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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
始まりの召喚
13/89

別れ

――1日後――


 空は雨雲に覆われ雨脚が収まる気配はない、にも関わらず王都にはここ数年見られない人の活気がある。皆昼間だというのに飲み食い、歌い、踊り。人々は祝った。軍の勝利を、『厄気エリア』の消滅を。救世主の出現を。中でも一番の賑わいを見せているのは城の大ホール。巨大なホールでは王族、貴族、軍人、庶民といった様々な人々が集まり、身分の違いなど気にせずテーブルに飾られた豪華な料理を味わい談笑を交わす。祝賀会が開かれていた。


 シャンデリアで照らす室内。白い壁には芸術は分からないが高いことだけは察知できる絵画が飾られ、赤い絨毯が敷かれている。祝いの席ということで円卓のテーブルが10個、テーブルを囲う椅子が並ぶ。テーブルの上には豪華な料理が所狭しに用意されている。


「うめっ~、これ何て料理。お姫様」


 ホールの中心部テーブルには王女そして、天使を倒した健一が陣取る。スフラは赤いドレス、紅い髪と同じ色で彼女のスタイルの良さをより引き出させる。一方の健一も紅いジャケットに白いパンツに超ネクタイ。古い貴族の服のようだ。この服装はイリリに着せられた。次いでに髪も切られた整った短髪に無精髭も綺麗に剃られた。


「気に入りましたか。ケンイチさん。それはジルルンと呼ばれる果実です。シェフにあと100個程作られますね」


 そう言うと隣にいた忙しく動くメイドに話し掛ける。


「いや、そんなに食えないし。他にも色々食べたから」


「そんな、遠慮せずに」


「いや、いや、遠慮はしてないから」


 うん、料理もいいけどお姫様と2人で話すこともなかったな。これは嬉しい。どうせなら2人きりになりたいけど。どうするか。素直に2人きりになりたいとか言っちゃう?今ならいけるかも!なんたって俺のおかげで『厄気エリア』を消滅、この王都に平和をもたらした男だから!


 健一は意を消して、息を吸い込む。


「なぁ、お姫様……」


「何、ボケっと立っているのですか! もっと飲み食いしなさい」


 こちらに近づき伸びきった声で話すのはイリリ、白いドレスを身に着け軍服よりも大人びて見える。目を奪われる程魅力的だが、顔がトマト色になっているのは好みが別れるだろう。


「えっ~、結構食べてもうお腹一杯になって」


「何言っていまか! 貴方はここにある食べ物を全て食い尽さなくてなりませんよ。天使を倒したのですから!」


 そこには隊を率いたイリリの面影はない。


「飲み過ぎだろ。まず、イリリは何歳だ。子供じゃないのか?」


「私の何処が子供ですか。私は17歳です。だいたい、ガキに隊長が務まるわけないでしょうが! ホント! 強いのに頭はあれですね~」


「いや、17歳で子供じゃないのか?」


 横目をスフラに遣る。今のイリリではしっかりとした答えは期待できない。


「この世界では15歳で成人となります。ケンイチさんの世界では違うのですか?」


「うん、国によってバラバラになっていて。俺のいた国では20歳で成人になるよ」


「20! 随分と甘い世界ですね~、ケンイチさんみたいな人がいる訳ですね」


「どういう意味だ?」


「いえね、確かにケンイチさんは天使を倒しましたよ。でもですね、一人で倒した訳ではないのです。王女さまの力、兵士達の力があったからこそあなたは救世主になれたのです。それにまず、天使と渡り合えるまであなたの力を引き出した私のおかげ、あなたを召喚した王女様のおかげです」


「わかっているよ。そんなこと、みんなには感謝しているよ」


「いえ、気持ちが足りません。真摯に感謝の気持ちがあるのなら最も料理を食べるべきです!」


「いや、なぜそうなる」


 タン、タンと地面を叩くリズムが聞こえる。


「なんだっ、お前が上機嫌で男と話すとは。さては惚れたか?」


 話しかけてきたのはガルバ。この席だというのに軍服なのは彼だけだ。頭や、腕に包帯が巻かれ、松葉杖を突いて歩いている。あの戦いの後、一命は取り留めたが、重体、完治までに数か月掛かる。今日はガルバも主役の1人だ。無理を押して参加していた。


「はっああああああ! そんなわけないでしょ、こんな『錬術』だけの取柄の馬鹿に。どうして、私が!」


「おう? 焦っているぞ。さては図星か!」


「うるさいですね。だいだい、あなたは…………」


 その後もイリリとガルバの痴話げんかは小一時間続いた。


結局、健一はスフラと二人きりになる機会は訪れず、日が暮れようとした時、ホールの真ん中に立つスフラは皆に向かい声を掛けた。

 

「皆さん、今夜はゆっくりと休んで下さい」


 周囲が見守る中、スフラが続ける。


「ここにいる皆さんのおかげで『王都厄気エリア』を攻略することができました。これはここにいる、いや、ここにいない人。この国にいる人全ての力の結集の成果です。この勝利を胸に刻み、他の『厄気エリア』を殲滅、『厄気』の絶滅を誓います」


