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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
飛躍の召喚
17/89

作戦

 黒い霧の中を乱れなく突き進む軍隊。各隊列の間にいる実力者。5列からの隊列になっているため空間は4つ、その中には左からイリリ、スフラ、健一、レミアンが1人ずつ配置され、指揮などを行う。もっとも、健一は隣のスフラの指示を伝令するのみとなる。


「「止まりなさい」」


 イリリ、スフラ、レミアンの指示がほぼ同時に発せられた。すぐさま兵士、全員の足が綺麗に止まり前方を覗く。黒い霧の奥、茶色の海が接近してきた。


「おい、なにあれ? すっげー、でっかいのがこっち来ているけど?」


 首を左右に振り説明を求める健一、すぐに隣のレミアンが答えた。


「ケンちゃん、あれはね。この『厄気エリア』の最初の難関、木偶小人、levelは3だけど。あの全てが木偶小人なのよね~」


「あの全てが『厄気』か」


 なおも接近する茶色の海、木偶小人の集団。見たところの数は千を超えている。


「王女さま」


 ここで、隊列を一旦離れたイリリ、スフラに進言をするためだ。


「ここは、私とケンイチ様を木偶小人に先陣をきり、まず、陣地を確保します。その陣地内で兵士達が入れ替わり戦いながら、木偶小人の数が手薄になったところを突破します」


「うん、リリちゃん、賢い。それでいきましょう」


 いつの間にか現れたレミアンがオーバーに首を振る。満面の笑みは子供の成長を感じた親のようだ。


「いや、やめよ。めんどい」


 3人の輪に入ってきた健一。だが、その言葉に覇気はなく。顔まで寝ぼけているようだ。


「はぁ!」


 イリリは驚きと怒りが混ざった声を出す。眉がこれ以上ないぐらいに吊り上げ、睨み付けながら健一に詰め寄る。


「めんどいって。いい加減にしてください。そういった舐めた態度はもうないと思っていましたが、私の思い違いでした。失望しましたよ!」


「いや、別に舐めてなんかいないけど」


「舐めていない! 作戦を聞いてめんどくさいって反応が舐めていないとでも!」


「あぁ、言い方があれで、イリリの作戦だったら時間が掛かるし被害も出るから面倒なことになるなって。だから、めんどいって」


「つまり、私の作戦に不満があるということですね。確かに時間も取られ死亡者、負傷者は免れないでしょう。ですが、他に最適な方法がありますか? まさか、撤退何ていわないでしょうね?」


 ムキになって挑発するイリリの姿は珍しい。それだけ戦術面には自信があるのだろう。そのため、次の健一のひと言は衝撃的だった。


「俺がだいたい倒したらそれでよくない?」


「はぁ?」


 鳩が豆鉄砲を食ったかのような顔、その顔を更に豹変させたのはスフラの返答だった。


「それでいきましょう。皆さんは残党を狩る準備をしてください」


 じっと話を聞いていたスフラがとんでもない承認を下した。イリリだけでなく、レミアンも何かの間違いではないかと今にも問いただそうとしたがスフラの表情が口を紡ぐ。


 少し笑みを浮かべ兵士達に安堵を与え、かつ、目を鋭く覇気を宿し緊張感をも与える。軍の中に身を置く王女の正当な風格だ。


「イリリ、レミアン。貴方達の気持ちもわかりますが。ここはケンイチに任せて下さい」


 イリリは苦渋の顔、レミアンは不安な顔をつくりながらも頷き、持ち場に戻ろうとしたとき、健一が『フリースモーク』を携えながら隊列をはみ出し木偶小人の集団に近づいていった。


 木偶小人の集団は健一の視界にはっきりと写る。体長は1m程、しかし数に圧倒される。その威圧感に目を背け1体の『厄気』を観察すると。見た目は少し焦げたような黒い木の幹に枝が腕と手になり、根が足となる。奇妙なのは幹にある幾つかの窪みが表情をつくりだしている。今の窪みは笑顔だ。


「気持ち悪いな、さっさと終わらせよう」


 右手で『フリースモーク』を天に掲げる。穴の開いた黒い球体からはモクモクと煙が滾る。そのままゆっくりと腕を引き、左足を前に広げ、体の軸を力いっぱいに回転させ『フリースモーク』を投擲した。


 健一の手から離れた『フリースモーク』は木偶小人の集団に綺麗な曲線を描きながら進む。途中で重力に従い黒い球体が下方向に入れ替わるとそこから噴き出す煙はよりいっそう勢いを増す。


「『ノースモーキング』」


 健一が叫んだ数秒後、『フリースモーク』は木偶小人の集団に落下した。


『フリースモーク』の姿は跡形もなく消え、変わりに巨大な爆発を生み出し、その音は地を揺らす。爆発の熱風は隊列まで届き地のうねりで兵士の足はふらつく。さらに。目の前で広がり続ける爆破、球状に広がる爆破は勢いが衰えることはなくその大きさは直径10mに達そうとしている。当然、何百という木偶小人を燃やし尽くしているだろう。


