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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
飛躍の召喚
15/89

森林都市

ゆっくりと瞼を開く健一、木造の天井、木造の壁が辺りに見える。正方形の窓から光が差し、床には柔らかな白いシーツが敷いている。


 今度は城の中ではないみたいだな。しかもベッドの上。扱いが前とは違う。


「お目覚めですか。ケンイチ」


 待ち焦がれた懐かしい声、体を起こすとスフラとイリリが隣に立っていた。


「久しぶり、王女様、イリリ」


 1週間ぶりの再会、待ちに待った世界。そして、前回のお願いを聞いてくれたスフラに嬉しさのあまり頬が上がったままだ。


「お久ぶりです。ケンイチさん」


 続いてイリリも挨拶をする。スフラ同様、前回と変わりない姿にこの世界が、戦ったあの記憶が夢でなく頭に刻まれた現実だと実感させる。


「いや~、ちょっと時間が空いたからさ。前の召喚が夢だったかもって思い始めてさ」


「そんな、夢でしたら私達が困りますよ。やはり、ケンイチを召喚する『錬術』は発動するまでインターバルがあるようです。申し訳ありません」


 頭を下げスフラが返事をする。


「いやいや、謝らないで。この世界にもう一度召喚されただけで有り難いからさ!」


「本当にこの世界がお好きなのですね」


「そりゃあ、この世界では救世主だからね」


「ではその救世主様に再び世界を救ってもらいましょう」


 イリリが横から声をかけた。


「うん、もちろん。それにしてもどうして今回は城じゃなくてこんな小屋なの?」


「ここは森林都市フローラの外れにある小屋です。普段は軍の休憩所として利用しています」


「森林都市フローラ? 前の王都ではないってことか」


「はい、今度はこの『厄気エリア』の侵攻に協力を願いたいのです」


「もちろん。協力させてもらうよ。でも2日だけ待って欲しい」


 健一の言葉に2人が困惑の顔を浮かべる。健一がこの世界にいれるのは1週間だけ、確かに前回はうまくいったが今回も1週間で攻略とは限らない。時間は一刻の猶予もないのだ。


「理由を聞かせてもいいですか」


 スフラがやや緊張気味に質問する。異世界を楽しみたいなど答えによっては自分の健一に対する信頼は跡形もなく崩れ去ってしまう。


「俺もさ、召喚されるまでの1週間。遊んでいたわけではないからさ。例えば」


 そう言うと肩に掛けていた小さなカバンを開く、その中から白い箱を5つ取り出した。


「それって……」


 イリリがその見覚えのある白い箱に声が出る。その声を聞くとその内の1つを開けて見せた。


「『フリースモーク』の媒体、タバコだよ。前は数が少なかったからさ、今度はストックなんか気にしないように。もちろん、それだけじゃあないぞ。元の世界から幾つもの『媒体』に使えそうなものをこのカバン中に入っているから。それらを試す時間がほしい」


「ごめんなさい。私、変に健一さんのことを疑ってしまって。健一さんが前回以上に強くなる可能性があるなら時間を置くべきです。すぐに軍に出発が遅れると通達しますね」


「おう、助かる」


「ケンイチさん、体の具合は大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫だけど。どうしてのイリリ?」


「では、さっそく修行を再会しましょう」


「あぁ、そのことだけど1つ頼みがある」


 両手を合わせて頭を下げて頼み込む。その姿勢に2人の表情も強張る。いったい何を言い出すのかと。


「修行の手合わせは王女様にお願いしたい」


「なっ!」


 イリリの目が吊り上がる。その角度のついた大きな目で健一を睨んだ。


「少し調子に乗りすぎですよ。王女様は世界一の『錬術』使いです。何かあったならば世界中に影響が出ます。まず、王女様がいくらケンイチさんでもいち兵士の修行に付き合うことは非常識な行為です。当然反感も買うでしょう。そして、そもそも王女様に2日も修行に付き合う時間はありません」


 息つく暇もなくイリリの反論が滝のように流れる。健一も肩を下げ、表情を曇らせる。王女と一緒に修行がしたいなどやはり無理か、諦めの言葉を口にしようとしたのだが。


「いいですよ。付き合いましょう。ケンイチ」


「本当か!」


「ええ、大丈夫ですよ」


「王女様、何を言っているのですか!」


 驚きの表情を浮かべスフラに問いただす。

「イリリ、私は修行で手傷を負う程か弱いですか?」

 