 拍手が鳴り、声援がスフラの背を押す。その声を受けスフラは涙ぐむ。


 本当に国民に愛されているな、王女様。見た目は抜群、性格も王族だからといって国民を虐げた目で見たりはしない。おまけ腕もたち、戦場に立つ。こんな人が愛されないわけないな。でも、背負い過ぎじゃないのか。


「ケンイチさん、あとでお話しが……」


 祝賀会が終わり、静まり返ったホール。今は健一とスフラの二人っきりだ。


「ケンイチさん。本当にありがとうございました」


 深々と頭を下げるスフラ。


「もういいって、王女様のおかげでもあるからさ!」


「そう言って貰えるとありがたいです。もちろん、兵士達や国民の力もあります。でも、それはこの世界の話だから。『厄気』の脅威があるから。でも、ケンイチさんは違います。あなたは違う世界の人間です。私が……、あなたを巻き込んだ」


「それももういいって、俺は元の世界に飽き飽きしていたからさ。こんな世界に連れてきて貰えて幸せだ。おまけに、チート能力まで使えてさ。だから、もう謝るのも終わりな」


 健一は笑顔を浮かべスフラの頭が上がることを待つ。


 「ありがとうご……、謝るのはダメでしたね。でしたら何かお礼をされて下さい」

 頭を上げたスフラ、その目にはもう涙はない。


「お礼か、どうしようかな?」


「そうだな、お礼というか。質問をしてもいい?」


「質問ですか。いいですよ」


「どうして、そこまで頑張れる。王女様だろ。何でもかんでもし過ぎじゃないの?」


 スフラの権限は絶対的だ。政治、軍事、両権のトップをスフラが握っている。それを許しているのは、圧倒的なカリスマ性と自ら戦場に赴く剣を振るうためだろう。


「そうですね。少しこの世界の話をしましょうか」


「この世界の、前にイリリから聞いたけど」


「それは聞いています。折角ですから詳しくお話しますね」


「うん」


「まず、今は新時代と呼ばれています」


「新時代?」


「はい、人々が争っていた時代を全時代、人々が争う戦闘を時代戦争といいます」


「そうか、もうこの世界は1つの国に統一されたから戦争は起きていないのか」


「はい、しかし。戦争では何万という人が亡くなっています。実際、私もこの手で多くの人を……」


 スフラは伏し目がちになった。


 元々、小国だったバルは『錬術』の発明によって世界を統べた。世界一の錬術の使い手であるスフラは敵すれば悪魔に違いない。


「でも……そうしないと国が滅んだだろ。バルの国民がたくさん死んだだろ!」


「そういってくれるなんて、優しいですね。ケンイチさんは」


「いやいや、そんな」


 照れる健一を見て、スフラに笑みが戻った。


「話を戻しますね。バルは世界を統一しました。人との争うはなくなりましたが、『厄気』の出現により、また、人々の命が奪われます。これではお父様に逢わす顔がありません」


「お父様、確か先王か」


「はい、幼少期から父には願望がありました。みんなが笑顔で暮らせる国にしたいって、父が賢王なところはこのみんなが世界の人々を差していたということです。それには圧倒的な武力が必要。相手と戦うことはない屈服させる。あとはどこまでも話合い友和を結ぶ。理想論ということも父はいっていました。現実はそうはいかない。でも、父は理想論を指標にすべきだと。そうすれば、いずれ理想に近づけると」


 スフラの目はルビーよりも輝いていた。


「だから、父が夢半ばで亡くなったときはショックでした。死んだことよりも理想論を叶えないことが。それはもう一週間ぐらい泣き続いて、誓いました。父の理想論は私が叶えるって。みんなが笑顔でいれる世界をつくるって!」


 熱心に語るスフラ。それを見て頷く健一。


 そうか、すごいな。幼いころから、信念に向かって真っすぐなんだ。今を一生懸命生きているんだ。ほんと……。


「尊敬するよ」


「尊敬?」


「うん、俺は何か道を決めたこともないし、歩んだこともない。だから、めっちゃ、尊敬する」


「いえいえ、責務ですよ。私の」


「それで俺も決めた。スフラと一緒に理想論を叶えるよ」


「本当ですか!」


 スフラは目を輝かせ、笑みを浮かべる。


「それと、俺の理想も叶える」


 スフラが首を傾げた。


「ケンイチさんの理想? 何ですか?」


「それは……秘密」


「秘密ですか……」


「うん、理想が実現したら話す」


「そうですか、そのときを楽しみにしています。あっ! そうだ、お礼、先ほどは質問です。ちゃんとお礼をさせて下さい。ケンイチさんの好きなことを言ってくださいよ。何でもいいですから」


「皇女がそんないやらしいこと言ってもいいの?」


「いっ……、いやらしいなんて。そんな意味で言った意味では」


「わかっているって、そうだな。お礼は」


 その時、黒い光の粒が健一の足元から放出される。足元を見るとくるぶし辺りまで黒く輝く。


「そんな、もう時間なの!」


 スフラが驚きの声を上がる。


 「この世界にいれるのは1週間です」って言われたっけ、なら少し早いけど。お別れか。


「王女様、お礼何にするか決めたよ」


「ケンイチさん、こんなときになにを」


「もし、次もこの世界に来たときは名前で呼んで」


「ケンイチさん…………」


 スフラの返事を待たず、健一は黒い光に包まれた。



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