 兵士の先頭、イリリもその光景に口を開きっぱなしだ。他の兵士と違う点は思考が働いている


 あの威力、level8はありますね。『フリースモーク』を投げてそれごと爆発させる。まさに捨て身の一撃ですけど。


 口を閉じ、目を吊り上げたイリリは腹の底から声を出した。


「ケンイチさま、どうしてそんな切り札を序盤に出すのですか? 先ほどの攻撃は門番にも通用するものですよ!」


 ケンイチはイリリの大声に振り替える。きょとんとした表情で。


「何言っているの?」


「ですから、『フリースモーク』を無くしてこれからの戦場が厳しくなります。確かに木偶小人には有効な手段ですが……」


 早口で高圧的な言葉は止まった。その変わり目を更に大きくして健一の手元を見る。


 小さな白い長方形の箱から、これもまた小さな白い棒を取り出した。そして、胸ポケットからフェバルの花弁を取り出し、小さな白い棒にかざした。


「『フリースモーク』。今度は突然この世界に連れてこられたわけじゃないから、あとこれ100本は使えるよ」


 けたけたと子供のように自慢する健一。イリリは開いた口が塞がらない。


 あと100本ですって! 『錬術』に使われる素材は殆どの場合その希少価値に比例します。私のナイフだって貴重な鉄で打っていますし、スフラ様の『聖剣』などがさいたる例です。なのに……。


 地面の揺れが消え、熱風も感じられない。爆破が消えるとそこには直径10mほどの綺麗な円が真っ黒になっていた。


「うおっー、全滅! 気持ちいいぞ、これ。それじゃあ、2投目いきますか」


再び、『フリースモーク』が宙を飛び交う。


 辺り一面、森林の形跡はない。変わりに黒い炭が散らばり、焦げ臭さが鼻に突く。空襲を受けた木偶小人は残り数十体といったところだ。


「これで、進めるだろ!」


 健一は隊列に戻ると、引きついた笑みを浮かべながらイリリとレミアンの顔を交互に見る。


「そうですね……。作戦も隊列もあなたには関係ないようです」


 呆れながらイリリが呟く。


「凄い! めっちゃ、強いじゃん! カッコいいな~」


 レミアンが上目遣いで目を輝かせながら話す。


「だろ! 俺かなり強いよな。イリリ」


 鼻の下を伸ばし、花が咲きそうな声を出す健一。


「強いのは理解しています。ですからさっさと隊列に戻って下さい。進みますよ」


 目を細め、口を歪め、表情を曇らせるイリリ。これ以上刺激するのはまずいとさすがの健一も感じたのか。さすがの健一も素早く隊列に戻る。それに続き、レミアンも帰り。隊列は元に戻った。


 再び進む軍、障害物はなる木偶小人はわずか数十、levelは3。軍の進軍にとってそれは道端の小石と同然だ。隊長や健一が手を煩わすことなく兵士達のみで手堅く進み。黒焦げの道を抜け、次なる障害物が立ち塞がる。


 その姿は『厄気』の中でも奇妙に見える。小さく儚げに咲く黄色い一輪の花、花から伸びる数本のつるはそれぞれ下方向に弧を描き一点に集まる。つるが密接に絡まり団子のようだ。そこからつるは更に伸び続け、何本もの足が伸びていた。それなのに足は地面を蹴らない。『厄気』全体が浮いている。その幻想的な姿は海の中のある生物を連想させる。


「あれはlevel5、『つるくらげ』だよ」


 気味の悪い『厄気』の名をレミアンが告げた。


「くらげか。まぁ、俺が全部吹き飛ばすか!」


 『フリースモーク』を高く掲げ、投擲のモーションを取る健一に、レミアンが右手を掴み阻止した。


「何すんだよ!」


「それは、ダメ。つるくらげは質量が軽すぎるの。爆発で起きる風で攻撃を食らう前にどこかに飛んでいっちゃうよ。最悪、『厄気エリア』の外側も」


 もちろん、『厄気エリア』の外にも警備兵はいるがlevel5が相手となるとかなり厳しい戦いとなり、民間人にも被害がでるだろう。


「それなら普通に倒すか」


掲げた『フリースモーク』を今度は前に突き出し、黒い球体からモクモクと噴き出す煙は球体を形成していく。


「『フモークショット』」


 それは砲弾、球体となった煙はくきくらげに発砲し白い球体は赤く染まり熱を放つ。


「これなら、風で飛ばされることもないだろ」


「いえ、その攻撃では……」


 炎の弾丸はつるくらげを燃やし尽くすと思われたが。つるくらげはそのか細い体を舞うように優雅に動かし炎の弾丸を躱した。


「何っ!」


「つるくらげは回避能力がやばいの。攻撃は弱いけど、普段は疲れ果てた獲物をつるで捕まえたり、逃げて後ろ向きになったところを捕まえたりするだけ。それ以外は避ける一方よ」


