としては雷撃に背を、雷花に背を向けることになる。兵士として不格好なその背に3つの雷鳴がほとばしる。
軍服は真っ黒に焦げ、所々に穴が開いた。頬の炭を払う余裕もなく倒れそうな体を震える両足で支え、ゆっくりと首を後ろに向けると数も数えられないほどの雷撃が迫っていた。
倒れるわけにはいかない。私が敗れればこの敵は他の花に助力に走ります。そうなればあの2人でも厳しい戦いになります。そんなことあってはならない。この侵攻で既に私はとんでもないミスを起こした。木偶小人の集団、ケンイチさまの『錬術』の特性と王女様との演習で起きたあの爆発音。少し頭をひねれば推測できたはずです。それなのに私は……。
私は世界のために一寸の心の隙間を許されない。私は常に、最善に。常に、最強に。この世界を王女様と共に平和にするそのときまで。もう、二度も誓った!
寸前の雷撃。しかし、希望の光。イリリの両ナイフが赤く染まりきった。
たとえ、人ならぬ姿になったとしても!
「『刀人』」
まずナイフが消えた。続いて変化が起きたのはナイフを握っていた両手だ。爪が捲れ、皮膚が裂ける。噴き出した血、それに連なり腕の皮膚も裂け滝のように血が降り注ぐ。そんなイリリの変化など無理したかのように雷撃が目の前に。
鈍い音が聞こえた。刃物が肉を斬る音だ。どこから出現しているのかはイリリ自身も不明だ。いや、そんなことを考えている余裕などない。左手の平から突き出てきた刃の痛みをこらえることに神経は全て注がれる。
手の平から伸びた刃は巨大化しながらも曲線を描き雷撃を消滅された。
イリリは目を一瞬だけ閉じる。右手の痛みに耐えるためだ。右手の平から伸びた刃は巨大化しつつ、伸びていく。あと数秒で雷花を貫こうとしている。
命の危機に瞬時に反応して雷花は灯してあった雷の玉を自らに触れさせる。痛みを感じるようすは小さい顔からは感じられない。完全に雷の玉と同化し光を放つ。そして、瞬時に横に逸れ刃を躱した。
そのスピードは青瞬なみの速さですね。でも、速さなど無意味です。
光と同化した雷花はイリリとも距離を詰めていく。縦横無尽に変化する2本の刃を見事に躱しながら。その距離わずか3m。
「終わり……です」
小鳥の呟きのような声だった。
腕から、肘から、肩から、首の下から指先まで。全てに刃が生えた。そして、瞬時に伸び、変形すると四方八方に雷花を囲った。
「『刀人・ハチの巣』」
か細い声は刃がぶつかり合う音にかき消された。雷花を貫いた感覚が腕のどこかで感じ、黒い塵が刃のドームから漏れたことを確認すると『錬術』を解いた。
「まだ……、倒れられない」
呟くにもならない声を残り、イリリは倒れていた。