「いえ、けしてそのような意味では、私はただ王女様の身にもしもと考えられる事態は避けるべきかと」


「もしも、何て考えていたらこの世界は救えませんよ。」


「ケンイチをいち兵と考えているものなどほぼゼロ。ケンイチが強くなるためなら他のどんな大事な会議だったすっぽかしますよ。それほどこの人の力は大きいのです」


「……わかりました」


 渋々頭を下げ、引き下がるイリリ。やはり、まだ納得はしていないようだ。


「ただし、ケンイチ」


 スフラの視線が再び健一の目を捉える。


「何?」


「イリリの言っている通り、私も時間がありませんしそれはケンイチも同じです。修行は1日で終えるのはどうでしょう?」


「1日か。全部使えるかな? まぁ、こっちも無理言っているしそれでいいよ」


「では早速始めましょう。イリリは軍に戻って連絡をお願いします」


「はい、わかりました」


 曇った表情は鈍感な健一にも読み取れた。


 かなりイリリが不機嫌になっちゃたな。そりゃそうか、王女と修行なんてあり得ないよな。でも、どうしても王女様じゃないと。これは俺の自己中だけどやっぱり美女が戦場にいるのは嫌だ。前の戦場のように怪我をしてほしくない。例えそれが誰よりも強くても、だからこの修行で超えないと世界最強の王女様を。感じさせないと自分がいなくても俺がいれば戦いが片付くって。そうしてまたこの世界に来たいな。


 スフラにも伝えない胸の内を抱えながら小屋を後にした。


――2日後――


 フローラ、森の都。古くから自然と人間が共存した街となっており一歩町に入れば緑がないところはないほどだ。そんな町の東に巨大な森は広がる。通称、女神の森。バルが世界を統べる前、この辺りはフローラという国が治めていた。戦乱の世、当然にフローラも他国からの侵攻を受けていた。フローラは大陸の端、西は海が広がっているため多くは北東から攻めてくる。つまり、巨大な森は侵攻の通り道になっていた。余りにも複雑で険しいその森はまさに自然の要塞となり敵が攻めてきても森を抜けられず、敵が地団駄を踏んでいる内に南から同盟国、バル軍の援軍が到着し逆に返し打ちにした。まさにこの国の女神の森である。やがて、平和という志を同じにした南の大国、バルと同盟を組み。今は政治的、経済的観点からバル国に属している形だが前時代では同盟前も唯一、バルに負けていない国であった。


「わかりましたか、この地域のこと。今は『厄気エリア』に変わり果ててしまったあの森のことを」


「わかった。イリリは相変わらず話が長いな」


 健一とイリリは『厄気エリア』に向かっている。2人の後ろには70人の兵士達。王都の『厄気エリア』が消滅したため軍の編成は大きく変えられた。王都守護兵団、王都侵攻兵団は各約100名、合計200名が異動。警備兵として数人を残し、残りは他の3つの兵団に加わった。そして、もう1つ新しい兵団、王専属独立部隊が結成された。スフラ王女を隊長、イリリを副隊長とする部隊。各兵団から集められた精兵の実力は皆レベル5以上の『錬術』を使いこなす。


「何をいっているのですか。これから戦う地理は必要でしょう!」


「いや、だっだらさ。地理だけ教えてよ。ここは迷いやすいとか。この森の逸話とかこの地域の歴史とかさ。異世界人の俺からしたらピンとこないし。歴史の授業みたいだから眠くなる」


 愚痴をこぼす健一に、怒号を叫ぼうとするが寸前の所で留まる。あんなことがあったからではこんなことでは怒る気も沸かないのだ。

 首を後ろに捻るイリリ、兵達の中心、馬車の中でぐったりと寝転がるイリリの姿を心配そうに見つめる。


それは健一とスフラが修行を始めて丁度1日が過ぎた頃、その間、イリリはフローラ内の第1演習場で指揮を飛ばす。隊はその一声一声に素早く反応する。日数は少ないがそこはやはり精鋭、隊の連携はもはや数十年の兵団といった完成度であった。


そろそろ、時間ですね。王女様も全く無理なされます。確かにケンイチさんが前回以上の力を身に着けていたのなら『厄気エリア』を攻略する可能性はかなり増すでしょう。しかし、あれ以上の力はたかだか数日修行をしたところで成長度合いは目に見えています。むしろケンイチさんに必要なのは知識や隊との連携です。前回もそういったことで危ない場面がありましたから。いくらなんでも王女様はケンイチさんに気を使い過ぎです。ケンイチさんが何のためにこの世界に召喚され続けているのかもう少し考えてほしいです。


なんのために……


 視線を落とし、舌を噛みしめるイリリ。そのときだった。


 天を割る音が鳴った。鼓膜の震えは音が消えてもまだ残り鼓動も増した。女性の叫び声や子供の泣きじゃくる声がいたる所から響き渡る。かつて国だったフローラ全体に。


 イリリはすぐに音源を確認する。探すまでもなく白い煙が龍のように天に立っているのは健一とスフラが修行に励んでいる第5演習場だ。


 脚力を飛ばし数分で第5演習場に到着。まだ、煙で演習場が覆われている。


「何をやっているのですか!」


 煙に向かって大声で話す。しかし、返事は返ってこない。


 少し危ないですけど、仕方ありません。腰に掛けたポーチからナイフとフェバルを取り出す。


「『無限刃』 風車」


 幾多に生えた刃は空を舞い、回転を続ける。無数の風車となり目の前の煙を晴らす。やがて、2人の人影。その内1人が倒れていた。


「ケンイチさん、大丈夫で……」


 声が詰まり、自然と駆け出す。


「王女様!」


 倒れているのは健一ではなくスフラであった。


 


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