「うざいな、それ接近戦が有効ってことか」


「それも危険、つるくらげは群れをなすから。ほかのつるくらげが助力されて、厳しいかな。数で押すのもひとつの手だけど、単純につるの数、攻撃の手段は相手のほうが多いから厳しいかな」


「じゃあ、どうしたら」


「こうします」


 イリリの淡泊な声が響いた。


「無限刃」


 無数の刃が密接に固まる。刃で球を作った。そして、つるくらげに向かい一直線。つるくらげは躱す隙間なく刃の嵐に巻き込まれる。嵐の過ぎた後はつるくらげはあとかたもい。


「回避は優れていますが、素早くはないです。避けるスペースもないほどの遠距離攻撃が有効ですね」


 淡々と説明するイリリに激しく頷いているのはレミアン。


「うん、正解! フローラ地方の『厄気』も網羅しているなんて博学」


「はいはい、それはいいですから。あなたも働いて下さい。隊長さん」


「はーい」


 レミアンが胸ポケットから取り出したのは女性の妖艶さを引き出す口紅だった。それをバルでかざし真っ赤に染まった。


 赤い光消え、口紅は元と何ら変わらない様子だがキャップを取ると違いが見えた。口紅の先がピンク色に染まっている。レミアンはそれを口に塗ることなく、宙にキスマークを描いた。


「『誘惑の口づけ』」


 空中に滞るキスマーク。レミアンがつるくらげに手を向けるとキスマークが襲う。避けられないのか、攻撃とも思わなかったのか。キスマークはつるくらげに口づけすると動きが完全に停止する。


「つるくらげを攻撃して~」


 レミアンの甘い声にキスマークの跡が残るつるくらげは手足となっている長いつるを俊敏に動かし周りのつるくらげを攻撃する。その姿はレミアンに恋をする男だ。


「私の『悪魔の口紅』は相手を操る。いや、私のために動いてくれるの。ほんとかわいいってつみよね~」


 妖艶な笑みを浮かべるレミアン。幾度とみたその表情に初めて恐怖を感じる健一。


 相手を操る力、かなり強力だけど。怖いなそれ。


「それは制限とかあるのか?」


 健一が疑問を口にした。能力だけ聞くと今までのどの『錬術』よりも強力だ。


「うん。まず、3分しか操れない。同時に2匹は操れない。Levelが下の『厄気』しか操れない。ちなみに『悪魔の口紅』はlevel6だからつるくらげはギリギリだね。だからそんなに強くないよ」


 愚痴のような自慢を呟きながら次のキスマークを描く。


「よし、俺も」


「いや、『フリースモーク』ではつるくらげと相性が悪いです。ここは下がってください。私とレミアンさんで数を減らしたのち、隊列で中央突破します」


「あのさ、イリリ。今度は俺も準備しないで異世界に召喚されていないぞ」


「というと?」


「タバコと同じようにこれも大量に持ってきた」


右手を広げイリリに見せたのはライターだ。


 それはいつも『フリースモーク』を発動する前、タバコという媒体に火をつけていましたけど。


「それを媒体にするのですか?」


「うん。前は1本しか持っていなかったからさ、でも今回はたっぷり」


 ポケットから乱暴に握ったのは色とりどりのライターだった。ぱっと見ただけでも10本以上はある。その内の1本だけを残しポケットにしまうと胸ポケットからフェバルを取り出しかざした。


「『火炎放射器』」


 銀色の筒が1半程伸びる。先端から50㎝程度の所に取ってと引き金が付いており、全体を眺めると先端の口は大きく後方に下がるに連れて幅は狭くなり最終的に鋭角なって筒を閉じる。手の平サイズだったライターは肩で担ぐ大きになった。


「ファイヤー!!!」


 引き金を引くと銀の口から高温の火炎が噴き出す。勢いが落ちることなく数m先のつるくらげを襲う。火炎に反応したつるくらげはひらりと避ける。しかし、それでは終わらない。


 引き金を引き続けながら口角が上がる健一。銀の筒を左右前後に揺らす、するとその揺れと連鎖する形で火炎は動き、やがて渦となってつるくらげを襲う。火炎の渦の動きにはついてこられなかったようだ。実際に当たったのはつるの足の先端、小さなボヤのような炎だったが瞬く間に広がり全ては炎に包まれた。


「さて、あと何体燃やしたらいい?」


 自信たっぷりな顔でイリリに尋ねた。



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